明日以降投稿されてなかったら察してください…
黒服の名刺に書かれた住所を検索しながら飛び回り、辿り着いたそこはとあるビルの屋上だった。
雲行きが怪しく風も強くなってきているのだが、本当にこんな場所にいるのだろうか。
そう思っていたが、そこには椅子に座り悠々と珈琲を嗜む黒服の姿があった。
「…随分と良いご身分ね」
「えぇ…最近は肌寒いので、外にいると温かい物が飲みたくなるものでして」
確かに最近は寒い、こんな中でミニスカを履き生脚を露出させ…中途半端に腕も曝け出している様な服を着ているようなマゾヒストもいるらしい。
そう、私の事である、これしか服がないのだ。
インナーを着ていたり首元の防寒はしていたりと案外寒くはないのだが、流石に足はキツイ。
飛んでいる時とかは風が直で当たるし、正直な所タイツとかを履こうか割と真剣に悩んでいる。*1
…なんだか関係ない話をしていた気がする。
私が彼に会いに来た理由を忘れてしまう所だった。
なんだかんだで18時過ぎ、ホシノの行方を追う事も考えると、早く要件を聞きたいのだ。
事が上手く進まなすぎて苛立って来た、ひとえに私が不器用なのが悪いのだが…
そんな私は、八つ当たりの代わりに地団駄を踏みながら黒服に問う。
「で、私に話したい事ってのは何なの?」
『聞かねば後悔するような話』…それが、どの程度の後悔なのかの想像は付いていない。
後悔と言ってもくだらないものかもしれないし、ヒナやケイの安否に関わるようなものかしれない。
私の目の前にいるのはキヴォトスで散々接してきた子供の生徒ではなく、大人なのだ。
下手に隙を見せれば呑まれるのは私…心の隙を突くというのは、能力が無くても出来る。
だから、隙を見せないように立ち回る。
平静を装いながら、焦らずに平坦な声で問う。
内心では気が気でないのだが、それが悟られたら不利になるのは間違いなくこちら側である。
皮肉な事に、自分を偽り感情を隠すというのは私の得意分野なのだ。
この技術によって私は数多くの人を殺めた…今思えば、あまりに滑稽な昔話である。
「クックック…パルスィさんは、此処…アビドスの砂漠へと赴いた事がありますか?」
「話には聞いてるけど…直接行った事は無いわね」
アビドスの自治区内に広がる、広大な砂漠。
嘗ては人が住み栄えていたらしいが、砂嵐の影響で砂に埋もれ砂漠と化した地帯。
お宝が埋まっているだとか何とかで私が軽く気になっていた場所でもある、ただの興味本位だが。
だが、それがなんだと言うのだろうか。
「アビドスの砂漠…其処には、とある神を生み出す為の預言者の内の一つが眠っているのです」
神の預言者、というとどんなものだろうか。
信仰を集めて擬似的に神を作り出すような…現人神的なソレなのだろうか。
幻想郷にも妖怪の山に現人神の巫女がいた筈だ、ああいう解釈で良いのだろうか。
詳しく聞けるような雰囲気でも無いので、自分なりにそういう風に考えて飲み込んでおく。
「これはあくまで契約や取引などではない『提案』なのですが…是非とも、それと戦ってはみませんか?」
「…期待してる所申し訳ないけど私に戦闘力はないわ、ヘイローも銃も持っていないでしょ?」
私がソレと戦うメリットは存在しないだろう。
彼なりに報酬なども出せるのかもしれないが、その為だけに彼の提案に乗るというのは些か危険である。
それに、彼は私に戦闘力がある事を知らない筈だ。
ミレニアムで使ったスペルカード…あれも、直接見たのは数人だけだし、その数人も私自身が口止めしたので外部には漏れていないだろう。
よってそう答えるが、彼は余裕そうな態度を崩さずに相変わらず珈琲を口に含み、笑う。
何がそんなに面白いんだとは思うが、流石に笑う事に妬ましさを感じる程私も浅はかではない。
そんな時、黒服は今まで忘れていたと言わんばかりにあっさりとその言葉を口にした。
「あぁ、そう言えば…小鳥遊ホシノが丁度今、その砂漠地帯へと足を運んでいると風の噂で聞きましたね」
「…後悔するって、そういう事を言ってたのね」
薄々分かってはいたが、彼は性格が悪い。
『聞かねば後悔する』という言い方をして私を此処へと呼び出し、断れないように逃げ道を断つ。
彼が私に脅しを掛けている訳ではない、これは私が勝手に自分の退路を断っているに過ぎないのだ。
だからこそタチが悪い、自分の手を汚さないからこそタチが悪いのである。
やはり、とてつもなく妬ましいかもしれない。
「こうなる事が分かった上で、仕組んでたの?」
「さぁ…私には、何の事かさっぱり分かりませんね」
あくまで彼はとぼけるつもりらしい。
実際その行動が正しいだろう、ホシノが砂漠に向かっているというのも私のやらかしが原因なのだ。
例えそれを含めて全て彼が仕組んだ事だったとしても、私はそれを証明する証拠を持っていない。
彼がやったにしろ、偶然にしろ、彼はこの行動をするのが一番正しいのである。
「…はぁ、仕方無いか…行ってくる…」
彼と睨み合って数十秒、これ以上話を続けた所で彼がボロを出す事はないだろう。
寧ろ不利なのは私なのだから、此方が口を滑らせてしまう可能性すらある。
それに、先程の話を聞いた以上私に悠々と茶を嗜むような時間は残されていなかった。
彼の目的というのは…多分、私なのだろう。
その神の模造品とやらがどれだけ強いのかは分からないが、私一人に倒せる程度のものならキヴォトスの住民に掛かれば案外勝てる範囲のものだろう。
その上で私にこう頼んで来るという事は、彼の目的は私の戦闘のデータを取る事、だろうか。
キヴォトスにはいない妖怪のデータ…何に使うのかは知らないが、恐らく貴重なのだろう。
「おや、貴女は戦えないのでは?」
「気の所為だったわ、やっぱ戦える」
いずれにせよ、キヴォトスにおいて相当な実力者であるホシノが勝てない程度には強いのだろう。
私も多少は気を引き締めていかねばならない。
自身の中の嫉妬心を高め、いつでも戦闘態勢になれるように準備を整える。
その状態を保ったまま、すぐに飛び立てるように妖力の意識を飛行へと集中させる。
「クックック…では、行ってらっしゃいませ…」
「…行ってくる、不本意だけれど」
そして、ゆっくりと浮き上がる。
具体的にアビドスの砂漠の何処にホシノがいるのかは分からないが…感情を辿れば、きっと見つかるだろう。
見つからなかったらお手上げである、素直に先生に頼らせてもらうとしよう。
そんな風に考え砂漠へと飛び立つ直前で、彼に一言伝えておこうと後ろに振り返る。
「…ぁ、そうだ」
「おや、どうかされましたか?」
まだ何か、と言わんばかりの表情を浮かべながら此方を見つめてくる黒服に伝える。
「私ね…悪い大人、案外嫌いじゃないよ」
「…それはそれは、どうも」
悪い大人…悪役は、自然と妬まれる。
当然の事ではあるが、悪行を行えば誠実に生きているものからは妬まれるし、疎まれる。
それは、決して褒められるような行為ではない。
だが、私にとって他の者が妬むような対象がいるという事はとても重要な事なのである。
嫉妬がこの世から消えれば、私という存在も…消えはせずとも、歪んでしまうだろう。
だから私は、嫉妬を生み出してくれる悪い大人という存在が案外好きであった。