ツバサやヒョウとの邂逅をした夜が明けた次の日。パジャマ姿で寝ていたユキが目を覚ますと何故か彼女の部屋の机の上にチョコンとヒョウが座って寝ていた。
「そっか……昨日の夜、私が自分でヒョウを部屋に連れ込んだんだよね……」
ユキは最初見た時に何故ヒョウがここにいるのかがわからずに混乱したものの、自分がこの部屋に入って寝る前の事を思い出す。
〜回想〜
「ふぁああ……ツバサ君やヒョウの事ですっかり遅くなっちゃった。そろそろ寝ないと……」
ユキが眠気も襲ってきたために寝ようとすると部屋の扉がコンコンとノックされる。それから扉を開けると人間態のヒョウが立っていた。
「ヒョウ……どうしたの?」
「ッ……ユキ姉、さっきの事……もう怒ってないの?」
ヒョウは少しビクビクした様子でユキへと話しかける。どうやら、先程アサヒの事を悪く言った際にユキから怒られた事を気にしているらしい。
「……怒ってないかって言われたらまだ許せてない気持ちはあるよ。……だけど、今はもう大丈夫。それと、さっきは言い過ぎてごめんね」
「ッ、ユキ姉が何で謝るのさ。わた……俺がアサヒの悪口を言ったので怒ってたのに」
ユキがヒョウへと謝ったのに対してヒョウは今回の件では自分の発言がが原因でユキが怒ったのだから何も間違った反応じゃないと反論する。
「それでも、私は必要以上に怒っちゃったんだから私にも非はあるよ。それで、私の所に来たのはそれだけが理由?」
「え、えっと……俺……ユキ姉の部屋で寝ても良いかなって」
「私の部屋で?」
「あっ、いや……下心とかがあるんじゃなくて……。その……今はアサヒと顔を合わせづらいって言うか……」
それを聞いてユキは何となくヒョウの言葉の意図を感じ取った。今現在、ツバサは一階で寝ておりヒョウも本来ならそこで寝るべき立場だ。しかし、それだとタイミング次第で翌朝にアサヒと顔を合わせてしまう。
あんなにも悪口を言ってしまった手前、アサヒとは顔を合わせづらくなってしまったのだ。
「そっか……。そういう話なら良いよ」
「ありがと、ユキ姉。俺はこっちの机の上に座って寝るから……」
ヒョウは流石にユキの隣で寝るという図々しい真似はできないという事でユキの隣を避けつつ彼女の机の上で寝る事になるのだった。
〜現在〜
そんなわけで、ヒョウはユキの机の上でスヤスヤと寝息を立てて寝ていた。
「ヒョウ……ごめんね……。知らなかったとはいえあんなに怖がらせて」
ユキは寝ているヒョウを前にそっと小さな頭を撫でつつ謝る。それからユキはまだ朝ご飯の用意ができてない事を下に行きつつ確認し、それならと先に制服に着替えようと考えた。……ただ、ここで一つ問題が発生する。
「……どうしよ、ヒョウがまだ起きてくれない……」
今現在のユキの部屋はカーテンを開けており、窓から朝日が差し込む事によってある程度は明るい状態だった。しかしそれでもヒョウが目を開けず、起きてくれなかったのだ。
「ヒョウ……申し訳ないけど、着替えたいから起きてくれるかな……」
ユキはそっとヒョウに話しかけるものの、ヒョウはそれでも起きてくれない。ヒョウが起きないのならそのまま着替えれば良いという話になるかもしれないが、そういうわけにも行かなかった。何故ならヒョウが
「うぅ、どうしよ……ヒョウが自分から起きてくれるのなら良いけど……」
だが、こういう時に限って何故かヒョウは起きてくれない。理由は単純。ユキの近くで寝ている事で彼が普段以上に安心しているからだろう。これまでは正体バレのリスクを背負って寝ていたために寝る際も緊張感があったのだが、今はそのような緊張感なんて無い。だからこそ安心してグッスリしてしまっているのだろう。
「このままじゃ制服に着替えられない……」
ヒョウに対して部屋で寝る事を許したユキも流石に男の子に裸を見られるリスクまでは背負えない。
「仕方ない……。起こしちゃったらごめんね……」
ユキは仕方なくヒョウをそっと抱き上げると自分の通学鞄の中へと彼を起こさないようにそっと入れる。そして、そのまま彼女は制服へと着替えを済ませた。
「ユキ、そろそろご飯を食べるぞ」
「あ、うん」
そして着替えが終わった所でアサヒにノックされてユキはいつもの癖で鞄を手に取るとそのままご飯が用意されている一階の居間へと移動するのだった。
「おはよう、ユキちゃん。アサヒ」
「おはよ、ましろちゃん」
「あれ、そこにいたツバサとヒョウは?」
するとアサヒは二人が寝たと思われる部屋の中に置かれた木のオブジェクトを指差す。だが、そこにはツバサの姿は無く。勿論ヒョウもユキの部屋で寝てまだ起きてないためにいない。
「それが、私が起きた時にはもう二人揃っていなかったんだよね。ユキちゃんは何か知ってる?」
「え?えっと……どこに行ったんだろ……」
そして、ツバサの事は兎も角ヒョウの事を知っているユキはアサヒに今回の件がバレるのは不味いためにどうにか誤魔化す。そもそもヒョウは今回ユキの部屋で寝る事をアサヒに話してない。そのためそんな事を彼が知ったら一悶着起きてしまう。この後学校があるのにそんな事態にはしたく無かった。
「マジか……あの二人どこに行ったんだよ……。まさか逃げたなんてオチ無いよな?」
「それは大丈夫よ。二人共私の部屋にいるわ」
そのタイミングでヨヨが姿を現すとツバサとヒョウはヨヨの部屋にいて逃げてないと伝える。恐らくツバサの方は事実だろうが、ヒョウの方はユキの部屋に行ったことも含めてヨヨはアサヒやましろ相手に誤魔化したのである。
「そっか。今私達と会うのも色々気不味いよね」
「ツバサとヒョウの事はわかったけど……そういえばソラもいないな」
アサヒはプニバード組の事は納得したものの、今度はご飯のタイミングでも起きてこないソラの事を気に掛けた。
「……あれ?言われてみればソラちゃんも……」
「そういえば起きてきてないよね」
「ソラさんとはさっき会ってきたわ。……今日は学校を休むって」
「「「えっ?」」」
三人はあのソラが学校を休むというまるで不良のような発言をしたという事実に驚いていた。そのため今度は何故彼女がわざわざそこまでするのか……という話になってくる。
「ソラさん、昨日の夜は寝ないでエルちゃんの側にいたみたい」
「そっか……」
「おいおい、連れ去られるリスクがあるからって……一晩中起きてるなんね幾らソラでも耐えられないだろ」
人間にとって睡眠という要素はとても大切だ。まだ一日とかなら取り返せるかもしれないが、これから先もずっと起きて見張るなんて事は絶対にできない。それこそ、途中で力尽きて寝てしまうだろう。
「ソラちゃん、ツバサ君の事をまだ信用できてないのかな」
「確かに……ヒョウはともかく、ツバサは俺から見ても悪い子には見えないかな」
「待って、ヒョウは悪い子じゃないよ。アサヒ君は良い気持ちにならないかもだけど……アサヒ君に悪口を言ってた事をちゃんと反省してた。だから、あまり責めるのはやめてほしい」
「ッ……ユキがそう言うのなら……」
アサヒは自分に対して悪口を言いまくってきたヒョウに対してまだ良い気持ちを持つことができていなかったが、ユキに宥められてはあまり責め過ぎるのも可哀想だという事でどうにか納得はした。
「あ、あとツバサ君も悪い子じゃないって思うのは私も一緒だよ」
「……多分、エルちゃんの事を見ているソラさんも同じ事を思ってるわ」
「ッ……じゃあ……」
「怖くなったのね……」
「怖くなった……そっか。私が言ったこと……気にしちゃったんだ」
それはユキが前日の夜にツバサの事を擁護する際に言った言葉。ソラの事を説得するために言ったその言葉をツバサがカバトンやシャドーの仲間だった場合として連想してしまったらしい。
「マジか……」
「私達はどうする?私達も学校を休むって事にする?」
ましろはそう提案するが、虹ヶ丘家に住む四人全員が休むなんて事態はできる限りは避けたかった。そのような状況なんて虹ヶ丘家の中で感染症が流行るくらいの事が起きないと周りは納得してくれないだろう。
「いや、俺は学校に行くべきだと思う」
「そっか……じゃあ私達は……」
「……ううん。私も休む。だって、ソラちゃんがああやって自分を責める原因を作っちゃったの……私のせいだから」
ユキは今回の件でソラが一睡もせずにエルを見守るなんて事態に陥らせた責任を感じていた。そのため、自分がその責任を取らないといけないと考えたのである。
「ユキ……」
「わかったよ。じゃあ、二人が休む事は私達が話しておくから」
こうして、ヨヨを含めた四人はひとまずは学校も迫っているために朝ご飯を食べる事になる。……しかし、ここで珍事が起きた。普段なら先にご飯を食べてから着替えをして学校に行くためにいつもの調子でユキとアサヒが二人共一階にまで鞄を持ってきてしまっていたのだ。
そして、二人はご飯を食べるためにその鞄を一箇所に固めた方が良いという事で隣り合わせにしたのだが……ご飯を食べた後にユキが部屋に戻るために手にした鞄はアサヒの鞄だったのである。
「それじゃあユキちゃん、ソラちゃんをお願いね」
「うん。二人共気をつけてね」
「ああ、行ってくる」
そして、アサヒもアサヒでここで気づければ良かったはずの鞄の取り違いの件を弁当や水筒を入れる際にも気が付かなかった。そして、彼はそのまま学校に行ってしまう事になる。
そんな事態になってるとは梅雨知らずのアサヒ。彼はましろと共に通学路を歩いていると隣にいるましろに話しかける。
「……なぁ、ましろ」
「何?」
「……ユキはああ言ったけど、俺はヒョウの事……まだ良い奴って思えないんだよな」
「あー……」
こればかりは仕方のない所だろう。アサヒはヒョウから散々悪口を言われまくっている。しかもその中の一回はアサヒがユキの事で悩んで気落ちしている時だ。
幾ら好意を抱いているユキからのお願いであってもやはり抵抗感が勝ってしまう。
「ゆっくり慣れていくしかないんじゃない?ヒョウ君だってユキちゃんに言われて反省してそうだったし」
「そうなのかもな……」
アサヒはどうにかヒョウの事に関しては受け入れるしかないと考えるとひとまず気持ちを学校の方に切り替える……のだが、今度また別の事実が頭に浮かぶ。
「……そういや、今日はユキがいないんだよなぁ……」
「あはは……アサヒ、ヒョウ君の事よりもそっちの方が色々と深刻なんじゃ」
「ああ……ダメだ。ユキがいないってわかっただけでテンションダダ下がりになる」
「もう、それで授業中とか寝ないでよ?」
このようにアサヒのテンションがユキ依存になってしまう辺り、彼女がアサヒに与えている影響は少しずつ確実に大きくなりつつあった。
「そのくらいわかってるって……うん?」
そんな時だった。突如としてアサヒは自分の鞄に違和感を感じてその方を見る。すると、何故かアサヒの持っている鞄の中でゴソゴソという音が鳴っていたのだ。
「……は?」
「アサヒ、鞄……」
「おいおい、何でこんなにゴソゴソしてるんだ?」
アサヒはこの動く鞄に嫌な予感を感じつつあった。そして、それが的中しない事を祈りつつその鞄を開けるとアサヒは思わず驚きの声を上げてしまう。
「なっ!?」
「アサヒ、何が入ってた……の?」
ましろもアサヒに続く形で彼の鞄の中を覗くと凍りついてしまう。……この少し前、二人を見送って自室に戻ったユキはある事実を思い出していた。それは、自分の鞄の中に入れてしまったヒョウの存在だ。
「あっ、そういえばヒョウの事鞄に入れっぱなしだった!」
ユキが慌てて自分が部屋に持って帰った鞄を開けてヒョウを探す……のだが、残念ながらヒョウの姿はどこにもいない。
「あれ!?あれ!?何でヒョウがいないの?鞄のチャックはずっと閉めっぱなしだから抜け出したのなら最初から開いてるはず……」
ユキは鞄の中にいないヒョウを焦ってもう一度探すが、やはりいない。そのため、慌てて鞄をひっくり返すとその中に入っていたノートに書いてある名前を見て目を見開く。
「えっ……何で私の鞄の中にアサヒ君のノートが……あっ!!」
そう、本来なら自分の鞄に入っているはずのないアサヒのノートが入っていたのだ。そして、他の持ち物を見ても書いてあるのは全てアサヒの名前。
「ッ、これ……アサヒ君のスカイトーンにミラージュペン……って事は!?」
極め付けはアサヒが持ってるはずのミラージュこのタイミングでユキはようやく真実に思い至る。
「私……あの時アサヒ君の鞄と取り違えちゃったぁあっ!?」
ユキは顔を青ざめさせて自分のやらかしに気がつくがもう遅い。そして、ユキの方がそうなっているという事は当然ヒョウの入ったユキの鞄はアサヒが持っているという事になる。そしてそれはつまり……。
「「ええっ!?」」
そこにはヒョウが未だにスヤスヤと可愛らしい寝息を立てて寝ていた。そして、先程のゴソゴソはヒョウが寝返りを打ったか何かで彼が鞄の中で動いた音だった。尚、彼がここまで起きて暴れなかったのを見ると恐らく鞄の中という事で周りが暗かったためにまだまだ朝になってないと彼の脳が勘違いしてしまったらしい。
「ちょっ、ちょっとアサヒ!?何でヒョウ君がここにいるの!?まさかアサヒが悪口の腹いせに連れ出すために……」
「待て待て、それは誤解だって!俺がコイツを鞄の中に入れて持ち運ぶなんて幾ら悪口言われたからってやらねぇよ!」
アサヒが慌てて鞄に書いてある名前の枠を見るとそこにはユキ・ハレワタールと書いてあった。更に鞄に付いているミラージュペンと鞄の中のスカイトーンがユキの物であったため、どうにかましろ誤解は解ける事になる。
「ユキ……多分さっき取り違えたんだな。だけどユキが何で……」
「あっ。もしかしてヒョウ君、ユキちゃんの部屋にいたとか?それで着替えとかで困って入れっぱなしにしちゃったのかも」
「なるほど……取り敢えず、コイツに起きてもらわないと話すらできないな。ましろ、取り敢えず学校に行くぞ。話はそれからだ」
「うん」
こうして、まさかのヒョウを学校に持っていくという珍事が発生してしまったがため、アサヒとユキは急いで学校に行く事に。
そして学校に到着後、すかさず二人はアサヒの鞄を持ったまま急いで話を済ませるべく屋上へと行くのだった。
また次回もお楽しみに。