時間が再度遡ってひかるが並行世界へと移動した時。つまり、スカイが交戦開始し、ユキがヒューストムの過去を聞いていた頃。
ユキの元に向かうましろ、ヒョウ、かけるの三人。そんな中でましろは心ここにあらずと言った顔つきだった。
「………」
「ましろさん?」
「えっ、あっ!ヒョウちゃん。何だったかな?」
「……もしかして、ソラさんの事を気にしてたりするんですか?」
「………」
ましろはヒョウに問い詰められると一緒に来ていたかけるも二人の会話に合わせて止まる。そして肝心のましろは黙ってこそいたが、ここにいないソラを気にしていた。
「ソラさんならきっと大丈夫ですよ。ツバサもあげは姉さんも行ったんですから。これから恐らくヒューストム、カゲロウと戦うんです。彼等も精神攻撃は得意としてますし、このままだと心が保ちませんよ」
ヒョウの言う事も最もだ。彼等はバッタモンダーと同等かそれ以上に相手の精神を抉る事に長けている。加えて、双方共にバッタモンダーと比べると戦闘能力が圧倒的に上だ。一応アポロン、アルテミスの二人が揃っていればその特性で相手の能力を抑える事はできる。
しかしそれでも能力値的にはプリキュア複数人を相手取るためにプリキュアよりも性能が一歩劣るアポロンやアルテミスは勿論の事、プリズムだって油断したらあっという間に敗北コース真っしぐら。そんな奴を二人も相手にしないといけない。
「わかってる……わかってるんだけど……」
ただ、ましろには胸騒ぎがあった。このまま自分がユキの元に行った場合、ソラが取り返しの付かない心の傷を負いそうな……そんな嫌な予感だ。
「……わかった」
「かけるさん?」
「ましろさん。君はソラさんのいる方に行って」
「ッ!?でもそれは……」
かけるが言い出したのはましろがソラのいる方に救援に行くという作戦だった。ただ、それだとヒューストム及びカゲロウを同時に相手する際に現地にいるユキことオーロラ込みでも三対二。しかもアポロンやアルテミスは技を使えないと来ている。そのため三人はもっと勝ち目の薄い戦闘を強いられるだろう。
「俺達なら大丈夫。それに、今のユキさんならきっと折れずにカゲロウ相手に立ち向かってくれるはずだ」
「……そうですね……。私だってユキ姉を信じてます。だから行ってください。ユキ姉は……私達が助けます」
「……うん。わかった。ユキちゃんの方は任せるね!」
かけるとヒョウの言葉を聞いたましろは二人を信じる事にすると一人、先程まで通ってきた道を引き返す方向へと駆け出す。
「ましろさん……ソラさんをお願い」
「……ヒョウちゃん」
ヒョウがましろにソラの助けになって欲しいと考える中でかけるがヒョウへと声をかける。その手には変身するためのツインチェンジライトが握られていた。
「それってツインチェンジライト……もしかしてもう変身するんですか?」
「……ああ。多分だけど俺達がここで話をしている間にユキさんの方は戦闘に突入したかもしれない。もし生身で現地に着いて戦いが始まってたら相当危険だ」
何しろ、アポロンとアルテミスの能力があればヒューストムは確実に全力で戦えなくなる。ただし、それはあくまで変身していればの話だ。生身の状態では結局その敵にだけかかるデバフ効果も不発となってしまう。
「もしかすると変身前の俺達をヒューストム達は人質にするかもしれない。そうなったら俺達はユキさんの脚を引っ張るだけ。だから、俺達は予め変身してから行くよ」
加えて、二人が変身していればもし現地に到着していなくとも効果範囲内にヒューストムを捉えるだけで彼の力を削ぐ事ができる。つまり、オーロラがほんの少しだけ耐えられる時間が伸びるのだ。そうすれば二人が間に合う公算も高くなる。
「わかりました。かけるさん、ユキ姉を助けるためにも」
「ああ。変身するよ」
「「デュアルファンタジーパワー!」」
「夜空を照らし!」
「希望へ導け!」
二人はそれぞれ変身可能な二つのフォームの内、素早く駆けつけるために比較的機動力が高いアポロンムーン、アルテミスオーロラへと変身。ユキを助けに行くのだった。
そして、そのユキはカゲロウによって洗脳されて奪われたキュアムーンライズ……アサヒを取り戻すためにキュアオーロラへと変身。彼女はヒューストム、カゲロウと向き合う。
「ふふっ、俺達を相手に一人だなんて無謀が過ぎるんじゃないか?」
「(うう……。正直私一人だとヒューストムとカゲロウを同時に相手だなんて絶対に無理。できるなら一人ずつの方が助かるかも)」
ただ、オーロラも相手との実力差はわかっているつもりだ。このまま二人を同時に相手したとして、彼女に勝ち目が殆ど無い事も。そのため、可能なら一人ずつ相手をしたかった。そうすればほんの数%のみだが勝ち筋を残せる。
何しろ、仮に自分が一人を倒して同時にその敵と相打ちになったとしても自分の周りには力になってくれる仲間達がいるのだから。もし仲間達が一緒にいなくなったソラの方を優先したとしてもそちらでソラの相手になるのはバッタモンダー。むしろその方が早く倒して来てくれる可能性が高い。
「(ここで私が一分一秒だけでも長く時間を稼げばきっと……)」
『(私もできる限りのサポートはするわ。……ルーセントムーンの事を酷く傷つけてくれたみたいだしね)』
オーロラの力の元となっている先代プリキュアのキュアライトピラーもオーロラに協力するつもりだった。そんな彼女の隣には息も絶え絶えになりつつグッタリと倒れているルーセントムーンがいる。どうやらカゲロウに洗脳されて以降、ルーセントムーンが今までずっと連絡をくれなかったのには色々と事情がありそうだった。
そして、相方的存在をやられたライトピラーもオーロラの事を助けられる範囲で助けたい気持ちだ。そのため、オーロラは一人で目の前の二人を少しでも長く足止めする覚悟を固める。そんな時だった。
「やる気は十分みたいだなユキ。丁度良い。幼い頃の虐めの延長戦といこ……」
「おい、待て」
ヒューストムはオーロラへと攻撃を仕掛けるために前に出ようとするとカゲロウが彼の肩に手を置く。
「……何だカゲロウ。何のつもりだ」
「それはこっちの台詞だ。この女は俺の物って言っただろ」
どうやらカゲロウはヒューストムにオーロラを取られるのは嫌らしい。ただ、ヒューストム側も折角のお楽しみの機会を奪われるのは癪なので反論する。
「ふん、馬鹿を言うな。そもそも契約は今回の誘い出しの件で更新しただろ?俺とお前、ユキを好きにする権利は半々にすると」
「それはそうだ。だがお前は肝心な事を忘れているだろ。そもそもユキをこの場で相手にするのは俺のはずだ」
「そんなの、最終的にお前もやる事になるんだから関係無いだろ」
カゲロウはヒューストムにしてやられたとイラッとする。確かに彼はユキを好きにする権利とユキを相手にする権利の二つをヒューストムから貰っている。ただし、順番まではヒューストムから言及されていなかった。そのためヒューストムにしてやられたとカゲロウは感じたのだ。
「ふざけんな。お前が味わった後の残り滓を貰ったって意味が無いんだよ。この女は俺の手で心をへし折ると決めたんだ」
「そんなのはお前が勝手に決めた事だろう?」
何故かそのままの流れで言い争いを始めてしまうヒューストムとカゲロウ。それを見たオーロラは唖然としてしまう。寧ろ彼女としてはそのままでも時間は稼げるので二人が喧嘩をするのは構わない。ただ、何故こんなシリアスかつ大事なタイミングで事前伝達がちゃんと行ってない事による喧嘩を見せられないといけないのかわからなかった。
「えぇ……どうしようライトピラー……」
『(下手に手出しはしないで待ってあげたら。どうせカゲロウの方はアサヒを助けないといけないから戦わないといけないんだし、多分このままだと……)』
「だったら公平にじゃんけんだ」
「チッ……お前、反応が早いからって俺の手の動きを見て手を変えたら後出し扱いだからな?」
「おいおい、俺が仮にそれをやったってお前に見分けられるのかよ?」
どうやら二人はじゃんけんで先に戦う相手を決めるらしい。オーロラとしてはこの展開は嬉しい所だ。先程も言及したが、一対一ならまだどうにかできる可能性がほんの僅かに残る。
「「じゃんけん……ポン!」」
それにより、出した手はカゲロウがグー。ヒューストムがチョキ……つまり、カゲロウの勝利だった。
「ば、馬鹿な……何故だ!?」
「ふん、確かにお前は頭が切れる。加えてお前は空気の流れで出す手を読めるしそこからすぐに手を変えても相手にバレないスピードの持ち主。だが失念してないか?空気反射で手を出そうとするとどうしても後出ししないといけなくなる事に」
それを聞いてヒューストムは目を見開く。ヒューストムは実際カゲロウの手の動きを空気の流れから反射して対応しようとした。だからカゲロウがパーの手の動き。つまり、全ての指を開こうとする動きからパーを出すと推測。すかさず反射してチョキを出したのだ。
「だが、俺の手をパーと断定したお前は勘違いをした。俺がやろうとしたのは最初から一瞬だけ手を開く素振りを入れたグーだ」
「ま、まさか……」
「卑怯なお前の事だから今回もズルをすると読んでいたからな。お前の手を誘導するフェイントを入れさせてもらった」
つまり、カゲロウは最初からパーでは無くグーを出すつもりで手を出した。ただしそのままグーを出したら確実に空気の動きで反射されると予想したカゲロウは手を開く動きのフェイントを入れた上ですぐに拳を握ってグーにしたのだ。そしてヒューストムはカゲロウの初動だけに注目していたからこそこれに引っかかった。
……いや。ヒューストムはカゲロウがすぐにグーに切り替えたとわかったのだが、空気反射はどうしても相手より遅く手を切り替えないといけない都合でフェイントを見た後のやり直しが効かない。
「しかも俺が反射で誘導したのは全部手を開くパーや逆に握るグーじゃ無く真ん中のチョキ。後出しでそれをやったら相手がその後に違う手になったとしても手を切り替える時間なんて無い」
「ぐ……クソが!」
とまぁ尺をここまで使うのが勿体無いくらい超が付く程くだらない争いだった*1が、先にオーロラと戦う事になったのはカゲロウだった。ヒューストムはじゃんけんで決めると自分から言い出した手前、これ以上カゲロウの前で変な横槍を入れられないと判断すると大人しく出番をカゲロウに譲る事になる。
そして、カゲロウが前に出てくるとオーロラと向き合った。最初に聞いたのはオーロラである。
「カゲロウ……本当にアサヒ君を返すつもりは無いの?」
「当たり前だ。むしろ、俺がアサヒを返すんじゃ無くてお前がその体を俺に捧げるんだよ。好き放題できる玩具としてな」
「……ッ、私はあなたの玩具になんてなるつもりは……」
「いや、お前に拒否権なんて無い。俺に助けられた恩のツケ、体で払ってもらおうか」
オーロラはそれを聞いて悔しそうにする。確かに自分はアサヒに助けられた事があるし、それを恩にだって感じている。だが、ユキが助けられたのは目の前にいるカゲロウでは無い。
「……話しても無駄みたいだね」
「ああ、そうだな」
「アサヒ君は私が取り返す!」
「おうおう。できる物ならやってみな?だがその前に」
するとカゲロウが体に力を入れると同時に地面からアンダーグエナジーが湧き出る。そしてそれが自らの体に装着するような形でコスチュームチェンジ。その姿はキュアサンライズの衣装を黒や青で染めたような姿だった。ご丁寧に彼の髪型もサンライズと同じである。瞳は紫であり、彼は邪悪な笑みを浮かべた。
「ッ、黒いサンライズ?」
「いいや、俺の名はサンライズなんかじゃ無い。敢えて名前を付けるとすればサンスポットと言うべきか」
サンスポット……英語で太陽の黒点を意味する戦士となったカゲロウ。アサヒの影の人格として生まれた彼にピッタリとも言えるネーミングにオーロラは意識を集中させる。
「凄い力を感じる……」
「ふん、それじゃあ早速やろうか!!」
サンスポットは一気に踏み込むとオーロラへと正面から突撃。オーロラはそれを受け止めるが、そのあまりのパワーに押し込まれていく。
「くうっ!?」
「何を驚いてる?彼氏のバトルスタイルくらいちゃんと把握してるんだろ?」
「この力、やっぱりサンライズみたいなパワー重視のバトルスタイル……」
サンスポットはどちらかと言えばサンライズの闇落ち版としての側面が大きいからか、ムーンライズのように気弾や高速の機動力は無い。だが、その分パワーはサンライズに勝るとも劣らない力だ。
「でも、サンライズと同じなら私は捌ける……」
オーロラは既にサンライズの戦い方は特訓でわかっている。しかも彼にはオーロラ程のスピードは出せないはずだ。そのため、技量で勝るオーロラであれば十分彼の攻撃に対応しながら持久戦を仕掛けて優位に立てると踏んだのである。
「……ほう。随分と自信満々だな。……でも」
サンスポットがそう言った瞬間、彼の姿が一瞬にして影の中に吸い込まれる。そして、そうなればオーロラも困惑するわけで。
「えっ!?」
「ここだよ」
オーロラがキョロキョロと周りを見渡しているといきなり彼女の背後に立ったサンスポット。彼からの拳がオーロラの背中に命中してしまった。
「うぐああっ!?」
オーロラはいきなり背中から走ったダメージに顔を歪めるとサンスポットの方を見る。
「俺にはこれがあるんだよ。さっきも見せただろ?」
これにより、サンライズとサンスポットには決定的な違いとして影に潜る事による瞬間移動に似た能力が挙げられるだろう。そしてその情報は余計にオーロラを慎重にさせた。
「(ッ……これは思ってる以上に不味いかも。皆……お願い、早く来て……)」
影を移動する事による擬似的な瞬間移動。この力からオーロラがカゲロウ改めサンスポットが想像以上の強さを持っているかもしれないと考える。ただ、それでもオーロラは仲間が来るまで耐え切ってみせると感じるのだった。
また次回もお楽しみに。