「はい、笑って」
手を叩き、目の前の彼女に指示を出す。
何も無い状況で唐突に笑え、と言われてもソレに応えるのは難しいだろうが愛想笑いくらいは出来る。
とは言え、それは本心からの笑顔ではないため下手になる…という理屈は理解しているのだが…
「(ニ…ニコッ…)」
「…流石に酷すぎない…?」
指示に従って笑う彼女、サクラコの表情はそれはもう…何と言うか…何もかも酷かった。
目が笑ってない、明らかな作り笑顔…寧ろキレているようにすら見える。
何をどうしたらそうなるのか、逆に何がどうなってそんな顔になっているのか。
笑顔が下手、というよりかは笑顔という表情を理解しているのか怪しいレベルだ。
「笑顔が下手な人っていうのは結構見た事があるけど…ソレは酷くない…?…なんでそうなるの…?」
似たようなタイプは…探すのも難しい気がする、一番近い所で命蓮寺の住職さんだろうか…
あの人も割と笑顔が下手…だが、笑う時は笑うし流石にこんなに酷いわけじゃない。
彼女のソレが不器用ならば、サクラコのソレは不器用の域を超えているんじゃなかろうか。
「私に言われましても…」
「上層部の人間っていうのはみんな人と関わるのが下手くそなのかしら…」
ヒナ、リオ会長、あとは…ティーパーティーか。
少なくとも今の私が知ってる『上に立つ人間』というものはコミュニケーションが下手だ。
の癖に人を率いるカリスマ性と判断力は高かったりする…ソレをコミュ力に応用出来ないのか…
「…まだレイサの方がマシに見えるわ…」
レイサも、まぁ…確かに酷い点はある。
だがソレは『友人がいるのか』という視点から見た話であり、別に彼女は重症ではない。
確かに抜けている所や、その…うん…な所もあるが、彼女は分かりやすいし恐らく人懐っこい。
友達はいないらしいが、一定以上の仲を持った知人というのはそこそこに多いのだろう…というか、結構なペースで作っている気すらする。
「そんなに酷いんですか…?」
「そんなに酷いのよ」
話してみたら思ったより良い人だった、という例は探せば幾らでもあるだろう。
だが、それは誰かがその人に話し掛けてくれた事によって初めて成立する事である。
レイサと違って彼女は近寄り難い雰囲気を身に纏っている、しかも本人にその自覚はない…
ある意味で悪質である、どう対策しろと?
「はぁ…全く、こんなんだからキヴォトスの政治ってガッタガタなんじゃないの…?…いや、子供に求めるにしてはハードルが高すぎるのか…」
いくら優れていようと子供は子供、少女は少女。
決してその実力や才能をばかにするつもりはないが、一般的に考えたらまだ幼い者達に政治を任せるのは常識的に考えてハードルが高い。
幻想郷のように頼れる大人…認めたくはないが、何だかんだと言いつつも有能な者がいるなら良い。
だがキヴォトスにおいてそのような人物は少ない…寧ろ子供を利用するような人の方が多い…
…いや、まぁ、私も利用はしてるんだけど。
「…そうね、何か場を和ませるようなトークの一つや二つとか…持ってて損はないと思うわよ」
「場を和ませる…なるほど…」
見た目や言動、あとは大袈裟な口上だったり。
清く正しい幻想郷のブン屋じゃないが、あれくらいのキャラでいった方が交友関係は築きやすい。
話し掛けやすい雰囲気の人、というのも中にはいるが…アレは才能が大きいため真似はしづらい。
あとはキテレツな格好をしている人に対して敵意や恐怖は抱かないだろう…まぁ、別の意味の恐ろしさはあるが…何処ぞの変なTシャツヤローみたいに…*1
「わっぴ〜!」
「…トリニティに精神科医、いたかしら…」
「くっ…!」
だけどそれは違くないか???
『
言いたい事も分かるし上手い事言えていると思う、ネタとしてもマジにしても成立する。
でも『わっぴ〜!』って何よ、何も分からないわ。
いや、意味はあるのかもしれない…でも分かんないわよ、勢いだけにしか聞こえないわよ…
…駄目だ、これ以上ツッコんでたら時間の無駄だ。
「…で、本題に移っても良いかしら…?」
「あぁ、すいません…どうぞ」
本来の目的を見失ってはいけない、そもそも私は聞き込みのためにと此処を訪れたのだ。
決して彼女のコミュ症を治すためではない、成り行きでこうなってしまっただけで…
…成り行きでコミュ症の治療って、何…?
まぁ、今は気にしないでおこう。
「トリニティの部活見学をしてる最中に補習授業部っていう部活動の噂を聞いたのだけれど…」
補習授業部の不穏な噂…本音を言うならば、百合園セイアという生徒についても色々と聞きたい。
が、外部からの客人である私がそんな事ばかり聞いていたら些か不自然だろう。
能力で上手くやる事は出来ると思うが…これ以上問題を起こしたくない、余計な騒動に巻き込まれたくない。
回り道かもしれないが、こうするべきだろう。
「どうやら、新しく出来た部活のようじゃない?詳しい事が気になってね…どう、何か知ってる?」
「…えぇ、ある程度の事は知っております」
まぁ、だろうなという感じだ。
いくらなんでも一組織のトップを張る人間が私程度でも分かるきな臭さを感じない筈がない。
バカだろうがアホだろうがトップはトップ、人を率いる者というのは情報の仕入れも早い。
「そう?じゃあ、知ってる事を話してくれると嬉しいのだけれど…話してくれるかしら?」
「…では、私の知っている範囲で、ですが…」
…真剣な表情、纏う雰囲気が変わった。
先程までのソレとは違い、いかにもカリスマといった…いや、さっきのアレを罵倒してる訳じゃなくて…
ともかく、真面目な話をするという事だろう。
「…補習授業部は成績が振るわないとされる生徒達によって構成される、臨時の部活動です」
「臨時、って言うと?」
「分かりやすく言えば、一定以上の成績を超えた時点でこの部活からは引退する…という訳です」
ここまではイチカから聞いた話と同じである。
成績不振者を集め、まとめて勉強出来る場を設ける。
メンバーに違和感があると聞いたからこそ怪しんでいるが、ここまでは特に普通の部活動である。
「へぇ〜・・・期限とかってあるの?」
「…期間中に三度行われる学力試験、そのうちで一度でも合格点数を取る事が出来れば引退…」
「逆に、一人でも取る事が出来なかった者がいた場合は全員が退学となるそうです」
「…はぁ…?」
「冗談キツイわ、なんで合格点を取れてる人まで巻き込んで退学になるのよ…連帯責任って言ったって、いくら何でもそんな事が出来る筈が…」
明らかに個人としての権力の範疇を超えた行為。
何か問題を起こした訳でもなく、学力が一定に満たないという理由だけで無理矢理招集されたメンバーが他の他人の責任を共に背負う。
いくら学園のトップだとしても数人の学生が軽々しく行えるような事じゃない、問答無用で退学となるとそれこそ校則に縛られないような抜け道を使うしか…
…いや、そうか…そういう意味で…
「…シャーレの権限か…!」
「えぇ、恐らくは…」
シャーレは規約や法律による規制をある程度無視して行動する事が出来る超法規的機関。
普段だったら生徒を守るために使われるソレは、使い方によっては生徒を嵌めるような事も出来る。
それこそ、校則が関わるような行為なら尚更だ。
生徒を保護するための校則もシャーレの前では無力、今回のような件だって起こせてしまう。
「既に学力試験はニ度行われ・・・一度目は単純な学力不足で不合格に、二度目は…突然の試験範囲拡大と、不慮の事故…いえ、明らかな妨害によりそもそも試験を受けられなかったと聞いております…」
「普通はそこまでする必要がない、何らかの理由がある筈…それを知った上で、貴女達は動かないの…?」
成績の悪い生徒をふるいにかける、ここまではお嬢様校だと言われているトリニティの在り方としてまだ納得する事が出来る。
だが、今回の件は絶対に違うだろう。
試験の妨害…合格させる気のない内容、それに一人でもミスをしたら問答無用で退学処分。
招集されたメンバーに違和感があるというのもこう考えると辻褄が合う、合ってしまう。
「…シスターフッドは長らく政治には関わらないという体制を取っています…どうしてこのような事をしているのかも分からない私には、どうする事も出来ず…」
…彼女も一組織のトップ、率いる側の人間だ。
彼女が自分の判断と勝手で行動すれば下の者にもその代償が行く、無責任に動く事が出来ない。
分かっていても行動出来ない、目の前に提示されている間違いを正す事が出来ない。
難儀な立場だが、これは彼女の…彼女達の問題であり私がどうこう出来る事じゃない。
それならば…いや、だからこそ…
「…サクラコ、補習授業部のメンバーは?」
「説明させていただきましょう…補習授業部のメンバーは四人、まずは部長を務めている彼女…」
補習授業部は、私がどうにかしてみせよう。