ユキ達がヒューストム達に対する対策を立てて一夜を明かしている裏側。とある廃墟にはヒューストム、カゲロウ、バッタモンダーの三人が揃っていた。ただ、空気感は割と最悪ではあったが……。
「おいヒューストム。テメェ、何のつもりだ。あんなにもユキを痛めつける気持ちがあった癖にアポロンに挑発されてムキになってよ」
「何だと?お前こそユキをすぐに連れ帰ろうとしなかったんだから今回の戦犯に決まってるだろ!」
「な、なぁ二人共。俺達チームなんだから喧嘩するのは……」
「「煩い!雑魚は黙ってろ!」」
「ヒッ……」
バッタモンダーは二人から揃って雑魚と罵られてしまったたまに思わず萎縮してしまう。バッタモンダーは確かに前と比べて飛躍的に強くなったのは間違い無い。……ただ、強くなったとは言ってもあくまでそれは鍛える前と比べての話。
まだまだヒューストムやサンスポットに変身した際のカゲロウには及ばない。
「大体、お前が遊んだせいで折角のチャンスを逃したんだ。まずそれが大前提として今回の事態になったんだろ」
「はぁあ?俺だってここまでずっとユキを好き放題にしたい気持ちを抑えてたんだ。どう料理しようと俺の勝手だろ?そもそもじゃんけんにお前は負けたんだ。敗者は大人しくしてろ」
「ふざけんな、小細工使って勝っただけのくせに!」
もうここまで来ると本当に醜い争いである。尚、ヒューストムはこう言ってこそいるが空気の流れで手を変えようとするという小細工を先に使ったのは彼なので他人の事を言う資格は無い。
「はぁ、取り敢えず俺はシャララボーグの方の様子を見てくる。進展があったらまた伝えろよ?またプリキュアを襲撃する段取り立てるからよ」
そして、二人の争いを長々と見ていたバッタモンダーもこれ以上時間を無駄にするのは惜しいために二人へとそう言い残すとさっさと行ってしまう。
「(コイツら、俺だってキュアスカイの心を折るために色々やってきてるんだ。そのおかげでキュアスカイは戦闘不能になったが、まだ他のプリキュアは残ってるんだ。少なくともお前らの力はいるんだよ)」
バッタモンダーはプリキュア数人くらいは軽く相手取れる戦闘力を手にしたものの、結局それはオーロラを含めたプリキュア四人とアポロン、アルテミス全員を止められる程では無い。
むしろそうなってしまうと万が一シャララボーグの問題を解決されてしまうと○イダーリンチならぬプリキュアリンチの刑を受けるのは目に見えている。流石に超バッタモンダーでも6対1をするには実力不足なのだ。
「(まぁ、でもアイツらの様子を見るにシャララボーグはどうしようも……いやいや。それで油断して負けてるんだ。今度は完全勝利するまでは油断できない。それにあのお方の評価を取り戻すためにもプリンセス・エルの確保は絶対条件だからな)」
そう考えつつバッタモンダーはシャララボーグの調整をするために彼女の様子を見に行く事になる。ここで油断しなくなった辺り、バッタモンダーも精神的には少しは成長したのだろう。ただ、性格の悪さは据え置きだが。
それはさておき、場面はヒューストムとカゲロウの方に戻る。ただ、ある程度言い争っていた二人の一触即発の空気感はまだ収まっていない。それどころか下手をすれば殴り合いでも初めてしまいそうだった。
「お前さっきから……そもそもユキは俺の獲物なんだ。それを勝手に横取りだなんてよ。俺のアンダーグエナジーのお陰で生まれた奴のくせして親である俺に逆らってるんじゃねーよ!」
「確かに俺が生まれたのはお前のアンダーグエナジー。だが、今どき親の都合で子供を縛るのは時代遅れだぞ?」
最早売り言葉に買い言葉である。このまま行けば二人による大喧嘩のせいでこの廃墟どころか周辺の街まで巻き込んだ被害に発展しそうになってしまう。
だが、そんな時に一人の男が姿を現す。それは前にヒューストムの所に現れたローブの影その人だった。
「……もう全て終わったと思っていたが……随分と騒がしいな」
そして、彼が冷めたような言い方で二人へと視線を向けるとヒューストム、カゲロウは二人揃ってその存在に気がつく。
「チッ……まだ一ヶ月の期限は来てないはずだろう?」
「ああ。だがその期限まであと数日。時間が無いのにプリンセス・エルをお前達が連れて来なければ心配にもなるものだ。わかるだろう?」
「そりゃあそうだけどな」
カゲロウは自分はこの男と約束なんてしていないためにまるで他人事のような返事を返す。それを見た影はその態度を見て目を細める。
「……あまり私を侮ってもらっては困る。カゲロウ、ヒューストムが失敗した場合……お前をアンダーグ帝国に入れるという話は無かった事にしてもらう。こちらも実力の伴わないゴミを入れるわけにはいかないからな」
「……仕方ないな」
ローブの影はあくまで立場は自分が上だとばかりにそう告げるとカゲロウとしてもヒューストムを手伝わざるを得ないと内心舌打ちする。
「それはそうと、バッタモンダーはどうした?」
「確かシャララボーグの方に行ったとか何とか」
「……愚かな男だ。弱い者の努力程虚しい物は無いと言うのに」
ローブの影がバッタモンダーを見下すような声色で辛辣に吐き捨てると彼を育てたヒューストムも少しだけ複雑そうな顔になった。
「まぁ良い。何にせよ物事は結果が全て。お前達が期日までにプリンセス・エルを連れて来ればそれ以上何も言わない。少しは期待している」
ローブの影は最後にそう言い残すとその場からワープで消え去る。そして、その場には二人が残された。
「チッ、何だかもうお前へと怒ってるのが馬鹿馬鹿しく思えてきた」
「……ああ。今は協力すべき……か」
ローブの影が二人のヘイトを一手に受け持つ立ち回りをしたために喧嘩していた二人の頭は冷え、取り返しが付かなくなる前にお互いに矛を収めた。
ただ、あのローブの影に感謝するつもりは無い辺り二人揃って性格が終わっているわけだが。
「……カゲロウ、ユキの相手はお前にやらせてやる」
「何?どういう風の吹き回しだ」
ヒューストムからカゲロウに思わぬ提案をされた事で彼は困惑。そもそもあれだけユキに拘っていたヒューストムが何故いきなり彼女の相手を自分に任せたのか意味がわからない。
「確かに俺がユキを潰したい気持ちはずっと変わらない。……だが、俺はユキの前に借りを返したい奴ができてしまった。それに、俺達が勝ってユキを連れ去れば結局好き放題する事自体は後から幾らでもできる。それよりはプリキュア共が苦痛に歪む姿をもっと間近で見たいからな」
それを聞いてカゲロウは何となく理解する。ヒューストムからして見れば恨みがあるのはユキ一個人だけでは無い。これまで何度も自分達を打ち破ってきたプリキュア達相手にも鬱憤は溜まってきている。
そのため今回はユキよりも今後ユキを連れ去った後に会わないであろう他のプリキュアへの復讐を優先させたのだ。
「ま、お前の考えがそれなら俺も助かる。思う存分ユキを虐めて楽しんでやろう。ただし、これはお前が言い出した事だ。ユキが抜け殻になってお前が虐める時につまらないと言うのは無しだからな」
「ふん、それくらいわかっている」
こうして、喧嘩していた二人は何だかんだで利害の一致から協力。結局二人の関係というのは利害が一致しない限り絶対に交わらない薄っぺらい物だという事だろう。
その後二人が別れるとヒューストムが内心で考えた。それはカゲロウについてである。
「(ああ言ったものの、どうにかカゲロウの野郎を排除する方法は無いのか……。そうしないと折角ユキを捕まえても俺一人で楽しめない。それどころか残り滓と言いつつももう殆ど役に立たない分しか残さないだろう)」
ヒューストムは同じ性格悪い勢のカゲロウの思考は何となく読んでおり、可能ならユキを手に入れるついでに始末できないかと考えていた。
「(こうなったらカゲロウが負けそうになったら俺が直接手を下すのも……いやいや、プリキュアを倒すまでは利用して消耗した奴を仕留めるか。そうすれば傷ついたユキを捕えるのは楽勝だろうしな。ふふっ、最後に笑うのはこの俺だ)」
ヒューストムのこの考えは先程言及した二人の関係の薄さを端的に表す一例と言えるだろう。
そして、カゲロウの方は胸に手を置くと自身の心の中にいるであろうアサヒに話しかける。
「(アサヒ、見てろよ?お前が愛したユキを俺が自由にこき使える玩具にしてやる)」
しかし、アサヒからの返事は全く無い。するとこの状況にカゲロウは笑みを浮かべた。
「(ふふっ、そういえば俺がアサヒの人格ごと捩じ伏せたせいでもう意識すら残ってないんだったんだな。くくく……あはははははっ!)」
カゲロウは内心で勝ち誇ったような笑い声を上げる。だが、この時彼にとって大きな誤算が生じていた。完全に消し去ったはずのアサヒの胸の鼓動……そしてその炎がまだ小さく、微かに残っているという事に。
それはさておき、場面は一夜明けた朝の所へ。ユキはソラのいる部屋をノックしていた。
「ソラちゃん、起きてる?」
ユキはソラへと話しかけるものの、部屋からの返事は無い。それからユキはソラに何かあったのかと心配するが、扉の向こう側からガサゴソという音が聞こえたために動く事自体はできると考えて伝言を残す事にした。
「……ソラちゃん、今のソラちゃんはシャララ隊長がランボーグにされて……苦しくて辛い気持ちになってると思う。無理に出てきてとは言わない。だから……だから今は気持ちを休ませて。……もしどうしても無理だったら……」
ユキはそこまで言った所で少し悩む。今からユキが言おうとしている事はこの家に住む他の皆の意思に反するかもしれない。それにヒーローとして頑張ってきたソラの気持ちを否定する危険もある。
だが、それでも今のソラにはこの言葉が必要だと思ったためにユキが深呼吸すると再度言おうとした事をソラに伝わるように話す。
「もしどうしても無理だったら……ソラちゃんが一番安心できる場所に戻っても良いから……」
「ッ……」
ユキがそう言うとドア一枚越しに壁にもたれながら話を聞いていたソラはユキからの話に目を見開くと困惑する。ソラはユキにその意味を聞き返そうとするが、その気持ちはどうしても湧いてこなかった。
「じゃあ、学校に行ってくるね……」
ユキはそう言い残して精神的に折れてしまったソラを残して学校へと向かう事になる。そして、ソラはユキの足音が遠ざかる中で蹲った状態のまま呟く。
「……そんなの、ヒーローじゃありませんよ……」
そして、ユキとましろは二人で学校に登校。勿論カゲロウに乗っ取られているアサヒも例外無く学校を休んでしまっている。こればかりは仕方のない事ではあるが……。
「そんな、虹ヶ丘が休みだなんて……」
「あのソラちゃんが二度もこんな……」
学校ではユキやましろが友達やクラスメイトに二人が休みの事実を伝えるとその場の全員に衝撃が走ると共に驚きの声が次々と上がっていった。ちなみにソラは前のツバサの件での休みがあるためにこの学校に来るようになってから二度目である。
「ユキちゃん」
「うん……早く助けないと皆をもっと心配させちゃうね」
今日はまだ一日目であるために誤魔化し自体はできるのだが、このまま不登校が続くとなると流石に隠し切るのは厳しくなっていく。特に教師陣に対しての対応の方が難題だ。下手な誤魔化しで嘘がバレればユキやましろにもペナルティが課されるのは目に見えてわかるためである。
「……そうだ、ソラちゃんがこの前食べたいって言ってたチョコチップメロンパン。帰りに二人で買って行こうよ。きっとそれを食べたら元気になってくれるから」
「えっ……あ、う、うん……。確かにソラちゃん、食べたいって言ってたもんね……」
するとユキの返事が僅かにぎこちない事にましろは首を傾げる。同時にまたユキが何か隠し事をしたのではないのかと不安が浮かんできた。
「ユキちゃん、また隠し事?」
「あはは、確かに隠し事はしちゃってるかも……」
「……もしかして、まだ覚悟が決まってないとか?」
「あー、それは大丈夫だよ。……どっちかと言えば……ソラちゃんへの心配を隠してるだけだから」
それを聞いてましろはユキの隠し事はあくまでソラへの強い心配の気持ちだと判断。確かにそれをクラスメイトに悟られるのはあまり良い事では無いので隠すのも納得だと頷いた。
「そっか、確かにそれは隠さないとだよね……」
「うん……」
だが、ましろはこの時ユキが言った誤魔化しに気が付かなかった。その誤魔化しというのが出る前にソラへと伝えたあの言葉である。
「(今のソラちゃんの精神状態だと多分……。ううん、だけど今のソラちゃんにはきっと必要な事だと思うから……)」
ユキは今ソラが何をしているのかの予想ができていた。そして彼女の予想が的中するように虹ヶ丘家ではソラがある行動を起こす事になる。
「……これで……大丈夫ですよね」
ソラは部屋を確認すると何かをチェックしていた。彼女の背中には大荷物が背負われており、この荷物の中には生活用具等の自分の持ち物がパンパンに入っていている。
「……ユキさん、ましろさん。本当にごめんなさい……。こんなにも弱い私を……許してください……」
ソラは小さく呟くようにこの場にいない自分の友達へと別れを告げるとこの世界でましろに買ってもらっていたヒーロー手帳のとあるページを開いた状態で勉強机の上に置いておく。
「………」
そのままソラはいつの間にかツバサの部屋から持ち出したミラーパッドを使用するとスカイランドへと繋がるトンネルを起動。そのままその中に入り、虹ヶ丘家から姿を消してしまうのだった。
また次回もお楽しみに。