「あと、オススメは…蜂蜜の林檎タルトとか?」
「成程…紅茶はどれが良いでしょうか」
「ん…コレにアプリコットジャムを別で注文して…」
そんな会話をしているケイと…獣のような耳が生えた少女を向かいの席から見つめる。
彼女は杏山カズサ、トリニティの生徒であり放課後スイーツ部という名前からして絶対に青春を満喫しているであろう部活に所属している生徒だと言う。
何故そんな生徒と私達が相席し、こうしてオススメのメニューを教えてもらっているのか…
その答えは、私の隣に座る生徒にある。
「ん〜、どうかした?」
「…いや、何でもないわよ」
ピンク色の髪に気怠げな目付きをした少女…彼女もまた、カズサと同じ放課後スイーツ部に所属するトリニティ生、名は柚鳥ナツと言うらしい。
地霊殿に招かれた時に時々口にする程度で御世辞にも洋菓子に詳しいとは言えない私と、そもそも最近身体を得たばかりで外出の機会が滅多にないケイ。
そんな私達がスムーズに注文など出来る訳もなく…
何を頼むべきか、どの程度の注文をするべきか。
『君達、こういうお店に来るのは始めて?』
そんなくだらない重大な問題に頭を悩まされていた私達にそう話し掛けてきたのが彼女、ナツなのである。
初対面の人にその声の掛け方をするのは相当なコミュ力強者だと思うが、思えば私もキヴォトスに来た当初…ヒナと遭遇した時はこんな感じだった気がする。
…自分自身が妬ましい、何やってるんだか…
まぁ、そんな話はさておき…要約するならば彼女に困っていた所を助けてもらった、といった感じだ。
カズサは明らかに乗り気ではなかったが、いざ教えるとなるとこうしてちゃんと自身のオススメを語ってくれるのだから根は良い子なのだろう。
寧ろナツより説明に力を入れてくれている気がする…それで良いのか、果たしてそれで良いのか…?
…弁明の為に言っておくが、ナツもちゃんと自身のオススメのスイーツについては色々と語ってくれた。
そんな訳で彼女達のオススメしてくれたスイーツを注文し、届いたタルトや紅茶に舌鼓を打つ…
流石と言うべきか、やはり値段相応に美味しい。
スイーツを食べる機会というのが無かった為コレがどの程度美味しいのかはよく分からないのだが…
まぁ、美味しいものは美味しい…それだけだ。
と、暫く無言でフォークを口に運ぶ作業を続けていたところでようやく本来の目的を思い出す。
「…ぁ、そうだ忘れてた…」
「…どうかした?」
「ねぇ、二人共…最近、ティーパーティーに関する良くない噂を聞いたりしてない?」
良くない噂、という曖昧な形になっている理由は、私達も何故あんなにギスギスとした空気感になっているのか分かっていないからだ。
組織の上層部が胃を痛めているのはヒナやリオ会長の例があるので分かっているのだが、だとしてもあの空気感は明らかに異常なものだと思う。
それに…セイア?という生徒の身に何があったのか、それとも都合の悪いような事情があるのか、そこら辺も気になる所である。
そう思い、彼女達に質問してみた訳だが…
「
「確か…トリニティの政治組織、だっけ?」
得られた反応は微妙なもの…というより、良くない噂とかそれ以前にそもそもティーパーティーに関する知識自体殆どないような様子だった。
「えぇ…その様子だと、何も知らないのね…」
「そのティーパーティーさんがどうかしたの?」
どうかしたのか、と聞かれるとまた難しい。
別に彼女達が何か行動を起こしたわけでもないし、特に問題が起きているわけでもない。
あくまで予想で動いているのに過ぎないのだ…
尤も、大雑把にではあるが感情を読み取れる私とスーパーロボット*1であるケイが確信しているのだから何か良からぬ事があるのは確定事項なのだが。
「詳しくは分からないからこその質問なのですが…何やら、きな臭い波動を感じまして…」
「騒動に発展する前に、解決しておきたくてねぇ…」
アリス魔王事件(仮)のように既に騒動が起きてから行動を起こすより、そもそも騒動が起きないように行動を起こす方が賢い動き方である。
近い未来にエデン条約?を結ぶのだ、私が問題解決を図る事でトリニティにゲヘナへの好印象を持たせるというのは条約締結に向けてプラスの行動になる筈だ。
「なるほど…まぁ、私達は何も知らないけどね?」
「でしょうね…そこは残念でしたが…今回の件は色々と助かりました、ありがとうございます」
まぁ、得られた情報は何も無いが…ケイと共にスイーツを食べに行くという目的は達成出来た。*2
まだまだトリニティに滞在する時間はある、気長に情報を収集していけば良いだろう。
「ふふ〜っ…良いって事さ…スイーツについて困ったらいつでも頼ってもらって構わないよ?」
「…まぁ、流石にいつでもとはいかないけどね」
「…ありがとうね…また、頼らせてもらうわよ?」
そんな訳でモモトークを交換した後、こっそりと彼女達の分の会計も行った上で店を離れ…
「…で、貴女は何処の誰?食べても良い人間?」
背後を振り返り、そう問い掛ける。
そこにあるのは何の変哲もないように見える看板…
…と、そこから僅かにはみ出ている薄い水色と紫色の髪…随分と個性的な髪色だな…?
「水橋様…人間は食べてはいけないのでは…?」
「冗句よ冗句…知り合いの真似よ…」
冗談を真に受けたケイにそう説明していたところで予想通り、看板の影から一人の少女が顔を出す。
姿を見ずともこの程度の距離なら感情の揺らぎで何処に人がいるかくらい分かるのだ。
というかスイーツを食べてる時も覗かれていた、当然だがあまり気分は良くなかった。
その事について問い詰めようと声を掛けたのだが…
「…バレてしまっては仕方ありません…いえ、やはり尾行を続けて正解でした…」
「私は宇沢レイサ!!」
「抵抗は無駄ですよ!!」
「大人しくお縄に付いてください!!」
…どうやら、厄介事に首を突っ込んでしまったらしい。
レイサ「…(杏山カズサと何か話している…?怪しい…)」
パルパル「貴女、食べても良い人間?(冗談のつもり)」
レイサ「!!!!(例の如く冗談が通じない宇沢)」
というわけで、アンケートで圧倒的な投票数を得て1位に輝いた宇沢レイサにお任せください!!!!!!