「いや、無理だと思うけれど?」
「えぇっ!?」
私だって助けてやりたい気持ちはある。
あんなに色々とハイスペックそうで…その、色々と豊かな子が追い詰められてるというのは私としても嫌である。
どうせなら元気になってほしい、そうしてくれたら何の躊躇いもなく妬む事が出来るから。
…だけど、ねぇ…
「ファーストコンタクトが最悪なのよ、多分あの子から見て私は異常な存在として映ってる筈よ」
ヒナはシナってくれたから穏便に解決したが、ホシノとやらの反応を見るに私の振り撒く能力…嫉妬を煽る力は、人によっては恐怖の対象として見えるらしい。
多分、会長の感じ方はそのタイプだったのだろう。
明らかに私を見る目が怯えている人のソレだった…
…大丈夫、慣れてるわ、慣れてるから…
「…大丈夫?泣いてる?」
「勝手に泣かせないでもらえる?」
確かにちょっと傷付いたけれど、それで泣く程私のメンタルはヤワじゃない。
と言うより、自分が怖いと言われるのは今に始まった事ではないのでいちいち気にしていても仕方が無いという、そんな悲しい理由もあるのだが。
「…成程、では…協力は仰げないと…」
「あら、そうは言ってないけど?」
確かに会長から私への印象は最悪かもしれない。
だが、私の能力は、私の得意技は何だかお忘れか?
そんな事、いくらでも『操れる』。
「私は私のやり方で、助けてあげるわ」
助けを求めている人がいるというのなら、手を差し伸べてあげようではないか。
理由がどうであれ、私は人助けが大好きなのだ。
人助けを行えば、妬める人が増えるのだから。
幸福になる人が増える程、私は相対的に不幸になるのだから。
◇◇◇
「なんて啖呵を切ったけれど…」
どうするか、と溜息を吐き出す。
少し前に反省したばかりだと言うのに、また溜息が出てしまうのはもう癖なのだろう。
だが、溜息くらい許して欲しい。
正直な所、何も考えていなかったのだから。
綺麗な星の煌めく星空を眺め、思慮に耽る。
地底では見れなかった光景、私にとっては中々貴重な体験が出来ているように感じる。
…私の嫉妬心を操る、この力。
確かに私の能力を使って無理矢理嫉妬心を植え付ければ、洗脳のような事をする事だって出来る。
その応用で、記憶や悩みを消す事も…ただ…
「そういう事じゃないのよねぇ…」
それだと、自分の悩みから逃げているだけだ。
時には逃げる事も大事ではあるが、私が求めているのはそういう話ではないのだ。
正面から悩みに立ち向かい、それに打ち勝った上で幸福を手に入れる。
それこそ、妬むに値するストーリーなのだ。*1
だからこそ、困っているのだ。
バカ正直に『悩みを教えて!』と聞きに行った所で話してくれるような人ではないという事はヒマリから聞いたので知っているし、それに加えて私が行くとなるとただ警戒されるだけだろう。
…この状況で、最も適切な行動はなんだ…?
ヒマリが言っていた話を思い出す。
会長を悩ませる原因となった『AL-1S』。
アリスと呼ばれる、人型のロボットだと言う。
…私は機械には疎いのでよく分からないが、放っておくとキヴォトスを滅ぼしてしまうという恐ろしいマシンなのだそうだ。
ならば壊してしまえば良いではないか、と言いたいのだがそうもいかない。
どうやらそのロボットには感情があり、意思があり、今は楽しく生徒達と遊んでいるそうなのだ。
言葉だけ聞くと妬ましいが、裏で色々と揉めている事を考えると私の方が幸せかもしれない。
そもそも、その子はキヴォトスを滅ぼしてしまう可能性があるというだけなのだろう?
実際に何か事件を起こした訳じゃない、そういう視点から考えるのなら吸血鬼御一行や白玉楼の霊共の方が余っ程やらかしてると私は思う。
だが、これは私の世界での常識だ。
会長の言う事も正しいし、アリスとやらも会長も助けてやりたいというヒマリの気持ちも分かる。
これを抱え込んでいるのが皆、子供だというのだからキヴォトスは狂った世界だと思う。
幻想郷の巫女さんもまだ幼い少女ではあるが、あの子には支えてくれる人がいたではないか。
スキマ妖怪が、紅い月が、山の仙人が。
彼女には支えてくれる大人がいたではないか。
…ん?…そうだ…そうじゃない、いるじゃない…!
「頼りになる『大人』がもう一人!」
◇◇◇
ゲーム開発部の皆、そしてヴェリタスの皆と協力して『鏡』を手に入れる事が出来た。
こんな時間まで外へ出掛けていたとなると、帰ってからの仕事が恐ろしい…などと、くだらない事を考えながら、帰路を歩く。
「また会ったわね、先生?」
そんな事を考えていたからだろうか、話し掛けられるまで目の前の電柱に寄り掛かっていた人物に気が付かなかった。
“えっと…パルスィ…?”
「あら、覚えていてくれたのね?…アビドスで会った時以来かしら、こうして顔を合わせるのは…」
水橋パルスィ、私と同じ外の世界から来た大人。
ヘイローがない、そして銃を持ち歩いていない、私と同じ一見無警戒な大人。
そして、黒服も知らない謎多き大人。
「お疲れ様、メイドさん達と一悶着してきたんですってね?大変ね、メイドってのは物騒な生き物だから…」
メイドは生き物の分類じゃないよ、と思わずツッコみたくなるが、先程までの私達の行動を知っているという事がそもそも不気味である。
恐らく、此処で私と会ったのも偶然ではなく、故意的な行動なのであろう。
“…で、君は何が目的なんだい?”
だからこそ、此方から切り出す。
相手にペースは握らせない、疑っているという訳ではないが此方に有利な展開にさせてもらう。
そう問い掛ければ、彼女は困ったように語る。
「そうね…先生、アリスの事についてよ」
彼女がアリスの事を知っているのは予想していた事だが、まさかアリスについて話してくるとは。
彼女はアリスの正体を、アリスが何処で見つけられたのかを知っているのだろうか?
「アリスを守ってあげなさい、私だと力不足だから…どうか、アリスの事をお願い出来る?」
けれど、彼女が口に出したのはそんな言葉だった。
予想外の答えに、身構えてた自分も思わず放心する。
…わざわざ、そんな事を言う為に来たというのか?
“当然だよ、生徒は必ず守る”
だが、言われるまでもない。
アリスは私の大切な生徒だ、そして生徒を守るのが先生の役目というものだ。
それを聞いて、望んだ答えが得られたのか否かは分からないが、彼女は僅かに頬を緩める。
「…実に頼もしいわね、全く妬ましいわ」
“おかしくないかな!?”
外の世界から来た大人、という存在。
些か警戒し過ぎていたのかもしれない、少なくとも目の前に立つこの女性は…
「ふふっ、ぁ〜・・・妬ましい、妬ましい」
悪い大人には、見えなかった。