『さてと、どうしようか』
私はこの危機的状況で、そんな事を考えていた。
仕方無いじゃないか、格好良く決めたは良いものの作戦など全く立てていないのだから。
なんなら私は橋の守護神であって、橋も何もないこの場所じゃ神性は無いようなものだ。
割と本気で撃った弾幕であの程度のダメージしか入らないとなると、破壊はまず不可能だ。
最高火力を出せる『アレ』ならいけるかもしれないが…私自身が持たない、途中で倒れる可能性すらある。
ならば私に出来る事は、ヤツを追い返す事だ。
相手に知能があるなら、ある程度の損傷を受ければ自身の安全の為に撤退の判断を下す筈だ。
私の弾幕は装甲を完全に貫く事は出来ずとも、ダメージを与える程度なら出来る。
あの図体だ、手数で押すよりも威力を重視して当てにいった方が良いだろう…というより、そうしないとダメージが入るか怪しい。
「…はぁ…ったく、やったろうじゃないの?」
手を抜いている余裕はない、やるしかない。
弾幕ごっこで撃つような軽い…威力の低い弾幕ではなく、人を殺めるのに使うような…妖力を最大限込めた弾幕を周囲に展開する。
『雀』は…壊れた時に再度呼び出せる確信がないので、その危険性がある今回は出さないでおこう。
準備は整った、あとは目の前のデカブツの攻撃に被弾せず、ダメージを与えていくだけ…
「前衛は、おじさんに任せてほしいな〜?」
「…信じさせてもらうわよ、ホシノ」
前は彼女が張ってくれる、これなら極端に集中力を欠かない限り被弾する事はないだろう。
だが…ホシノはそうもいかない。
彼女がいくら強くて、いくらタフだと言っても限界というものは存在するだろう。
ヒナもそうだが、キヴォトスの者達でも疲労には…蓄積していくダメージには勝てない。
彼女に無理をさせぬ為にも、短期決着を目指す。
〚Gyaaaaaaaaaaaaa!!〛
ホシノに向かって突っ込んでいくヤツの顔面を狙って一斉に弾幕を撃ち出す。
効果は…いまひとつ、と言ったところか。
恐らくだが私の弾幕の威力が低いのではなく、相手の装甲が規格外に硬すぎるのだろう。
ヘイトを買う為にとホシノも銃弾を放っているがダメージが通っている様子はない。
それでも鬱陶しくは感じているのか私にヘイトは向いていないので、心の中で感謝しておく。
少しずつだがダメージは与えられている筈。
と言うより、これでダメージが全く入っていないなら本格的に私達に勝ち目は無くなってしまう。
スペルカードだって乱発出来るわけじゃない、通常の弾幕で相手の体力を減らしておかねば、肝心の時に致命傷を与えられる事が出来ない。
だから私は引き続き弾幕を撃ち続けねばならない。
そんなわけで次の弾幕の準備を…っ!?
「っと、危ないよ〜?」
…ヤツの放った光線を彼女が盾で受け止める。
言ってる傍から守られてるではないか、これじゃ私が足手まといになってしまう。
というよりソレを受け止めても微動だにしない体幹が怖い、どうなっているんだそれは妬ましい…
ヒナやトキの強さも大概だとは思ったが、ホシノもホシノで違った方向におかしい気がする。
私がアレを喰らったら致命傷は避けられないだろう。
下手したら全身消し飛ぶんじゃなかろうか、死にはしないが想像したくない、絶対痛い…いや、もはや痛みすら感じないレベルかもしれない。
いずれにせよそんな無茶したらヒナがシナる未来しか見えないのでそうなるつもりはないのだが。
再び弾幕を放つが、やはり効果は薄い。
勇儀ならきっと
私が彼女のような戦闘力を持っていればきっと、こんな風にホシノを巻き込む事も無かった筈だ。
神だの鬼女だのと崇め奉られてきた癖に所詮はこの程度の実力である自分が、情けない。*1
やはり決めるならスペルカードか。
ミレニアムの騒動の時に使った丑の刻参りは…私の持つ力じゃあの装甲を貫ける気がしない。
七日目の方は…多分、釘自体が刺さらないだろう。*2
そもそも前者も後者も釘の大きさ的に刺さったとしても致命傷になる気がしない。
となると、この二つは使えないだろう。
私が求めているのは命中率はともかく、威力が高く広い面積を抉り取れるようなものだ。
あの図体なら、当てる事自体は難しくない。
となると、やはりあのスペルカードだろう。
そんな思考の合間合間でも弾幕を放ち続ける。
私が撃つ手を止めてしまえば、ヤツのヘイトはホシノだけに向いてしまう。
少しでも此方に意識を割いて、鬱陶しく思ってくれればヤツのリソースを削る事が出来る。
結果として時々此方へ攻撃が飛んできているが、この程度なら余裕で避けられる為問題はない。
それはそうととんでもなく集中力を使っているので、変なミスを起こしてしまう前にホシノに向かって叫ぶ。
「ホシノ!数秒で良い…私が接近する隙を作って!」
「無茶言うねぇ…っ!」
無茶振りだと言うのは私だってよく分かっている。
二人がかりでようやく抑え込む事が出来ていると言うのに、私が完全に支援を止めたらそれを一人で行わねばならないと言う事だ。
私が来るまでホシノは一人でも耐えれていたが、戦闘開始からもう何分経ったか…当然、疲労も溜まってくる。
だが、無茶だとしてもやってもらうしかない。
「…っあぁ!!」
飛んできたミサイルの軌道を盾で逸らし、放たれた光線をその場から動かずに受け止めるホシノ。
いくらなんでも連続で受け続けるのはキツイのだろう、僅かに表情を歪めているのが分かる。
だが、そんな事を気にしている暇はない。
このタイミングで避けれる攻撃を避けずに受けたのは、私に行けと伝えてきているという事だろう。
作ってくれた隙を、逃すわけにはいかない。
「っ…!!」
此方への攻撃が止んだその隙を狙う。
自身の出せる最高速度とも言える程のスピードで、ヤツの身体に向かって真っ直ぐに接近する。
チャンスは一度きり、失敗は出来ない…そう考えながら辿り着いたのは、ヤツの真正面。
こんな馬鹿正直に突っ込めば、当然気付かれる。
だが、大口を開けて此方に攻撃を仕掛けんとするヤツの行動は一人の少女によって阻まれる。
「おじさんの事、忘れないでほしいなぁ?」
銃は使わない、盾を使ったシンプルなタックル。
威力は雀の涙のようなものだが、それでもヤツの意識を逸らすには十分の効力を持っていた。
その隙に詠み上げる、口上を言い放つ。
「それは緑の眼をした怪物…心を嬲り喰らう者…ッ」
ヤツの周囲を緑色の弾幕が覆う。
出来るだけホシノに被害が出ぬよう心掛けながら、球体のような、巨大な弾幕を配置していく。
一瞬で視界が緑に覆い尽くされる、私の二つ名にもなっている馴染み深いスペルカード。
額に両手を当て、声高らかに叫ぶ。
「妬符『グリーンアイドモンスター』!!」