透き通った世界の下の嫉妬心   作:хорошо!

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違いを痛感する静観の理解者

小鳥遊ホシノは、一人夜の砂漠を歩く。

感情の赴くままに思わず飛び出して来てしまったが、別に砂漠に用がある訳でも無い。

此処に来てしまった理由は、きっと…

…当時を思い出すのは、また今度にしておこう。

 

彼女はきっと黒服の仲間なのだろう、あんな言い方をしたのだからきっとユメ先輩の死にも関わっている筈…

だが、今はそんな事を考えている場合ではない。

彼女が本当に黒服の仲間だと言うのなら、後輩達にもその事を伝えなければならない。

ならば、今此処で一人歩いているのは無駄な行動だ。

 

もう既に辺りは暗くなってきている。

早く家へ帰って、明日朝早く登校して…いや、モモトークで皆に知らせたほうが早いかもしれない。

いずれにせよ、こんな所で道草を食っていないで早く帰宅するべきだろう。

そう思いながら来た道を戻ろうとした所で、僅かな違和感に気付く。

 

…地面が、揺れている?

ほんの微かな揺れではあるが、意識を集中させてみれば確かに砂が舞っているのが分かる。

砂嵐の前兆か、はたまた予震が来ているのか。

そんな思考はすぐに遮られる。

 

「…っ!?」

 

一際大きな揺れが起きると共に、目の前の地面から何かが地上へと飛び出してくる。

白く巨大な…機械の大蛇、だろうか。

黄色に輝く眩い瞳が此方を捉え…

 

〚Ghaaaaaaa!!!!〛

 

辺りを揺らす程の勢いで、雄叫びを上げた。

 

 

◇◇◇

 

 

「…貴女がこれから遭遇する預言者は、セフィラの最上位に位置する…天上の三角形の一角」

 

黒服の彼は飛び去った彼女を見送った後、口元にカップを運び再び珈琲を嗜む。

 

「そのパスは理解を通じた結合…『違いを痛感する静観の理解者』の異名を持ちます…」

 

「それは…ビナー(Binah)です」

 

彼が見ているのは、離れた砂漠のとある地点。

キヴォトスにおける最高峰の神秘を持った少女とその預言者が対面している、その光景。

 

「デカグラマトンの預言者を相手に、貴女のその能力はどれだけ作用するのでしょうか?」

 

「嫉妬心を操る女神の御前で、果たして新たな神というのはどれだけの意味を持てるでしょうか?」

 

「新たな神の神秘は、橋の守護神であり嫉妬深い鬼に並ぶ事が出来るのでしょうか?」

 

堪えきれないといった様子で、彼は笑う。

 

「そうです、これは非常に興味深い研究なのです」

 

空になったカップを机に置き、腕を組む。

 

「パルスィさんは、きっと今までに幾つもの神というものを目にしてきているのでしょう…」

 

「しかし今回のソレは、貴女の知っているソレとは違う…面白いものが見れると思いますよ?」

 

 

◇◇◇

 

 

「…アレよね、ビナーとか言うやつ」

 

ビルを離れて十数分、そこそこの速度で飛行しようやく見えてきた白い何かを見て呟く。

まだ距離があるのでよく見えないが、細長い容姿の機械が何かと交戦しているような動きをしている。

恐らく…いや、間違いなくホシノだろう。

 

枯渇しない程度に妖力を消費し、速度を上げる。

ホシノが強いのは分かっている、だがそれと同時にあのデカブツの強さが分からない。

黒服があんな言い方をして私を此処に差し向けたと言う事は少なくともホシノでは勝てない程度には強い筈。

手遅れになる前に辿り着かねばならない、それと同時にアレに勝てる程の余力を残しておかねばならない。

 

「あぁもぅっ…じれったい…!」

 

妖怪の山にいる何処ぞの鴉天狗ならこの程度の距離など一瞬で飛ぶ事が出来るのに。

紅魔館の電光石火のメイドさんなら時を止めて彼処まで動く事が出来るのに。

自分の能力を非力だと感じた事はないが、こういう場面では他の者の戦闘に特化した能力が羨ましく…いや、妬ましく思えてくる。

 

嫉妬心を操る、便利なようで不便な私の力。

確かにケイの時のように上手く能力が作用する事もあるが、嫉妬とは基本争いを生むものである。

忌み嫌われ、厄として遠ざけられ、疎まれる。

ホシノやリオ会長にはそういう形で作用してしまった、自分でもあまり好きではない能力。

 

ただ、それでも私はソレに縋るしかない。

私は嫉妬により力を得て、嫉妬を生み出す。

今私に出来る事は本心から他人を妬んで、出来る限り自分の力を伸ばす事。

だからどうか、私が辿り着くまで耐えてほしい。

微かに見え始めた人影に、そう願うのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

謎の機械から発せられるビームを盾で防ぐ。

隙を見てショットガンの弾を撃ち込んではいるが、ダメージが通っているのかは分からない。

元々戦闘に備えていた訳でもない為、弾薬の残量も決して良いとは言い難い。

このままいくとジリ貧だ、間違いなく私は負ける。

 

助けを呼ぼうとも思ったがこんな砂漠のど真ん中じゃきっと電波は圏外だろう。

それに、得体の知れない何かとの戦闘に後輩を巻き込むのも気が引ける。

どうにか打開策は無いかと必死に頭を回転させるが、これと言って良い案は思い浮かばない。

 

「くっ…!」

 

先程からヤツが動く度に砂が舞っており、それによって視界が狭まっている。

これのせいで普段なら避けれる速度の攻撃も、反応が遅れて避けきれない。

かろうじて盾で防ぐ事は出来ているが、それもいつまで持つか分かったものではない。

 

いっその事、一か八かの特攻を仕掛けるか。

大口を開け此方を喰らわんと突撃してくる大蛇…

その光り輝く瞳、機械に詳しい訳では無いが…ああいう場所は装甲が薄いのでは無かろうか。

チャンスは一度きり、失敗したり読みが外れていた場合は…考えたくもないが、恐らく『そう』なるだろう。

だが、やらないよりは幾分もマシだ。

 

盾をその場に置き、両手でショットガンを持ちありったけの神秘を込める。

ヤツがどう判断したかは知らないが、躊躇う素振りを見せず此方へと突っ込んでくる。

その瞳を狙って、一撃でも当てれば…

 

「…桜…?」

 

突然の出来事だった。

私が銃弾を放つ直前、ヤツの目の前に無数の桜が咲いたように見えた。

死に際に見る幻覚か…などと薄っすら考えた所で視界が緑色に染まる。

直後、私とヤツは吹き飛ばされた。

 

〚Ahhhhhhhhhh!?〛

 

「なっ…!?」

 

何故、銃弾を放っていないのにヤツはダメージを受けているのだろうか。

身体に痛みは無いが私は吹き飛んだ…つまり、自身の攻撃ではない事は確かなのだ…なのに、何故…

 

「あら、力加減…間違えたかしら…?」

 

その答えを提示せんと言わんばかりに、私の目の前に一人の女性が空から降りてくる。

そう、空からゆっくりと降りてきた。

私が散々嫌っていた、一人の大人が。

 

「神だか預言者だか知らないけど…本物の守護神に歯向かうってのがどれだけ愚かな事か…教えてあげる!」




因みにパルスィは各預言者との相性が最悪です。
能力が能力ですから対人以外だと輝きづらいんです。
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