らんことひかるを虹ヶ丘家に送るという話が決定した直後、ユキ達の近くに到着したハマー。そこから降りてきたのはあげはだった。
「皆、お待たせ!」
「あげはちゃん!?どうして…….」
「あはは、実は私もましろん達と一緒でソラシドモールにいたんだ。何故か偶々会えなかったみたいだけど……」
実はこの日、あげはは大学で使うための物を買うためにソラシドモールに来ていたのだ。ちなみに、買い物をするだけなら自分が今住んでいる街でもできたりする。本命は買い物をした後にサプライズで虹ヶ丘家を訪問してユキ達を驚かせるつもりだったりした。
「それで、予定通り買い物してたら急にヨヨさんから電話が掛かってきてね。話を聞いてここに駆けつけたってわけ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
このタイミングでのあげはの到着は大きい。何しろ、これから体力的に大きな不安を抱えるらんこ。そしてキメラングによる洗脳が原因でいつ後遺症が出るかわからないひかるを連れてここからそこそこ距離がある虹ヶ丘家に歩きで戻るというのは非現実的過ぎる。
そのため、車という明確な大人数での楽な移動が可能になる手段を持ってきてくれたあげはには感謝しか無い。
「……良いの良いの。それで、そっちのフードを被った子と黄色い髪の子は初めて会うね。あ、もしかしてましろんやアサヒの友達だったりする?」
「ッ……やっぱりあげはね……あげはさんも私の事を知らない。この世界は根本的に私という存在がいない場所なのね……」
らんこは最初、元の世界のあげはを呼ぶときの呼び方であるあげは姉を使おうとしていた。先程も彼女のいない場所ではあげは姉といつもの癖でそう呼んでしまう。しかし、改めて彼女の事も自分の知っているあげはとは別人であると自覚を持つと名前の呼び方もただの敬語に戻ってしまっていた。
「えっと、この感じだとましろんの家に戻るんだよね?この二人を乗せれば良いかな」
「あとエルちゃんもだな。できるならだけど」
「オッケー。チャイルドシートはちゃんと持ってきてるから大丈夫だよ!」
赤ちゃんを乗せるためにはチャイルドシートが必要になる。そのためできればという事になるのだが、彼女もそこはちゃんとしているのか……しっかりとチャイルドシートも準備されていた。
「それで後は誰が乗る?多分あと一人か多くても二人になっちゃうけど……」
「それだったら、らんこちゃんと元の世界で面識のあるましろちゃんは?」
「えっ……」
ユキからの提案を受けてらんこは唖然としてしまう。ソラについてもそうなのだが、彼女は自分の元いた世界のましろとは別人であるこちらの世界のましろ相手に多少苦手意識があった。そのためできれば別々の方が彼女的には助かる。しかし、あくまでそれは自分の我儘だと判断したらんこ。ユキだってわざとそうしたわけでは無い。むしろ、彼女のためを思っての考えである。
「わかったわ……お願い、ましろさん……」
「ましろで良いよ。らんこちゃんが知ってる私の事はそうやって呼んでるんでしょ?だからそっちの方が良いかな。よろしくね」
「え、えぇ……」
ましろからそう接されて少しだけ戸惑うらんこ。兎に角これで車に乗るメンバーは確定した。そんなわけで、これにより車組がらんこ、ましろ、ひかる、エルの四人に運転手のあげは。徒歩で帰るメンバーがユキ、アサヒ、ソラの三人に決定するのだった。
そのため早速車で戻るメンバーは移動を開始。そしてそれを見送ってからユキ達三人も徒歩で戻る事になる。
「あはは、折角の休み最後の日なのに大変な事になっちゃいましたね……」
「でもこうなった以上は仕方ないだろうな……」
「うん、らんこちゃんにひかる君。大丈夫だと良いんだけど……」
ユキはらんこ達を心配したような顔になるが、それでも今は二人の無事を信じるしか無かった。
それから三人が歩き出す中でユキは脚に違和感……いや、痛みが走ってしまう。
「ッ……」
ユキは痛みを感じた左脚の方を見るとそこには青くなってしまった痣があり、彼女は思わず顔を顰めてしまう。
「こんな時に……」
「ッ、ユキ。大丈夫か!?」
ユキの脚が止まった事に気がついたアサヒとソラの二人も慌てて彼女の元に行くとその痣を確認する。
「酷い痣……何で……」
「多分だけど……さっきらんこちゃんを庇って攻撃を受けた時に……」
ユキはその時の事を思い出す。あの時ユキはらんこを助けるためとは言えかなりのダメージを受けた。ランボーグ浄化の影響である程度は治癒したものの、それでも完治には届かなかったのである。
「どうしてさっき言わなかったんですか!ましろさんの枠を使ってればユキさんがあげはさんの車に乗れたはずなのに……」
ソラはユキがらんこの事を考えるあまりに自分よりもましろを車に乗せるように薦めてしまった事を咎めた。それに対してユキは少しだけ申し訳なさそうにする。
「ごめん。らんこちゃんやひかる君の事を考えてたら自分の事を考えてなくて……」
「もう……ユキさんの悪い癖ですよ……」
「……でもこのくらいの痛みならどうにかましろちゃんの家まで歩けるから。だから安心して……」
その時、ユキが歩き始めようとして彼女が痛みで顔を僅かに歪んだのを見たアサヒは一度溜息を吐くとその前に立ち塞がる。それを受けてユキは困惑した。
「アサヒ……君?」
「ユキ、そうやってまた強がるのか?本当は歩く度に痛いのに」
ユキはアサヒから言われた言葉が図星なのか俯く。そして、アサヒも彼女の本音を理解するとすぐに背中を向けてしゃがむ。
「乗って、ユキ」
「で、でもそれじゃあアサヒ君が。家までそれなりに距離があるし……それに、二度もこんな事を……」
「だから尚更だろ。そんな調子で家まで歩いたらどれだけ脚が悪化するかわかったものじゃない」
アサヒからそう言われてユキは少しだけ迷ったような様子を見せる。
彼女としては自分が背中におぶられることでアサヒに迷惑をかけたくなかったのだ。しかし、怪我した脚を庇ってボロを出した時点で周りに迷惑をかけてしまったのだとユキは思い至る。
「……ごめん。それと、ありがと」
ユキは謝罪とお礼の言葉をアサヒにかけると彼の背中に身を預けておんぶされる。その際にアサヒはユキが背中に乗った感覚を感じると改めて考えた。
「(もう……ユキは本当に自分一人で辛い事を溜めるタイプだよな。少しくらいは周りに我儘言っても良いんだけどなぁ)」
ただ、ユキが周りに対して頼りづらい理由は何となくわかる。それは結局彼女の過去のトラウマが根深くその心に染み付いてしまったからだろう。
「(それにしても……やっぱりユキの体って細めなんだよなぁ……。本当にソラと一緒に鍛えてるのか心配になる)」
アサヒがそんな風に考えているとユキが少しだけ不安な声色でアサヒへと小さく話しかける。
「あ、アサヒ君。大丈夫……?私の体、重かったりしない?」
「え?あぁ、それは大丈夫。むしろ軽いから逆に不安と言えば良いのかな……」
「は、はぇ!?」
ユキは軽いから不安という彼女にとってはよくわからない理由で心配をかけた事に思わず変な声が出てしまう。するとソラがジト目でアサヒを見た。
「アサヒ君、女の子の体について色々妄想したらめっ!ですよ」
「してねぇよ!?俺を何だと思ってるんだ!」
アサヒはソラから変に疑われて思わず大声で反論。それから彼はソラへとある事が気になって問いかける。
「なぁソラ。二人って昔からトレーニングしてたんだよな?」
「え?まぁそうですけど……」
「ユキってトレーニングで鍛える時とか筋肉ってちゃんと付けてるんだよな?」
「うえっ!?あ、アサヒ君!?」
ユキはまた自分の体の話題にされて恥ずかしいのか顔が赤くなってしまう。それに対してソラは少しだけ考えると答えを返した。
「まぁ確かにトレーニングしてる割には細いのは否めませんね」
「ちょっ、ちょっとソラちゃんまで……」
「でも、ちゃんと力は付いてるんですよ?多分ですけどユキさんの場合は元々筋肉とかが付きにくい体質で。でもユキさんは少ない筋肉でも力の入れ方が上手いですし、それが影響して強い力が出せてるのかなと」
それを聞いて納得するアサヒ。ただ、当のユキはずっと自分の体について言われているせいで恥ずかしさで縮こまってしまっていた。
「うぅ……。そ、そんなに私の体って頼りなく見えるかな……」
「あ、別にそういうわけじゃなくてだな……」
アサヒもユキから言われて恥ずかしさが出るとソラがこれ以上言ったら取り返しが付かなくなりそうだったので話を切り上げるように促す。
「アサヒ君。ユキさんの体が気になるかもしれませんが、もうこの辺にしておきましょう。多分ましろさんがいたらこれでは済みませんし」
「う……。確かに言われてみると女の子相手にする質問じゃ無いよな……。ごめんユキ」
アサヒもソラに言われて、女の子相手にとんでもない事を聞いてしまっていると自覚。一歩間違えれば嫌われてもおかしく無いと考えてユキへと謝罪する事に。
「い、良いよ……。私の体の事をあっちの意味で見てるわけじゃ無かったし……。それに……」
「それに?」
「ッ、何でも無いよ……」
ユキは一瞬だけアサヒの事を後ろから見つめていたが、すぐに恥ずかしさから顔を背けてしまう。そんな彼女の胸の鼓動は普段よりも高鳴っていた。
そして、アサヒの方もそんなユキの可愛らしい所を見て何も思わないなんて事は無く。
「(ユキ……こうしてみると可愛いな……。匂いだってましろから借りたやつだと思うけど心地良くて……ッ!馬鹿馬鹿!なんて事考えてるんだよ!)」
「アサヒ君?どうしたんですか?」
アサヒが一人で想像しながら思考しているとソラがキョトンとした顔で話しかける。
「ソラ、何だよ」
「いえ、今のアサヒ君。凄く顔赤いので……もしユキさんを背負って疲れたのでしたら私が……」
「大丈夫だから!これ以上気にしないでくれ!頼むマジで!」
「えぇ……」
アサヒは変にユキへの気持ちが昂ってるなんて本人に知られたらユキは絶対気持ち悪がってしまうと考えていた。そのため、どうにかその事実を口の軽い正直者のソラに知られないようにするべく必死に言及しないように言う事で押し留める。
「と、とにかくユキの事を治療するためにも早く家に帰るぞ!」
「はい、そうですね!」
こうして三人による会話は一度区切りとなり、改めて虹ヶ丘家に向かって歩みを進める事になるのだった。
そして、同時並行して車の中。前方の席ではあげはとひかるが初対面のためにまずは自己紹介からしていた。
「そうだ。二人は私と会うのは初めてだし、自己紹介するね〜」
「あ、あげはちゃん。らんこちゃんは……」
「私、聖あげは!18歳!血液型はB。誕生石はペリドット!ラッキーカラーはベイビーピンク!最近のブームはイングリッシュティー・ラテ・ウィズ・ホワイトチョコレート・アド・エクストラホイップ!」
ましろがらんこの方はあげはの事を知っているという事で彼女の勘違いを止めようとするが、彼女はましろが止める時間すらくれずに自己紹介をし切ってしまった。
「はぁ、こっちの世界でもノリはそのままね……」
らんこが一人でポツリと相変わらずのノリに呆れているとあげはは運転しているので前を見ながら話しかける形でひかるへと話を返す。
「はい、そっちのターン!」
「じゃあ俺は雷田ひかる。13歳で血液はAB型。そこにいるましろさんとは同じ学校に通ってます。好きな事はアニメ鑑賞ですね!」
「へぇ。ましろんと同じ学校なんだ!あ、私。ましろんと幼馴染なんだよね〜」
「おお、という事は小さい頃からの付き合いなんですね」
「ちょ、ちょっと二人共。何で私の話題になるの!?」
「え〜?共通の話題があるならその話の方が盛り上がるでしょ!」
「右に同じ!」
ましろはそんな感じで自分の話題になった事に恥ずかしさを抱いているとそんな様子を後ろで聞いていたらんこは一人気不味い空気感だった。
「(き、気不味いわ……。あげは姉さんも私の事知らないから三人の空気感に入りづらい。そもそも私の存在自体この世界には異物だろうし)」
「それで、後ろにいるあなたも自己紹介!」
「ッ、私は別に……」
「ほーら、そんな事言わずに!」
あげははそんならんこを逃さないと言わんばかりに強制的に話へと参加させようとする。そして、こうなった以上逃げられない事もらんこは前の時に知っていたために渋々ながら話をした。
「風波らんこです。……13歳……血液型はA。好きな事は静かな場所で過ごす事と音楽を聞く………最近はサイクリングにハマってます」
「音楽!好きなジャンルは?」
「そうね……アニソンとかかしら」
「えっ!?マジ!?やった!」
らんこがアニソンを聴くと聞いてガッツポーズをするひかる。彼としてはアニメについて深く話せる相手がいてくれたら嬉しいと思っており、アニソンを聴くのならある程度アニメについて知っている可能性が高いと判断。
それを聞いてらんこはやはり気不味くなってしまう。何しろ自分は別世界の人間なので元の世界に帰ってしまったら話すどころか連絡さえ取れないためにあまり話し相手にはなれないかもしれないからだ。
「そっか、らんこさん。アニソン好き……だったらいつかアニソンとかについて話せると良いな!」
「え、えぇそうね……」
らんこはそういう事情もあって歯切れの悪い返事しか返せず。少し申し訳なかった。
「あ、ましろんの家。そろそろ着くよ」
そうこうしている間にハマーは虹ヶ丘家に到着。それから一同は車を降りると早速虹ヶ丘家の中にいるヨヨの元に行く事になるのだった。
また次回もお楽しみに。