キメラングとシャドーの二人による会話から場面は戻り、虹ヶ丘家。そこではひかるがらんこのいる部屋の前に移動。それから彼は部屋の戸をノックしようとする。
「……いや。多分このまま行ってもダメか」
しかし、ひかるは先程のユキのやり取りから彼女が門前払いをされてしまったのだと考える。そのため、彼は合図も無しにらんこの部屋に入った。
「えっ……」
「急にごめん。らんこさん」
らんこはノックも無しにいきなり入ってきたひかるに対して驚いたような顔を見せつつ困惑する。ひかるは謝ったが、それでもらんこは許可も無しに勝手に部屋に入ってきた冷たい目で見つめた。
「……何よ、私は今取り込み中なのよ。それに、ユキから聞いてないの?今は誰とも話をしたく無いって」
「……それに関してはごめん。話をしたくないって事は聞いてない」
「あっそ……。じゃあ、聞いてないなら仕方ないわね。でも、今それはわかったのだから……」
「……それは、無理だ」
「は?」
らんこはひかるに拒否されて困惑する。最初に話しかけた際に事情を知らないというのはまだわかるだろう。誰にだってそういうミスはあるのだから。ただ、その後。らんこが迷惑だとわかって以降は普通その話を聞いた時点で退くものである。それなのにひかるが再度詰め寄って来た事にらんこは理解ができなかった。
「ちょっと、私が今他人と話をしたくないって聞いたわよね?」
「ああ。バッチリ聞いた」
「じゃあ何で話そうとしてくるのよ」
らんこは冷たい目からひかるへと強く睨むような目線に変わると彼に関わってくるなと言わんばかりの空気感を出した。
「……俺さ、らんこさんに聞きたい事があるんだ」
「聞きたい事……私に何を聞きたいのかは知らないけど、何度も言ってるわよね?今はあなたの話を聞けるような気持ちじゃ無いの。わかったらさっさと諦めて」
らんことしてみればこれだけ拒否しているのだから良い加減諦めて欲しかった。しかし、ひかるはそれでも諦めない。
「そんな事言わないで……頼む!この通り!」
「えぇ……」
そう言ってひかるは手を合わせつつ頭を下げて頼み込む。らんこはひかるのしつこさに呆れ果ててしまう。ただ、ひかる側もあまりしつこいのは人として良くないというのは重々承知してはいた。それでも、ここで諦めたら彼女がいつ話せる空気感になるかわからなかったのでどうしても話をしたかったのである。
そして、らんこの方もこれ以上拒否したとしても結果的に諦めてくれないと思ったのか。仕方なく折れる事にした。また、ひかるがそこまで言うのだからどうしても今話さないといけない大事な話なのだと思ったというのもある。
「はぁ……もう、仕方ないわね。聞くだけ聞いてあげるわ。ただ、普通だったらこんなにしつこいのは人としてダメだからね?」
「ああ、それは俺もわかってる。だから次から気をつけるよ」
らんこはしつこく詰められたせいで調子狂わされたと感じるが、もう今更だったのでひかるとしっかり向き合う。
「それで、何の話?」
「ああ、そうだな。なぁ、らんこさん。君は別の世界から来たんだって?向こうの世界のましろさん達はどんな感じなんだ?」
「あれ、アンタに並行世界の概念を話したっけ?」
「実はヨヨさんにちょっとだけ聞いたんだ。だから何となく理解はしてるよ」
「そう……」
らんこはひかるもヨヨから並行世界について聞いたのだと知って、それなら説明の必要は無いという事で早速本題に入る事にした。正直まだひかると話をするとはらんこ自身納得できていない。それでも話を聞くのはちゃんと話をしないと彼が納得してくれないと感じるくらいには諦めの気持ちがあったからである。
「別にこっちのましろとそんなに変わらないわよ。……でも、私にとって大切な存在。その自覚はあるわ。だから最初、私の事を知らないって言った時はかなりショックだっ……あれ?」
「らんこさん?」
そこまで言った所でらんこは自分が話した内容に疑問符を浮かべた。普段の自分なら普通なら変わらないという事を素っ気なく言った時点で話は終わり。会話になる事なく途切れるはずだ。
むしろそうするつもりだった。しかし、それなのに今自分はひかるに対して細かい部分まで話した。それこそ普段の自分なら話さないような内容にまで触れたのである。
「(おかしいわね。……幾らひかるが話しかけてくるのが鬱陶しかったからと言って、そこまで話すつもりも必要も無かったのに……何で?)」
らんこにはどうして自分の世界の人間関係という明らかに必要ない要素まで話をしてしまったのか。彼女にはその理由がわからない。ただ、らんこが困惑する間にもひかるが答えを返すわけで。
「そっか……。らんこさんって、他人に素っ気なくするように見せて友達を大切にする人なんだな」
「はぁ?どうしてそうなるのよ」
「……だってそうだろ?向こうの世界にいるましろさんの事を話した途端、らんこさん。とても良い顔をしていたから」
「そんなに?」
「そんなに」
それを聞いてらんこは困惑する。すると今度はひかるが更に話を続ける事にした。
「ソラさん……だっけ。青髪の子はどう?」
「ソラ……そうね。真面目で正直者で。隠さないといけない秘密を何度も他人にバラしかけるような危なっかしさを持ってて。それでも、だからこそ自分の正しいと思ったことを素直に言ってくれるし。……それと、友達の事を守るために一人で無茶するような……良い友達だと思ってる」
「ふふっ、まただ。ソラさんの事を話しているらんこさん。幸せそうな感じだぞ」
「ッ……。そうね、そうかもしれないわ」
らんこは改めて言われて今度は納得する。こういうのは一度目はまぐれだと切り捨てられるが、二度同じ事をすれば自然と納得が行くものだからだ。そして、彼女は確信する。ひかると話していると何故か素の自分を曝け出せるという事に。
「(……もう、何でかしらね。ひかるとはさっき会ったばかり。それにお喋りで私が困惑してもしつこく話しかけて来て。普通は鬱陶しいだけの嫌な男になるはずなのに……)」
そして、らんこが先程まで抱いていた他人への嫉妬の気持ちがいつの間にかどこかへと飛んで行ったと言わんばかりに楽しい気持ちが湧き始める。そもそもの話、らんこが他人に嫉妬していたのは元の世界では友達の面々がこちらの世界で自分に距離を置いた話し方をしてくるのに加え、自分の世界にいない別の子と友達の距離感で話をしていた事が原因だった。
つまり、らんこは単純に話し相手がいなくて寂しかったのである。それをひかるが無理矢理らんこが作っていた心の壁をこじ開ける形で彼女に話しかけた。……ただそれだけの普通なら迷惑がられる行為だが、らんこにとっては逆にそれが嬉しかったのだろう。本当に彼女は野良猫みたいな人間である。
「……それでさ」
するとひかるは再度改まったような顔つきになるとらんこと真面目に向き合う。それに対してらんこは先程よりは少し軟化したものの、それでも少し素っ気ない言い回しで聞き返す。
「……今度は何?」
「らんこさん。こんなに他人と楽しく話せるのにさ、どうしてそんなに普段は自分を隠そうとするんだ?」
ひかるはらんこの緊張感をある程度ほぐした所で真面目な話へと流れを変える。それを聞いてらんこはひかるへの認識を少しだけ改めた。ここまではただお喋りなだけの迷惑な奴という気持ちだったのだが、会話の流れを考えて誘導した事に少しだけ彼のことを見直したのである。
「……私にも色々あったのよ。だからあまり他人には自分を曝け出すことはしないわ」
「そっか……。じゃあそれは、らんこさんにとって触れられたくない事って認識で良いか?」
「ええ」
「わかった。らんこさんがそう言うなら俺からはもう聞かない。でも、多分らんこさんはきっと他人相手にも心を開けるようになるよ」
ひかるに言われてらんこは少し顔が曇る。正直それができたら自分はこんなにも他人と話すのが嫌になってないし、友達であるはずの自分の世界のましろ達とトラブルなんて起こさないと感じたのだ。
「どうしてそう思うのよ」
「うーん……。半分は俺の時みたいに何かキッカケが一つあればらんこさんは他人とも普通に話せる事がわかった事」
「ああ、そういう事ね……そういえば、ましろの時もそうだったかしら」
思い出してみるとらんこがましろと話すようになったのと、彼女の落とした財布探しの件で壊れてしまった音楽プレイヤーの代わりとなる最新の音楽プレイヤーをお礼としてプレゼントして貰ったあの時。
今回の件もひかるがらんこが意図的に遠ざけていた距離感を無視して一気に接近。その後らんこにとって話していて楽しい内容である自分の世界のソラやましろの事を話してくれたからこそらんこはちゃんとひかると話せるようになった。
「……それで、もう半分は?」
「もう半分?……それは俺の勘だ!」
それを聞いてらんこは呆れる。そしてこの事を言ったひかるの感じを見るとあまり難しい事を考えてなさそうにも感じてしまう。
「ぷっ……何よそれ……アンタ、馬鹿なのかちゃんと考えてるのかよくわからないわね……」
「へ?」
らんこは先程までちゃんと考えて話していたのにいきなり根拠の無い思考になったひかるが意味不明だったのか吹き出すとクスクスと笑う。
最初はあんなにも印象が悪かったはずなのにらんこはひかるに対して心を許した。これには先程彼が話した心を開くためのキッカケというのも関係しているのだが、それ以上にらんこはひかるの中に自分が心を許せるだけの見えない何かを感じたというのもあるのかもしれない。
「でも何となく気持ちが楽になれた気がするわ」
「そっか、なら良かった」
二人が微笑み合っているとそこにソラやましろが慌てたような顔をして入ってくる。その瞬間、らんこは警戒心を強めたのか顔つきが鋭くなってしまう。やはり幾らひかると打ち解け合ったとしてもそれはあくまで個人単位の話。……まだキッカケを掴めていない他の人々相手だと警戒を強めてしまうのだろう。
「らんこさん、ひかる君を見てませんか!?」
「急に私達の前からいなくなって……」
「……ひかるならすぐそこにいるわよ?」
らんこが指差すとそこにはキョトンとしたような顔を浮かべたひかるがソラとましろの方を向く。そして、彼の存在を確認した二人は安堵の顔を浮かべた。
「良かったぁ……。もう、急にいなくなったから心配したんだよ?」
「そうですよ、プリキュアの話をするってタイミングでいきなりいなくなって!」
「え?あ〜……」
ひかるはそれを聞いて少し前のやり取りを思い出す。それは、ひかるにはもうプリキュアを隠しても仕方ないからこの際いっその事彼にも関係者になってもらおうというのが先程の話の流れだ。
その流れに沿うために話をしようとしたらいつの間にかひかるがいなくなったためにその場にいたユキ達は大慌てで家を探していたのである。
「もう、話をする相手がいなくなったら私達も話ができないよ」
「そうですよ。それに、ヨヨさんに大丈夫と言われたとはいえ、何で動き回っちゃってるんですか!」
「悪い悪いって。でもほら。俺って元気なのが取り柄だし?」
「それでも今は安静にしてないとダメだからね!?」
ひかるがいつもの馬鹿みたいな反応にましろがツッコミをしているとらんこはやはりひかるはこっちが素なのだと感じ取る。それと同時にひかるが大丈夫だという事がヨヨのお墨付きを貰った事でわかり、らんこは安心感を抱いた。
「それはそうと、らんこさん。お体の方は大丈夫ですか?」
「そうだよ。らんこちゃんも疲れとか無い?」
「ええ。体の疲労感はまだあるけど、さっきみたいに体力が空っぽみたいな感じはしないから少なくとも回復には向かってるわ」
らんこの話と彼女が痩せ我慢をしていないという事を実際に見て知った二人は安心したような顔つきになる。これでらんこはひかるの力で精神面が回復したのに続き、体力面でも安心できる段階になった。
「そうですか!らんこさんが無事で良かったです。あ、でも何かあったら言ってくださいね」
「うん、私達はらんこちゃんの知ってる私達とは別人だけどやれる事はするから!」
「え、えぇ。その時はお願い……」
らんこは頷くものの、やはりひかるの時とは違って言葉に多少の気不味さがある。らんこは未だにソラやましろの姿を見ると自分を変えてくれた元いた世界の二人を思い浮かべてしまうらしい。
「あっ、それとらんこちゃん。ユキちゃんがさっきの事、謝りたいって」
「ユキさん、自分のせいでらんこさんの事を傷つけたって気負ってて。あの、ユキさんの事をあまり責めないであげてください。ユキさんは凄く繊細な子なので……」
「ッ……そうなのね……。わかったわ、心も落ち着いたから今行く」
そう言ってらんこが立ち上がるとその部屋を後にしようとした瞬間。らんこの目に何かチカチカ光る物がひかるの方から一瞬見えた。
「ッ!?ひかる、ちょっと良いかしら?」
「何だよ」
「右耳に付けてるピアスって最初から付けてた?」
らんこの問いにひかるは右耳に手を当てると確かにピアスのような丸い物が付いていると気がつく。だが、彼にピアスを付けた覚えなんて無い。
「あれ?俺、ピアスなんて付けてないぞ?」
「らんこちゃんも知ってるでしょ?私達の学校でピアスは……」
「あっ、だとしたら不味いわ!ひかる、早くピアスを外し……」
らんこがひかるへとピアスを外すように慌てて促した瞬間だった。突如としてひかるが付けているピアスからいきなり紫の怪しい光が放たれると彼の体が紫の光に包まれていく。
「ひかる!」
らんこが慌ててひかるへと手を伸ばすがその手は空を切ってしまう。それはつまり、ひかるの姿がその場から一瞬にして消えた事を意味していた。
「そん……な」
このピアスは前にも説明を入れたが、キメラングが用意したひかるへのマーキングである。そして、そのマーキングを利用してひかるだけを瞬間移動させたのだ。同時に彼がいなくなった事でらんこの心には大きな動揺が走る事になる。
また次回もお楽しみに。