『…それで、私を頼ったと?』
「ごめん、これ以上は流石に私じゃ無理」
私が電話をしている相手…回線の向こう側にいるのは当然、例のアイツである。
頼りたくない訳ではないしこうして頼らせてもらっている訳だが、こうして素直に彼女に助けを乞うというのも何だかあまり気に食わないが…
まぁ、今の状況的に仕方がないのでここは飲み込んで素直に頼るのが正解だろう。
『えぇ、えぇ…何となく予想はしていました、貴女は必ずこの超天才病弱清楚系美少女ハッカーにもう一度助けを求めになる事になると…』
「喧しいわ、わざとやってない?」
『当然、わざとやっていますが?』
前言撤回、やっぱり素直に頼りたくないわ。
悪い子じゃないって言うのは理解してる、それはそれとして苛つくものは苛つく。
天然で言ってきている方がまだ許せる、分かってやっているからこそ余計に苛立つのだ。
私がヒマリに対してフラットに接している理由であり、ヒマリの事があまり得意ではない理由である。
「本ッ当に良い性格してるわね貴女…」
『褒め言葉として受け取っておきますね♪』
「ぁ〜・・・ハイハイ、褒めてる褒めてる…」
本当に良い性格をしていると思う、逆にこれだけ図太くいられるのも才能なのではなかろうか。
人より優れている点を素直に誇って他人に自慢出来る、他人にそれを嫌味と言って良いレベルで何度も何度も擦り続ける事が出来る。
清楚系かどうかは抜きにしても、自身が病弱だという事をあまりマイナスに考えない事が出来ているメンタルがあるのは素晴らしいと思う。
私風に言うならある意味で妬ましいという事だ。
『…それで、白洲アズサさんに関する情報については自分の力で入手する事が出来た、と…』
「私の力って訳でもないけどねぇ…ま、なんとかなってるしそういう認識で良いと思うわよ」
私も私で奔走したつもりだが、核心を突く情報を持ってきたのはケイである。
私の手柄かと言えばそんな事はないし正直な話自力で入手出来たとは言い難い…
が、今はそこが重要になる場面ではないのでその認識でも問題はないだろう。
『では本題に入る前から、補足を一つ…』
『阿慈谷ヒフミさん…彼女の事を詳しく調べた所ブラックマーケットへの出入り情報やテロ組織としての活動情報、様々な問題が露わになりました…』
「…何それ、極悪人なんじゃないの…?」
補習授業部のメンバー、その中で唯一私が補習授業部に入った理由が見つけられなかった生徒。
4人の中で最も普通、正直に言うとあまり目立たないような生徒だと認識していたのだが…
ヒマリから出された情報は、あまり冗談だと笑えるようなソレではなかった。
もしかして今までの予想が全て的外れで本当はこの生徒が色々とやらかしているのでは…
『が』
「が?」
『前者も後者も行動理由は今回の問題には全く関係のないものでした、他ならぬ先生のお墨付きですから信頼してもらって良いですよ?』
…どうやら、その心配は必要無かったらしい。
冷静に考えれば、そんな根本から覆るような情報だった場合ヒマリはその情報を得た時点で急いで私に連絡を送って来ていた事だろう…
…送って来る筈よね、確信持って言えないんだけど。
と、それも重要な話であり決して無視できるような内容の事ではないのだが…
「…ねぇ、もしかしてなんだけど…」
『えぇ、貴女が私にこうして色々と聞いているという事も伝えさせてもらいました』
「なんで言っちゃうかなぁ…」
トリニティに来ていると知りながら、補習授業部に関わっていると知りながら。
敢えて会わずに接する事を避けていた先生、その先生に私がトリニティの現状に対して色々と調べているという事がバレてしまったらしい。
バレたところでなんなんだ、という話ではあるが私としてはあまりバレたくはなかったのだ。
『私が言わないと貴女は絶対に会おうとしませんから、確かに過干渉は避けた方が良いのかもしれませんが時には協力する事も大事ですよ?』
「…私だって、先生の事は信頼も尊敬もしてるんだけどねぇ〜・・・だからこそ妬ましい訳だし?」
そもそも彼は私より人としては優れているだろう、私とは違って様々な生徒に向けて平等に手を差し伸べる事が出来るのが彼という存在だ。
その力はとても大きい、私はその心を明確に自分より上だと見ている。
が、それとこれとは話が別である。
「けどね、そんな人が純粋な心で私の事を頼ってくる、そんな状況に慣れてないのよ」
私は人を頼る、私がソレを行うよりも圧倒的にソレを上手くこなせる人材がいるから。
私は人を頼る、この人に任せれば大丈夫だと信頼出来るような相手がいるから。
だけど、水橋パルスィという人間は頼られない。
私の能力は確かに優れているかもしれない、私の持つ様々な技術は色々な所で役立つかもしれない。
それでも私という一個人を頼ってくる人は滅多にいない、利用する人はいても頼る人はいない。
そうして暮らしてきた中で彼という人物は私の調子を狂わせる要因となるのだ、それと同時に橋姫という形の私を歪ませる原因ともなるのだ。
『…慣れれば良いのでは?』
「それを言っちゃおしまいじゃない?」
そんな事を言ってしまえば人間関係で苦労しない。
たとえ苦手な人がいようがその人に慣れてしまえば良い、といった字面だけ見れば簡単そうに見える無理ゲーがどんどんと増えていってしまう。
簡単そうに言うが難しいのだ、慣れるというのは。
「…それで、本題に入るんだけど…」
『えぇ、分かっていますよ?』
とは言えここまでは御託、あくまで余興。
私がアテにしているのは今から話される言葉の方…
『私の出した結論、貴女の予想していたトリニティにいる裏切り者というのは…』
◇◇◇
小さな音で部屋に反響するノックの音。
明るいとは言い難い部屋の中に響くその音を聞いて、私は口に含んでいた紅茶を飲み込み返答する。
「…紅茶でしたらもう結構です」
中々返ってこない返事、再び静まり返る部屋の中。
そんな中で、何の合図もなく急に部屋の扉が開いた。
「ふぅん…やっぱり、眠れないのね?」
「…っ!?」
金色の髪、緑色の瞳、そしてヘイローのない姿。
数日前にほんの少しだけ話したきり会っていなかった、とある人物が部屋へと入ってきたのだ。
「私としては良い夜だと思うんだけれどねぇ〜・・・ほら、こんなにも月が綺麗じゃない?」
「水橋、さん…?」
予期せぬ来客、想像していなかった方面からの刺客。
困惑する私をよそに、彼女は続ける。
「さてと、桐藤ナギサさん?」
「そろそろ、現実と向き合う時間よ」