ミレニアムに来てから、早数日。
なんだかんだ居心地が良いからと、コユキのいる反省室に今日も来ている私。
そんな私のもとに、一件の連絡が送られてきた。
「…なにこれ?」
「うわぁぁあ!?リオ会長から!?」
そう、連絡が送られてきたのだ。
此処で問題が発生する。
私に分かるのは『連絡が送られてきた事』だけであり、私にこのスマホの操作方法は分からない。
詰まる所、今何が起きているのか理解出来ていない。
「コユキ、これはどういう事なの?」
だからこそ、都合の良い人物に助けを求める。
反省室に来ていて良かった、今この場にコユキがいなかったら何も分からずにただただ棒立ちするしか出来ない所だった。
それは言い過ぎにしても、本当に困っていただろう。
「ぇっとぉ…『AL-1Sが被害を出したわ、今すぐこの場所へ来て』…って、写真が添付されてますね」
地味に声真似が上手いのが、何故か腹立つ。
コユキという少女と関わって分かった事なのだが、この子は人を怒らせる才能があるらしい。
私は嫉妬心が強い故にキレはしないが、相手が相手だったら殴られるレベルだろう。
そんな事を考えながら、コユキに手渡したスマホの画面を横から覗き見る。
これは…恐らく、ゲーム開発部の部室だ。
直接見たわけではないが、『雀』を通して覗いた時のアレが印象深く記憶に残っているため、一目見ただけで分かった。
今ここでこの連絡が来たという事は、会長はアリスをエリドゥへ連れて行くつもりなのだろう。
そして、恐らくは…破壊する気だ。
既に分かっていた事ではあるが、一人の子供に背負わせるには酷すぎる事だと思う。
だが、私はその役割を変わってやれない。
私は、この世界の人間ではない。
それと同時にミレニアムの人間でもない、どちらかというなら立場上はゲヘナの人間である。
そんな事をして、ヒナに迷惑は掛けられない。
確かに救うとは言ったが、ただの感情論と住まいや資金を提供してもらっている恩。
どちらが重いかと言ったら、圧倒的に後者だ。
とは言え、救うという事をやめる訳では無い。
私は私なりのやり方で、彼女の協力者を遂行する。
そして、元気になった彼女とヒマリの事を、心から妬んでやるのだ。
「ごめんなさい、用事が出来たから」
「えぇ〜っ!?もう行っちゃうんですか!?」
これはこれから私達が引き起こす騒動の序の口に過ぎないであろう。
AL-1Sを破壊する事を目的に動く、私達。
アリスを救う事を目的に動く、先生達。
私がやらなければいけないのは、会長に協力しながら先生達に勝たせるという、矛盾した事。
私は彼女を裏切らない、だが、アリスを破壊する事も出来ない。
私は会長にアリスを殺したという責任を負わせたくはないし、アリスにも死なれたくはない。
私は、非力だからこんな事しか出来ないけれど。
「…頼んだわよ、先生」
生徒の味方だと言う、先生ならば。
きっとアリスを救い出して、この物語をハッピーエンドへ導いてくれる筈だ。
だから私がするべき事は、会長の苦労を、苦しみを分かってあげる事だ。
多分、ヒマリが望んでいるのはそういう事だ。
先生は全ての生徒の味方だと言ったらしいが…
その手の届かぬ生徒は、一定数存在する。
会長はその『一定数』なのだろう。
「はぁ…不平等なこの世の中が、妬ましい…」
妬む事しか出来ない、こんな私だが。
『妬む事』に関しては、全力で取り組もう。
あの
◇◇◇
「ぜんぶ…アリスが、いるから…?」
「アリスが『魔王』だから起きたことですか…?」
状況は決して良いとは言い難い。
ネルは5人目のC&C…トキに、拘束されている。
ゲーム開発部の二人は動けるが、AMASに対抗するには私の指揮があったとしても力不足だ。
それに、一番の問題は…
「アリスが…アリスが勇者じゃないのなら…」
アリス本人の心が、折れかけている事だ。
アリスは優しい子だ、自分の責任を問われるような事を…モモイの怪我の事を、掘り返されたら。
責任を感じてしまう、罪を認めてしまう。
「…アリスは、消えるとします…」
そんな事、絶対にさせてはいけない。
アリスが死ぬなんて、誰が納得出来ると言うのか。
ゲーム開発部の皆も、ネルも、ユウカ達だって。
アリスが殺されるなんて事は、望んでいない筈だ。
“アリス、その必要は…”
「いいえ、あるのよ…先生?」
先程まで其処にいなかった筈の彼女が、続ける。
冷え切った緑色の瞳が、この場にいる生徒達の事を威圧し、恐怖で縛り付ける。
…いや、リオとトキは想定内といった様子だ。
つまり、この状況は…
“パルスィ…!”
パルスィは、恐らくリオ側に付いている。
つまり、私達の敵であるというわけだ。
生徒と生徒の争いが、生徒が生徒を殺めるという、絶対に阻止しなければならない展開が。
今、大人が介入した事でその姿を大きく変えた。
これは、もう生徒同士の騒動ではない。
言ってしまえば、黒服と行ったそれと同じ状況になってしまったのだ。
「先生…今まで、ありがとうございました…」
アリスがリオに連れられ、この場から離れる。
どうにか引き留めようと試みるが、AMASによる制圧と…パルスィの存在があり、私達は動けない。
力不足だ、私にこの状況を打開する事は出来ない。
『大人のカード』を使うか?
いいや、駄目だ…相手には大人が付いているとは言えど、リオもトキも、生徒である事には変わりない。
その手は、避けなければならない。
ならば、どうしたら良いか?どうすれば良いのか?
己の無力さに打ちひしがれる私達の下へ、パルスィが駆け寄ってくる。
リオとトキの目を盗んで…二人がいなくなった僅かな隙に、私達の方へと。
「…先生、もしアリスを救いたいと言うのなら『エリドゥ』まで助けに来なさい」
そして、私にしか聞こえない声量で呟く。
相変わらず感情は読めないが、此方に敵意を持って…
挑発といった意図で言っていない事は確かだった。
つまりこれは恐らく事実であり、嘘ではない…正真正銘の宣戦布告というやつだろう。
だが、何故パルスィにそれをする必要があるのか。
『アリスを守ってあげなさい』
ふと、その言葉が記憶から蘇る。
…パルスィは、アリスのヘイローが破壊される事を望んでいる訳では無いのだろう。
だが、パルスィはリオの味方になった。
私が此方側に付くと理解していたからこそ、私の手の届かぬリオ達の方に味方した。
“…リオを、よろしく”
「はて…なんの事かしら?」
これは、私のミスだ。
生徒達全員の味方だと言いながら、見落としてしまった生徒がいたのだから。
私のミスを、パルスィが補ってくれたのだ。
だから、私は彼女の期待に応えなければならない。
アリスは、絶対に助け出してみせる。
何だか想像以上に反応を貰えて嬉しい限り…
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