家に現れた謎の白い少年の騒ぎがひと段落し、アサヒは改めて気持ちを落ち着けるとソラの元に行く事にした。するとましろが話しかける。
「アサヒ、ソラちゃんとちゃんと話せそう?」
「……ああ。今なら落ち着いて話せると思う」
「私も一緒に行きたいんだけど……」
ましろはそれからチラチラとユキのいる部屋の方を見た。ユキの方も少し目を離せばまた彼女の中の負の感情が爆発しかねないので今はましろも手が離せないのである。
「ましろはユキの方をお願い。ソラの方は俺がどうにかしてくるよ」
「うん。お願いね」
それからアサヒはましろと別れると早速ソラのいる彼女の部屋の扉をノックして呼びかけた。
「ソラ、急にごめんな。ちょっと話がしたいんだけど大丈夫そうか?」
アサヒからの言葉に部屋からはソラと思われる足音が聞こえると中にいるソラが外のアサヒへと返事を返す。
「待たせてすみません。入って大丈夫ですよ」
アサヒはソラからの返事がいつもより暗いことからやはりソラは何かを抱えているのだと感じる。
「アサヒ君。どうしたんですか?」
「さっき言った通りだよ。ソラに話があって来たんだ。ただ、ここで話すのも邪魔になるだろうから……」
「わかりました。部屋の中に来ても良いですよ」
ソラはアサヒの気持ちを汲むと彼を自分の部屋へと案内した。それから二人はベッドの上に腰掛ける形で話を始める。
「……それで、話というのは?」
ソラからの質問にアサヒはやはりソラの話し方が暗いと感じ取るとその事について話す事にした。
「ソラ、そんなに暗い顔して大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。このくらい何ともありません」
「……ほんと、スカイランドの人達は皆こうなのか?心配をかけさせないようにするために見栄ばかり張って……」
アサヒは呆れたように溜め息を吐く。今のソラは確実に強がっている。それこそユキと同じだ。
「……」
「ソラ、お前が心配してるのはユキの事。違うか?」
「……半分正解です」
「あれ?半分か……。まぁ良い。正直、俺やましろもユキの事は凄い心配だ。あんなに辛そうな顔を浮かべて」
アサヒはここ最近のユキの事を見ていられなかった。ランニングでのオーバーワークもそうだが、まずそれ以前に彼女の事を見ていると生きていて辛そうにも思えてしまう。そんな状況下の彼女をアサヒは見過ごすつもりは無い。
「ソラ。……俺にも教えてほしい。ユキが……何でああなったのか」
「ッ……それは」
ソラはアサヒにそう言われて僅かに言いづらそうな顔を彼に向ける。その話は正直な所、ユキにとっては地雷なのだ。これを無断で他人に教え、また彼女を不安にさせるのはソラだってやりたく無い。
「私の一存で話すのはちょっと……」
「なぁ、頼むよ。俺やましろだって不安なんだよ。ユキが何であんな風に落ち込むことが多くて、人に頼る事ができなくて。自己犠牲の気持ちばかりが先走るのか。全部教えてほしい」
「ッ……」
ソラはアサヒからの頼みに気押されるが、それでも首を縦に振る事ができない。ソラとしても可能ならどうしても言いたく無いのだ。言うにしてもユキの方に広められる覚悟が無い状態で言って、後からユキがこの事を知ったら……ユキの精神状態が悪化の一途を辿る危険が高すぎる。
「頼む……。俺もましろも……ユキの過去を利用して彼女を傷つけない人間だって事くらいわかるだろ。俺達もユキの事を……助けたいんだ」
それからソラは少し悩んだような顔つきをしてから考える。時間にして約10秒程。ソラはようやく覚悟を決めて話を始めた。
「わかりました……。私だってユキさんにはこれ以上辛い顔をしてほしく無いです。ユキさんを助けられる可能性が少しでも高いのなら……」
ソラはアサヒからの説得を受けると話す事にした。ユキの過去について。その前にアサヒはソラへと問いかける。
「そうだ、ソラ。一応確認だけど……ましろにも話しても良いよな?」
「良いですよ。恐らくアサヒ君の場合、黙っているように言っても話しちゃいますしね」
ソラからの言葉にアサヒは苦笑い。それから彼女の顔をしっかりと見てユキの過去を聞くべく集中する。
「……本当でしたらこれは本人からするべき話だと思います。ですが、ユキさんはあの調子ですし……アサヒ君やましろさんに言う事で状況を変えられるのなら私はそれで構いません。ですから、最後までしっかり聞いてください」
「わかった」
アサヒはソラの言葉に頷くと彼の気持ちを受け取り、早速自分とユキが幼かった頃の話……過去の出来事について話し始めた。
「……前にお買い物をした時、私がヒーローを目指すキッカケを話したと思います。実はその話には続きがあって……」
ソラが憧れの人に助けられてから、彼女はヒーローを目指すためにトレーニングを始めた。
〜回想〜
「ソラちゃん、なにしてるの?」
「ヒーローになるためのトレーニングだよ」
ヒーローになるべく体を鍛えるソラを見てユキはそんな頑張る彼女の姿がとても眩しく映ったのか、彼女も一緒にトレーニングをする事になる。
「わたしもトレーニング、やってもいい?」
「はい!」
ユキはこの時、一つの夢を持っていた。それはソラと一緒に憧れのあの人に助けられたように今度は困っている人を助けられる強い人になりたい……と。そのため、ユキはソラと共にトレーニングに励むようになった。
「ユキさん、きょうもいきましょう!」
「うん!」
ソラはヒーロー、ユキは人助け。二人共目的は多少違えど、強くなりたい気持ちが大きく膨らんでいくとトレーニングに励む。それによって二人は少しずつだが強くなっていった。勿論、短期間で劇的に強くなったとかそういうわけでは無い。まだ単独では同級生の女子より多少強い程度だ。
それから時が過ぎ、ソラとユキはスカイランドにある学校に通うようになる。ただ、二人はトレーニング脳であったために最初の方では上手く友達が作れずに二人だけで過ごす時間が殆どだった。
「それでね……」
「あ、あの!ユキ・ハレワタールさん!」
「え?」
「お、俺と友達になってください!」
そんな中だった。ある日同じクラスの同級生の暗い青色の髪の少年がユキに話しかけてくると友達になりたいと言い出す。彼の頬は僅かに赤くなっており、恥ずかしさがあるようだった。
「私と友達……良いの?」
「うん」
「嬉しい……。ありがとう!」
それからユキは流れでソラも少年へと紹介。こうして、二人は初めて友達と呼べるような存在ができた。ただ、少年としてはソラが近くにいるのはあまり良い気持ちでは無さそうだったがひとまずそれは置いておこう。
「ソラちゃん、ユキちゃん!」
「私達とも話そ!」
少年はクラス内でもそれなりに人気だったのか、流れで他のクラスメイト達も少しずつユキとソラと話すようになった。こうして、二人は学校で沢山の友達を作ったのだ。それから暫くの間は平穏な日々が続いた。そんなある日……。
「ユキさん……その、ユキさんの事がずっと気になってて。今もそう。……だから……付き合ってください!」
ユキは最初に友達になった少年から告白の言葉を受けたのだ。ユキは最初、嬉しい気持ちが湧いてきた。ただ、ユキは当時彼への好意こそあったのだが恋愛対象としてまでには至っておらず。
「……その、気持ちはとても嬉しいんだけどね。……私、この気持ちが恋愛としての好きかどうかって言われたら違う気がするの……。だからごめん。これからも友達でいよ」
ユキは考える時間もそれ程置かずにその告白を拒否。勿論ユキは相手を極力傷つけないように優しめに断った。ユキなりの精一杯の配慮をしたのだ。
「そっか……そうだよな。ごめん……」
その子は大人しくその場では引き下がる。下手に喰いついたら余計にきらわれるとわかっていたのだから。しかし、表面上では取り繕っても内心ではユキの事を恨んだのだろう。それから彼はユキに対して冷たい対応を見せるようになった。
それから少しして、事件は起きる。それは学校終わりの放課後だった。告白した少年はユキへと頭を下げつつ頼み込んできたのだ。
「ユキさん……ユキさんにお願いがあるんだ。……その、俺の友達がガラの悪い奴らからの虐めを受けてて……。助けて欲しい」
「えっ……友達が……」
ユキは少年からの言葉に緊急性を感じるとソラに相談しようとするが、少年はその事を匂わせると今すぐに助けてほしいと頼んで彼女を焦らせた。
「頼む……このままじゃ……」
「う、うん。わかった。私がどうにかしてみる。だからそこに案内して」
ユキがそう言って行く気になった途端……少年は内心ほくそ笑んだ。この話は少年がユキを貶めるための手を講じたでっち上げだったのである。
「こっちだ」
「うん!」
それからユキは人助けをしたいという気持ちを利用されると彼女は人気の無い場所に呼び出された。
「あ、あれ?友達さんは……誰もいないよ?」
ユキが連れて行かれた場所には誰もおらず困惑。その直後、ユキは背中から思い切り蹴り飛ばされた。
「きゃあっ!?」
そのままユキは倒されると起き上がろうとした瞬間、体へと痛みと共に衝撃が走る。
「がはぁっ!?ゲホッ……ゲホッ……」
ユキがふと周りを見渡すとユキ自身が数人の不良のようなガラの悪い人間に囲まれていた。
「これは……どういう……」
「……やれ」
その瞬間だった、少年からの合図が一言入ったことで一気に周りの不良達は動き出す。そこからは一方的なリンチだった。ユキは大人数に囲まれてボコボコにされてしまったのだ。
「ふぐっ!?がはあっ!?」
ユキは強くなったとは言ってもまだその辺の同年代より頭一つか二つ抜けていただけ。不良達のような力の強い男……しかも一人ならともかく複数人に囲まれた挙げ句不意打ち気味な形で始まった戦いであったため、ユキに勝ち目なんて無かったのだ。
「……なん……で」
ユキはボロボロにされて気を失うとそこに事の顛末を知ったソラが慌てて助けに来たが、もう既に不良はおらず。傷ついたユキが横たわっていただけだった。
「ユキさん!ユキさん、しっかりしてください!ユキさん!」
それからユキは近くの病院に送られるとそこで治療を受ける。幸いにもユキの傷は後遺症とかが残る程では無かったために治療すれば治る物ばかりだった。
「ソラちゃん……心配かけてごめんね」
「良いんです……ユキさんは何も悪くありませんから」
ただ、肉体的にボロボロにされた影響で少しの間学校は休む事になると一周間後にはどうにか復帰できたユキ。ソラもそれに付き合う形で休んでいたのだが、そこに待っていたのは同級生からの虐めだった。
「お前、傷ついてる友達を見殺しにしたんだろ」
「へ?何を言って……」
「騙されるか!この裏切り者!何が困ってる人を助けるだよ」
「ご、誤解だって!」
「言い訳だなんて最低……」
その少年はユキが休んでいる間に自分はユキに騙されたのだと嘘を吐いてクラスメイトにユキを虐めるように仕向けたのだ。しかも、少年は元々クラスメイトの人望を得ていたために彼の言う事をクラスメイト達は全部鵜呑みにしてしまった。当時、その噂に対してユキは学校に通えていなかったために反論すらできず。
結果的に余計にユキは裏切り者という印象が植え付けられてしまったのだ。また、この虐めに対してソラは必死でそれを止めようとしたが、大人数を相手するには当時のソラでは非力過ぎた。
「嫌、返して!私の……」
「アンタみたいな裏切り者がこんなの持ってて良いわけ無いでしょ?」
「代わりにこれをあげるわ」
その瞬間、ユキは水をかけられるといきなりの事に唖然とする。そんな毎日が続いたためにユキの心は傷つき、抉られていった。ソラも無惨にも取り押さえられていたためにこの様子を目の前で見せつけられてしまう。
〜現在〜
「……暫くして、クラスメイト達は少年の言った事が自分達を騙した嘘であるとクラスメイトが知って……。ようやくユキさんへの虐めは止みました」
「それで、ユキは大丈夫だったのか?」
「はい……。どうにかそこまで精神は保ってはくれたんですけど……ユキさんの心には治らない深い傷が刻まれてしまって」
結局、ユキが他人に捨てられたく無いとかひとりぼっちが嫌だという行動の裏にあるのはこの過去の虐めが尾を引いていると言う事だろう。
加えて、ユキは他人の役に立てるという事を喜びにしていたのもこれでようやく説明がつく事になった。
「……ふざけんなよ。たった一人の逆恨みでユキは……ユキは」
アサヒはソラの話を聞いて怒りに震えた。ユキを貶めた子が許せないのである。
「そういや、ユキの事を貶めたその男の子。そいつはその後どうなったんだ?」
アサヒが気になるのはそこだった。嘘がバレたとなればその子もユキを虐めさせた分のしっぺ返しを受ける事になるからである。
「それが……ある日を境に姿を消してしまって。しかも、嘘がバレたのはその子が消えた後だったので……」
「ッ……お咎め無しかよ」
本当に胸くそ悪い話だ。ユキに与えた精神的な痛みの重さは相当な物なはずなのに受けるべき罰を受けずに逃げた少年への苛立ちがアサヒには高まる。
「あれ以降クラスどころか家にも戻ってないらしくて。今でも行方不明だと思います」
「そうか……」
どちらにせよユキを貶めた少年がいないとなればもう事件は有耶無耶だろうし、ユキへと刻まれた心の傷は完全に治る事なんて無い。事あるごとに蒸し返されてしまうだろう。そんな彼女の心境にアサヒは心を痛める。
「ユキ……そんな辛い事を一人で抱え込んで……。どうにかしてユキを助けてあげたい」
「それは私も同じです。ユキさんは虐めにあったその時からずっと怯えてます。いつか自分が捨てられてしまうのではないか。そんな気持ちでいっぱいなんですよ」
「そりゃ、怖がるわけだよ。自分という存在を否定されたら……全部敵に回るって事を身を持って知ってるわけだから」
それからソラは窓から空をボーッと見上げると彼女は己の中にある決意を話す。
「……ユキさんを支えるのは友達である私の役目。それに、何があってもユキさんを守るって私は誓ったんです」
そんな彼女の気持ちにアサヒは深呼吸するとそんなソラの手に自分の手を重ねた。それから彼の気持ちも話す。
「私……じゃなくて私達だ。俺やましろはもうユキとは友達なんだ。だから、ソラやユキだけに重荷を背負わせたりなんてしない。俺達でユキを助けよう」
アサヒの言葉を聞いたソラは一瞬嬉しそうな顔をするが、すぐにその気持ちを捨てるかのように首を横に振る。
「ソラ?」
「……いいえ、その事で私から伝えたい事があるんです」
「それって?」
「……アサヒ君もましろさんも……もうプリキュアにならないでほしい。ユキさんの事も私が一人で助けます」
その言葉を聞いてアサヒが困惑して唖然とするまではそう大した時間は必要無かった。ソラの突然の突き放すような言葉にアサヒは……一瞬にして混乱してしまうのである。
また次回もお楽しみに。