『…普段とは違う所、ですか…いえ、心当たりは特に…すいません、力になれなくって…』
◇◇◇
『え〜っと…行きつけのお店のチョコミントアイスの値段が上がっていた事…とかでしょうか?』
◇◇◇
『患者さんは特に増えてませんが…その様子だと、何かトラブルがあるんですね!覚えておきます!』
◇◇◇
「それらしい収穫は何も無かったわねぇ…」
「はい、手掛かりくらいは見つかると思っていたのですが…現実というものは、上手く行きませんね…」
結構な人数に聞き込みをして回ったが、それらしき情報というものは得られなかった。
そもそもの話、真剣に答えてくれる人もいたが明らかに此方を嘲笑っているかのようなふざけた返答をしてくれる者さえいたのだ。
お嬢様校故の弊害か、ある意味で自由なゲヘナと違って整っている癖に陰湿である。
この事をティーパーティーに報告したら処罰を下せるのではなかろうか、パルスィは訝しんだ。
「あれ?私はてっきりチョコミントアイスの件は異変だと思っていたのですが…違うんですか?」
「否定はしきれないけど九割方ただの値上げよ…」
やはりと言うべきか一人だけ状況を理解出来ていないレイサに対してそう返しておく。
商品の値上げを行って資金を集め何かを行う…理屈は分かるが、絶対にチョコミントアイスだけに絞ってやるような行動ではない。
寧ろもっと人気のあるフレーバーの…何処からか殺意を感じたような気がする、気の所為だろうか…
「…で、どうする?まだ聞き込み、続ける?」
「これ以上続けても無駄な気はしますが…これしか方法がないと考えると、続けるしか…」
未だ手掛かりは見つからない、何も分からないからには聞き込みを続けるしかない。
恐らくケイも同じ考えなのかそう続け、再び行動を起こそうと人混みに向かって歩き出す…
「…あれ、パルスィさんじゃないっすか?」
と、そのタイミングで背後から声を掛けられる。
一瞬『誰だ』と困惑したものの、声と呼び方…それに特徴的な口調で顔を見ずとも誰だか理解した。
「あら、イチカじゃない…久しぶり?」
正義実現委員会の制服に、相変わらずの糸目。
此処へ訪問へ来る前の話をするなら、唯一のトリニティの知人であるイチカであった。
今は隣にいるレイサや先程知り合ったカズサやナツがいるので、唯一の知人という訳ではないが…
いずれにせよ、初めて知り合ったトリニティの生徒という事には変わりない。
「お久しぶりっす!…というか、トリニティに来てたなら言ってくれれば良かったのに…」
「いや、私達モモトーク交換してないじゃない?」
「ぁ、そういえばそうだった…スマホの充電が無いからって二人で一部屋借りたんっすもんね…」
そんな風に談笑していた所で、ケイが私の服の裾を引っ張りながら此方を見上げてくる。
…何処でそんな表情を覚えてくるんだ、抱いている嫉妬心も相まって破壊力が凄い。
「ぉ〜ぉ〜・・・なんだか姉妹さんみたいっすね?」
「煽ってるのかしら?喧嘩なら買うわよ?」
レイサとケイの身長はほぼほぼ変わらないし、私だって二人より少し高い程度で大差はない。
これでも一応は大人である私からしたら先程の発言は煽りにしか聞こえない。
「冗談っすよ冗談…それで、何かお困りのようで?」
…無駄な争いをする意味もないと判断し、何も聞かなかった事にして話を続ける。
先程の会話を聞いていたのか、それとも私達の動きが不自然だったのか…
何らかの要因で私達が困っている事を理解したらしいイチカはそう聞いてくる。
「…貴女は最近、トリニティで普段は起きないような変化を感じましたか?」
「変化…ん〜・・・変化っすかぁ…」
顎に手を当てて、首を傾げる。
うんうん暫く唸り、ハッとしたような様子で続ける。
「…ぁ、心当たりがあるかもしれないっす」
「本当ですか!?」
「レイサ、少し黙ってて」
「…ハイ…」
相変わらず煩わしいレイサを黙らせて再びイチカの方を向けば、あくまで自分の意見だが…と念の為に付け加えたイチカが口を開く。
「最近、ウチの学園の成績不振者を集めて『補習授業部』って部活が編成されたんっすよね」
「…それに、何か異変が…?」
「いやぁ、異変って程じゃない気もするんすけど…」
名前と結成理由を聞く分には、至極真っ当な部活動。
今の説明だと何処が怪しいのか、何処がおかしいのかは全く分からないが、イチカはその疑問を解消するかのように理由を述べる。
「補習授業部のメンバーに違和感を感じたんすよね…確かにちょっと…まぁ、その…なんすか?…成績が振るわないような子もいるんすけど…」
「何故か至って普通の子が入れられてたり、逆にあまり成績が良くない子が入れられてなかったり…」
「なぁんか、色々と不自然なんっすよねぇ…」
「詳しい事は知らないんすけど、シャーレの先生を顧問として迎えた事でその権限を活用した拒否権のない強制入部を行ったとか何とか…」
シャーレの先生、嘘だよな…?
どうしてトラブルが起きる時は大体この人が関わっているのか、どうして私と同じタイミングでトリニティへと訪問しているのか。
最悪の運命である…どういう事だ、おぜう様…*1
…まぁ、そんな話は置いておいて…
ようやく、明らかに怪しい手掛かりらしい手掛かりというものを入手出来た。
その補習授業部とやらの事を詳しく調べれば、きっと何らかの情報が得られる筈だろう。
「…ありがとうねイチカ、助かったわ」
「あれ、こんな話で良かったんすか?」
「えぇ、寧ろ私達が求めていた話かもしれません」
そもそもの話、聞き込みだけで今回の件を解決出来るとは全く思っていない。
今まで行ってきた聞き込みはあくまで手掛かりを知るための一手段に過ぎない。
こうして調べるべき目標を知る事が出来たのだ、それだけで十分な収穫を得たといえるだろう。
「ぇ、え、何の話、何の話なんですか!?」
「レイサ」
「…ハイ…」
相変わらず理解出来ていないレイサ…彼女には後で分かりやすく簡潔に説明してあげるとして…
「…補習授業部、ねぇ…ありがと、調べてみるわ」
「お役に立てたようなら、何よりっす!」
これだけ聞き込みをしても出てこなかった情報をようやく得る事が出来たのだ。
この程度の事はトリニティの生徒にとって気にするレベルの事じゃないのかもしれない…
取り敢えず、理由はともあれイチカと関係を持ってくれた以前の自分に対して礼を言いたい。
お酒と黒服のお陰で詰みを回避出来たと考えるとなんだか、色々と酷く感じるが…
「ぁ、パルスィさん…これ、渡しておくっす…私のモモトークのIDっすよ」
そろそろ行動をしようと動き始めた所で、イチカがポケットから一枚のメモを取り出す。
ソレを私に手渡すと、そう語った上でニコッと…あぁ、確かにコレは魔性の女かもしれないわ。
さっきのレイサ目線だと私、こう見えてたのか…
…ポケットに自分の連絡先を書いたメモを入れてる時点で何だか色々と手慣れている感じがする。
「じゃ、後でお茶でも飲みに来てくださいね〜」
そう言いながら、手を振り去っていく彼女…
その先には、イチカと同じような制服を着た前髪の長い少女達が…ぇ、何、そういう関係だったりする?
「…やはりあの女は一度分からせるべきでは…」
「ケイ、落ち着きなさいって…」
「何の話、何の話なんですか!?」
嫉妬というよりもはや殺意が表に出始めているケイと、またしても何も知らない宇沢レイサ(15)…
普段は大人しくて有能なヒナが恋しくなった。
ヒナチャ「…パルスィに呼ばれた気がする…」