前略、私達は負けた。
…アバンギャルド君?はなんというか、予想していた通り普通に負けた。
トキは…正直、ドン引きするレベルの自爆特攻をしたチビメイドさんが叩きのめしていた。
キヴォトスの人間は頑丈な筈なのにあそこまで血を流しているとは、どれだけの無茶をしたのか…
「トキが倒れた時点で…私の持っている手札は、すべて使い切った」
当然というべきか、私は戦力外として認識されているらしい。
正直、その方が助かってはいるのだが。
「認めましょう…私の…」
「えぇ、私達の負けね」
『私の負け』とは言わせない。
この少女一人に、背負わせるような事はしない。
それがヒマリとの約束の内容であり、彼女を守るという事だから。
…どうして私はこの約束に拘っているのだろうか。
おかしい、私が会長を守ると決めたのは彼女が妬めない程に弱っていたからで…
…まぁ、たまには子供の我儘を聞くのも、大人の役目だと言う事だろう。
「貴女…」
「何よ、その顔は…私『達』の負けでしょう?」
さてと、此処からは私が出張る番だ。
このままだと、この物語の悪役ポジションは会長と私になってしまう。
それは避けなければならない、会長だって頑張った…それに、私が他校で問題を起こした事が風紀委員会にバレると色々とマズイのだ。
「さてと、先生…少々、お時間いただくわよ?」
私の全力の
◇◇◇
「先生、私は貴方達の行動を否定するつもりはない」
「けれど、今回のソレは少し違うんじゃない?」
「確実性のない感情論で動いて、来たるべき厄災を無視して自分勝手に行動する…」
「無関係の人から見て、悪役はどっちかしら?」
煽るような口調で、それでいて平坦な、淡々とした喋り方で彼女は語る。
彼女の語る内容は正しい、私だって理解している。
だが、私にだって自分の目指す夢がある…それに、私がそれを認めてしまう事を彼女は望んでいないだろう。
“私は悪役だって良いよ、生徒を救いたいだけだから”
だから私は、彼女と大人の戦いを…
…いや、大人の口喧嘩ってやつをする事にした。
「へぇ…リオ会長の事は、知らんぷりかしら?」
“リオには、君がいたからね?”
私は、リオの味方にはなれない。
リオの味方になるという事は、モモイ達の敵になる。
モモイ達の味方になるという事は、リオの敵になる。
モモイ達…ゲーム開発部の味方として動いていた私に、リオの事を守る事は出来なかった。
「…それ、先生としてどうなの?」
“私は信頼出来る大人に、大切な生徒のことを任せただけなんだけどなぁ…”
多分、パルスィも同じ考えだったのだろう。
自分は自分の役目を全うし、自分の手の届かない範囲の子供を、もう一人の大人に任せる。
結局の所、パルスィもリオを気遣ってるだけなのだ。
“今回の件…パルスィは、誰が悪いと思う?”
だから、信頼した上でこの質問をする。
パルスィなら、きっと答えが分かっている筈だ。
「…そうね、全員よ、皆、間違ってるわ」
「言葉足らずな会長も、変に不器用なヒマリも、自分の願望を押し付けた貴方達も…」
「そして、私達みたいな非力な大人もね?」
パルスィは、罪を背負わない道を選んだ。
自分が罪を背負えば、きっとリオは責任を感じる。
逆に背負わないと、リオがその罪を背負ってしまう。
だからパルスィは、私達全員に罪を被せて、皆で罪から逃げる事を選んだ。
「だから私…いや、私達は今回の件について反省する気なんてこれっぽっちもないわよ?」
「ぇ〜っ!?ズルくない!?」
と、モモイから不満の声があがる。
文句を言いたい気持ちも分かるが、今回の件は感情論だけで行動した私達にも非があるのだ。
「ズルくないです〜・・・強いて言うなら資金の横領の件を会長に謝らせる事くらいです〜・・・」
「ぅッ…」
詰まる所、パルスィの主張も正しいのである。
アリスのヘイローを破壊するというのも未遂に終わったし…何なら、パルスィは最初からそんな事をするつもりなど無かったのだろう。
だからこそ、私にアリスの事を託したのだと思う。
これは後から聞いた話だが、コユキと関わっていたパルスィは資金の横領の手口を理解していた。
これに関しては妬ましかったので、ちょっとした悪戯のつもりで言ったらしいが、思ったより効果は抜群だったようで本人も少し困惑していたと語る。
「だから、会長…貴女はね、変に責任を感じる必要なんてないのよ?」
「貴女はね、立場を気にし過ぎなの…頼っても良いの、逃げても良いの…それこそ、美少女ハッカーさんが助けてくれると思うわよ?」
〚超天才清楚系病弱美少女ハッカーですよ?〛
なんてやり取りをしている二人を微笑ましく思いながら、リオの方に向き直ってみる。
あれは…驚愕と、困惑が混じった表情だ。
恐らくだが、彼女はパルスィの言う通りに責任を感じていたのだろう。
だからきっと、罪を背負うつもりだった。
「たまには青春しましょうよ、生徒会長さん?」
それを見越した上で、パルスィは逃げ道を提示する。
とても魅力的な、悪魔の囁きを。
私とはまた違った形で、同じ立場に立つ事で、パルスィは生徒に寄り添おうとしていた。
「…だ、だけど…」
「良いのよセミナーの仕事なんて、コユキ辺りにでも押し付けておけば良いじゃない?」
あの子ちゃんと頼めば案外やってくれるわよ、と悪戯っぽく微笑む彼女の姿。
それを見て絆されたのか、リオも気の抜けたような、肩の荷をおろしたような溜息を零す。
「…青春って、具体的に何をするのかしら?」
「ぇっ…ぁ〜・・・ヒマリ!」
〚皆で喫茶店に行く、そんな些細な事ですよ〛
自分で言っておいて答えられないというのは果たしてどうなのだろうか。
少し呆れていると、彼女と目が合う。
少しの間が空いた後、彼女はこんな質問をしてきた。
「先生…アリスは、人間だと思う?」
“うん、アリスは人間だし…私の生徒だよ”
その答えを聞いて満足したように、彼女は笑う。
普段は無愛想な彼女の、滅多に見せない笑み。
それは大人と言うには少し無邪気な、子供らしい笑顔だったと思う。
これが、彼女の素なのだろうか。
そんな事を僅かながらに考えて、頭の片隅にその笑顔を仕舞い込んだ。
「そうよね…人間なんだから、感情も、夢も…勇者にだってなれる筈よね?」