らんこ達の世界から帰還したひかるとのやり取りを終えたユキ達。ひかるが帰った後、彼女達は夜も遅めの時間になりつつあった事も相まってそれぞれの部屋に戻るという流れになった。
「それでは、明日からまた学校ですし……」
「うん。そろそろ寝る準備をしないとね」
ソラとましろの2人が抜けるとそのままの流れで他の面々も自然と寝る前に行う行動を始める。所謂ナイトルーティンだ。
「あげはさん、明日の授業だけど……」
「あ、そうだった!アレ準備しないとだよね!」
あげはとかけるは専門学校が翌日に控えているというのもあってこちらも同じく学校の準備。ツバサとヒョウのプニバードコンビは居間にある自分達の家の方に移動してルーティンを始めており、ヨヨもいつの間にか自室の方へと歩き出している。
「俺達も行くか」
「うん、そうだね」
最後に残っていたユキとアサヒも翌日には学校を控えている。そのため、2人も移動を開始。そんな中、2階にまで上がった所でアサヒはユキの様子がおかしい事に気がつく。
「………」
「ユキ?」
「ふえっ!?」
ユキはいきなり問いかけられてビックリしたのか。いつものようにビクンと体を震わせるとアサヒが心配したように問い掛ける。
「大丈夫か?また不安な事があったら俺が……ッ」
ただ、今度はアサヒの様子が少し変になった。彼は少しの間、ユキの顔を見たものの……胸の中にある感情が湧き上がって思わず目線を逸らしてしまう。
「あ、アサヒ君?」
「ッ……ごめん。ユキの事、心配していたけど……俺にはそんな資格無いよな」
「えっ!?い、いきなりどうしたの?」
アサヒは悔しそうに僅かに唇を強く噛み締めていた。その様子にユキは心当たりを思い出すと問い掛ける。
「もしかして……アサヒ君、カゲロウに乗っ取られたのをまだ気にしてたりする?」
「……まぁ、そんな所かな」
どうやらアサヒはカゲロウに乗っ取られた際に自分の意思が無かったとはいえ、ユキの嫌がる行為を沢山してしまった。先程の戦いの中ではユキはアサヒを許すような言い方をしてくれたが、当然それだけで自分の犯した罪が消えるわけでは無いし、ちゃんと謝罪もしないといけない。
少なくとも、自分がやってしまった事をこのまま無視すればユキの心に深い傷として残ってしまう。
「……アサヒ君、ここから先は私の部屋で話さない?」
「確かに、廊下で堂々と言う事では無いな……悪い」
ユキの提案でこれ以上の会話は一旦ユキの部屋に入ってからする事に。そして、廊下を移動してユキの部屋に入るとその瞬間に彼女から香る良い香りが部屋その物からするのを感じられた。
「(ッ……ヤバい。ここ最近顕著だったけど、ユキの部屋にユキの匂いが染み付き始めてる)」
アサヒにとってはただでさえ自分の彼女の部屋に入らせてもらえるだけでも幸せ気分なのにこんな形でユキの部屋である事を改めて思い知らせると心が高鳴ってしまう。
「アサヒ君、ここ座っていいよ」
するとユキに手招きされて2人は隣り合わせでベッドに腰掛けた。そして、2人は先程の話の続きを始める事に。
「まず、だけど……ユキ、改めてずっと側にいられなくてごめんなさい。それに、ユキの事を傷つける言葉も……」
「それならもう大丈夫だよ。だから頭を上げて」
アサヒは早速ユキへと頭を下げて謝罪。ユキもそれを許したために更にアサヒは続ける。
「……あのさ、ユキは俺と一緒にいて幸せか?」
「えっ……?それってどういう事?」
アサヒはいきなり自分と一緒で幸せなのかをユキに問いかけた。勿論こんな事を聞かれれば彼女も困惑してしまう。
「俺はさ、ユキとお付き合いする事が決まったあの日からずっと……ユキの事を大切にしたいって思ってて。恋人としての接し方をしてきた」
「うん……それは私も同じだよ。私だって、アサヒ君を愛したい気持ちで。一緒に幸せになりたいって今もずっと思ってる」
「……だけどさ。俺はスカイランドでユキを庇ったあの日からずっと……ユキの事をカゲロウみたいな目で見ていたんだって思うと……ッ」
「ッ、そんなのはカゲロウが勝手にやった事でアサヒ君は何も……」
ユキはアサヒが自分のやってしまった事への罪悪感が膨れ上がってるのを何となく察したのか。慌ててフォローしようとする。
「ごめん……さっきちゃんと謝って許してもらえたけど、よくよく考えたら俺のやった事ってユキにとって1番嫌な事だったよな」
「えっ……えと……」
「ッ……俺さ。ユキを自分の手で苦しめてしまって。あんなに自分で気をつけていたはずなのに、ユキの事……傷つけさせないって決めてたはずなのに」
アサヒの顔色はどんどん悪くなっている。先程謝った際は戦いの最中という事もあって緊張感が強く。改めて我に帰ると自分のしでかした事への罪の意識が強く引き出されてしまったのだろう。
「確かにそうだけど、でも……」
しかし、ユキもそこまで考えた所でアサヒの言いたい事はアサヒとカゲロウが別人格だからという話では済まない内容なのだと思い出す。
「ユキもわかってるんだろ?俺はユキの彼氏でいられるような綺麗な人間じゃなかった。ユキを乱暴に扱おうとして、自分の思い通りにしようとして。醜い自分のせいでユキは……ユキは」
「………」
アサヒは自分の中にカゲロウと同じ感情があったのは薄々わかっていた。むしろ、わかっていて見てないフリをして。無理にユキにとって安心安全な彼氏像を作り出しては見せていただけなのだ。
「俺は、ユキの彼氏として……ユキにとっての理想的な彼氏にはなれなかった。ユキだって、カゲロウを見たのならわかるだろ?」
「……うん」
ユキはそれを聞いて、頷いてから無言になると敢えて自分からは何も話さずに黙った。そのため、アサヒが更に続ける。
「多分さ、俺がユキと付き合うのはまだ早かったんだ。俺がもっと我慢強くてユキの事を考えてあげられる彼氏だったら良かったのに」
「ッ……」
それを聞いてユキは少しだけ唇を強く噛み締める。ユキもユキで思う事はあった。あれだけ自分の事を守る事を誓っておきながらカゲロウという闇に染まって自分に恐怖を与えてきた事を黙認できるか、と言われたら……やはりどうしても無視して終わりにはできない。
しかし、だからと言って今の弱気なアサヒは見ていられないと思えるくらいで。ユキの中に色々と溜まっていた物が湧き上がり始める。
「……ユキ、あのさ……もしユキがこれ以上俺と一緒にいるのが嫌なら」
「待って」
アサヒはユキに別れを切り出そうとしたその時、ユキはそんなアサヒの手を掴んで止めさせる。その瞳には薄らと涙が浮かんでいた。
「……そんな無責任な事言わないで……。私、アサヒ君と別れたいなんて一言も言ってない」
「ッ……ごめん……」
ユキの声は震えており、それだけアサヒの口から別れを切り出されたというのが嫌だったのだろう。アサヒはそんなユキからの圧に負けて思わず謝ってしまうが、やはり躊躇いはあるようで。
「でも、俺が今更……ユキの彼氏として普通に振る舞うなんて。ユキが良くても……」
「ソラちゃん達の事を気にしてるなら大丈夫だよ。元々私の事を傷つけたのはカゲロウのせいで……」
「そのカゲロウを生み出してしまったのは俺自身の心の弱さだろ。それに、アイツは俺の心の奥底にあった闇が暴発した物だ。だからきっとこれから先、ユキの事で俺が我慢したらずっとそういう気持ちが溜まり続けて……」
アサヒは怖がっていた。もし次にカゲロウのような存在を生み出した際、今度こそユキに愛想を尽かされて縁を切られる。そう思うと今のうちからユキの事を諦めればそれだけで済む話だと考えたのだ。
「……それは、アサヒ君の本心?」
「えっ……」
ユキの声色はまるでアサヒへと確かめるような物であり、アサヒはそれを聞いて思わず唖然とする。
「アサヒ君……あなたの本音を聞かせてほしい。アサヒ君が心の底から私と別れたいって言うなら私もそれを受け入れる義務がある。けど、もし私に対して好きって気持ちが残ってて無理に別れるって言うのなら……私は、別れるなんて選択肢。絶対に許さない」
その顔つきは涙を浮かべつつもアサヒへと真剣な眼差しを向けており、辛さと怒りが混ざったような物だった。すると、そのユキがアサヒへと問いかける。
「……アサヒ君、覚えてる?私とアサヒ君が付き合う直前のデートの時」
「勿論覚えてるよ。忘れるわけ……」
アサヒはその時の事を思い出すとすぐに返事を返した。それを受けてユキが更に話す。
「あの時もアサヒ君は私に沢山合わせようとしてくれてたよね」
「えっ……確かにそうだけど」
アサヒはユキと2人きりで始めて出かけた……いや、デートした時の事を思い出す。あの時はまだアサヒがユキに色々合わせるために沢山気を遣っており、そのくらいユキの事をデリケートな存在として扱っていた。
「……アサヒ君の中での認識って私はずっとあの時のまま?気を遣わないとアサヒ君の事嫌いになるって思ってる?」
「ッ……別にそういうつもりじゃ……」
アサヒはユキからの質問に後ろめたそうな反応を示す。この調子だとアサヒの中ではまだユキは気を遣わないといけない存在だと思っているようだ,
「私、アサヒ君の事全部受け入れるって決めたの。アサヒ君の良い所も悪い所も全部……。そのつもりでさっき話したんだよ?……私は、私はアサヒ君と別れたくなんか無い。そのくらい、アサヒ君の事が好きだから!!」
ユキは心の奥底にあった気持ちを爆発させるようにアサヒへと訴えかける。それは、紛れもないユキの本心で。アサヒと別れたくないという彼女の願いだった。
「でも、俺はユキの事を……」
「そんなの、もう私は気にしてないよ。それに、そんな事言ったら私はどれだけアサヒ君に苦労や迷惑をかけてるの……。アサヒ君がおかしくなったり、変に気を遣うようになったのは私のせいなのに」
「あっ……」
アサヒはユキの地雷に触れてしまったために自分のやらかしを自覚すると唖然となってしまう。
「……アサヒ君。今度からこんな事にならないように私達、もっと本音で話し合わないとダメだと思うの。それこそ、相手に気を遣って接するとか無しで」
「でも、それだと俺はユキの事を何回傷つけてしまうか……」
「それでも、お互いに気を遣い合って我慢し続けるよりはマシだと思う。少なくとも、今回の事を考えたら我慢するのはお互いにとって良くないから」
アサヒはユキの意見には賛成だった。お互いに気軽に本音を伝える事ができる……それがアサヒが目指していた2人の関係性だったからだ。その形にできるのならそのやり方が最善である。
アサヒはユキにそう言われて迷ったような様子を見せてしまうが、それでもユキからの視線に彼女の意思が固い事を感じ取った。
「ユキ……本当に良いのか?もしかするとこの先、俺はユキにとって許容できない事をやるかもしれないぞ。ユキが嫌な気持ちになる事だって」
「そんなの……とっくに覚悟してる。むしろ、私だってアサヒ君に迷惑を沢山かけると思うからお互い様だよ」
ユキはアサヒの手をそっと握ると更に彼の隣に体を擦り寄せる。これにより、ユキはアサヒへと改めて自分はアサヒの恋人として一緒にいたい事を行動で示した。
「……アサヒ君。私をアサヒ君無しでは行きてはいけない状態にした責任……最後まで取ってくれないと許さないから」
「ッ……もう、ユキってそういう所が出会った時から大胆になったよな」
「ふふっ、それだけアサヒ君に染まったって事だよ?」
ユキはこれからもアサヒの隣にいられる事が確定した事で安心したのか。他の人の前では見せないようなアサヒにベタベタな状態になると近い距離で接し始める。
「ねぇ、アサヒ君」
「何だ?ユキ」
「……あのさ、ここ最近アサヒ君ってカゲロウに乗っ取られてたよね?」
「え?まぁそうだけど」
2人の関係が前までと同じ恋人だという話が決定するといきなりユキがアサヒの内部事情について質問。アサヒはここ最近自分はカゲロウに成り代わられていたのもあって頷いた。
「……私の事を1人にした責任。取ってもらおうかな」
「へ?」
アサヒはいきなりの話に唖然とするとユキが悪戯っぽく微笑むのを見て慌て始める。
「待て待て!え?俺の事許してくれたんじゃ……」
「それとこれとは話が別だよ?……私、寂しかったんだから」
「ッ……もしかして、それがユキの」
「うん。心の奥底に眠ってた本音。アサヒ君だって本当は私と色々したかったんでしょ?」
アサヒはそれを聞いて頬を赤くする。そもそも、アサヒの代わりに人格を握っていたカゲロウの言っていた事はアサヒも心の奥底で思っていた事でもある。
ただし、カゲロウフィルターを通すとかなり過激な物になってしまうのでアサヒの状態に変換し直すとユキの体に触れたりしたいという気持ちにまで戻せるのだ。
「……でも、良いのか?ユキだって俺に触られるのは怖かったりしない?」
「もう、今のアサヒ君だったら大丈夫だよ。……それに、アサヒ君の気持ちがそこにあるのなら我慢したらダメ」
すると、ユキは色っぽい声色で誘惑。何ならベッドの上でこの話をする辺り、最初から話が終わったらベッドに誘うつもりだったのだろう。
「ッ……じゃあ。一緒に寝るのはどう?」
「うん。私も同じ事考えてた。アサヒ君、私のベッドで一緒に寝よ?」
ユキもアサヒも大喧嘩をした後は仲直りの証として一緒のベッドで添い寝をする事に決定。
これにより、2人は久しぶりに一つ布団の中で甘い夜の時間を過ごす事になるのだが……それはまた別で語るとしよう。
今回のラストで添い寝といういかにもR18に行きそうな話の流れになりましたが……一応R18にはしないように話を続けるつもりです。
そこはちゃんと配慮して描くのでご安心ください。それではまた次回もお楽しみに。