双方の戦線での戦いが決着し、その日の夜。虹ヶ丘家では居間にプリキュアの変身者達がほぼ全員揃っていた。しかし、そこには重い雰囲気が漂っている。
「……皆揃ったね」
最初に口を開いたのはかけるだ。今回こうやって状況整理を提案したのは彼であり、自分が言い出した以上はこの場を取り仕切るつもりだった。
「ッ、でもソラちゃんとユキちゃんが……」
ましろはそう不安そうに呟く。ここにいるのはましろ、ツバサ、あげは、ヒョウ、かけるの五人。カゲロウに乗っ取られているアサヒは兎も角としてユキやソラは自分の部屋に引っ込んでしまっていた。
「ユキ姉は多分大丈夫。少なくともソラさんみたいにはなってないから」
「うん。俺達二人が見てるから少なくともユキさんに関して言えばいつもの精神的な病みが原因じゃ無いのは保証するよ」
「そうなんですね……」
ユキは心が繊細で弱いというのはこの家に住む者なら全員がわかりきっている事。その上でヒョウとかけるの二人が口を揃えて大丈夫と言うのだからまだ致命的なダメージは受けてないと見るべきだ。
「だとすると今一番危険なのは……」
「きっとソラさんの方ですね……」
問題はソラの方だ。彼女は今回の一件でプリキュアとして戦えなくなるくらいに精神が折れてしまっている。誰がどう見ても危険な状態だ。ただ、今のソラは誰とも会いたく無いらしく。部屋の中に籠り切ってるようだった。
「……ボク、もう一度ソラさんを呼んできます」
「待ってツバサ。……今はダメよ」
「ですが……」
ツバサはどうにかソラをこの場に引っ張り出すべきだと考えていたが、ヒョウが制止する形で思い留まる。
「ユキ姉もソラさんも心配だけど、一人になる事で気持ちが整理できる時もある。だから今は私達のやる事をしましょう」
「……わかりました」
ツバサの方も落ち着いたという事でかけるが改めて状況の整理をするために話し始めようとした。
「じゃあ、改めてだけど……」
「うわぁあああああ!?」
そんな時、どこからともなく叫び声のような物が聞こえてきた。そのため一同の会話はまた止まってしまう。
「何?今の声……」
「というか、何だか声が段々と近づいてきてませんか?」
しかし一同が辺りを見渡してもその声を出しているような人はいない。そのため杞憂だと思いたかったが、声は段々と大きく……近づいてくるような感じがしていた。
「ちょっと、本当に誰!?お化けとかじゃないわよね?」
「……待って、この声って確か……」
あげはが声の正体に勘づいた瞬間。近くの空中にいきなり穴が空くとその中から人影が強制的に落下。背中から虹ヶ丘家の床に激突してしまう。
「ぶっ!?」
「な、何今の……」
「って、ひかる君!?」
そこにいたのは先程あげはの判断で窮地を迎えていたらんこ達の方を助けに行ったはずのひかるだった。彼は背中に走った痛みでその場所を手でさすりつつこの場所が自分の元いた世界だと認識する。
「痛ててっ……っと、どうにか帰って来れたか……」
「凄い着地の仕方だったけど大丈夫?」
「あげはさん。すみません、こんな登場で」
ひかるの返事はいつものような明るい……とはかなり程遠そうな感じだった。つまり、向こうでも結果は悪い方向に傾いてしまったのだろう。
「えっと、何から話せば良いのかな」
「じゃあ丁度良いし。こっちの世界とらんこさんの世界。両方の状況を整理しながら話を進めようか。えっと、ちょっと待ってね。メモする物取ってくるから」
かけるはいつも通りの落ち着いた様子で自室へとノートなりメモ帳なりの書けるものを取りに行く。それを見てあげはは少し申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「あげはちゃん、どうしたの?」
「あはは、かける君と比べたら私は年長者としてまだまだだなって思っちゃっただけ」
あげはは毎度の如く、こういう時の仕切り役をかけるが全部やってしまう事で自分が同じく年長者としてここにいる意味が無いのではないかと考えてしまうのだ。勿論、かけるがやってくれた方が自分よりも頼れてしまうというのも何となく自覚した上でそう思っている。
「うーん、私はあげはちゃんにはあげはちゃんにしかできない事があるからあまり気にしなくても良い気がするんだけどなぁ」
「うん。それはそうなんだけどね」
そんな事を話しているとかけるが戻ってきたために早速話を整理する事になった。まずはこちらの世界で起きた事。そして、敵についてわかっている事を書き出していく。勿論らんこの世界の話も大事なのだが、こちらが窮地である以上最重要事項を変えるわけにはいかない。
「俺がらんこさんの世界で戦った時もヤバい敵だらけだったけどこっちも大概ヤバいな……」
ひかるはましろ達から飛び出す情報を聞いて思わず息を呑む。らんこの世界で見た相手はどれも強敵揃いだったと言える。その中の一人はひかるにとってできれば一番戦いたくない相手だったが。
ただ、こちらの世界でプリキュアの前に立ち塞がった敵も相当な強さである事からもしこちらで戦う事になった時の事を考えて僅かにゾッとする。
「うーん、キュアサンスポット。キュアサンライズと同じパワータイプなのに影潜ってくるのズルくない?」
「でも、その技の対処法なら既に出てる」
「それがユキ姉が提案してくれた光で影を消すだよね」
それを聞いて一同は納得する。影に潜るも影その物が無くなれば潜れなくなるのは当然の事だ。
「だとしたらプリズムかアポロンが彼の相手をした方が良いかもしれません。特にプリズムの方は遠距離攻撃の手段がありますし尚更」
「うん。任せて」
「基本的にはそうするけど、後はユキさんの気持ち次第になると思う。ユキさんがアサヒ君を助けるつもりなら彼女に任せるべきだと思うから」
かけるの意見はその通りであるために一同は頷いた。ひとまずサンスポットはオーロラ、若しくはプリズムに任せるとして。問題はシャララ隊長だ。
「アンダーグエナジーを浄化した後にどうやってすぐに回復の力を使うか……だよね」
ソラが変身不能に陥ってしまった以上、今合体技を使えるのはウィングとバタフライのタイタニックレインボーだけ。そう考えるとバタフライは技を決めた後すぐにミックスパレットで回復しないといけない。
「ヒューストムやバッタモンダーがそれを許してくれるかな……」
そんな風に一同が考えているとひかるが疑問符を抱く。それはらんこの世界の方での事情が絡んでいるからだ。
「待って。こっちのシャララ隊長ってそんなにヤバいのか?」
「あー……らんこさんの世界はもしかして事情が違う感じ?」
「ああ。俺達の方はアンダーグエナジーを浄化しても問題無さそうな感じだからさ。そこはハードルが低いのかも」
こちらのシャララ隊長はらんこの世界とは違い、ランボーグにやられた後、治療を施す間もなくランボーグにされてしまったという経緯があるのだから仕方ない所だろう。尚、らんこの世界の方はシャララ隊長は前にこちらの世界に来ていたキメラングが連れ去っていたらしい。
「待って、合体技なら私とツバサが使えるアウロラレインボーもあるわ。それにその技ならミックスパレットの起動要員はあげはさんじゃなくてツバサだから……」
「確かにそうですね、ボク達二人の技ならあげはさんはフリーになる。それならタイタニックレインボーよりも余裕は生まれると思います!」
前回はウィングとアルテミスがバラバラに動いたためできなかったが、こちらならバタフライが技に参加する必要性が無い。そのため後は回復を使うチャンスさえ作れば問題は無さそうだ。
「後は間に合うかどうかと、回復の間にヒューストム達に邪魔されないかどうかだな……」
どちらかと言えばそちらの方が難易度が高くなるだろう。何しろ相手となるヒューストム、バッタモンダー、サンスポット。全員が相当性格が悪い。こちらが状況を打開するために何か行動しようとすれば必ず不意打ちをしに来るだろう。
「あの……そろそろ俺の方の話をしても良いかな?」
「ああごめん。待たせちゃったね」
ひとまずこちらの世界の話はここまでとして。続けてひかるが知ってる分のらんこの世界の事情を話す。それを聞いてかける以外のその場の顔が凍りついていた。
「えっと、ソラちゃんがらんこちゃんを攻撃して変身不能になって」
「らんこさんがキメラングのヘルメットを被ってホワイトツイスターとして裏切った?」
「しかも敵はそれ以外にもバッタモンダーにターボマン。あとシャララボーグに巨大な鷲?」
「もしかするとシャララ隊長と一緒にいるならワシオーンかもしれません。どちらにせよ敵は強大ですね」
ただ、ここまで聞いて思ったのが一番厄介そうならんこの世界の敵であるキメラングが何故かいないという点だ。いや、正確にはいたのだがホワイトツイスター登場と同時に気を失ったまま離脱したようで。
「もう色々と訳わかんない状態になってるね……」
「ターボマンとかも初耳なんだけど……いや、多分名前からして車とかのエンジン関連の姿をした敵?」
何にせよらんこの世界も十分にヤバい奴等が揃っているという事はわかった。
「しかもヤバいのが俺がどれだけ頑張ってもらんこさんの世界に行けなくなったっていうのがな〜……」
「え?そうなの?」
「普段俺は俺自身からんこさんが相手の事を想う事でスカイトーンが光って相手の世界に行ったり向こうが来たりしてるんだ。だけど今はどれだけ同じようにしても向こうに行けなくなったと言えば良いのか……」
それからひかるの持ってるスカイトーンを見ると何故か色が少し濁っている状態だった。ソラのスカイトーンと比べると濁ってるだけなのでまだ完全に使用不可というわけでは無いが、少なくともプリキュアへの変身やらんこの世界への移動は難しそうだと思える。
「これは俺の仮説なんだけど、そのスカイトーンってらんこさんのスカイトーンから生まれたんでしょ?」
「そうですけど……」
「だったら、らんこさんのスカイトーンを本拠点にあるワープの中心。ひかる君の持ってるスカイトーンを地方のワープ先の一つとして例えた際に拠点から発信する電波を受け取って本拠点へと戻ったり、本拠点から好きな地方拠点の場所に飛べるみたいな仕組みになってるんだと思う」
「そっか!じゃあ本拠点のワープの中心が使えなくなる……らんこさんが闇堕ちしちゃったから」
「そうそう。ワープ機能が停止したんじゃないのかなって」
かけるはひかるがわかりやすいようにアニメとかでよくあるような拠点からのワープ機能で例える。尚、こちらの世界のアニメをそこまで知らないヒョウは全く理解が追いつかなかったが。
「え?え?ひかるさん、今のでわかったの?」
「おう。バッチリわかったぜ」
「え、えと……ましろさん達は……?」
ヒョウはどうにか自分と同じように理解できてないメンバーを探そうとする。だが現実はそう上手くは行かず……。
「私はわかったよ」
「ボクも普通に……」
「私はギリギリだけど……」
「う、嘘……わかってないの私だけ?ガクッ……」
ツバサ、あげはは普通に理解してしまっており、頼みの綱のましろもギリギリ理解できていたらしく。ヒョウは項垂れてしまった。恐らくアサヒ……と言うよりはカゲロウの人格がいたら確実に揶揄われていただろう。尤も、もしかするとユキやソラなら同じように理解できてなかったかもしれないが。
「ヒョウちゃんの場合はスカイランドとこっちの世界を繋なぐミラーパッドが何かの拍子で壊れたって思って貰えば良いかな」
「あっ、それならわかります」
ヒョウが今回の例えがわからないとは言っても、今回のかけるの説明はひかるにわかるようにアニメの例えを使っただけなのでこれについてはひかるの方に合わせたと言うべきだが。
「でもマジか……らんこさんの世界に行けなくなるなんて、俺だって向こうなら戦えるのに……」
ひかるはそう言いつつ悔しそうな顔になる。それもそうだろう。自分はらんこの世界に行く事ができれば戦えるだけの能力はあるのだ。それなのにこうして待ってるだけなのは嫌だろう。
「……私はらんこちゃんならどうにか乗り越えてくれると思う。ううん、らんこちゃんだけじゃない。向こうの世界の私達だって何かしら動くはずだし」
「あげはさん……」
「そうですね。ボク達から言えるのは、ひかる君がやるべきなのはらんこさん達を信じて備える事ですね」
「備える……」
備えるというのはいつらんこの世界との国交が回復しても大丈夫なように準備をしておくという意味だ。もし仮にらんこ達が頑張って彼女達の世界に行けるようになったとしてもひかるが体調不良とかで行けないなんて事になればらんこ達の努力はまるで無意味になってしまう。
そのため、今のひかるに必要な事はらんこ達がスカイトーンの力を取り戻すなりして世界を越えられるようになった際に準備万端の状態で待機しておくことだ。
「でも、らんこさんは俺の事……いや。そんな事言っても仕方ない!それにあのらんこさんはどう見てもおかしかった。元の姿に戻れればきっと俺もまた行けるようになる!」
どうやらひかるもらんこの世界で起きた事のせいで多少葛藤はあったが、無事に普段通りの元気な状態に戻ってくれた。
「それじゃあ俺、いつらんこさんの方に呼び出されても良いように今日はしっかり家で休みます!それでは!」
「えっ?今日は遅いし私の家に……行っちゃった」
もう時間は18時とかそこらを指しているために今からひかるの家に、しかも歩きで帰るのは大変だと言おうとしたましろ。しかし、彼はそんな話を聞く間も無く行ってしまった。
「あの元気さがあればひかるさんは大丈夫だと思いますよ」
「だね。私達も元気づけられちゃった」
ひかるは登場から帰るまで終始慌しかったものの、それでも今回の敗北で失速していたプリキュア達を元気付けるには十分過ぎるくらいの物を残してくれたわけである。
「後は二人がどうするか……俺達は二人が出てきた時のフォローと、ヒューストム達の対策を練る事をメインに考えよっか」
こうして、状況整理と共に今やるべき事が明白になってきた。このまま部屋から出てきたユキやソラを上手くフォローして更なる手を打ってくると思われるヒューストム達に対抗する……そんな雰囲気で終わった今回の話し合い。しかし事態はこの後、一同が思わぬ方向へと転がってしまう事になる。
また次回もお楽しみに。