スポーツテストが終わった後、昼休みに廊下を移動する際にユキとソラはクラスメイトと話をして仲良くなれた。その後、ましろに連れられる形でアサヒを含めた四人は校舎の屋上へと到着する。
「ましろさん、ここって……」
「この学校の校舎の屋上……だよね?」
「うん!私のお気に入りの場所だよ」
四人が屋上に出るとそこには誰もおらず。ましろはその中で手すりの端っこの方に移動していた。
「ましろちゃん、そっちで何してるの?」
「ふふっ。ソラちゃん、ユキちゃん、あそこ見てみて!」
そう言ってましろが二人へと促すと彼女の視線の先にあったのは綺麗な花を満開に咲かせている大きな桜の木である。校舎と校舎の間に存在するこの桜の木はこの屋上から見る事で花が咲いている状態を綺麗な形で見る事ができるという事だ。
「「ふぁあああ……」」
そして、スカイランド組の二人は桜の木を初めて見るためにその景色に思わず感嘆の声を漏らしていた。
「綺麗でしょ?」
「うん……スカイランドにはあの木は無い」
「ましろさん、アレは何て名前の木なんですか?」
ユキとソラは二人揃ってあの木の名前が気になったのか、ましろへと問いかけると彼女は微笑みつつ答える。
「桜だよ。この学園ができた時からずっとあそこにあるんだって」
「へぇ……」
「じゃあ、あそこまで大きいって事は長生きしてるんだね」
「ああ。少なくとも俺達よりもな」
二人が説明を受けて納得し、興奮したような顔つきになっていると早速ましろは話の続きをした。
「ソラちゃん、私はね。ソラちゃんはユキちゃんみたいにもっとクラスでも自分の事を出しても良いんじゃないかな」
「えっ……でも……」
ソラはそう言われて不安な気持ちになる。何しろ自分を出してしまったら先程危惧した通り、スカイランドの事がバレてクラスメイトと友達になれないんじゃないかと考えてしまうのだ。
「確かにスカイランドの事は話さない努力は必要だと思う。だけど、それを抜きにしてもソラには皆と仲良くやれるだけとコミュニケーション力はあると思うぞ。だって、アレだけ周りを怖がってたユキでさえ今はこうしてクラスメイトと話せているんだから」
「ッ……あ、アサヒ君……恥ずかしいからそんな事言わないでよ!」
ユキはアサヒからそう言われて恥ずかしさのあまり顔が赤くなっていた。ましろはそんな二人のやり取りに微笑ましさを感じると自分の過去の事を語り始める。
「実は……私もね。入学した頃、新しい友達と上手く話せなかったんだよね……」
「そう言えばそんな事もあったよな」
アサヒはそう言いつつ約一年前を思い出す。入学した当時、アサヒの方は元々持っていた持ち前の明るさを活かして仲田、吉井、軽井沢達と仲良く話をする関係になった。しかし、内気で自信を持てなかったましろに関してはそんなアサヒが仲介しようとしても中々勇気が出ずに不安で一歩が踏み出せなかったのである。
「アサヒにクラスの子を紹介されたりもしたんだけどね。……それでも上手く行かなくて。“どうしよう、どうしよう”って気持ちばかりが焦っちゃって……」
アサヒもどうにか一人で孤立気味のましろをクラスメイトと結び付けるために奔走したが、それでも上手く行かず。困り果てた時にましろはこの穴場スポットである屋上を見つけた。
「そんな時、ここに来たら……。あの桜に元気をもらって……。何だか肩の力が抜けたんだ」
こうしてましろは屋上から見た学校の桜に元気をもらった。それ以降、ましろは自分から話しかける形で友達と話せるようになり、そのおかげで今の彼女には仲の良い友達がいるのである。
「ましろ、それ以降は今みたいに他人ともっと話せるようになったんだよな。多分アレが無かったらスカイランドから来た二人と話す時にもっとぎこちなかったんじゃないかな」
「あはは……確かにそれはそうかも」
ましろは苦笑いしつつもソラと改めて向き合う。それからソラへと確認とアドバイスを言う事にした。
「ソラちゃんは……友達が欲しかったんだよね?」
「え?は、はい……」
そう言うソラの顔は落ち込んだような顔で、気不味そうにする。それを聞いたユキも少し申し訳なさそうだった。
「ソラちゃん……その、さっきは……」
「ッ、ユキさん。でも勝手に嫉妬してたのは私なんです。それに……ユキさんだって学校生活を楽しんでいて。本当は素直に喜ばないといけない事なのに……」
ユキは先程までの自分の言動を思い出すとソラが自分に向けていた感情を察し、学校を自分一人だけで楽しんでしまった事を謝ろうとする。ソラだってクラスメイトと仲良く話をしたい気持ちはあると自分にはわかっていたはずなのに。
自分の事で頭がいっぱいでソラの事にまで気が回らなかった事を後悔していた。そしてユキはソラへの申し訳ない気持ちで顔が青くなっており、謝ろうとする。
「ソラちゃん……私……」
「待って、ユキちゃんは間違ってないよ」
するとユキが頭を下げようとしてその動きをアサヒが遮りつつましろが完璧なタイミングでユキをフォローする。
「でも私は、ソラちゃんの事を裏切って……」
「ましろも言ったけど、ユキは間違ってない。そもそもユキ、ソラの事を気にする程の余裕なんて無かっただろ」
「それは……そうだけど」
「だったらここはましろに任せてみて。少なくとも、ユキが恨まれる事にはならないから」
アサヒの言葉にユキは不安がるが、今の自分にはソラを慰めるなんてできないためにましろに任せる事にした。
「ソラちゃんはさ、前に私に今のままの私で良いって言ってくれたよね?」
「はい……」
「ソラちゃんもユキちゃんみたいにもっと自分を出しても良いと思うんだ。スカイランドの秘密がバレるとか、バレないとかはまた後で考えるとして。今は肩の力を抜いて、いつも通り。それだけで十分だと思うんだ」
「……え?」
ましろにそう言われてソラは戸惑う。先程までソラはスカイランドの事を言われないようにするために本当の自分を封印しようとした。それなのにいきなり自分を出しても良いだなんてソラは混乱する一方である。
「ソラちゃんはソラちゃんらしく皆と接すればそれで十分だって事だよ。もしスカイランドの事をソラちゃんが言いそうになったらさっきみたいに皆でフォローすれば良い。大丈夫、ユキちゃんだって自分らしく接したら皆は受け入れてくれたでしょ?」
「でも……」
ソラの気持ちは揺れ動く。本当は自分を出したいのに自分を出してしまえば周りと浮いている自分の価値観は異物になってしまう。それに先程のスポーツテストでも一歩間違えたら自分は変な人だと思われていたかもしれない。
ただ、それでもソラはクラスメイトと友達になるのを諦めたく無かった。そのため、アサヒはそんなソラの気持ちを察して話す事に。
「ソラ、さっきはタイミング悪くて言えなかったけどさ。新しく転入した子がクラスに馴染もう思ったら引っ込む選択肢はダメだ」
「えっ……」
「クラスメイトの立場になって考えてみて。もし新しく出会った子がいて。その子が全然自分の心の奥底を見せてくれなかったらソラはどう思う?」
「え?えっと……私もどう接して良いかわからな……あっ!」
ソラはそこまで言ったところでようやく気がついた。自分がやっていたのは心の奥底を見せてくれない子と何一つ変わらない。クラスメイトからしたらどんな子かわからない状態と同じであると。
「ソラも今のでわかったと思うけど、自分の事を曝け出して知ってもらった方が相手だってどう対応すれば良いかハッキリする。勿論、合う合わないっていう差はあるけどね」
ソラが自分を曝け出す事はソラの事を周りが知るという事。人間、知らない物が目の前にあったらまず警戒してしまう。それからその物が何なのかを知ろうとする。そのため、理解するまでに回り道をする事になるのだ。
「だけど、ソラが自分を隠していたら結局クラスの皆はソラの事をゼロから知らないといけない分受け入れてくれるのに時間がかかる。だから、もっと自分を出しておいた方が良い。もしそれで失敗したのなら仕方ないよ」
「仕方ないって……私は皆から嫌われるなんて……」
二人からの言葉にソラの心は揺れ動く。アサヒやましろの言う事は理解できる。ただ、失敗のリスクがある以上……ソラはどうしてもあと一歩が踏み出せない。すると今度はユキがソラの手を取る。
「大丈夫……皆は優しいから……ソラちゃんがちゃんと向き合えば、その気持ちに応えてくれる。私みたいな人でも受け入れてくれたんだから」
それは先程、ユキがアサヒから聞いた言葉。今度はユキがソラへと伝える番だ。それにより、ソラの心の中にあった迷いが少しずつ溶けていくような気がした。
「ユキさん……ましろさん!」
「この分だとこれ以上俺からは何も言うことは無さそうだな。……ソラ、まずは今まで我慢して言えてなかった分……自分の事を皆に伝えるんだ」
「はい!アサヒ君もありがとうございます!……ここからは、いつもの私にチェンジします!」
それから話を終えた四人が教室に戻るとソラは早速黒板にデカデカと自分の名前を書き始める。その際に“ル”の文字が左右逆になっていたがそれは些細な問題だろう。そして、それが終わると彼女は“バン”と手を教卓の上に置きつつ呼びかける。
「皆さん!お食事中すみません!転校の挨拶をもう一度やらせてください!」
「転校の挨拶?」
「もう一度ってどういう事?」
教室内は困惑に包まれたが、それでもソラがやるという事なのでひとまず前にいるソラへと視線を向ける形で注目。それからソラはまた挨拶を始める事になる。
「ソラ・ハレワタールです!ましろさんやアサヒ君の家でお世話になってます!」
「さっきと同じじゃん……」
その瞬間、軽井沢がひかるによって軽く頭をチョップで叩かれた。その際のひかるは余計な事を言うなといった感じだ。
「静かにしとけって」
「わ、悪い……」
「ひかる、アンタにしてはナイスよ」
「でも、次からはもうちょっと優しくね……」
ただ、やはりチョップはやり過ぎだったのかひかるもついでに仲田から注意を受ける事に。そんな事が後ろの方で起きていたがそれらさておき、ソラは最初に先程の挨拶に対する補足から始めた。
「先程私は皆さんに対して恥ずかしがり屋と言ったのですが……本当は恥ずかしがり屋じゃなくて……。成り行きで言ってしまっただけなんです」
ソラは少し申し訳なさそうな顔でそう言うとクラスメイト達は納得したような顔つきでその話を受け入れる。それを見た上でソラは話を続けた。
「……私はこの学校に転校する事が決まって、皆さんとお会いした時にはこの学校に早く馴染みたい。皆さんと友達になりたいと思っていました。そのためなら自分は下手に目立たないようにした方が良い。自分を出さない方が良いと考えてしまって」
そう言うソラの声が不安そうになっていく。そして彼女が自分が立っている所の右手にある窓側にユキ、アサヒ、ましろがいたためにその方を向く。すると三人はソラを後押しするかのように微笑み、頷いた。
そして、それはまるで三人が“大丈夫。自信を持って”とメッセージを送っているようである。ソラはそれを見てまた元気を貰うと三人に向けて小さく頷く。
「ですが、それは違うと教えてくれた友達がいます。その人は私は今の私のままで良いと言ってくれました。だから皆さんにも私の事をちゃんと知ってもらいたい。そう思ってこの場で話したいと思います!」
ソラの心にもう迷いは無く、青空のように晴れ渡っていた。そして、早速ソラな自信を持って自分の事を話していく。
「私はヒーローを目指しています!だから体を鍛えていて、運動には自信があります!」
それは幼い頃、自分にとってのヒーローに助けてもらったあの日からずっと自分の目標として目指し続けた夢である。そして、その上で自分の身体能力の高さの所以がそれであるとも伝えた。クラスメイト達もほんなソラの言葉を否定するどころか感心した様子で聞いてくれている。
「私は、つい最近ここに来たばかりで慣れないことも多くて……。でも、この街に来てましろさん、アサヒ君の家に住んで友達になって」
ソラが思い出すのはスカイランドから急にソラシド市の上空に文字通り投げ出された時の事。それからカバトンやランボーグに襲われてプリキュアになった事。スカイランドには無いこの世界の道具、お店。
そして他の三人もプリキュアになって、挫折を四人で乗り越えた事。それらの思い出の軌跡が脳裏を駆け巡り、目の前の新たに出会えた学校のクラスメイトを見渡す。
「新しい事を幼い頃から一緒に過ごしてきたユキさんと勉強して、この学校に通うのも凄く楽しみで」
そして、ソラは長い前置きの後に本命の言葉。友達になりたいという自らの想いをクラスメイトへと話す。
「もし、良かったら……皆さんと友達になりたいです!よろしくお願いします!」
ソラはそう言って頭を下げる。すると仲田が拍手を始め、それを皮切りにクラスメイトは次々と拍手をしていく。それによってクラス全体に拍手の輪が広がると仲田、吉井、軽井沢が次々とソラへと声をかける。
「話してくれてありがとう!」
「スカイナビアだっけ?スカンジランドだっけ?まぁ何でも良いや!とにかく、遠い国からようこそ!ヒーローガール!」
「あ、その呼び方カッコ良い!」
「ヒーロー……ガール……」
ソラも軽井沢が呼んでくれた“ヒーローガール”という名前が気に入ったのか嬉しそうに微笑む。
「よろしくね!」
「よろしく!」
「よろしくな!」
そして、その様子を見ていたユキ、アサヒ、ましろの三人もソラが歓迎されていると感じて嬉しそうだった。そして、当のソラもクラスメイトからの歓迎に胸が温かくなっていく。
「私達はもうとっくに友達だよ!」
「皆さん……」
「じゃあ早速、俺達でご飯食べようぜ!」
「はい!」
ひかるがそう言ったのを皮切りにソラも彼のいる方へ行くと仲田、吉井、軽井沢の三人。そしてソラを見守っていたユキ、アサヒ、ましろの三人も合流して八人で机を囲み、ご飯を食べる事になる。
また次回もお楽しみに。