熱き太陽 静かなる雪の輝きに照らされて   作:BURNING

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後悔の風 最凶のコンビの結成

居間での現場整理を終えたらんこ。彼女は一人、ましろやヨヨから借りた部屋の中に入って蹲っていた。その理由はただ一つ。ここに来る前に自分を心配してくれたユキへとかなりの剣幕で怒鳴ってしまったからだ。

 

「……ほんと、私ってばいつもこう……」

 

らんこは少し前、自分が元いた世界で疎外感を感じた際。一人でそれを抱え込むと仲間の前に居づらくなって心を閉ざしてしまったのである。そして今の現状はそれにそっくり……と言うよりほぼ同じだった。

 

「馬鹿にも程があるわ……。わかってたでしょ。ソラもましろも、あげは姉さんも……皆は別の世界から来た私の事を知らなくて当然。それに、身寄りの無い私を助けてすらくれたのに」

 

そう呟くらんこ。本来なら彼女は感謝こそしても迷惑をかけるような行為はしてはいけないのだ。何しろ今この世界にこの場所を除いてらんこが長期的に居られるような場所なんて物は無い。だからこそ普通はいる場所を提供してくれたましろ達に感謝するべきである。

 

「なのに、何勝手に皆が私を知らない事に絶望して、ユキ達が同じ屋根の下で探している事に疎外感を感じて八つ当たりしてるの?私ってこんなに皆に依存してたんだ……」

 

そんな中でらんこは自分勝手な嫉妬心や疎外感で周りに素っ気なく接した挙げ句、自分を助けようとしてくれたユキの手を弾いてしまったのだ。これでは嫌われてしまっても文句なんて言えない。

 

「これじゃあ、また前と同じ事に……」

 

今回の件でらんこは自分がどれだけ自分達の世界のソラ達に依存してしまっていたのかを自覚。同時にそんな情けない自分に嫌気さえも出てきてしまっていた。

 

らんこが寂しさで一人泣きながら自己嫌悪に陥っているとそのタイミングで部屋の扉がノックされる。

 

「らんこちゃん、大丈夫?」

 

それは先程自分が怒鳴ってしまったユキの声だった。そのため、らんこが困惑していると扉越しにユキが優しく話しかけてくる。

 

「さっきはらんこちゃんの事をよくわからないのに勝手にフードを取ろうとしてごめんね。私、今度はちゃんとらんこちゃんと話がしたい。もっとらんこちゃんの事を知りたいの。だから……」

 

らんこは外からかけられるユキの声に彼女を受け入れるか少し考えるが、そう簡単に彼女の心は開く事は無く。

 

「……ごめん。今は誰かと話せるような気分じゃない。もしかすると、またさっきみたいに……」

 

らんこの中には仮にもう一度話をしたとして。また先程のように自分の勝手な恐怖心のせいで他人を傷つけてしまう。そんな気持ちがトラウマのように深く刻まれた影響で、他人と話せるような気持ちでは無かった。そして、その意思を聞いたユキはらんこへと話しかける。

 

「……そっか。また気分が戻ったら声をかけてくれると嬉しいな。私、らんこちゃんとまた話がしたいから」

 

「うん……」

 

ユキの声色は少し寂しそうにも聞こえた。しかし、だからと言ってらんこは彼女への罪悪感は消えておらず。結局らんこは小さく頷く事しかできなかった。

 

そして、らんこからの返事を聞いたユキはその場から立ち去っていく。その足音が部屋から遠ざかるのを聞いたらんこは今度は後悔の念に駆られてしまう。

 

恐らくユキはらんこに謝ろうとしていた。それなのにも関わらず、らんこはそれを拒絶。彼女を傷つけてしまったのだから。

 

「私ってば本当に大事な時にいつも間違った選択ばかりするわね」

 

らんこが小声でそう言うと自らの選択の後悔の気持ちに押し潰されないように耐える事になる。

 

その頃、下の階では治療が終わったのかひかるが出てくるとアサヒが真っ先に声をかけた。

 

「ひかる、大丈夫だったか?」

 

「ああ。おかげさまで元気だぜ!」

 

彼はキメラングのドローンによって洗脳された影響も特に無く、いつも通りの元気さを見せる。それを見てアサヒも安心していた。

 

「ったく。それだけ元気ならもう平気だな。心配したぞ」

 

「ああ。……それよりも、さっきのアイツらは何だったんだ?」

 

「「「「……あ」」」」

 

ひかるは治った自分の体はもう大丈夫だからどうでも良いと言わんばかりの雰囲気を出すとそれよりも自分の事を襲ったキメラング達の方が気になるようであった。

 

「え、えっとね……」

 

「そうだ、あの“ランボーグ”とか言ってた怪物も気になるな。まるでアニメで出てきそうな見た目をしてたぞ!」

 

「う、嘘。何でひかる君がランボーグを……」

 

「た、多分私達が到着する前にツイスターが浄化してくれてたのかも……」

 

ひかるがランボーグについて言及したのを聞いて、ソラとユキが彼にバレないように小声でやり取りを交わす。そして、それが現実から自分達はランボーグが出てきたというのに、街の危機に気がつくのが遅すぎという話にもなってくるのだが……今はそんな事よりもひかるへの誤魔化しである。

 

「ま、まぁひかる君も寝ぼけてたとかじゃない!?」

 

「そうだよ!街中にアニメに出てくるような怪物なんて……」

 

「いいや、出てたよ!何なららんこさん……キュアツイスターに助けられたのもハッキリ覚えてるし。あと、アサヒ達もプリキュアってやつだっただろ」

 

それを聞いて一同はこれはもう誤魔化しようが無い段階に来てしまったと感じてしまう。できる限り彼にはプリキュア関連の話はしたく無かったために忘れていてくれればベストだったのだが……そう都合良くはいかないらしい。

 

「わかったって」

 

「でもらんこちゃんに止められたんでしょ?良いの?」

 

「こうなったら仕方ないよ。だからひかる君にも話そ」

 

「多分黙ってても誰かしらは口を滑らせそうだし……」

 

ましろが心配する中であげはが彼女を納得させ、同時にアサヒがソラを僅かにジト目で見る。それを受けてソラが反応した。

 

「わ、私が口を滑らせるって事ですか!?」

 

「いや、それはソラが一番よくわかってるだろ」

 

「うぅ……そうですね……」

 

それからひかるへの説明を開始しようとしたその時。ヨヨが出てくると一同に合流した。

 

「ふふっ、プリキュアの事を話すのね」

 

「お婆ちゃん!」

 

「はい、もうひかる君も関係者みたいな感じになっちゃいましたし……」

 

ひかるも今日のらんことの出会いからの一連の事件で結局彼も関係者に近い立ち位置にまで来てしまった。何ならキメラングがこの世界にいる限り、彼はまた狙われ続ける立場になる危険もある。そのため、彼にも事情はちゃんと話さないといけないだろう。

 

「私もその方が良いと思うわ。それと、彼の洗脳の後遺症の方も大丈夫。安心して良いわよ」

 

「良かった……」

 

ひかるが無事であるとヨヨの口からも聞けたことで一同は安堵の顔つきを浮かべる。

 

「それじゃあ、改めてひかる君に説明の方を……」

 

あげはが気を取り直してひかるへの説明を開始しようとした瞬間。そこにらんこと話そうとしたものの、彼女に話すのを拒否されてしまったユキが戻ってくるとやはり心には来ていた模様で俯いていた。

 

そして、そんなユキの様子を見た一同はらんことの仲直りは失敗に終わったのだと察する。

 

「ユキ、大丈夫か?」

 

「うん。でもやっぱり私、らんこちゃんを深く傷つけちゃったみたい。私の軽はずみな行動のせいで」

 

ユキだってトラウマを抉られてしまう辛さはよくわかっていたはずだった。それなのに助けるためとはいえ彼女の気持ちも考えず、そのフードを外そうとしてしまったのだ。

 

「ユキは悪くなんかない!多分、らんこさんのフードを外そうとした時の事で悪い人なんて誰もいないんだ。だからそんなに気負うなよ」

 

「うん……わかってるつもり」

 

ユキはそう言って呟く。ただ、どうしても彼女には割り切れない……いや。彼女だからこそ割り切れないのだろう。

 

ユキはトラウマを他人から抉られる事の辛さを自分の身をもってちゃんと知っているはずなのに、それをらんこ相手にやってしまったのだ。そのため余計に気負う気持ちが強くなってしまう。

 

「(こんな時に、ユキの事をそっと優しく包めればな……)」

 

同時にアサヒの中に今の弱っているユキを自分が物理的に抱くなどしてフォローできれば……という気持ちが出てくる。ただ、そんな事をすれば彼女に嫌われるのは目に見えているので歯痒い気持ちだった。するとアサヒはユキの事を助けたいと考える度に胸がドキドキするのを感じる。

 

「(ッ……何だ、この気持ち)」

 

アサヒがこの感情が何なのか考えているとこの場に暗い空気感が流れる。するとひかるが何かを思ったのか、一同が気が付かない間に二階へと上がっていくのだった。

 

その頃、ソラシド市にあるとある建物の屋上。そこではキメラングが手にミラーパッドに良く似た暗い色合いの鏡を持つとある画面を凝視している。

 

「ふふっ。泳がせておいたモルモットが一箇所に止まって動かなくなった。多分そこがプリキュア達の拠点だろうねぇ」

 

何故かキメラングはモルモット……つまり、ひかるの位置を知っている様子だった。そんな彼女が考え込む。

 

「ふーむ。モルモットに付けておいた強制転移装置で今すぐここに呼んでも良いんだけど、その場合プリキュア五人を相手にしないとなんだよなぁ」

 

普段ならここまで準備していたらターゲットを捕まえるためにすぐに攻撃を仕掛けるキメラング。しかし、今回は自分の元いた世界では無い。つまり、負けそうになった際に戦力の追加をするのが厳しいのだ。加えて敵は五人。その中のスノーとサンライズはキメラングにとってはまだ未知の存在であると考えれば慎重になるのも仕方ないのだろう。

 

「せめてこっちに戦力がもう少しあればなぁ……」

 

キメラングが追加の戦力を欲した瞬間。いきなり後ろから現れた殺気を感じ取ると彼女の近くに浮かんでいたドローンにバリアを張らせて攻撃を防御した。

 

「いきなり後ろからなんて驚くじゃないか……」

 

キメラングが振り向くとそこにはシャドーが立っており、彼がいきなり刀で不意打ちを仕掛けていた。その太刀はバリアで防がれたものの、そのバリアには僅かにヒビが入っている。

 

「っと、地味にバリアにヒビを入れたか。プリキュア達の攻撃でも破れないように設計したつもりだったけど……まぁ良い。それで、君は何者?」

 

キメラングの問いに対してシャドーは少しだけ無言だったが、埒があかないと見なして手に持った鞘に刀を納刀。改めてキメラングと向き合う。

 

「……俺の名はシャドー。お前、キメラングとか言ってたな。どこからやってきた?お前みたいな奴、俺の雇い主達の中にはいなかっただろ」

 

「あー、なるほど。こっちの世界に私はいないんだね。っと、私の素性だね。正直教える義理は無いけど、今回は初回ログインサービスで特別に教えてあげよう。私は並行世界からやってきたのさ」

 

キメラングからの言葉にシャドーは小さく笑みを浮かべると背中に背負い、納刀していた刀を外してその場に捨てる。つまり、これ以上キメラングとは戦う意思が無いということだ。

 

「ほう……それは興味深いな。お前、どうしてこの世界に来ようと思った?」

 

「実験のためさ。私は自分のいる世界では元々ドクターをやっていてね。自分の気の向くままに実験を繰り返していたわけ。そして、今回はこの並行世界で色々と実験をする事にした。私の世界でやる前の予行演習としてね」

 

そうキメラングが説明するとシャドーはそれを鼻で笑うと同時にキメラングを睨みつけるような顔つきとなる。

 

「それはつまり、あくまで俺達の世界を実験台とするつもりか?」

 

「まぁそうなるかな。どちらにしてもそれ以外にこの世界にいる意味は無いからね。……あ。でも自分の世界に連れ帰りたいモルモットを見つけたし、その子は殺さずに確保するつもりだけど」

 

シャドーはそれを聞いて睨みつけていた顔つきがある程度柔らかくなる。正確には普通に戻っただけに過ぎないが。

 

「そうか……お前もなかなか難儀な性格をしているな。俺と同じ、何かをする事でしか存在する意味を見出せない」

 

「へぇ……。じゃあ君がここにいる意味は?」

 

「俺は強い奴と戦い、己の力を磨く。そして、それと同時に……最強の力を引き出した俺を倒してくれる存在を探している」

 

それを聞いたキメラングは唖然としていたが、その言葉を飲み込むと笑いが込み上げてきた。

 

「ぷっくく……あはははっ!何それ……自分を倒して欲しいって……君、自殺願望でもあるの?」

 

「ふん。なんとでも言え。そんな奴は永遠に現れないとわかっているがな」

 

シャドーの言葉には自分が常に最強であり続けるという彼自身の決意が含まれており、キメラングはそんな気持ちを持っている彼の心の内に面白さが湧いてきた。

 

「あははっ、気に入ったよ、シャドー。一時的にはなるが私と手を組まないか?」

 

「ああ。……丁度俺も暴れたい所だったし、お前も手が欲しかったのだろう?」

 

キメラングからの提案にシャドーは賛同し、二人は協力の証として握手をする。ここに両者の利害が一致。戦闘面に於いて高い力を発揮するシャドーと知識面に於いて圧倒的な力を持つキメラング。最凶のコンビが完成するのだった。

 

「あ、そういえばこの世界のカバトン君は?君の口振りを見ると一緒にいるかと思ったけど」

 

「……アイツか?今はプリキュアを倒す方法を考えるので手一杯だから放っておいてくれと。一人で延々と悩んでいる。ま、アイツの頭では恐らく有効な策は一生思い付かないだろうが」

 

「それもそうだね。あははっ!」

 

その頃、二人に噂されたそれぞれの世界のカバトンは大きなクシャミをする事になるのだがそれは完全なる余談である。

 

「それで、キメラング。そのモルモットって奴を強制転移させられるんだろ。やらないのか?」

 

「うーん、そうしたいんだけど。もう少し具体的な案を練ってからにしようか。その方がより確実だろう?」

 

「なるほど、わかった」

 

「それに、転移だけならいつでもできるしねぇ」

 

そしてキメラングはある事を思い浮かべる。それはひかるの右の耳。洗脳のためのドローンを被せた際に彼の耳にピアスのような形で丸く小さなマーカーを仕込んでいたのであった。




また次回もお楽しみに。
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