転入最初の挨拶を終えたユキとソラ。ユキの方はその失敗のせいで恥ずかしさに悶絶した状態であり、そんな彼女を心配するソラ。ただ、そんな時に周囲にいるクラスメイトから二人へと質問が飛んできた。
「ましろんや虹ヶ丘君と一緒に住んでるんだ。良いなぁ〜、楽しそう」
「あ、はい!凄く楽しいです!」
仲田がそう言うとユキは先程の件でまともな返事ができる状況では無いので、代わりにソラが受け答えをする事に。すると今度は吉井の方から質問が投げかけられる。
「二人は海外から来たんだよね?なんて国から来たの?」
「(早速来たか……)」
それは二人が元々住んでいた場所についてだ。雑木林から言及されたのは海外に住んでいたという事だけ。そうなると厳密な場所を知りたくなるのが普通だろう。そして、アサヒはこういう時のソラの返事を何となく察していた。
「はい!スカイラ……」
「ターイム!」
その瞬間、アサヒは早速ソラがいつもの調子でスカイランドと言いかけたために咄嗟にましろ直伝の会話の遮断方法。タイムを叫ぶ事でそれを遮った。そしてそうなるといきなり叫んだアサヒにクラスメイトはキョトンとするわけで。
「虹ヶ丘君?どうしたの?急に……」
「そうだぞ、ソラさんが喋ってるじゃん」
「え?あ、遮ったのは悪い。だけどソラがちょっと言い間違えたから訂正するって。ほら!」
アサヒはなるべく不自然にならないようにフォローするとそこまで言ったタイミングでようやくソラも自分の間違いに気づく。同時にましろもあまりに自然なソラのスカイランド暴露案件に凍りついていたが、彼女も慌ててフォローへと入る。
「は、はい!今のは忘れてください……私が住んでいたのはすか……すか……何でしたっけ?」
「え?え?えっと……」
「嘘だろおい……」
アサヒが慌てて止めたのは良いものの、ソラもましろも今のスカイランド発言のせいで焦ったのか上手い言い訳が浮かばず。完全に混乱状態になってしまう。
「(ユキは……ダメだ。まださっきの事を引き摺ってるから余裕無さそう)」
アサヒはユキへと視線をやるとまだ彼女はダウン中。いつもなら何かしら気を利かせてブレーキ役になってくれるのだが、今は自己紹介の時のやらかしが尾を引いてしまっている最中。そのため完全に機能停止し、このままでは目に見えてアウトな状態だ。
「えっと、確か虹ヶ丘さんのおばあさんの話ではスカンジナビア半島の方の国だと聞いたが……」
そんな時、助け舟とばかりにヨヨからの伝言を雑木林が話す。ヨヨはこんな時のために予め担任の方にはそういう設定で話を通しておいてくれたのだ。
本当にヨヨの用意の良さには驚かされるばかりだが、二人はその話が通っているのなら話は早いとばかりにすかさずそれに便乗する形で頷いた。
「そ、そうなんです!」
「は、はい!確かそのスカイランジーナビアの方の国です!」
「いや、上手く誤魔化すつもりで言ってるつもりだろうけどまずスカンジナビアって言えてないからな?」
アサヒが上手くスカンジナビアを言えてないソラへとツッコミをする中、他の面々はソラやましろの誤魔化しを普通に信じた様子で更に詰め寄ってきた。
「わぁ、発音が本場っぽい!」
「他の言葉も言って!」
「スカンジナビアの方でどんな事をしてたの?」
ただ、こんなにも一度に質問されてはソラも困ってしまう。そしてましろはこの状況に内心で冷や汗をかいていた。
「(み、皆……もうこれ以上は……)」
そんな時、雑木林が手を叩くと話を区切るようにクラスの生徒達に注意する。
「ほらほら、一気に質問し過ぎだ。ハレワタールさんが困ってるぞ」
「あ、はい……あまり質問されるとついスカイ……じゃなくて!困ってしまいます……」
「ボロ出まくりじゃねぇか……」
「あはは……」
アサヒは喋る度にボロを出し続けるソラに呆れていると隣ではひかるも苦笑いしていた。彼も彼でユキやソラの事情を知ってるからこその反応である。そして、仲田達も一度に質問を投げた事に対して謝る流れになった。
「そっか、ごめんごめん……」
「もしかして、恥ずかしがり屋なのかな?」
「え?ソラちゃんは……」
すると何故かソラが恥ずかしがり屋という流れになり、ましろがその意見を否定しようとする。……だが、何故かソラはそれを肯定するかのように言い切ってしまった。
「そうです!私はもうメチャクチャ……恥ずかしがり屋です!」
「(えぇ……)」
「(ダメだこりゃ……)」
最早収拾不可だと悟ったアサヒは匙を投げてしまい、ましろも心の中で頭を抱えてしまう。
それから少し時間が経ってホームルームが終わり、授業前の休み時間。そこではようやくユキが立ち直るとソラやましろ、アサヒと共に教室の窓辺付近にて四人で集まり話す事になる。
「うう……まさか最初からあんな失敗をするなんて」
「転校生あるあるだな」
「あはは……」
「でも今ので悪印象が刷り込まれてたらどうしよう……」
ユキは自分が大失態を犯した事が原因でクラスメイト達から変なイメージを持たれてないか不安だった。
「うーん。クラスの皆を見た感じ大丈夫だと思うよ。それに、ユキちゃんはダウンして周りが見えてなかったと思うけど、その後に色々あったから」
「え?色々?」
ユキがましろから補足されて困惑の顔つきを浮かべる。何しろユキがやらかした後にスカイランドを間違えて口にしようとした件やソラの超堂々とした恥ずかしがり屋の話が挟まっていたので周囲からのイメージはそれに上塗りされた可能性が高い。
そのためユキが心配している事態にはなってないわけで。それ以上にユキの場合はその見た目による可愛いイメージが勝っているため、今回のミスも可愛い子として判断されていた。するとましろが先程の恥ずかしがり屋の件について触れる事になる。
「そう言えばソラちゃん。さっき恥ずかしがり屋って言われてたけど……私としてはソラちゃんはあんまり恥ずかしがり屋さんのイメージが無いけど」
「……はい、初めて言われましたよ」
やはりソラ本人も自分は恥ずかしがり屋では無いイメージなので先程の話を即否定していた。そんな時にアサヒが話しかける。
「それとソラ。さっきのスカイランドの件、何とか対応できたけど流石に何度もあのやり方はキツイ。その内怪しまれるだろうから何か対策を……ソラ?」
アサヒはソラのスカイランド暴露の事でソラへと何か対処する手を聞くが、何故か当の本人は頭を抱えていた。そして、彼女はある事を言い出す。
「アサヒ君、ましろさん、ユキさん。私はとんでもない事に気がつきました」
「えっと……」
「それって何?」
ソラが改まって話を始めたために三人は一応その話を聞く事にした。するとソラが話を続ける。
「……どうやら私は聞かれた事とかを何でも正直に話してしまう所があるようです。思えば、あげはさんと会った時もそうでした……」
「そういえばそうだったね……」
「ああ、確かに……ってか、もう割と今更だけどな」
アサヒが今更過ぎる話題に多少呆れつつそう言うと同時にソラは何かを思いつく。
「あっ……と言うことは、早くクラスに馴染むにはこれ以上質問をされないように目立たない方が良さそうです!」
「えっ?そ、そう……なのかな?」
ましろはソラの仮定に懐疑的な様子だった。そして、同じ事をアサヒも思ったのか……ソラへと否定の言葉で返す。
「でもさ、多分それは違う気がするな」
「えっ?どうしてですか?」
「それは……」
アサヒがソラへと説明を行おうとしたそんな時。四人が何かの気配を感じて窓際のポジションから反対側にある廊下側を向くとそこにはクラスメイトである女子達が何人か集団で近寄ってくる。そして、その女子達の目的はユキなのか……先程彼女が失敗のせいでダウンしていたのも相まって凄い勢いで話しかけてきた。
「ユキちゃん!話があるの!」
「今良いかな?」
「ふええっ!?えっ、えっ、えっと……私何か変な事しちゃったかな!?」
「変な事?……あー……」
クラスメイトの女の子達はユキが変な事と言い出して先程の挨拶の件を思い浮かべる。
「ユキちゃんが思ってるのって挨拶の事?」
「あの事なら全然気にしなくて良いよ!むしろあんな風に可愛い所を見せてくれただけで十分だから」
「ええっ!?」
ユキはまさか先程の挨拶でやらかした事を褒めとして言われるとは思っておらず。逆に唖然としてしまう。
「じゃあ、今話しかけてくれたのって?」
「えっと、ユキちゃんって凄い可愛いっていうのはさっき言った通りなんだけどさ」
「どうしたらそんなに可愛くなれるのかなって」
「何か秘訣があったら教えて欲しいの!」
「ひ、秘訣?そ、そんなの……」
ユキはいきなりの質問に混乱すると同時に何て返せば良いのかわからずに困ってしまう。
「(どうしよう……もしここで答え方を間違えたら……)」
ユキの脳裏に浮かぶのは自分が間違った答えを提示したせいで相手の女子達が自分を虐めてくる光景だった。先程は自分で楽しむべきだと考えてそれもわかっているつもりなのだが……やはりどうしてもダメな物はダメなようで。一人ではどうする事もできずに口篭ってしまう。
「え、えと……」
ユキはクラスメイトの女子達と仲良くしたい気持ちは勿論ある。だが、それでも嫌われた時の事が浮かんで頭から離れずに怖くなってきてしまってきた。
「ユキちゃん?どうしたの?」
「顔が固くなってきてるけど……そんなに気にしなくても……」
ユキはクラスメイトの女子が自分への心配をし始めた事でユキが早く答えないといけないという焦りで頭の中が真っ白になり始める。そんな時だった。
「……ッ!?」
ユキが手に何かの感触を感じて思わずその方を見るとアサヒがユキの手を優しく握っており、ユキはそれを受けて驚いて何かを言う前にアサヒがそっと小声で話しかける。
「大丈夫。……大丈夫だから。皆優しいからちゃんと向き合えばそれに応えてくれるから」
「ッ……う、うん」
アサヒからそっとそう言われてユキは深呼吸。まずは真っ白になっていた気持ちを落ち着けるとその質問に対しての答えを返した。
「えっと、さっきの質問の答えだけど……私は特別何かしてるってわけじゃなくて」
「えっ、じゃあ素でそんなに可愛いの!?」
「嘘……だとしたら本当に凄い」
「あ、でもね……私、趣味でランニングしてて。朝の早い時間とかに殆ど毎日街中を走ってるんだけど、確か運動って肌に効果があるって聞いた事があるから毎日コツコツ続ければ皆も綺麗になれると思うよ……」
「本当に!?」
「運動したら綺麗になれるんだね……」
「あー、でも確か私もその話は聞いた事ある。運動してるとお肌に良いって」
「うぅ、でも毎日早起きかぁ……」
女子生徒達はユキからの話を聞いてそれぞれの反応を示す。また、運動部員と思われる女子もユキの話を後押ししてくれたお陰で話の信憑性も確保されていたために比較的に明るい言葉ばかりが飛び交っていた。
「それってすぐに出てくれたりするのかな?」
「うーん……すぐには効果が出ないかも……。だから無理して一日に長く走るんじゃ無くて、短い距離を長い期間続けた方が良いと思う」
「なるほど……そういう事か!」
「あと、起きるのが辛いとかだったら最初は夕方とかの比較的楽な時間とかにやるのも良いかも。私も最初はそうだったから」
これは実際そうである。ユキはソラよりもワンテンポ遅れる形でトレーニングに参加するようになったが、最初は慣れてない事もあって朝早くに体を動かす事ができなかった。そのためまずは夕方の分としてトレーニングをするようになったのである。
そして、女子生徒達はユキからの話を聞いて自分達もユキのように綺麗で可愛い子になりたいと言わんばかりに彼女へとお礼を言う。
「ありがとうユキちゃん!」
「これから少しずつ頑張ってみるね!」
「う、うん……どういたしまして」
それを聞いて女子達は喜ぶとユキの手を取ってお礼の言葉を口にする。ユキもそんな女子達を見て自分の知識が役に立ったと笑顔になった。
「そうだ、色々教えてくれたお礼に今度お勧めのコスメを教えるね」
「えっ……良いの?」
「うん!むしろユキちゃんがメイクした所とか見てみたいから!」
「そうだね。今のユキちゃんが更に可愛くなる所見てみたいの!」
ユキは先程から何度も何度も自分の事を可愛いと言ってもらえているのがこそばゆいのか顔がどんどん赤くなりつつあった。そして恐る恐る聞き返す。
「え、えっと……さっきから皆可愛いって言ってくれてるけど……私はそんなに……」
「「「可愛いよ!」」」
「うええっ!?」
ユキがいつもの謙遜及び超が付く程の低い自己評価をしようとした瞬間に話をしていた女子全員からそう言われて思わず赤くなりかけていた顔が真っ赤になってしまう。
「そうだユキちゃん。折角ならこのまま友達になって!」
「ッ……良いの?」
「何言ってるの。私達、もうこんなに話せてるじゃん」
「そっか……うん!」
ユキはクラスメイトから友達と言ってもらえて嬉しそうな顔つきになると彼女達からの提案を承諾。こうしてユキはこの学校で初めての新しい友達を作るのだった。
「アサヒ、もうユキちゃんは心配しなくて大丈夫そうだね」
「ああ。思ったより早かったけど、これでユキが一人で孤立する事は無くなったな」
アサヒとましろはもうこの時点でユキが孤独な目に遭う事は無くなった事が確定してホッとした様子である。……ただ、一人胸が苦しい想いをしている者がいた。
「(ユキさん……どうしてこんなに早く……。私も友達が欲しいのに、ですが……先程目立たないようにすると決めた以上は出しゃばるわけには)」
ユキがクラスメイトと仲良くする様を見ていたソラは内心モヤモヤとした気持ちになるが、目立たないようにすると誓った手前自分から行く事ができない。そんな自分にもどかしさを覚えてしまう。
こうして、学校生活は自分を出したユキと自分を隠そうとしたソラの二人で早速明暗が分かれてしまうのだった。
また次回もお楽しみに。