えーっと…此方、水橋パルスィ。
今、私はと言うと…なんだか、とても凄い都市のような所へ来ております。
一体、私の身に何が起きてしまったのか…
「…大丈夫?呆けた顔をしているようだけれど」
「ん、んん…えぇ、大丈夫よ」
現実逃避もこのくらいにしておこう。
仕方無いじゃないか、会長に招かれて着いて行った先に、こんな都市があったのだから。
そりゃぁ、驚く…私、幻想郷から来てるのよ?
こんなオーバーな技術力見せられて驚くなという方が無理がある、ミレニアムも充分凄かったとは思うが此処は、何と言うか桁違いである。
此処は要塞都市『エリドゥ』
ヒマリが言っていた、キヴォトスに訪れる危機に備えて会長が密かに作っていた防衛施設。
ミレニアムの生徒会、予算管理をしている部署から横領した資金で建てたという、セーフハウス。
やっている事が悪人過ぎる、妬ましい。
…まぁ、本題に戻らせてもらうとしよう。
私が此処に居るという事は、詰まる所、会長の心の隙に付け込む事に成功したからだ。
計画通り、と言いたい所ではあるが、正直ヒマリの下準備や指示が無ければこんな都合の良い展開にはなっていなかったので素直に感謝しておく。
それはそうと、その有能な頭が妬ましい…
私は、会長を救うという使命を達成する為のスタート地点に、ようやく立てたという訳だ。
…随分と長い道のりである、折角空部屋を用意してもらったと言うのに、ミレニアムに来てから一睡も出来ていないというのはどういう事か。
その影響がモロに出ている、とてつもなく眠い。
酒類を手に入れる手段が極端に少なくなってしまったせいで夜な夜な飲む事も出来ていないのだ。
生活習慣が、整ってしまったのである。
酒類の件は今度ブラックマーケットとやらで探してみよう、などと朦朧とした意識の中で考えていると、隣を歩く会長にまた話し掛けられた。
「水橋さん、私は今からAL-1Sの監視を行うわ…その間、トキとお茶でも…どうかしら?」
此処に来るまでの会話で、分かった事がある。
会長は感情があまり表情には出ないが、それ以外の所から思っている事が駄々漏れだと言う事だ。
これは私の能力が〜、とかそういう話ではなく、人間の行動的な話の方である。
今のも分かりやすい、此方を気遣ったような瞳で、心配をした様な声色の言葉。
私とメイドさん…トキが仲良くなってくれるようにと、会長なりの不器用な気遣いなのだろう。
妬ましい、と言ってやりたい所だが、その心構えというのは立派なものであると思う。
不器用な人がそれを自覚して、周りに気遣えるというのは妬ましいというより微笑ましい事である。
ただ一つ、私がとても眠いという事を除くならだ。
◇◇◇
「パルスィ様、此方のポテトチップスは如何でしょうか、私のイチオシなのですが」
「あぁ、うん、ありがとうね」
紅茶にスナック菓子という組み合わせには違和感を感じるが、味は良いのでツッコまないでおく。
キヴォトスというのはやはり凄い、幻想郷では苦労して行っていた調理や滅多に食べる事の出来なかった食材が、容易に手に入れられるのだ。
このポテトチップス、というものもそうだ。
っと、私の趣向の話になってしまった。
紅茶のお陰で眠気も覚めてきた事だし、成果とやらを纏めていこうではないか。
会長の粋な計らいで行われた、メイドさんことトキとの小規模なお茶会…というか、オヤツタイム。
ヒナに内緒でこんな不摂生な事を…そんな罪悪感が、またこの時間を堪らなく感じさせて…
違う、そういう話ではないと言っているだろう。
私とトキは、打ち解けられたのかという話だ。
結論から述べると、打ち解けられたと言って遜色のない程度には親しめているのではなかろうか。
彼女も会長と同じで、表情には出ていないが感情の起伏は感じ取れるタイプの人間だったのだ。
会長に比べるとそこまで顕著ではない…というより、そこまで感情自体揺れ動いているようには見えないが、それでも分かる時はしっかりと分かる。
案外親しみやすい言動や行動も相まってか、割とすぐに仲良くなる事が出来たと思う。
私の能力はどちらかと言うと負の感情を操るものなので相手が私をどう思っているかは分からないが、少なくとも私を嫌ってはいないという事は、今までの経験や知識、感覚等で感じ取れる。
会長の計らいは、成功したというわけだ。
「…
「ぶっ、ふっ…ふふッ…」
それに、私が思っていたよりもだいぶ、彼女は愉快な人だった。
ナチュラルにこういう事をやってのけるのは、ある意味才能だと思う…才能、妬ましいわね…
なんでもかんでも妬めば良いってもんじゃない?分かってるわよ、そのくらい…
そんなこんなで、会長提案の、私とトキのお茶会は無事に終了した訳だ。
ただ、私の中に残ったモヤモヤはあるが。
トキからは会長やヒナと同じような、心に隙があると言う程の弱みは感じ取れなかった。
だが、それでも、彼女はまた違った何かを思い悩んでいるようだった。
…ただ、目の前の彼女は割と元気そうだ。
私から見て、充分妬めるくらいのメイドさん。
ならば、私が彼女の事を気に掛けるといった事をする必要はないだろう。
もし、彼女が救いを求めているのだとしたら。
それを救うのは、私ではない大人…それこそ、先生やその仲間達である。
先生も大変だな、などと苦笑しながらゴミや机を片付けるトキの事をぼーっと眺めていた時だった。
後ろにあった壁が四方に開き…それ扉だったの?
その奥から、此方へ歩みを進めてきた会長。
「貴女は、スマホを持っていないと聞いたわ」
そう言って、何やら薄い、板状の電子機器を私に差し出してくる。
何だこれは、と軽く手で突いてみれば、表面が光り恐らく今の時間であろう数字が表示される。
…ぁ〜・・・アレだ、確かヒナが持っていた連絡機器の一種だった気がする。
何やらこの機器…スマホ?を見る度に顔を顰めて溜息を零していたのを覚えている。
「…これ、私にくれるの?」
「えぇ、それが無いと…いざという時に、貴女を呼ぶ事が出来ないから」
私とトキの連絡先は入れておいたわ、と心無しかドヤ顔で語る会長。
宝の持ち腐れである、持っていたとしても使い方が分からないので結局の所、意味がない。
ただ…この場面で押し返すのも、何か…
「そう、ありがたく頂くわ…」
そんなこんなで私は、思いも寄らない形で使い方の分からない連絡機器を手に入れた。
…帰ったら、ヒナに使い方を聞くとしよう。