透き通った世界の下の嫉妬心   作:хорошо!

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『2月19日』

いつもと何ら変わらない、至って普通の朝。

コーヒーのカップを片手に新聞に目を通し、最近のニュースを確認する。

私はまだまだキヴォトスの事について無知である、情報を仕入れるに越した事はない。

 

「…さてと、そろそろ行かなきゃか…」

 

中身のなくなったカップをテーブルに起き、立て掛けられた時計に目を向ける。

8時…私は学生ではないため関係ないが、生徒達は既に学校に登校している時間だろう。

私も微力ではあるがヒナの負担を少しでも軽くするために仕事を手伝いに行った方が良いだろう。

 

「…ヒナは随分と朝早くから学校に行ったらしいし、私もそろそろ行った方が…」

 

そう思い、水に浸しておいた食器に手を伸ばしたタイミングでスマホの着信音が鳴り始める。

タイミングが悪いなぁ…なんて思いながら溜息を零し、充電器に挿しっぱなしだったスマホの画面を覗けば映っていたのは知らない電話番号。

 

「…ん、誰からだろう…」

 

イタズラ電話だろうか、それとも風紀委員会の誰かからの連絡だろうか。

前者だったら別に出なくても問題はないが、後者だった場合は緊急の連絡の可能性がある。

たとえ前者であったとしても起きる事は時間を無駄にする事だけであって私にはあまり被害はない、ここは素直に電話に出るべきだろう。

 

「はい、こちら風紀委員会顧問、水橋ですが…」

 

スマホを手に取り、着信を許可する。

誰だか分からない通話相手に向かってそう名乗れば、返ってきた言葉は何処かで聞いた事のある声だった。

 

『天雨アコです、手短に話しますね』

 

「あまりにも唐突過ぎない…?」

 

天雨アコ、風紀委員会の行政官。

基本的には有能でありヒナの事を常日頃から補佐している彼女…因みに私が抱いている感情はエイミと同じで『痴女』である、だっておかしいじゃない…

どんな服よソレ、なんで横乳見せつけてるのよ。

…いや、冷静になって思い出してみたら博麗の巫女さんも似たような服装をしてるな…?

…分からない、私には何が正しいのか分からない…

 

『あぁ、もぅ…時間がないんですよ!!』

 

「ぁ〜・・・はいはい、分かったから…」

 

通話越しに聞こえる彼女の声は何やら焦っている様子、それほどまでに私に急いで伝えなければいけない案件があるのだろうか…

もし大規模なトラブルが起きただとかそういう話だとしたら今すぐに向かった方が良いだろうし…

 

『…本日2月19日、何の日かご存知ですか?』

 

急いでるというのならどうして疑問形で聞いた?

絶対に普通に伝えてくれた方が楽だったと思うのだが、そういう聞かれ方をしたという事は私も知っている何かがあるという事なのだろう…

…2月19日って何かあったっけ、バレンタインは14日だったしもうイベントはない気がするんだけど…

 

「…え〜っと…ぇ〜・・・」

 

『ご存知ですよね?』

 

圧を掛けないでほしい、直接顔を合わせて会話している訳でもないのに何故か怖いからやめてくれ…

えぇ…2月19日、2月19日ねぇ…?

 

「…ぁ〜・・・そう、ヒナの誕生日!!」

 

『その通りです!!そうなんです!!』

 

そんな分かって当然みたいな反応をしないでほしい。

そもそも私がヒナの誕生日を聞いたのだって一回限りである、それも出会って間もない頃に一度だけ…

…逆になんで思い出せたんだろうか、消去法でそれしかなかったからだろうか…?

 

『折角の誕生日なんです、今日くらいは私達に仕事を任せて委員長にはゆっくりと休んでほしい…』

 

『と、考えていた矢先に美食研究会と温泉開発部がやらかしやがりましてですね?』

 

美食研究会に温泉開発部、彼女達がやらかすと仕事が増えるので私もあんまり好きじゃない…

あれだ、悪意は全くないけどクソ迷惑な行動が一番どうしようもないっていうヤツだ。

私だって別に彼女達の事を悪人だと思っている訳では無いが、それはそれとして苦手ではある…

 

「…さては相当キレてるわね、貴女」

 

『はぁ!?キレてませんが!?』

 

「落ち着きなさいって…」

 

いや、分かるわよ、そうやって計画していた時にソレをぶち壊されたら私だってキレるもの…

彼女が割と短気だというのもあるだろうが、実際そんな事をされたらキレても良いと思う、キレたところで誰も文句は言わないと思う。

その怒りでまた他のトラブルを起こした、という話になってくるとまた別の問題になるが…

 

『委員長は偉大です…彼女のいない分の穴を埋めるというのは例え一日だけであっても骨が折れる…』

 

『そのたった一日もここまで問題を起こされてしまうと確保するのが難しく…』

 

ヒナは強い、ゲヘナで一番強い…

というか、私は今の所キヴォトスでヒナより強いと思える生徒に出会った事がない。

ミレニアムのネルが割と良い線いってる気もするが…真正面から戦ったらヒナが勝ちそうな気もする、実際やってみないと分からないが。

 

それにヒナは仕事も出来る…というか、彼女がいないと風紀委員が軽くフリーズを起こすくらいには彼女は書類仕事にも貢献している。

だからと言って無理をして倒れるのはやめてほしい、私が他の学園の見学などで家を離れると必ずと言っていい程にいつも無茶をするから…

 

「…で、何、手っ取り早く要件を述べてくれない?」

 

『そう急かさなくても良くないですか!?』

 

急いでいると言ったのは彼女の方では…?

まぁ、別に私は急いでいる訳でもないし彼女がソレで良いというのなら私は全然合わせるが…

 

『…はぁ、貴女は今日委員会を休んでください…貴女一人分程度の仕事ならどうにでもなりますので…』

 

「今サラッと私の事無能って煽らなかった?」

 

『無能とまでは言いませんがいてもいなくても大差無いレベルなのは事実ですが?』

 

「………」

 

『図星じゃないですか…』

 

いや、キヴォトスに来てからまだ間もないような人に急に仕事を任せる方が無茶じゃない?

先生は出来てる?…御尤もとしか言えないけど…

これでも私だって頑張っているんだ、そりゃぁヒナに比べれば無力ではあるが一定量の仕事をちゃんと捌いてるし、不良達の鎮圧には貢献してるし…

…駄目だなコレ、続けてても私の心がどんどんズタボロになっていくだけだ、やめよう…

 

「…で、なんで私を休ませようと?」

 

そう思ったため、無理のない範囲で話題を転換する。

そもそもヒナの誕生日だ、という話から急に私を休ませるという話に飛躍した訳が分からない。

 

『先程まで誕生日を忘れてた様子を見るにろくな用意をしていなかったのでしょう?』

 

「してないけど?」

 

『開き直らないでください』

 

無茶でしょ流石に、思い出せただけ奇跡よ。

あの時手ぶらだったんだから仕方ないじゃない、メモも何も出来なかったのよ…

そういう訳で誕生日プレゼントなんて用意している訳がない、当然だがお祝いの料理だったりケーキだったりの用意もしていない。

 

『私達も出来る限り頑張ってヒナ委員長が帰宅できるように努めます…ですから…』

 

『それまでに!』

 

『お祝いの!』

 

『準備をしておいてください!』

 

圧が凄い、気迫がとんでもない。

…が、まぁ、この言葉に対して…

 

「ぁ〜・・・ハイハイ、分かったわよ分かった…」

 

断る理由というのは一つもないだろう。

 

『…返事が適当なように聞こえますが?』

 

「分かったから…」

 

ここでアツく返事をするようなタイプじゃないのよ私は、そういうのは勇儀とかの役目でしょう…

…キヴォトスで例えるとレイサとかかしら?

まぁ、それはそれとして…

 

「…本当は、貴女が祝いたいんじゃないの?」

 

『…当然ですよ、私は貴女と違ってちゃんとプレゼントも用意してますからね?』 

 

出来る女である、何だかんだちゃんとしている…

あとは服装さえどうにかなれば完璧だと思うのだが…うん、そこは突っ込んでも仕方が無いのだろう…

 

『…ですが私は後で渡します、委員長が求めているのはきっと貴女からのプレゼントですから…』

 

…あぁ、いや、駄目だコレは…

 

「…良い嫉妬ねぇ〜・・・?」

 

ここまで純粋な、清々しい嫉妬を見せられると流石に笑みが溢れてしまう。

トリニティの生徒達のようなドロドロしたソレとは違う、ひたすらに純粋な嫉妬。

うん、私が一番好きな嫉妬だ…

 

『殺しますよ』

 

「ガチトーンはやめてちょうだい…」

 

流石に私の反応が悪かったとは思うが、ガチトーンでの殺害予告は普通に恐怖を感じる。

死にはしないけど…ねぇ、銃弾で脳天撃ち抜かれたらしばらくの間はトラウマになるわよ…

 

「…ま、この私に任せておきなさいな?」

 

『…はぁ、信じますからね?』

 

その言葉と共に、通話が切れる。

…さぁてと、冷蔵庫に何も入ってないわ…

今から急いで買い物をして、プレゼントを買って、折角だし豪勢な料理を作って…

…はぁ、妬ましい程に忙しいわねぇ…

 

 

◇◇◇

 

 

いつもと何ら変わらない、至って普通の帰り道。

疲労からか何処となく重く感じる愛銃を背負いながらゆっくりと歩き、ようやく家の扉を引く。

今日は忙しかったけれど、珍しくいつもより早く帰って来る事が出来たから…

 

「…ただいま…」

 

「っと、おかえりなさい?」

 

扉を開けて真っ先に出迎えて来た彼女の姿、そして服装に目を向ける。

気の所為かもしれないが、何処か疲れているように見える彼女は珍しくエプロンを着けていた。

靴を脱ぎ、彼女に案内されるがままに部屋へと進めばテーブルの上には普段よりも幾らか多い、豪華な料理が並べられていた。

 

「誕生日なのにお勤めご苦労様…ごめんなさいね、私にはこういう事しか出来ないから…」

 

彼女の事を改めて見てみれば、エプロンの端には白いクリームのようなものが付着していた。

滅多に使われないオーブンのドアが開いている所や、部屋の微かな甘い匂いから察するに…

 

「ケーキ、作ってみたんだけど…」

 

初めて作ったから、と困ったように笑う彼女。

 

「…そっか、私、今日誕生日…」

 

2月19日、完全に頭から抜け落ちていたが今日は私の誕生日である。

今日、こうして早く帰って来ることが出来たのもソレを知っていたアコの差し金…なのかもしれない。

 

「じゃ、改めて…」

 

ラッピングされた小包を差し出し、私に向かって微笑みながら彼女は続ける。

 

「誕生日おめでとう、ヒナ」

 

「…うん、ありがとう」




ヒナちゃん、誕生日おめでとう。
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