スカイランドの実家に帰ったソラは家から暫く歩いた所にある湖に到着。そこで父親であるシドと共に話そうとした時。何故かユキが一人でやってきていた。
「ユキさん……どうしてここに……」
ソラはユキが何故かここにいるという事実に困惑。そして、ユキはあくまで普通の顔つきで接した。
「今日の朝さ、私が出かけ際にここに行くように促したでしょ?」
「え……えっと、そうですけど……」
「私……ソラちゃんにレミさん達の家で休むように言っておいてさ。何だかんだでソラちゃんが心配になっちゃった……本当は来ないつもりだったんだけどさ……」
ユキは微笑みながらも申し訳なさそうな雰囲気を出しつつ話す。その姿にソラは唇を噛み締めると彼女へと問いかける。
「ユキさんが私の事を心配してくれてるのはわかりました……。でも、どうしてこの場所に直接来たんですか。普通私が帰ったとわかってるなら家に来るはずなのに……」
「そんなの……ソラちゃんならここに来ると思ってたからだよ」
「えっ……」
ユキがそう言うとソラは唖然とする。ユキはこの場所にソラが来ると信じていたようだ。
「覚えてる?シャララ隊長に助けられた後から暫くして……私が虐められた時にここに来たの」
「ッ……そんなの、忘れるわけありません。あの日……学校でユキさんの事を虐めていた子達に立ち向かって大喧嘩して……全然敵わなかった時の事」
それは、二人が幼い頃。シャララ隊長に危ない所を助けてもらった後にユキとソラがトレーニングを始め、ヒューストムことレインのせいでスカイランド時代の学校のクラスメイトに虐められた時の事だ。
〜回想〜
幼い二人は今回と同じように夜空の下、シドに連れられる形でこの場所に来ていた。また、ユキの方はもう既にメンタルがボロボロであったために歩けるだけの気力が残っておらず。シドに背負われる形で一緒に着いてきていた。
「ごめんソラちゃん……私のせいで……私のせいで……」
ユキは一人蹲って啜り泣いており、自分が原因でソラがしなくても良い怪我や周りの子達から袋叩きにされた事をソラに対して謝っている。
「ユキさんは何も悪く無いよ……。悪いのは全部、ユキちゃんの事を虐めるあの子達だから」
ソラはそう言ってユキを慰めようとするが、ユキはまるで周りの言葉を受け入れるのも辛いのか何も反応を返してくれなかった。
「……ソラ、今はそっとしておくべきだ」
「ッ……うん」
シドも今のユキを下手に前向きにさせようとしても逆効果だと判断しているのか、ソラへとこれ以上変に掘り返さないように言う。
「でも、パパは悔しくないの?ユキさんが学校でこんな事になってて……」
「……勿論悔しい。ユキは家族同然の子。それが学校で虐められていると知って黙っていたくはない」
「じゃあ何で……」
「……パパでもどうにもできない事があるんだ」
「ッ……」
シドはユキが虐めを受けてると知った時点で学校の方に問い合わせ自体はしていた。しかし、何故か教師は頑なに取り合って貰えず。この事からやはり教師陣もヒューストムの洗脳下に置かれていたと言う事だろう。つまり、ユキに学校の中での味方はソラを除いた場合一人たりともいなかったという事になる。
当時、シドもここにはいないレミもユキやソラのいない所でどうすれば良いのか頭を悩ませていたのだが……それをソラが知る事は無かった。
それはさておき。ソラがどうにかユキを助ける方法が無いか考えていると突如として夜空に動きが訪れた。
「……あっ!」
それは一筋の流れ星である。そして、ソラはすかさず立ち上がると流れ星が消えてしまう前に手を合わせて願い事を言う。
「ヒーローになれますように!ヒーローになれますように!ヒーローに……」
しかし、三度目を言う途中で夜空の流れ星はとっくに消えてしまっているのに気がついたソラ。彼女はそれを見て不安そうに呟く。
「……本当に、ヒーローになれるかな?」
それは、自分が目指したいと思った夢が果てしなく遠い場所に見えてしまったが故の物である。何しろまだ今のソラは弱く、非力だ。それこそ、誰かを助けるどころか自分の身を守るので手一杯だろう。
「私、強く無いし……。ユキさんの事一人守れなくて、本当は喧嘩も怖くて。それに、それに……」
ソラがユキの方を一瞬見ると未だに蹲ったまま。そのため彼女は自分の弱さを痛感しており、自分なんかがヒーローにはなれないのだと考えてしまう。
「……お前の心は何と言っている?」
するとシドは呟くようにしてそれを問いかける。ソラはそれを聞いて自分の心が何て叫んでいるか考えた。
「私は……ユキさんや……困ってる誰かを助けられるような……そんな、そんなヒーローに」
ソラが俯いて湖の水面を見ながらそう呟いた瞬間。湖の水面に流れ星がまた輝く。
「……ッ!」
ソラがそれを見て上を見上げるとその瞬間、無数の星明かりがある夜空に沢山の流れ星が流れ始めた。
「わぁ……ヒーローになれますように……」
そして、彼女はその無数の流れ星を見て思わず願い事を呟く。……直後には今後こそ自分の想いを叫ぶかのようにひたすら自らの願い事を言い続ける。それは三回どころの回数では無い。
「ヒーローになれますように!ヒーローになれますように!ヒーローになれますように!ヒーローになれますように!ヒーローになれますように!」
そうやってソラが願い事を言い続けている間、流れ星が降り止む事は無かった。そして、蹲って啜り泣いていたユキもソラが何度も何度も夜空に願いを言うのを聞いて思わず顔を上げる。
「……綺麗」
ユキはそんな夜の流れ星を見ながら小さく呟き、そのまま彼女もその星に願いを託す。それは、ソラのように沢山言う事は無く。たった一回きりだったが、それでも彼女の強い願いが込められていた。
「ソラちゃんの……困ってる人の役に立てますように……」
ユキが心の底で願った物。それは彼女が目指したい将来の自分の姿だった。ソラのようにヒーローなんて大それた物になれなくても良い。自分の力で、誰かの助けになれるような自分になる。ユキが目指した未来の自分だった。
そして同時に、ユキがハレワタール家に引き取られた頃から持っていた霞んだ色のスカイトーンはそんなユキの気持ちを受けて薄らと一時的に輝きを放つ事になる。
〜現在〜
ユキとソラは自分達が改めて明確な将来に向けた目標を立てたあの日の事を思い出すとソラが今まで自分達のやり取りを近くで聞いてくれていたシドへと問いかけた。
「あの星はパパが降らせてくれたの?」
「いや、お前が降らせたんだ。……多分な」
シドにも確かな事はわからない。だが、ソラの中に秘められていた強い願いに夜空が応えてくれた。そんな風に彼は解釈したのである。
「そっか。でも、もう私は……」
ソラはシドの話を聞いてまた胸の奥に申し訳ない気持ちがとめどなく溢れてきた。星空は自分の“ヒーローになりたい”という気持ちに応えてくれたのに……自分はそれに更に応える事ができなかったのが悔しいのだ。そしてシドはソラがこの十年間もの間、ずっと頑張ってきたのを親として見てきた。
「良いさ、ソラ。もう良い」
そのため、そんなソラを労うかのようにシドはそっと彼女の頭に手を乗せる事になる。そして、そんな二人を見てユキはソラへと話しかけた。
「……ソラちゃんはどうしたい?」
「えっ……」
ソラはユキに問いかけらて彼女の方を向く。それは、彼女達にとっていつかは向き合わないといけない問題だった。
「私達がもし仮にアサヒ君を助け出したとして。スカイランドの王様達の呪いを解いたとして。これから先もバッタモンダーやヒューストム。アンダーグ帝国の人達はエルちゃんを手に入れない限り……きっと何度でも狙ってくる。
「それは……そう、ですよね」
「……私はアサヒ君を助けた後もエルちゃんが狙われる限り、アンダーグ帝国と戦うつもり。だけど、ソラちゃんはもうプリキュアじゃ無い」
「ッ……」
「だからこれから先、戦いとは無関係の普通の生活を送るって選択肢もあるの」
「で、でもそれは……」
ユキからの話を聞いてソラは申し訳なさそうな顔になった。それはユキ達が戦っていると知っているのに自分はそれとは無関係な生活を送る事への抵抗感を覚えている顔だ。
「……だから、ソラちゃんの答えを聞かせて欲しい。結局私達がソラちゃんの事を強制的にプリキュアに関わらせるなんてできないの。ソラちゃんにプリキュアじゃ無くても私達と一緒に戦う意思があるのなら戻ってきてほしい」
「ッ……」
それは……ユキの心の底でソラへと思っていた願いだった。ユキもソラが近くにいてくれた方が守りやすいというのもある。エルがソラシド市にいる状態でスカイランドが直接襲われるケースは今の所は発生してない。だが、これから先のアンダーグ帝国の敵次第では陽動作戦とかでスカイランドを襲うという手を取る者も現れるかもしれないのだ。
そのため、戦う力が無くとも虹ヶ丘家にいればユキは比較的ソラを守りやすいというメリットがある。その分戦いに巻き込むのは確定になってしまうが、本人の意思で残りたいと言うのならそういう覚悟もあるとみなす事ができるわけだ。
「だけど、もしソラちゃんがもう戦うのも……巻き込まれるのも嫌なのだとしたら……私達はソラちゃんを無理に引っ張り出そうとするのはキッパリ諦める。ましろちゃん達の中には反発が出るかもだけど、それは私の責任で抑えるから」
それはつまりこれから先、プリキュアがどんなに窮地に陥ったとしてもソラの事を頼らないという物だった。勿論ソラの事を信頼してないわけでも無いし、縁を切るなんて事もしない。ただ、戦いに関わらないとソラが自分で決めた以上は中途半端ではダメなのだ。そんな事をすれば、いつか……どこかのタイミングでまた巻き込んでしまう。
「私……」
ソラはそれを受けて胸に手を当てると辛そうな顔を見せる。それはまるで決め切れない選択肢の前で迷っているような物だった。
「……そっか、今すぐじゃなくても良い。ソラちゃんの答えが纏ったらまたヨヨさん経由でも良いから伝えてくれると嬉しいな」
「はい……すみません」
それからユキは自分の事を育ててくれた養父、シドに改めて向き合うと頭を下げる。
「シドさん……ソラちゃんを……お願いします」
「勿論だ。……ユキ、少し見ない間に凄く強くなったな」
「そうかな……」
シドに強くなったと言われてユキは少し複雑そうな顔をした。ただ、ユキは初めてスカイランドの都へとあの日から見違える程に成長したのは確かだ。
「ああ。少なくとも、自分の事で大変な時にこうしてソラの事を慰められる立場に立てるようになったくらいにはな」
「……でも正直言うと私も不安。アサヒ君の事、助けられるのかなって。あと……カゲロウの事も」
「それでもユキの心は、お前の大切な彼氏を助けたい気持ちなんだろう?」
シドがそうユキへと返すと彼女は頷いてからシドの言った言葉の意味を思い返して慌てる。
「うん……ってうぇえっ!?か、彼氏の事を持ち出さないでよ!」
「ふふっ、ユキが彼氏持ちか。改めて聞くと俺もこそばゆいな」
「もう……何でこんな大事な時に」
ユキは顔を赤くしつつ少しだけ頬を可愛らしく膨らませた。だが、まだこれができる時点でユキには余裕があるという事だろう。本当に彼女も成長したものである。
「っと、そろそろ行くね」
「ああ、頑張れよ。ユキ」
「うん!」
それから最後にユキは未だに自分の答えに迷っているソラの元にもう一度行くと彼女を正面からそっと抱き締めた。
「ッ……」
「大丈夫……ソラちゃんなら、ちゃんと答えを出せるから」
ユキはソラの背中をそっと撫でると彼女は薄らと涙を流しつつユキに謝る。
「すみません……ユキさん、本当は……本当は私が助けないとなのに……」
「良いよ。今は……ゆっくり休んでて」
ユキはソラを安心させるように囁くとそのまま自分が通ってきたトンネルを使って虹ヶ丘家に帰っていく。
「……ユキさん……。私は、私の気持ちは……」
ソラはそれから近くにあった湖の前に向き合うと色が褪せているスカイトーンを胸の辺りで持つ。そして次の瞬間、ソラは意を決すると手にしていた色の霞んだスカイトーンを目の前に広がる湖へと思い切り振りかぶって投げようとするのだった。
場面が変わり、翌日の早朝。ソラシド市の夜明けを告げる朝日が昇る中、ヒューストム、カゲロウ、バッタモンダーは自分達の拠点から街を見下ろしていた。
「さてと、二人共喧嘩は終わったかな?」
「ああ。話は纏まった」
「お前も悪かったな、あんな姿を見せてよ」
落ち着いた様子のバッタモンダーの問いにカゲロウもヒューストムも仲直りしたという意思を返す。
「(ま、プリキュアを倒した暁には消耗したカゲロウを始末し、シャララボーグの支配権を奪った上で手柄を独り占めさせてもらうけどな?)」
尚、ヒューストムは相変わらず腹の底では平気な顔をしつつクズ発言をしているが……。
「ソラ・ハレワタールはもうプリキュアにはなれない。彼女本人叩き潰すのは簡単だ」
「ふん。そんな事よりももっと彼女を苦しめる方法はあるだろ?」
「そうそう。自分が傷つくよりも友達が傷つく方が苦しい。そういう子なんだよねぇ、ソラちゃんって」
バッタモンダーはソラを潰すために彼女の弱点を知り尽くしていた。余程ソラに対する憎しみが強くなっているらしい。
「俺はユキの事を良い加減貰う。アイツの心が俺色に染まり、歪む程に好き放題してやるよ」
「(相変わらずコイツの考えは下衆のそれだな。それに、ユキを好き放題するのは俺の権利だっつーの。)ならそろそろ始めようぜ。やるなら早い方が良い」
「ふふっ、そうだね。じゃあ、始めようか。ふふふふ……あーっはっはっはっは!」
こうして、アンダーグ帝国側も再度行動を開始。プリキュア相手にまた総攻撃を仕掛ける事になるのだった。
また次回もお楽しみに。