ユキの過去についてのやり取りから少し時間が経過。ソラシド市の街中にとある高架下の一角にて。
そこには移動式のおでん屋の屋台が来ており、朝食からおでんを食する一人の男がいた。
「あーむっ!こっちの世界の食い物もそれなりに食べてきたが……なかなか美味しい物が多いのねん」
その男とは会社員のようなコートを着て更にウィッグを装着し、後頭部の辺りに髪があるような状態の姿として変装したカバトンである。そして彼は朝からビールを飲んでいる様子であった。
「ぷはあっ!それにしても……プリキュアめ……」
カバトンはここ最近自分を邪魔してきているプリキュア達への怒りを募らせていた。すると店の店主が気になったのか話しかけてくる。
「何かあったんですか?」
「それがだな。悪ガキの頃から
「そうですか」
「なのに、プリキュアとか言うメチャクチャTUEEE奴が現れてよ!」
「そうですか」
「しかも四人目まで爆誕して!本当に何人増えれば気が済むのねん!」
カバトンが悔しさのあまりドンドンと屋台のカウンターを台パン。そんなカバトンを相手におでん屋の店主は話の聞き手になりつつ相槌を打ってくれたお陰で何とか彼のメンタルは持ち堪えていた。
そんなカバトンの近くに一人の男性が近寄ると見かねたように話しかける。
「おいカバトン、お前呑気におでんを食べてる場合かよ」
「あん?お前なんで俺の名前を……ってシャドーお前か!」
カバトンは後ろを振り向くとそこにいた男、シャドーを視認。彼は割と落ち着いた様子でカバトンへと指摘する。
「お前が最初の任務の時にヘマをやらなければ少なくともプリキュアは今の半分の人数だったって言うのに。全部自業自得だろ」
「煩いのねん!お前こそ途中まで黙って見てただけのくせに!」
シャドーから言葉にカバトンは強い言葉で反論するとシャドーはあくまで冷静な言葉で話を続ける。
「はぁ……。だから、お前があまりにも苦戦してるから俺が出張る事になったんだろうが。まずはそこを理解しろよ」
「ぐぬぬ……そんな事俺だってわかってるのねん!それに、このまま黙っている程、間抜けじゃ無いんだこれからプリキュアを倒すために作戦を……」
「お前が作戦?……まぁ、やってみれば良いんじゃないか?さっき自分で言った通りからっきしの頭で、しかもヤケ酒して酔いが回った頭で何か浮かぶとは思えないが」
シャドーのド正論による攻撃にカバトンは手も足も出ない状況だった。彼がそんなシャドーと話をする中、おでん屋の店主はカバトンへと串刺しおでんの乗った皿を置く。
「これは?」
「サービスです」
「オヤジ……」
カバトンは見ず知らずの自分へとサービスを出してくれたおでん屋の店主の気遣いに心が温まる思いになる。その上で店主は二人の関係性について聞いた。
「先程からの会話だとお二人は会社の同僚でライバル関係なのですかな?」
「まぁそんな所だ」
シャドーが素っ気なく店主へと答えを返すとカバトンは早速おでんを食べようとする。そんな時だった。突如としてカバトン、シャドー周辺の空気感が一変する。
「ッ、これはまさか……」
「はぁ、流石にここまで失敗続きだと痺れを切らすよな」
カバトンとシャドーはこの気配に心当たりがある様子で唖然とする。そのまま周囲が紫の禍々しい空間へと染まった。勿論何が何だかわからないおでん屋の店主は動揺する。
「な、何だこれ」
「店主、今起きている事は他言無用だ。言ったら最悪消される事を覚悟しろ」
「は、はぃい……」
シャドーは言い方は強めだったものの、おでん屋の店主が余計な巻き添えを喰らわないようにこの会話に混ざるなと伝えた。そのタイミングでどこからともなく女性の声が聞こえてくる。
『カバトン、シャドー。プリンセス・エルはまだ手に入らぬのか?』
「……ひ、ひえっ!?」
「申し訳ありません。敵が手強く未だに手に入れられておりません」
カバトンは声を聞いた途端怯えており、それとは対照的にシャドーは淡々と現状報告をした。プリキュア達相手にあれだけ強気なカバトンが怯えるとなると、声の主は相当な強さを持っているのだろう。そんな中、二人の上司と思われる女性の声は芳しくない報告に苛立ちを露わにしていた。
『この役立たずめ。どれだけ私をガッカリさせるつもりだ?』
「も、も、も、申し訳ありません!」
「次の機会では必ずプリンセス・エルを献上します」
カバトンは座っていた椅子から転げ落ちるように近くの地面に土下座をする中、シャドーもその側で片膝を付く。
『今回はこの辺にしておくが、いつまでもチャンスがあると思うでないぞ?プリンセスを私の元に。良いな、二人共』
「御意」
「……承知した」
カバトンとシャドーはそれぞれ声の主に答えを返すとようやく周囲を包んでいた暗黒の空間は消えた。そして、この空間が無いと女性は会話ができないためにその声も聞こえなくなる。上司の声から解放された二人は元のポジションへと戻った。
尚、先程までビールを飲んで酔っていたはずのカバトン。しかし、今の声ですっかり頭が冷やされたのか酔いは全部吹き飛んでいた。するとおでん屋の店主が恐る恐る今の声について質問する。
「……か、会社のパワハラ上司ですか?」
「パワハラ上司……あながち間違っても無いかもだが、それを本人に聞かれたら確実に消されるから黙っている事をお勧めする」
シャドーはおでん屋の店主に改めて今回のやり取りを言いふらさない事を推奨し、口止めを行う。そんな中でカバトンは椅子に座り直していたカバトンは小さく呟いた。
「……貰うぞ」
「へ?」
カバトンの言葉におでん屋の店主は唖然としつつ聞き返す。その直後、彼は今お店に残っている全ての具材と言える程の量のおでんを注文。カバトンが頼んだおでんが彼の皿の上に山盛りと言える程にギチギチに詰められる中、早速それをそれをやけ食いとばかりに食べ始めた。
「プリキュア、今日がお前達の最期の日なのねん!」
カバトンは熱々のおでんを高速で食べまくったために顔が熱であっという間に赤くなるが、まるで気にする様子は無い。そしてそんな彼に唖然としたおでん屋の店主へとシャドーがフォローを入れる。
「……やれやれ。あの方に尻を蹴られてやる事がおでんのドカ食いか。それと店主、いきなりですまないな。この様子だと俺達は二人共今割とヤバイ状況なんだ。おでんのお代はコイツがしっかり払うから勘弁してくれ」
「は、はぁ……」
おでんの店主としてはおでんが売れれば儲かるので特に文句は無いが、流石に残りの量を全部食べる様子にただ茫然としたまま答えを返すのみだった。そして、それと同時にカバトンは皿に残っていたおでんのつゆを一気飲み。その直後、ようやく熱さが回ってきたのかその場で悶える事になる。
「熱ちゃああっ!」
「……はぁ。やっぱり後先考えてないなお前」
「へ、へっ、それは違うのねん!俺様にはちゃんと考えが……」
「あー、そうそう。念の為にお前に言っておくが、このお店のおでん代と飲み代。俺はそれらを何一つ食べてないから全額お前一人で自腹負担だからな?」
「……は?」
カバトンはその後、どうにか手持ちのお金の殆どを使う形で今回のおでん代を支払う事になるのだった。
そんなカバトンとシャドーの所から場面が切り替わると街中にあるPretty_Holicのお店の中へと移行。そこにはユキ達四人がいた。ただ、その中でソラはずっと難しい顔をしているのに加えてユキも落ち込んだような元気の無い顔のままである。
「ねぇ見て!新しいの出たよ!ほら、ソラちゃん。ユキちゃんも……」
ましろは目をキラキラと輝かせて新しく出たパウダーフレグランスを見せる……が、二人共顔つきは全く変わる様子が無い。
「「………」」
「うぅ、ダメか……」
「参ったな……ここでもダメなのか」
今現在、ユキ達四人が何故ここにいるのかと言うと……ソラからの“プリキュアに変身するな”という宣告を受けたアサヒは混乱。しかし、反論しようとした所でここで強く言い返しても結局は雰囲気を悪くするだけという事で一旦その話を保留とした。
その後アサヒがユキの過去についてましろにも話した所、ましろはこのままだとずっと気不味い空気のままという事で街中に二人を連れてきたのだ。
「これで四件目だぞ。二人が喜ぶ何かは無いのかな」
街中にあるスカイランドでは滅多に見ないお店を見て回る事でユキとソラに気持ちを戻してもらおうとアサヒ、ましろは計画。しかし言及のあった通りこのお店で四件目なのだが、やはり効果は薄い様子であった。
「えるぅ……」
そして、ここまで二人に暗い顔が続くと流石にエルも不安になる。彼女は抱かれているソラへと不安そうな眼差しを向けていた。
「ひとまず、次のお店を試そう。数打ってたらいつかは当たるから」
「うん、そうだね」
その後、四人は街中を移動開始。ただ、その際ユキは街を歩く人々に恐怖心があるのかソラの近くにピタリとくっついて離れなかった。やはり彼女にとって、心細い時はソラの元が一番落ち着くのだろう。
「やっぱり、ユキちゃんはソラちゃんの側が一番安心できるのかな」
「そんな感じだよな。くっついて離れてないし。……ただ、まだユキはプリキュアに変身するなって話を聞いてないんだよな。もし聞いたらどんな反応するんだろ」
二人がヒソヒソと話す中、自分達よりも前にいるユキとソラ。そんな中、ソラは唐突に話し始めた。
「ましろさん、アサヒ君。ユキさんにあの事は伝えましたか?」
その言葉に二人は揃って顔を見合わせる。ただ、ここで嘘を言っても仕方ないし、ユキも自分だけ知らないという事実に困惑した様子だった。
「ソラ……ちゃん?どういう事?」
「……話してないんですね」
「ああ、話してない」
ソラもユキの困惑ぶりからまだ話していないのだと察すると自分の側にいようとするユキを突き放すように振り払う。
「えっ……ソラ……ちゃん?どういうこ……えっ……」
それからソラは一人で目の前の横断歩道を渡ると同時に歩行者信号が赤に変わる。ユキの顔は未だに困惑したまま。そして彼女は他の三人が知ってる事を知らされず、“自分だけ仲間外れにされてしまった”という感情になりつつあった。
「……それでは、改めて言います。皆さん……。プリキュアには、もう変身しないで欲しいんです」
ソラの言葉と同時にユキは困惑し、放心状態となってしまう。そして、同時にそれはソラにとっても自分は役立たずであると思われたのではないかという結論に至った。
「ソラ、ちゃん……嘘だよね?嘘って言ってよ……私、そんなにソラちゃんにとって役立たずな悪い子なの……?」
「……ユキさんは私が嘘を吐けないって事、一番よく知ってるじゃないですか。こんな所で嘘なんて言いませんよ」
ソラにも救いの梯子を外される……そんな感覚に陥ったユキはまた呼吸が荒くなり始めた。
「嫌……嫌……ソラちゃん……何で……何でそんな事言うの?」
ユキは絞り出すようにそう呟く中、絶望の中に突き落とされたようなそんな顔つきになってしまう。それからユキはソラの元に詰め寄ろうとした。それを見て慌ててアサヒがユキの腕を掴んで止める。
「おい、待てユキ!焦る気持ちはわかるけど今渡ったらヤバいって!」
「離して!ソラちゃん、ソラちゃん!」
アサヒがユキを止めている理由。それは単純明快で、ソラが渡った横断歩道の信号が未だに赤を示しているからだ。加えて、まだ車も度々通行している。ここで渡るのは自殺行為になってしまうため、アサヒはユキを何としてでも止めている状態だった。
「見捨てないでよ……私、ソラちゃんだけは裏切らないって信じてたのに……」
「ユキ、落ち着けって!ソラがそんなつもりでこんな事言うわけ無いだろ!」
ユキが錯乱し、アサヒが慌ててそれを止める。その様子をましろはオロオロとした様子で見ており、ソラはいつもとは違ってユキを突き放すような冷たい目を向けるのだった。
〜おまけ ソラの悪夢とその心境〜
ソラはユキを突き放した言葉を言うその時から時間を少し遡る。そしてその時、ソラはある覚悟を固めていた。
「(……ユキさん。日に日に弱ってきて……。恐らく、戦いが原因でこんなにも傷ついて……)」
料理の件で錯乱したユキの事を一度落ち着かせた後。ソラはユキの精神がかなり危険だと察していた。
「(ユキさんにこれ以上無茶なんてさせられません。ひとまず、戦いから距離を置かせないと……下手したら、私の見たあの夢のように……)」
ソラもユキと同様にここ最近悪い夢にうなされていた。その内容と言うのが以下の通りである。
〜夢の中〜
暗がりの中、強大なランボーグ相手に完膚なきまでに打ちのめされた四人は一旦体勢を立て直すために逃げの手を取ることになった。
「ッ、強すぎます……」
「このままじゃ勝てないよ」
「一旦退くしか無い……」
スカイは最初、ヒーローが敵に背を向けて逃げる事に対して猛反対した。ただ、そんな事を言っていたらここで全滅するのは目に見えてわかる。なので、スカイも最終的には頷いた。
その後、撤退戦となったのだが……ランボーグからの追撃は熾烈を極める。そして、ランボーグから放たれたエネルギー弾からスカイを守るためにまずサンライズがスカイを突き飛ばしてその身代わりとなる形で被弾して倒れた。
「ぐああっ!?」
「アサヒ君!?」
スカイが悲痛な叫びを上げる中、突き飛ばされた影響でスカイは二人から離されてしまうと同時にスノーやプリズムとの間にいきなり強固な鉄格子がシャッターのように降りてきてしまう。
「ッ!?そんな……」
そして、鉄格子で隔離されたために物理的に助けに行けなくなったスカイ。プリズムは一か八かでランボーグに立ち向かい、スノーはその間に鉄格子を破壊してスカイと合流する事に賭けた。
「はぁああっ!」
「ランボーグ!」
その直後、どうにか立ち向かったプリズムへとランボーグからのビームか命中。そのままプリズムは撃墜されてしまう。
「そんな、ましろさんまで……」
そんな中、スノーはまるで後ろでプリズムがやられたのがわからないかのように必死に鉄格子を壊そうとそれを掴んでいた。そこにゆっくり迫るランボーグ。
「ランボーグ!」
「……え?」
スノーはランボーグからの声にようやく自分が危険な状況に置かれたと気がつくと振り返る。
「ユキさん、逃げてください!」
「あ……あぁ……」
だが、スノーは完全に鉄格子に背を向けたせいで逃げ場を失っていた。そして、そのまま彼女はランボーグにゼロ距離で殴られるとそのまま鉄格子がヘコむ程にめり込んでしまう。
「が……ああっ……うっ」
こうして、スノーも敗北を喫すると同時に倒された三人は同時に変身解除。そこから先は想像しただけで恐ろしく……スカイは、ソラはそこで目覚める事になる。
〜現在〜
「(ユキさんをあんな目に遭わせるわけにはいかない……。私が、ユキさんを守る。……そのためなら例え、ユキさんに嫌われたって……私は構わない)」
そんな悲壮な覚悟を固めたソラ。こうして彼女はお出かけの際にユキへと直接戦うなという旨を話した。同時にこの影響でユキの動揺は頂点に達した挙げ句、そのまま崩れ落ちてしまう所までソラはしっかりと見る。
ソラはその様子に罪悪感に包まれていく。しかし、それでもユキの事を突き放さないといけないと考えた彼女はユキからの呼びかけには応えなかった。そして、この考えがこの後事態を更に悪化させてしまう事になる。
また次回もお楽しみに。