『…そう思った根拠を教えてもらっても?』
「ん、まぁ、それを含めて説明するわ」
トリニティにはエデン条約を壊そうとしている裏切り者が存在する、それが私の予想。
いつものようなハッタリやペラ回しではなく、根拠と理由に基づいた結果導き出された答え。
「まず、補習授業部設立の理由が『成績不振者の矯正』だってのはただの建前でしょう?」
『恐らくは…というより、アレは明らかにメンバーを退学させるために作られたグループでしょう』
サクラコから聞いた話をまとめると、何らかの間違いで試験に合格する…なんて事が起きないよう、明らかな妨害を行っているらしい。
補習授業部という名前は退学に対する真っ当な理由付けをするためだけのものであり、たとえ全員が試験で満点を取れるような学力を手に入れた所で退学を免れる、なんて事はないのだろう。
「一人でも合格点に届かなかったら退学…シャーレの権限を使ってまでやる事じゃないしねぇ…」
なんでこんな分かりやすい誘いに対して先生は乗ってしまったのか…生徒第一のあの人が生徒を犠牲にするような真似をする筈がない。
多分、ティーパーティーの者に騙されたのだろう。
…いや、騙された事を理解した上で真正面から問題を解決しようとするのがあの先生だ…
あまりにもお人好しだな、と改めて思わされる。
「じゃあどうしてティーパーティーの連中は補習授業部の生徒を退学させようとしているのか…」
『…エデン条約、つまり、そういう事ですね?』
「…察しが良すぎるってのも考えものね…」
エデン条約、トリニティとゲヘナの不可侵条約。
正直な所、ゲヘナを毛嫌いしている節があるトリニティとそもそもの思考回路が合わないゲヘナという二つの学園がお互いの戦争を防ぐ条約…
私でも分かる、絶対に上手くいかないだろう。
…こんなのを結ばないと戦争が起きる危険性があるキヴォトスの治安にも困ったものだが…
「恐らく、補習授業部ってのはエデン条約を結ぶにあたって障害となる生徒を一つの組織に集めて一斉に処理するために作られたんだと思うの」
だからこそ、その原因を取り除く。
都合の悪い生徒を、トリニティから追い出す。
『…その心は?』
「集められた生徒一人一人に『そう考えたら納得のいく』理由が多すぎるのよ…」
サクラコから聞いた補習授業部のメンバーの特徴や経歴、そして今起きている状況。
その二つを重ねて考えると嫌という程に一致する…否、その二つが妙に噛み合ってしまう。
確信を持って言える程ではないが、恐らくは合っているであろうこの予想。
「浦和ハナコ…私はサクラコから話を聞いたから色々と理解してるけど、天才とも言えるであろう少女が突然奇行に走り始めたらそりゃ怖いわ…」
例えるなら、ヒマリが唐突に奇行を…
…いや、今の時点でもそこそこ奇行に走ってるが…
もし才色兼備で割とマトモなヒマリが急に周りの理解の及ばないような奇行に走り始めたらリオ会長は警戒するだろうし、恐怖心を抱くだろう。
未知は恐怖、理解出来ないものは怖い。
「次に下江コハル…多分、彼女の場合は彼女自身が悪いって訳じゃないんでしょうね…」
『と、言いますと?』
「風紀委員会と正義実現委員会は仲が悪い…多分、彼女はエデン条約に反対する可能性のある正実側を抑えるための人質的な役割なんでしょう…」
イチカからも聞いているが、正義実現委員会の生徒はゲヘナに対する嫌悪感を持っている者が多いらしい。
エデン条約を結ぶという提案に対してもしも正実が反対し、下剋上でも起こされてしまえばティーパーティーとしても困るのだろう。
本人に怪しい点がある訳ではないのに編成された…これが本当なら可哀想にも程がある。
『単純な学力不足以外に怪しい点が見つからない…逆に言えば学力が不足しているからこそ都合良く補習授業部へ編成する事が出来たという訳ですね…』
「…これ、私が説明する必要ある?」
…話が通じるという事に越した事はない、うん。
けれどコレはちょっと…そもそも私の説明がいるのかってレベルなんじゃないか…?
正直もう全部分かっているんじゃなかろうか…?
『えぇ、あります…私とパルスィさんの意見が違う可能性だって十二分にあり得るんですよ〜?』
「…はぁ…まぁ、続けるわね…」
…まぁ、話すだけ話させてもらおう。
「白洲アズサ…正直、私はこの子がゲヘナ出身なんじゃないかって疑ってたんだけどねぇ…」
『ほぅ?それはまた、どうしてですか?』
「こんな時期にゲヘナからの転校生が来た…なんかもう、エデン条約のタイミングで絶対裏切るじゃん?」
トリニティからゲヘナに対する嫌悪感は大きい。
そのせいであまり目立ってはいないが、ゲヘナ生の中にもトリニティ生が嫌いな人物は相当いる。
そもそも性格が合わないのだろう、エデン条約に反対している生徒は多い筈だ。
『まぁ、確かに怪しさの塊ですね』
「だから彼女がく〜ろ〜ま〜く〜なんじゃないかなって軽く予想していた…訳なんだけど〜・・・」
『実際はデータがなかった、という訳ですか』
「いぐざくとり〜・・・」
じゃあ彼女は何処の学園から来たのか?
彼女がこの学園に転校してきた理由は何なのか?
「…別にね、彼女がゲヘナ出身じゃないってのは予想とは異なったけど問題じゃないのよ」
「でもね、データがないってのは違うじゃない?」
「荒れに荒れてるゲヘナだって所属生徒の情報くらいはしっかりと管理してる…普通はトリニティがそんな情報を管理していない筈がない…」
つまり、それが何を表すか…
『トリニティの生徒会、ティーパーティーは確か3人の生徒によって構成されているんでしたね?』
「…やっぱり、そうなるわよねぇ…」
恐らく、アズサはティーパーティーの中の誰かの権力によって情報を残さずに転校してきたのだろう。
でなければ疑う理由がない、でなければある程度の情報が残っている筈だ。
彼女が一体何者なのか、それは分からないが…
…ティーパーティーの中にエデン条約に反発し、阻止しようとしている者がいるのは確実だろう。
『…改めて此方の方でティーパーティーの生徒について調べてみます…情報が得られた段階で折り返し連絡いたしますので、パルスィさんは…』
「白洲アズサ、彼女の方は私に任せてちょうだい」
ヒマリにばかり任せてはいられない、私の方でも情報を得なければならない。
果たして聞き込みで得られるような情報なのか…
…いずれにせよ、やってみるに越した事はない。
向かうべき場所は…知識人がいる場所や、様々な情報が得られるような場所…
…今日の目的地は図書館になりそうだ。
『…ミレニアムの生徒という立場上、こんな形のサポートしか出来ませんが…まぁ、そうですね…』
『貴女なら、華麗に解決してくれるでしょう?』
「…期待が重いわねぇ…」
…電話越しなのに、相手が笑っているのが分かる。
他の人と違って私の事を『理解』した上で、こうして信頼と期待を寄せてくる。
どうしてそこまで…あぁ、そうだな、妬ましい…
『…では、ご武運を』
「…そっちこそ、頼りにしてるからね…」
その才能が
本心から他人を信じられるその強い心が、どうしようもなく
…だから、私はその期待に答えられるように…
私は、最善の道を選べるようになりたい。
そう決意し、電話を切ろうと…
『…ぁ、そうそう、そうでした…』
『阿慈谷ヒフミさんに怪しい点はありましたか?』
…ぁ〜・・・あぁ…あ〜・・・っぁ〜〜〜・・・
「………」
『…ふふっ、えぇ、あくまで予想ですもんね?』
…こういう所だ、この女はこういう所がある。
私の事を超常現象だと語る癖に、常に私の二枚上手を行くのがヒマリという少女だ。
…まぁ、でも…それは、とてつもなく頼もしい。
「…はぁ、ったくもぉ…ごめん、頼んだ」
『今更一人の情報を調べる事など容易いです、是非とも期待して待っていてくださいね?』
そう掛け合い、改めて電話を切るのだった。