らんこ達車組のメンバーが到着して暫くの時間が経過。その間に歩きで戻っていたユキ達三人も辿り着く。
「もう、ユキちゃん!」
「は、はい!」
「脚が痛いなら痛いって先に言ってよ。私が乗ったのが申し訳なくなっちゃうじゃん!」
着いて早々、事情を聞いたましろはユキへと詰め寄る。その怒り方はそこまで強い物では無かったものの、それでもユキを心配する気持ちがいっぱいだったためにユキは反省していた。
「ごめんなさい……」
「もうその辺にしよ、ましろん。ユキちゃんだってらんこちゃんの事を気にしてたんだし」
「そうだけど……」
やはりましろの中では怪我したユキよりも自分が車に乗ってしまった事を気にしていたが、これ以上話をしても事実は変わらないために一度この話は終わりにした。
そして、先に着いていたらんことひかるがそれそれ治療を受ける中でユキの所にましろが近づく。その手には当然のように救急箱があった。
「え、えっと……ましろちゃん?その手にある物は……」
「さっきユキちゃんの代わりに車に乗った事。私がユキちゃんの手当てをするって事で終わりにするから。脚を診せてくれる?」
「ま、ましろちゃん。そんなに怒らなくても……」
「診せてくれる?」
「はい……」
ユキはましろからの圧に屈する形で怪我をしてしまった脚を診せると早速手当てが施される。
「それで、お二人は大丈夫そうなのでしょうか?」
「ああ、それならきっと大丈夫だよ。ヨヨさん、そんなに焦ってそうじゃ無かったし。多分ヨヨさんが治療できる範囲の怪我なんだと思う」
ヨヨはスカイランドで“ハイパースゴスギレジェンド”と言われるくらいの腕の持ち主。そんな彼女が慌てていないという事は恐らく治療には何の問題無い可能性が高いという事でもある。
「それにしても、らんこさん。何でソラやましろの事を知ってる素振りを見せんだんだろ」
「“元いた世界”とかそういう言い方をしてたからもしかすると別の世界から来たのかも」
「は?もしかして並行世界とか?そんな漫画とかアニメの世界じゃ無いんだからさ」
こことは違う別の世界。ただ、既に一同は別の世界に関してスカイランドとソラシド市という異世界の存在で経験済み。もし仮にそういう事を言われても信じる事はできるだろう。するとそこに治療を終えたであろうらんこが戻ってきた。
「あっ、らんこちゃん」
「体の方は大丈夫ですか?」
「大丈夫……とは言い難いわね。今も凄く疲れとかで怠いし。とは言ってもヨヨさんにマッサージしてもらったから多少はマシになったけど」
らんこも体力切れで動けなくなる寸前状態からどうにか普通に立って歩ける程度には体力が戻っていたためにユキ達の中に安心感が広がる。
「ひとまず、帰る方法が見つかるまでうちでゆっくりしてて良いからね」
「え、えぇ……」
「それじゃあ、らんこちゃんの無事がわかった所で話を整理しよっか」
「あれ?ひかる君は?」
あげはが全員揃ったという事で早速話を始めようとするとその場にひかるがいないためにましろが質問する。
「あの子は今日この時までは関係無い一般人だったのだから下手に話を広めたく無い……でしょ?」
「そうそう!らんこちゃん冴えてるね!」
らんこが訳したあげはの考えに納得の行く一同。ひかるはランボーグに襲われたり、キメラングに洗脳される瞬間までプリキュアには全く関係の無い一般人だった。そして、そんな彼に下手にこれからする話にまで巻き込むのは申し訳ない。それに秘密を保持するなら少ない人数の方が良いという事で一旦ひかるはヨヨに現在進行形で治療してもらってるのを良い事に蚊帳の外にして、ここにいるプリキュアの関係者達だけで話す事にしたのだ。
「そんなわけで話をするけど、まずらんこちゃんはどこから来たの?」
「そうですね……。私の予想にはなりますが、私は恐らくこの世界の並行世界から来たんだと思います」
らんこの口から語られる並行世界の存在。それを聞いて一同は改めてその存在を認識する。
「並行世界……つまり、この世界とよく似てはいるけど全く別の世界って事だな」
「で、でもそんなのあり得るんですか!?私やユキさんのいたスカイランドとソラシド市のあるこの世界の関係性とは違うんですよね?」
「そうよ。あくまでその二つは同じ枠組みで括る事ができるけど、私の世界とこの世界の関係はその枠組みが二つ分あると思った方がわかりやすいのかしら」
つまり、スカイランドとソラシド市の括りが一つの球体の中にある世界と考えた際にユキ達の世界とらんこ達の世界はその球体が二つ分横並び状態であると考えるべきだろう。
「だとしてもまだ信じられないよ。今までよりももっとスケールが大きくなった感じ」
「信じられないのはこっちも一緒よ。だけど、多分並行世界で間違いないと思う。私の住む世界と瓜二つなのに色々と事情が違うもの」
ユキ達がらんこからの予想を聞いてそれぞれの反応を示していると、それと同時にそれならこの世界の事情をらんこが知らない事にも納得がいく。
「ちなみに、らんこさんの世界との共通点ってあったりする?やっぱりソラ達の存在か?」
「そうね。私の世界とこの世界はどっちかと言えば同じ点の方が多いから違う点の方を話すけど、まず私の世界にユキとアサヒはいない。若しくはいても会った事が無いわ」
「お、おう。いきなり俺とユキがいないのか」
アサヒはらんこの世界に自分がいない事に僅かにショックを受けるが、これは仕方ないだろう。
「次に、ひかると彼の住む家ね」
らんこのいる世界ではそもそもひかるはおらず。彼の住む家の場所にらんこが住んでいる状態だ。そして、その関係で学校の方もらんことひかるがそれぞれの世界で在籍しているという事だろう。
「最後にあのマッドサイエンティスト……キメラングの存在ね。あなた達の反応を見るとマッドサイエンティストはいないのでしょう?」
「そうだね。キメラングとは初見だし……もしいたとしてもまだこっちのキメラングとは会った事が無いよ」
「それはそうと何でらんこちゃんはキメラングの事をわざわざマッドサイエンティストって呼ぶの?」
らんこがキメラングという本名では無くわざわざマッドサイエンティストという長ったらしい名前で呼ぶのかがわからずにユキは質問。らんこは少し面倒くさそうな顔になりつつも答えを返した。
「そりゃあマッドサイエンティストはマッドサイエンティストよ。何となくその方がしっくり来るから。あとカバトンの事も私は豚男って呼んでるわよ」
「ぶ、豚男……」
「うわぁ、もし俺がアイツの立場だったら豚男なんて嫌過ぎる……いや。見たままだから間違っては無いんだけど」
らんこがカバトン相手にも渾名呼びしている事やその際に付けた名前について流石に今回ばかりはカバトンが可哀想だと同情する。尚、同情したからと言って訂正はしなくても一発で彼だとわかるので必要無いと思っているが。
「そういえば、らんこさん。シャドーは知ってますか?」
「そういえばシャドーについては聞いてなかったな。らんこさん、どう?」
「いえ、私はそいつの事は知らないわね。もしかするとマッドサイエンティストとは逆でこっちの世界にだけしか存在しない奴かも」
らんこはこちらの世界にいるシャドーについては知らないらしい。という事は彼もまた二つの世界の相違点の一つと言える。それから暫くの間双方の世界での違う点を話し合うと最終的な纏めの会話に入った。
「ふーむ。こうしてみると色々と違うんだな……」
「だけど、襲撃されてる日は大体一致してるわね……そのダークネスって奴は色んな意味でイレギュラー過ぎるから今回は除外するけど」
らんこはダークネスという存在は恐らくこちらの世界だけの敵だと感じたが、カバトン達とは明らかに別枠の敵だと感じたためにここでは考えないと事にした。
「らんこちゃんの世界と私達の世界の違いはわかったけど、らんこちゃんはどうやって帰るんだろ」
「問題はそこなのよね……。やっぱりマッドサイエンティスト頼みになるかも……」
そう考えるとどうしても再度彼女と交戦しないといけなくなる。ただ、今はそのキメラングもいないのでこれ以上話す事は無くなってしまう。
「現状整理はここまでね。ひとまずはマッドサイエンティストが出てくるまでは待機かしら」
「それじゃあ、らんこちゃんには部屋でゆっくりしてもらおっか」
そのままの流れでらんこは虹ヶ丘家にある空き部屋で休むという事になった。ただ、そのタイミングでらんこはある違和感に気がつく。
「……あら、それはそうと。ユキとアサヒは家に帰らなくて良いの?まだ早いと言えば早いけど、話も終わって待機時間になったんだし家に帰ってゆっくりすれば良いでしょ」
らんこは話を終えても一向に帰り支度をしていないユキとアサヒを見て疑問符を浮かべる。
「今、世界を跨いで別の場所にいる私が言うのもなんだけど、親御さんが心配するんじゃ……」
「あー……それなんですけどらんこさん。申し訳ないのですが実は……」
「実は私達……この家に住んでるの」
「俺も。だから家に帰る必要は無い……と言うよりはここが家ってわけ」
らんこからの問いにユキとアサヒ本人達がこの家に住んでいる事を伝える。その瞬間、らんこの脳が急な爆弾をぶち込まれたせいか思考停止した。
「……はぁ!?あ、あんた達皆同じ屋根の下で暮らしているの!?」
『ぶっちゃけ、あり得な〜い!』
誰だコイツ?
突如として脳内に現れた一人の少女。それはプリキュアの原点となる二人組のうちの片方であった。ただ、らんこはその少女の登場に困惑。どうにか気持ちを戻すと話を続ける事にした。
「まさか、プリキュアって同じ屋根の下で暮らす決まりでもあるのかしら……」
否、そんな必要性どこにも無い。今回の場合はただただ虹ヶ丘家がおかしいだけである。
「ごめんね。らんこちゃん。えっと、私はソラちゃんと一緒でスカイランドから来たんだ」
それを聞いてらんこもある程度納得はする。ユキもスカイランドから来たのであれば身寄りが無いのは当然であり、優しいましろやヨヨの事だからソラと一緒にここに住む事を許可してもおかしく無いと考えた。
「それで、アサヒの方は?」
「俺か?俺の方は幼い頃にここに預けられたって言えば良いのかな。物心ついた頃にはここにいたんだよ」
「それはまた複雑な家庭事情ね」
らんこは二人が何故この家にいるのかを理解した所で同時に自分は元の世界ではソラやましろ達と一つ屋根の下にいられない事に疎外感を抱く。ひとまず、二人の事情を知った所でらんこは一旦部屋で休もうとした。
「あ、ちょっと待って!」
「……何よ。私はただでさえ連戦続きだった上に説明したりして疲れたの。早い所休まさせて」
らんこはユキ相手に少しだけ不機嫌そうな顔をするとそう返すが、ユキはそんならんこを見て笑顔を浮かべる。
「ごめんね、じゃあ一言だけ。これから少しの間よろしくね!」
ユキはらんこへと笑顔で手を差し伸べるとほんの少しの間だが、共にこの家で過ごせる事に嬉しそうな雰囲気だった。しかし、そんなユキとは対照的にらんこの顔つきは暗い。
「……よろしく」
らんこはユキ相手に仏頂面であまり元気の無さそうな返事を返す。それを見たユキはそんならんこにまだ悩みがあると考え、フードが影になってらんこの顔が余計に顔が見えづらかった事もあって彼女のフードを取ろうとした。
「どうしたの?らんこちゃん、顔色悪いけど大丈……」
「触らないで!!」
ユキがらんこのフードを触ったその瞬間。らんこはものすごい剣幕で怒るとユキの手を払い除ける。
「らんこ……ちゃん?」
「ッ……ごめん。一人にさせて……」
ユキが困惑するとらんこは自分がやった事を自覚。彼女も混乱したような顔を浮かべると小さく呟くようにらんこはこの家に滞在するために一時的に借りた部屋の中へと引っ込んでしまう。それを見たユキの手は震えていた。
「らんこさん、どうしたんでしょう?」
「あの感じ、フードに触られるのが……いや。多分素顔を見られるのが嫌だったのかな」
アサヒはらんこの反応から何となくそのように予想する。そんな中でユキは声を震わせながら呟いた。
「……同じだ」
「え?」
ユキの呟きに一同の目線が彼女へと集中するとユキはその言葉を言った意味を他の面々へと打ち明ける事になる。
「……周りの人が信じられなくて怖さに怯えていた私と、同じ感じがする」
それは、ユキがスカイランドでかつて同じ学校の同級生達に虐められていた頃。虐めが終わっても暫くは周りの人を殆ど信用できず、身内以外とは誰とも上手く話せなかった。
ユキはそんな自分と今目の前で伸ばした手を払い除けてしまったらんこの姿を重ねたのである。
「……らんこちゃん……。あの子に謝らないと!」
そう言って今、この場にはもういないらんこへと謝るユキ。彼女はらんこへと申し訳ない気持ちに包まれる。その後すぐにユキはらんこへと謝るために彼女が入っていった部屋の方に行く事になるのだった。
また次回もお楽しみに。