プリキュア達がそれぞれの戦いで少しずつ劣勢に陥る中、スカイランドのソラの家では彼女が丁度斧で薪を使いやすい大きさに切っている所であった。
「はぁ……」
その作業をしているソラは先程からボーッとしており、先程から何度目かわからないくらいに溜め息を吐く。そんなソラを心配そうに見つめるのは彼女の弟であるレッドだ。
「………」
ソラはそれからポケットに入れていた色が霞んだスカイトーンを取り出すとそれを見つめる。
「(あの時、私はこれを捨てるつもりでした。……でも、できなかった。私は諦めたはずのヒーローという夢も捨てきれなくて……ッ)」
ソラはスカイトーンを見つめたまま辛そうな顔を浮かべる。……どうやら、結局前日の夜にこれを湖に捨てられなかったようで。その事からもソラは未だに自分の気持ちに整理がついてなかった。
「(私は……どうすれば良いのでしょうか)」
ソラは自分にはできないと分かりきっているはずのヒーローという自分の夢を捨て去る覚悟を決めたはずなのに、昨日の夜に湖でユキと話した際に心の中にモヤモヤとした感情が湧き上がってしまう。
「(……ユキさん、本当は色々辛い気持ちなのに……私の事を気にしてくれて。……私、本当はユキさんや皆の事を……)」
ソラの中にある気持ちが浮かび始めるとそのタイミングで彼女の近くにソラシド市と繋がる青いトンネルが開いた。
「ッ!?これは……」
「えっ!?何々!?」
レッドはいきなり見た事の無い物が突然できたのだからかなり驚いた様子であり、ソラの方はまた自分の所にましろ達が来ると思っていた。
しかし、ソラの予想とは違ってそこにいたのはましろの祖母のヨヨである。そして、彼女の腕にはエルが抱かれていた。
「しょーら……」
「あっ……ッ……私、もうプリキュアじゃありませんけど……」
ソラは折角来てくれたヨヨへと申し訳なさそうに話す。そして、同時に彼女は何故自分がプリキュアじゃないのに呼びに来たのかという疑問も浮かぶ。
「知ってるわ」
「ッ、それなら何の用ですか?」
ソラはヨヨが自分ではプリキュアになれない事を話すと彼女もわかった様子であり、その返しにソラは少し感情的になってしまう。
「……渡してほしいと頼まれたの」
しかし、ヨヨはそんなの気にしないとばかりに懐から一通の手紙を取り出す。これは先程、ヒューストム達との戦いへと前にましろから預かったソラ宛の手紙であった。
「これ、ましろさんが……?」
「何を……」
「私にもわからない」
ソラはいきなり手紙を渡されたためにその中身が気になってしまう。ただ、ましろはヨヨには中身まで教えておらず。どんな内容なのかは彼女もわからない。
「ましろさん……どうして……」
ソラはましろの意図がわからずに困惑しているとそんなソラの様子を家の中から彼女の両親が見ていた。
「ッ……!」
ソラの両親がヨヨから手紙を差し出されたまま固まっているソラをひとまず見守る様子を見せていると外でソラの近くにいたレッドが声を上げる。
「お姉ちゃん!」
「ッ……わかったよ、レッド。お手紙をくれたんですから読まないとですよね」
ソラはレッドに促されるとようやくヨヨから差し出された手紙を受け取り、それを広げる。
「(ましろさん……あなたも私の事を心配して?でも、もう私はましろさんの気持ちには……)」
ソラは今の自分では助けてほしいと言われたとしてもましろの気持ちに応えられるような状態じゃないと考え、手紙を握る手が震えつつもその手紙を読み始めた。
“ソラちゃんへ。……覚えてるかな?私が初めてプリキュアになった時、ソラちゃん。凄っごく反対してたよね?”
「ッ……!」
ソラはましろからの文面を見て当時の事を思い出す。それは自分達がプリキュアに覚醒したばかりの頃。自分達4人が束になっても勝てない強さのランボーグが襲ってくる怖い夢を見た時だ。
“ましろさんやアサヒ君、ユキさんが傷つくのは嫌だって。ソラちゃん、ユキちゃんやアサヒの事も心配してくれてた”
「(ッ、確かに……そんな事を言いましたね……)」
ソラはあの時、夢の中で強大な敵の前に4人は傷つくと次々と倒れていく様を何度も見せつられていた。そして実際にカバトンが呼んだ電車ランボーグが出た時はその悪夢が正夢になってしまうと思えるほどの強敵であり、その強さを目の当たりにしてソラは他の3人が傷つくのに耐えられず。
また、ましろがプリズムに覚醒した時からランボーグ以外の強敵であるシャドーが出てきたというのもあって3人にもう戦わないように通告したのである。
“自分がもっと強くなる。だから、ましろさん達はプリキュアにならなくて良い。……そう言ってくれたよね?”
「ッ……」
ソラは当時の事を改めて振り返りつつ、ましろからの文章を更に読む。すると、いつの間にか手紙を握る手は更に震えが大きくなるのを感じた。
それは勿論、目の前に恐怖が迫ったから起こした行動では無い。……ソラはましろの言葉を見るうちにどんどん胸が苦しさで締め付けられていたのだ。
“だから……今度は私の番だよ!”
「あ……あぁ……」
ソラはましろのその言葉に昨夜にユキと話をした時の事をまた思い出す。思えば、彼女も自分へと似たような趣旨の話をしてくれた。ただし、ユキの場合はプリキュアに関わるのが辛いのなら無理に引き留めない。そして、ソラを戦いに巻き込まないという内容だったが。
それでも2人に共通して言える事。それはかつてソラが自分のために頑張ってくれた分、今度は自分達がソラのために戦うという物だった。
「何で……」
ソラの胸の中に凄まじい量の感情が込み上げる中、家の中からその様子を見ていたレミは思わず行こうとする。今のソラは手紙によって辛い気持ちになっている状態だった。そのため、レミは手紙を読むのを止めさせようとしたのである。
「見ていられない……ッ!?」
しかし、そんなレミの手をシドが掴む形で止めた。レミがシドの方を振り返ると彼は首を横に振る。
「行ったらダメだ」
「でも……」
それと同じくして、ソラは1枚目の手紙を端まで読み終わったために後ろにもあった2枚目の手紙と入れ替えるとましろからのメッセージはまだ続いていた。
“隊長さんやアサヒの事は私達に任せて。ユキちゃんのメンタルが心配だったらその必要も無い。ユキちゃん、いつも以上にアサヒを助けるために気持ちが入ってる様子だったから”
ましろのこの文章にはソラにも心当たりがある。これもまた昨日の夜のユキとの会話の話で、昨日彼女と話した際にその心に自分を犠牲にするような悲壮な覚悟は感じられず。むしろ、絶対に助けられるというポジティブ方向でアサヒの事を助ける覚悟を決めていた。
“……だから、大丈夫だよ。ソラちゃんはプリキュアにならなくても良い。戦わなくたって良い。お家でゆっくり休んで……元気になってほしいな”
そして、ソラはましろのメッセージをそこまで読んだ所で彼女の目尻に涙が浮かび始める。何しろ、そのメッセージを読んだソラの心に情けない自分への罪悪感とましろや彼女と一緒に戦うユキ達への申し訳ない気持ちが溢れ出てきたからだ。
“最後に一つだけ。……ヒーローになれなかったなんて言わないで。だってソラちゃんは、とっくの前からもう……ヒーローなんだよ。ユキちゃんも、きっと同じ事を言うと思う”
ソラはそれを聞いて困惑する。しかし、ましろがそういう気持ちになるのは当たり前だった。何しろ、ましろはソラがスカイランドからソラシド市に来たばかりの頃にランボーグという未知の怪物に恐怖心が勝っていた頃……その怪物に勇気を持って立ち向かうソラの姿はましろ視点から見るとヒーローと言える物だろう。
そして何より、ソラシド市に来てましろ達と出会う前……ユキやソラが幼かった頃。クラスメイト達に虐められて酷く傷つき、折れかけていたユキの心の支えになっていたのは……他の誰でも無いソラであるのだ。ユキにとって、ソラの事をヒーローと呼ぶにはそれだけでも十分なのである。
「ましろさん……私は、私は……ヒーローなんかじゃない……。ただの弱虫です!!」
しかし、それだけの事をましろからメッセージで伝えられてもソラの胸の罪悪感や辛い気持ちは消えない。それからその気持ちをソラは叫ぶようにして一気に吐き出す。
「戦うのが怖くて逃げた……。シャララ隊長も……仲間も、街の人達も……皆見捨てて……。そんなヒーローいるわけが無い!!」
ソラにとってヒーローとは戦いを恐れない。救うべき相手を救うために最後まで諦めず、どんなに辛くても仲間や街の人々を見捨てず。立ちはだかる悪に勝利する者の事を指していた。
しかし、今の自分はその理想のヒーロー像から最も遠い位置にいる。そしてソラの中にそんなヒーロー像は存在しないし、してはいけないのだ。
「ひぐっ……ううっ……」
ソラの目尻に浮かんだ涙が溢れていくとその雫が手紙へと落ちた。するとソラはその涙が落ちた先。文章がまだその後にも続いている事に気がつく。
そして、同時にソラの脳裏に自分へと手紙を書いてくれるましろの姿が浮かんだ。そんなソラをエルはジッと見つめる。
「えるぅ……」
「そんなヒーロー、いるわけない……。だけど……」
ソラは自分がヒーローとして最低な人間であると改めて自覚。それはソラにとって辛い事だった。……それでも、ソラの脳裏にはソラシド市でユキ、アサヒ、ましろの3人と一緒に過ごした楽しい日々を思い出す。
自分の側にこんな自分と友達になってくれた人達がいるという事実が……空っぽになってしまったはずのソラの胸の中に温かい力を分けてくれた。
“じゃあ、またお手紙書くね。私のヒーローさん”
ソラは涙ながらに自分の存在を求めている人達がいるのだと感じ取る。それから彼女は手紙を読み終わり、涙を拭うと青空を見上げた。ヒーローとしては最低だとしても、今自分がここで動けなかったら……こんな最低のヒーローを信じて待ってくれている友達の事も見捨ててしまう。
「行かなくちゃ……。友達が、待ってるから……!!」
ソラはどれだけ自分がヒーローと言われなくなったとしても、自分の事を最後まで信じて待ってくれている大切な友達だけは無くしたくなかった。そして、その気持ちが芽生えたソラの中に迷いは無く。一度は逃げて消えたはずの戦う覚悟も決まっていた。
その瞬間、再び胸の中に水色の光が宿るとそれがミラージュペンとして生成。胸から飛び出す事になる。
同時刻、サンスポットからの全力の一撃をまともに受けて倒れてしまったユキ。それを見下ろしたサンスポットは苦しそうな顔をしつつも、自分の勝利を噛み締めていた。
「くく……ふふっ……俺の勝ちだ。ユキ、俺はお前という玩具を手に入れたんだ……うっ!?」
その瞬間、サンスポットの胸の中。暗いはずの空間に大きく燃え上がった赤い炎が現れたのを感じる。
「馬鹿な……お前は完全に抑え込んだはず……。くっ、そんな事言ってる場合では無いか。はあっ!」
サンスポットは何故か自分がこの体を乗っ取る際にしっかりと消しておいたはずの存在……アサヒの人格がこの期に及んで抵抗をしているのを感じてもう一度抑え込もうとする。
「俺が虹ヶ丘アサヒなんだ……もうお前の居場所なんてどこにも無いんだよ……。だから、大人しく消えていろ!!」
サンスポットは必死の形相で自らの胸に燃え上がる炎を抑え込み、それは少しずつ抵抗する力を失うとまた消えてしまう。
「ふぅ……あの野郎、存在さえも消えかかってるくせに無駄な抵抗を……」
サンスポットは既に消したはずのアサヒの人格が未だに残っていた事に危機感と苛立ちを覚えるが、またその力が消えた事でどうにか収まった。そして、倒れているユキの方を見やると笑みを浮かべる。
「くくっ……さぁ、そろそろお前の心をへし折ってやる。そうすれば、もう二度とお前は俺に逆らえなくなるだろうからな」
サンスポットはユキを早速連れ帰って自分の都合の良い玩具に洗脳してやろうと考えた。だが、そんな時。突如として倒れているユキの指が一瞬だけピクリと動く。
「ッ!?」
「……ちゃんとわかったよ……アサヒ君が……負けずに頑張ってる事……」
「馬鹿な……俺の全力を受けたんだぞ!?」
サンスポットは困惑していた。先程使ったソーラーエクリプスはサンスポットが今の時点で使える全力を持ってして放った大技。まともに受ければ少なくとも重症は避けられない程である。そして、それをユキはプリキュアになっていたとはいえまともに受けた。それなのにまだ動くだけの余力が残っている理由がわからないのだ。
「うん……確かにあの技はカゲロウの全力だった……。でも、私はそれをちゃんと受け止めるって決めたから……」
ユキは息切れしてフラフラになりながらも体に力を入れてゆっくりと立ち上がる。そして、今にも倒れてしまいそうなくらいに震える脚に力を込めるとどうにかその場に踏ん張った。
「ッ、そんなボロボロの体で……俺に勝てると思ってるのか!?これ以上やったらユキ、お前の体が……」
「……ふふっ、やっぱり……そうやって私の事を心配してくれる」
「なっ……べ、別にそんなつもりじゃ……」
サンスポットが頬を赤くしつつ慌てたような様子でユキを心配してしまうとそのユキは微笑み、優しく話す。
「……それに、まだあなたの中のアサヒ君が頑張ってくれてるから……私が頑張る理由なんてそれだけで十分だよ」
サンスポットはそれを聞いて困惑しつつも、まだやる気のユキに警戒心を高める。そして、ユキはその手にまたミラージュペンを持った。
「私は絶対に諦めないよ。ひろがるチェンジ!オーロラ!」
そのままユキの体は変身の光に包まれるとキュアオーロラへと変化。ただ、生身の状態でかなりのダメージを受けているからか……変身したばかりなのに体は相応に傷ついていた。
「命知らずが……だったら今度こそ終わらせてやる!!」
「ううん。終わらせるんじゃない。……新しく始めるの。私も、アサヒ君も……そして、あなたのこれからも!!」
オーロラは未だに衰えない闘志でサンスポットへと立ち向かう。自分の助けたいという気持ちを信じて……。
また次回もお楽しみに。