アレもコレも雀魂とかいうヤツが悪くて…
「あの…すいません、疑問なんですが…」
「どうしたのレイサ、まだ理解出来てない?」
「いえ、そういう話ではなく…」
歩き始めてほんの少し…数分程度だろうか。
補習授業部の情報を得るために、とそれらしい事を聞き込み出来そうな場所を探していた私達の後ろ…最後尾のレイサがそう話し掛けてきた。
「補習授業部?の皆さんに何かトラブルの種があるというのなら…直接会いに行けば良いのでは…?」
「…確かに、先生との関わりがある水橋様としてはそちらの方が早く目的を達成出来る気が…」
御尤もである、何ならそうすれば解決する。
いくら先生が…補習授業部の者達が私に隠し事をしようとした所で、私の前で雑な嘘は無意味だ。
先生の連絡先は知っているし、今すぐにでも此処へ呼び出す事だって出来はする。
「ん〜・・・正直に言うなら、私もそれが一番手っ取り早いと思うんだけどねぇ…」
わざわざ面倒な聞き込みをして回るよりも、確実な情報が得られる本人の下へ赴いたほうが良い。
例え彼が今起きている騒動の詳細を知らなかったとしても絶対に何らかの手掛かりを得る事は出来る。
普通だったら今取るべき行動は先生へ連絡を送る事、もし私が生徒だったらそうしただろう。
だが、私は
「あの先生はね…私には、理解出来ない存在なの」
私は彼を信用している、彼を信頼している。
だからこそミレニアムでは彼にアリスの事を任せ、私は私の出来る事をしたのだ。
だが、それは単純な好意とは違う。
「全てを救うなんて大それた事を言い放って…それを冗談で終わらせずに実現させちゃうのよ?」
私は妬む、自身より優れた存在を妬む。
あの先生は存在的な面は別として、精神的な面の話をするなら私より明確に格上である。
妬む理由なんかいくらでも見つかる程に、嫉妬する相手として優れている人間…
だが、私は彼に嫉妬心を抱く事が出来ていない。
それはある種、未知に対する恐怖。
未知は罪なり知は空虚なり、とはよく言ったものだ。
私は『ソレ』を知らない…否、知ろうと思えない。
「まさしく物語の主人公、私みたいなモブとは違ってそう思わせるだけの力を持つ者」
何時だったか、今からどれくらい前だったか。
博麗の巫女が、白黒の魔法使いが、その友人が…
彼女達が地底に降りてきた当時に感じた『ナニカ』と同じ、私には理解出来ない力。
彼女を、彼を主人公たらしめるだけの強大な力。
「私からあの人に頼ってはいけない、寧ろ出来る事なら関わらない方が良い…」
彼の持つ物語の強制力は…修正力は、私程度が抗えるような貧弱なものではない。
私は賢者でもないし、神だと言っても山の神社に祀られる二柱のように優れた存在でもない。
私は無知だ、私は愚者だ、私はモブだ。
「アレは劇薬だ、此方の方が呑まれてしまう」
そんな私でも、嫌でも理解させられる程に…
彼という存在はこの世界の『主人公』で…
「…水橋様…?」
その一言で、ようやく現実へと引き戻される。
「ん?…あぁ、ごめんなさいね…でも、さっき私が言った事は冗談じゃないのよ?」
「と、言いますと…」
「私はね、ケイが思っているより弱い存在なの」
私は弱い、私は強くなれない。
「…少なくとも、水橋様は私やアリス…いえ、C&Cの方々よりも数段格上だと認識しているのですが…」
「物理的な話じゃないわ…私は弱い、弱いからこそ私は此処に立っている…こうして過ごしている…」
弱いからこそ、たった一人の人間に深く嫉妬したった一人の人間を諦め切れなかった。
弱いからこそ、鬼の身へと変わり果てた自分の虚しさを埋める事が出来なかった。
弱いからこそ、最後まで恨まれるような鬼女という自分を貫き通す事が出来なかった。
でも、そのお陰で私は今此処にいる。
思い出したくはないけれど、絶対に忘れてはならない嘗て私が犯した大きな罪。
その罪があったからこそ私は勇儀やヤマメと出会う事が出来た、こうしてキヴォトスに来る事が出来た。
過ちだった事は確かだが、それと同時に私の事を私として定義してくれた出来事でもあった。
それでも…どうしても、私は自身の罪を他人に曝け出すような真似はしたくない。
ソレを知られてしまったら、私はきっと弱くなる。
皆が思う嫉妬の化身たる『水橋パルスィ』ではなく、私は一人の少女になってしまう。
それが怖かった、それが恐ろしかった。
「彼と関わり過ぎると、その弱さを見抜かれる…そんな、嫌な予感がするのよ」
「それは…憶測ですか?」
「憶測とも言えるし…実体験とも言えるかもね?」
それでも、隠し通す事は出来ていない。
私に限った話ではないが、幻想郷の賢者たる困ったちゃんはきっと住民のアレコレを把握している。
さとりだってそうだ、彼女の前で隠し事が出来る人物なんて幻想郷ではこいしくらいしか知らない。
あとは…きっと、私と同一視されている彼女。
直接会話した事がある訳では無いが、きっと彼女も私の境遇は理解しているのだろう。
「…水橋様は、時々難しい…いえ、自身にしか理解出来ないような事を仰られますね」
「まぁ、良くも悪くもソレが私だからねぇ…」
嘘で自分を隠して、嘘で自分を構成する。
何処ぞの天邪鬼じゃないが、私という人間は…橋姫は、こういう存在なのだ。
「…でも、これだけは分かります」
そんな私の耳元で、ケイが呟く。
「貴女を縛る…その『ナニカ』が妬ましい…」
「…へぇ…良い嫉妬をするようになったじゃない…」
純粋でありながら、少しばかり歪んでいる嫉妬。
アリスの中にいた時の彼女は抱いていなかった、人が持つべき真っ当な嫉妬心。
「…ぁ、あのぅ…私、何が何だか…」
「…ぁ〜・・・うん、気にしないでちょうだい?」
ソレを見れた私は、少しばかり嬉しくなった。