「…いえ、知ってるとは限りませんが…」
「あの言い方で…?」
明らかに確信を持っている言い方だった、心当たりがあるというような反応だった。
だが現実は非情也、返ってきた言葉は非常に曖昧な答えにしかならない一言。
「では何故、私を招き入れたのです?」
私の求めている情報と彼女の知る情報が一致している確証がない状態で私を招き入れる必要などない。
しかも彼女は最初は私をこの古書館に入れる事を嫌がっていたのだ、ますます分からない。
彼女の力を借りられる事に越した事はないが、私にはその行動の意味が理解出来なかった…
それとも、パルスィ様なら理解出来るのだろうか。
「…自分は割と博識な方だと自負してますので…」
「それに、です」
「この子達の持つ情報の中には、きっと貴女の求める情報がある筈ですから」
彼女の言う『この子達』というのは、きっと此処にある古書の事を指しているのだろう。
…あぁ、いや、別にそれが悪い事だとは思わない。
寧ろ『物』を大切に…いや、単なる『物』として雑に見ない点は素晴らしいと思う。
そうは言ったものの、それはそれとして…
「その確証は何処に?」
「…きっとありますよ、きっと」
「自信を持って断言してもらいたいのですが…」
これで『結局なかった』などという結論に至ってしまったら私としてもたまったものじゃない。
協力してくれている、という時点で彼女には感謝してはいるがだからと言って結局のところ何も成果が得られないというのはまた違ってくるだろう。
パルスィ様達は情報を見つけられただろうか、彼女達から私に連絡が来ていないだろうか…
そんな思いを押しのけ、今は目の前の彼女に私の求める情報について伝える事に専念する。
「それで、貴女が求める情報…」
「確か、とある学園について…でしたっけ?」
「えぇ、おおよその認識はそれで合っています」
その学園の名称も特徴も分かっていないが、求める情報の概要としてはその通りである。
とある学園についての情報、非常に簡潔ながらもこれだけでは何も分からないような情報だ。
「じゃあ…詳しい説明を聞いても…?」
「承知いたしました」
詳しい説明、と言っても長々と語れるような情報はそう多くはない。
それでも僅かなヒントはある、手掛かりになるような情報は幾つかある。
「私はとある理由でトリニティと対立している学園について調べています…とある理由、については話さなくても良いですかね?」
「…まぁ、話したくないのなら」
「では、省略させていただきます」
とある理由…ティーパーティーの諸々や私の所属などは彼女には話さない方が良いだろう。
それは彼女を信頼していないから…というわけではなく、今話すとややこしい事になりそうだからだ。
その理由を話した事によって此方が不利になるような状況になる事さえありうる、話すにしても全て終わった後に改めて話しに来るべきだろう。
「その学園がどんな場所なのか…それすら私には分からないような状況です…」
「唯一言えるとするならば、トリニティに対して何らかの敵対心や対抗心を抱いているであろう事…」
「それは…確実性のある情報ですか…?」
「いえ、これもあくまで予想に過ぎません…」
直接私が得た情報という訳でもないし、パルスィ様から伝えられた時にも『あくまで予想の範疇である』という言葉が添えられていた。
これが誤った情報だったとしたらそれこそ何の手掛かりもないような状況になってしまう。
「難しい話ですね…」
その通りである、こんな数少ない情報から答えを導き出すなど普通に考えたら無理難題である。
だからこそ、噂と情報を頼りに此処へと訪れこうして彼女と会話を交わしている訳だが…
「ゲヘナ…って訳ではないんでしょう、だとしたらわざわざ私の元まで来る必要がない…」
「ゲヘナやミレニアム、百鬼夜行など…表向きで有名な学園ではない事は確かだと思われます」
少なくとも、ミレニアムだった場合はセミナーの面々が何らかの要因で関わっている筈だ。
ゲヘナ所属のパルスィ様も違うと言っていたのだからここに関してはほぼ確実と言える情報だろう。
…というか、どうやってこの情報を手に入れたのかすら私には分からないのだが…
「…なるほど、ふむ…」
「…何か分かったのですか?」
「分かった、と断言は出来ませんが…」
もしこんな断片的な情報で答えを導き出せたというのなら大したものである。
と、彼女は座っていた椅子を立ち上がり少々考え込むような動作を取った後に正面の本棚から一冊の本を取り出し、再び私の目の前に座る。
「近い情報はこの子が知っていた筈です」
「…もしかして、此処にある全ての本の内容を把握しているのですか?」
この古書館には今いる場所からパッと周囲を見渡しただけでも相当な量の本がある。
今視界に映っていない本棚や他の場所に置かれている本の事を考えると…まぁ、考えたくもない。
私やアリスのような特殊なケースは例外として考えると、此処にある本の事を全て…題名や内容を含め全て把握するというのは正気の沙汰ではない。
「流石に全てとは言えないです…まぁ、大半の内容は把握している自信がありますが…」
「…本当に人間ですか…?」
「人間です…魔術師、なんて呼ばれてますけど」
訂正、目の前の人物は正気ではなかった。
何故此処に衣類が散らかっていたのか、どうして彼女が古書館から滅多に出ないのか…
その理由が何となく理解出来た気がする。
魔術師…そう呼ぶ者の気持ちも分かってしまう程に彼女は古書への理解度が…いえ…
古書に対して抱いている愛が大きいのだろう。
「さて、え〜・・・ケイさん、でしたっけ?」
「えぇ、合っています」
彼女は手に持った本のページを丁寧にめくる。
随分と年季の入った本のように見えるが、修繕や手入れの賜物か、いつの年代の物かは知らないがまだまだ普通に読めるような様子だ。
「…この子にはトリニティの歴史が記されています、都合が悪いからと闇に葬られたような貴重な情報も含めて様々な情報がこの一冊に…」
「時にケイさん…このトリニティが総合学園だという事はご存知ですか?」
「まぁ…常識の範囲ですね、知っています」
ゲヘナ学園、ミレニアムサイエンススクール…
そして、トリニティ総合学園。
トリニティは元々は幾つかの派閥に分かれていた学園が一つに統合されて出来た学園だと聞いている。
「という事は、当然総合学園となる前は幾つもの小規模な学園があったわけですが…」
「…つまり、貴女の予想というのは…」
「恐らくは、そういう事だと思います」
トリニティには今も幾つもの派閥がある。
時には意見の食い違いや方向性の相違などで軽いトラブルが起こるらしい…
それは、統合された結果としてルールが定まった今だからこそ軽いトラブルで済んでいる事なのだろう。
「アリウス分派、トリニティが総合学園となる以前…各学園の中で唯一統合に反対意見を出した学園…」
「今の名をアリウス分校…弾圧され、追放され、表舞台からは姿を消した者達による学園です」