透き通った世界の下の嫉妬心   作:хорошо!

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割烹着が似合う女

「お昼ご飯を食べようと思う」

 

そんなこんなで作業をしていた私達なのだが、ふとヒナがそんな言葉を呟いた。

正面の壁に立て掛けられた時計に目を移せば、確かに時計の針は十二時過ぎを指している。

丁度、昼餉時と言っても良い時間帯だろう。

 

「あぁ、ゲヘナ学園には食堂があるんだっけ?」

 

「うん、給食部の二人が運営してる」

 

ゲヘナ学園の給食事情は、給食部の生徒達が料理することによって解決しているらしい。

実に過酷である、キヴォトスはやはり子供に厳しすぎる環境なのではなかろうか。

まぁ、本人達がそれで良いというのなら私は別に否定する気はないのだが…いや、ちょっと待て。

…ん、二人?…流石に聞き間違え…?

 

「そう、フウカとジュリの二人」

 

どうなっているんだキヴォトス…この場合はゲヘナか?

別にどっちでも良いのだが、倫理観というものが仕事をしてないのではなかろうか。

大雑把にしか把握していないが、数千人はいるであろうゲヘナ生の給食を、二人で賄っていると?

学食を利用しない生徒もいるかもしれないが、それを加味しても色々とぶっ飛んでいる。

 

冗談はよしてくれという目でヒナの方を見直すが、ヒナは頭の上に『?』を浮かべるばかり。

…どうやら事実らしい、可哀想なものだ。

だが、そこの問題に関しては私がどうこう出来る問題ではないので見て見ぬ振りをするしか無い。

噂の二人に同情しつつも、私だって食事はしたいのでヒナと共に食堂へと赴く。

 

壁に大穴が空き、騒動が起きている食堂へ。

 

「美食研究会…ここ最近の私の調子が悪かったからってここまで派手に事を起こすの…?」

 

不良生徒なのか一般生徒なのかの判断は付かないが、暴れている生徒達を見て思わず溜息を零す。

ヒナの説明によると、給食部の一人…フウカは美食研究会というテロリスト集団に毎度お馴染みと言った如く、しょっちゅう拉致をされているらしい。

前世で何をしたらこんな理不尽に巻き込まれるのか、もはや何かの呪いの類なのではなかろうか。

 

まぁ、今回もそのパターンなのだろう。

給食部の部長であるフウカがいなくなった事により、ゲヘナの食堂の主はいなくなってしまったわけだ。

不幸は重なり、もう一人の部員であるというジュリも今日は丁度学校を休んでいるという。

最悪である、不幸の連鎖とはこういう事を言うのか。

 

「…はぁ、ねぇ…ヒナ?」

 

その美食研究会とやらがとてつもなく妬ましくなってきたが、今は目の前の問題をどうにかする方が先だ。

妬んでばかりでは何も出来ない…私が言っても説得力がないような気はするが、飲み込んでほしい。

今私の目に写っているのは暴動を起こす生徒達と、調理されずに積み上げられた食材。

 

「調理場、借りても良い?」

 

不本意ではあるが、私だってお腹は空いてる。

作る人がいないというのなら、此処は私が手料理を振る舞ってあげようじゃないか。

 

 

◇◇◇

 

 

水橋パルスィという橋姫は、料理が非常に上手い。

本人の性格的に裏方に回ることが多い彼女は、宴会の場などでも調理に徹する事が多かった。

地底にいる妖怪は、鬼などを含め大喰らいな者が多い、味に拘りつつも量を作るとなると、相当の労力と知識、そして効率の良さが求められてくる。

だからこそ、パルスィは料理が得意だった。

 

「…はい、こんなのしか作れないけど」

 

多少の時間はかかったものの、まだ昼餉時と言える時間…パルスィは、あの状況から人数分の料理を…肉じゃがを、どうにか作りきってみせた。

本人は謙遜しているが、紅魔館のメイドや白玉楼の庭師とはまた違うベクトルで、この橋姫の調理技術も幻想郷で上位に君臨するレベルなのだ。

そんな料理を既に口にしているヒナは、心無しか誇らしげな様子…別に貴方が凄いわけじゃなかろうに。

 

割烹着を着たパルスィは『雀』を活用し、ヒナと共に大鍋から肉じゃがを配膳する。

ヒナの前でこの能力を使うのは初めて故にギョッとされていたが、まぁ、正直今更であろう。

武器も無しに戦えて、空を飛ぶ事も出来る少女が急に分身しようと、なんの不思議もないだろう。

 

見た目は地味だが、料理人の腕は確かなその料理。

混沌としか言えないような性格をしたゲヘナの生徒達も、その出来栄えには満足したようだった。

 

「…うまっ!?」

 

「何これ…美味しい…」

 

フウカの腕が悪いとは言わない。

だが、数百年単位で自炊をしてきたパルスィの料理センス…そこに、幻想郷には無かったような便利調理器具や調味料が加わるのだ。

相手が悪いというか、勝てる方が凄い。

そこそこの頻度で作っていた肉じゃがという事もあって、その出来は目を見張るものがあった。

普段は暴れ回り、叫び回るゲヘナの生徒が、この時ばかりは普段より大人しかったという。

 

 

◇◇◇

 

 

「『料理上手な謎の風紀委員』ですか…惜しいですね、丁度タイミングが被ってしまったようで…」

 

美食研究会の部長、黒舘ハルナは残念そうに呟く。

今話題になっているある風紀委員、その人が調理をしたという日と、自分達がある食材の情報を聞いて校外へ出向た日が被ってしまったからだ。

美食を探求する者として、これは非常に残念な事だ。

いっその事、その風紀委員を拉致してしまおうか…そんな思考に至った所で、背後から声を掛けられる。

 

「ハルナ」

 

「…おや、風紀委員長さんではありませんか…えぇ、この私に何か御用ですか?」

 

風紀委員長、空崎ヒナは苛立っていた。

普段のヒナならこのような事はないのだが、久々にパルスィと会い…能力の影響をモロに受けたヒナは、その嫉妬心を爆発させていた。

滞在中にパルスィと仲良くしていたであろうミレニアムの生徒達に、ここでは自分だけが知っていたパルスィの料理の味を他の人にも知られてしまった事に。

 

そして…

 

「…やり過ぎ、少しは反省しなさい」

 

折角のパルスィとの昼食を、台無しにしかけた目の前の人物…黒舘ハルナに、苛立っていた。

 

「不本意ですね…私は、美食を追求しているだけなのですが…えぇ、お相手はいたしますよ?」

 

逃げ場がないと判断したハルナは、応戦する。

お互いの得物を構えた両者の争いは、話題にならない程に一瞬で決着が付いたらしい。

結果は当然、ヒナの圧勝である。

いくら何でも、美食研究会が揃っていない…ハルナ一人での戦闘は、流石に無謀であった。

 

後日、風紀委員の八つ当たりの的とされているハルナの姿が目撃されたとか、されていないとか…

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