私は所謂ツンデレというヤツなのだろうか
電車に揺られ、数時間は経っただろうか。
幻想郷の技術というものは外の世界より遅れていた…河童が時々持ち出してくるようなものも、外の物品に比べれば幾らか旧世代の物であった。
そんな所に暮らしていた私からすれば、相変わらずキヴォトスの技術には目を見張るものがある。
「…このヒロイン、水橋様に似ていませんか?」
私の隣に座る少女…ケイもそうだ。
中身の方は未だによく分かってないが、その身体は機械で出来た偽りの肉体なのに…人肌の温かさを感じるし、見れば見る程普通の人間にしか見えない。
ミレニアムの…エンジニア部の技術が凄いのか、それともこれくらい出来て当たり前だというのか。
「似て…似てるかしら、そんなに?」
「似ています、此方をジト目で見てくる所など特に」
彼女が肩から掛けている重々しい雰囲気のソレ…レールガンだか何だか知らないが、とんでもなく重い。
私だって非力という訳ではないが持ち上がりすらしなかった、それを軽々と持ち上げているのだ…やはりそういう所は機械なのか、それともキヴォトスではやはりこれくらい常識なのだろうか。
さて、私達は今何処へ向かっているのか。
そう難しく考える必要はない、私はキヴォトスの事を知る為に色々な所を見て回っているのだ。
答えはトリニティ総合学園…ゲヘナとミレニアムと合わせて三大校とまで呼ばれるキヴォトスのマンモス校の一つであり、歴史のある学園だと言う。
先日知り合ったイチカの通っている学園でもある。
今回も風紀委員会という立場を乱用して、上手く見学出来るように予定を取り付けたらしい。
詳しくは知らないが、エデン条約だかの影響でトリニティの上層部も見学には快く応じてくれたという。
絶対に部外者である私が行くような雰囲気ではないのだが、寧ろ私の方が良いらしい。
いくら上が応じても、ゲヘナの事が嫌いなトリニティ生というものは数多くいるのだと聞く。
そんな私はまだあまり風紀委員としては名が知られていない筈…服装も相まって、パット見ならゲヘナから来た事なんかバレやしない訳だ。
それはそうと、何故ケイが着いてきているのか。
噛み砕いて言うなら護衛だ、私はヒナやケイのような一部の者以外には自分の事を人間だと伝えている。
普通は戦闘なんか出来ない、そういう意味での護衛。
何故ミレニアムの生徒であるケイが護衛になっているのかって?寧ろ私が聞きたい…理由は知っているが。
ケイは『水橋 ケイ』という名前で自身の事を生徒として登録したのだという。
そこはアリスと同じ天童ではないのか…?
ケイの心の内は分からないが、そのお陰で私とケイは姉妹だと誤認されているらしい。
そのお陰で所属している高校が違くとも、こうして護衛としての同行が許可されたと言う。
本当はヒナも来たがっていたのだが、流石に風紀委員会のトップが着いてくるのはマズイだろう…
「私、そんなに愛想無いかしら…」
「そんな事はありません、水橋様は可愛いです」
「…真顔で言う事…?」
なんというか、ケイは感情が読みづらくなった。
以前に比べて感情豊かになった筈なのに、なんと言ったら良いか…前より、分かりづらいのだ。
彼女の主となる感情が嫉妬心じゃなくなったからかもしれないし、意図的に隠しているのかもしれない。
どういう事かというと、今の私は目の前の彼女が何を考えているかは分からないのだ。
だからこそ、唐突にこういう事を口走られるとどう反応したら良いのか分からなくなるのだ。
素直に喜ぶという選択肢は絶対ないし、かと言って否定するのも褒められた手前どうかと思う。
そんな事を考え、結局のところこのような曖昧な答えとなってしまうのだ。
ヒナやコユキは表情に出るし、トキもポーカーフェイスな割に案外感情の揺らぎは分かりやすい。
こういうタイプの相手は慣れていないのだ。
「本心を述べたまでです…それとも、理由を含めもっと詳細に感想を述べた方が…」
「そういう事を言っているんじゃなくてね…?」
彼女が私に抱いている好意は…あまり正確ではないかもしれないが一応、分かっているつもりだ。
それはそれとして、ヒナと違ってこうも正面から好意を伝えられるとやはり困ってしまう。
コユキやトキのような『好き』とは違うからこそ、変に対応を間違ってしまわないか心配になる。
愛姫とも呼ばれている私だが、人だった時の経験もあるが故に、自分自身の色恋沙汰からはついつい目を背けたくなってしまうのだ。
「…水橋様、本当に良かったのですか?」
「ん〜・・・何が?」
あらぬ方向へ思考を放棄し、そんな事を考えていた私に何処か困ったような表情でケイが問い掛けてくる。
その問いに全く心当たりのない私は、特に何も考えずにそう聞き返す。
「護衛として私を採用した事、です」
「…良いも何も、断る理由なんてある?」
正直な所、能力を使用するという条件下なら私はアリスやケイ、ヒナといった生徒達にも勝つ事が出来る。
キヴォトスで私に勝てる人物は…いるのかもしれないが、少なくとも私の知っている範囲ではいない。
だから、確かに護衛は必要ないのだが…彼女が求めている答えは、そういう事ではないのだろう。
「私は、こうして普通に生活していますが…元は、その…人ではありません…それなのに…」
「…それ、今更聞く事かしら?」
ケイは、未だに使命の事を引き摺っている。
普段はあまり話さない癖に、こういう時に限って変に気にするのだ…自由過ぎるのもどうかと思うが、こういう所はアリスを見習ってほしい。
どうせ着いて行きたいとリオ会長に…いや、ヒマリだろうか…いずれにせよ、そう頼んだのはケイだろう。
そこまで行ったのなら変に躊躇わないで欲しい。
「あのねぇ…私は、っと…」
それを伝えようとした所で、タイミング悪く私達の目的地である駅に辿り着いたというアナウンスが流れる。
消化不良ではあるが、仕方が無い。
「…この話は、また後で詳しくしましょう?」
「…えぇ、水橋様がそう仰るのなら…」
トリニティに行ってからでも、話す機会はある。
少なくとも数日はケイと共に過ごすのだ、今を逃した所で特に痛手でも何でもないだろう。
それよりか、予定の時間に遅れる方がマズい。
不慣れなトリニティの景色に目を奪われながら、二人でトリニティのトップが待つ場所へ向かうのだった。