『敵、包囲を始めています!突破してください!』
アビドス自治区、そこでは対策委員会と便利屋68、そして風紀委員会が一触即発の状態で睨み合っていた。
風紀委員の行政官である天雨アコが彼女達を囲むように指示を行えば、指示の通りに風紀委員が展開されていく。
シャーレの先生は顔を顰める。
いくら対策委員の、便利屋の力が優れているとはいえ、この状況は決して良い物とは言えない。
正直、自身の指揮を含めた上で勝てるかと言われても、このままではジリ貧になるであろう。
だからこそ思考を巡らせる、上手くいく道筋を探す。
その時だった。
「アコ」
自分達の立つ場所、その上空から声が聞こえたのは。
◇◇◇
「ぇ…ひ、ヒナ…ヒナ委員長!?」
「アコ、コレはどういう事?」
よく分からないが、背中のヒナが溜息を零したかと思えば、降ろしてくれと頼んできたので要望通りに降ろしてあげた。
そうしたら、痴女みたいな…いや、何処ぞの巫女共も大差ないか…青髪の少女、アコとやらを叱り始めた。
ヒナの背格好がだいぶ小さいせいで、妹に怒られる姉みたいな構図になっており中々面白い。
とは言え、見た目と年齢は比例しないということを今までの経験から学んでいるので、委員長と呼ばれるからにはヒナの方が歳上なのだろうなと軽く予想する。
かく言う私も年齢詐欺側の見た目だろうし。
「どうしてヒナ委員長がこんな所に…!?」
「たまたまよ、本当に…ただの偶然」
まぁ、私は完全に部外者だし、あの二人の会話に付いていく事は出来なさそうなので、先程から視界に映っている一人の人物へと視線を戻す。
ヘイローのない、一人の大人の男性。
恐らくアレが、かの先生とやらだろう。
「アレが…ゲヘナの風紀委員長…!?」
〚そんな事より…あの人、飛んでませんでしたか!?〛
「確かに飛んでた、委員長も乗ってた」
眼鏡を掛けた幸が薄そうな、目の下の隈が目立つ男。
しかし、百人に聞けばその大半が顔が良いと答える程に整ったその容姿に、纏っている独特な雰囲気。
しかも、可愛らしい少女達に囲まれているときた。
「良いわねぇ、モテる男は…妬ましい…」
というわけで、妬んでおく。
些か雑な妬み方に見えるかもしれないが、実際に現実でこんな光景を見せつけられたら、妬ましいにも程があるだろう。
「妬ましい…ですか?」
色々と大きい少女に問われたが、敢えて無視する。
どうなっているんだその胸は、全く妬ましい。
そして、当然のように銃とやらを装備している少女達を見てまた溜息が漏れる、これがこの世界の常識だと言うのだから世も末であろう。
「…ねぇ、そこの貴方」
変に構っている理由もないので、目的を達成せんと目の前の大人に話しかける。
“…えっと、私の事かな?”
「そうよ、そこの貴方に言っているわ」
自身が呼ばれていると理解するのに時間がかかったのか、少し間が空いた後にそう答える男性。
流石にコレは言いがかりかもしれないが、そのとぼけ方にも人を誑し込む何かがあるように感じる。
妬ましい、あぁ、妬ましい限りだ。
「貴方が先生、それで合ってる?」
そう予想を述べるも、恐らくは正解だろう。
聞いていた通りの特徴的、それに私と同じでヘイローが浮かんでいない頭上、そして何より人間の男だ。
ここまで一致していて逆に違うのだと言うのなら、私は本格的にヒナの事を信じられなくなる。
“うん、私がシャーレの先生だよ”
まぁ、そんな事はなく合っていたのだが。
「そう、なら話が早いわ」
ならば私が取るべき行動は一つ。
「私は水橋パルスィ、貴方と同じ…此処とは違う外から来た大人よ」
この大人とコミュニケーションを取り、友好的な関係を築く事。
この大人の口から、此処…キヴォトスから幻想郷への帰り方のヒントとなる情報を聞き出す事。
“キヴォトスの…外から…?”
「えぇ…よろしく頼むわよ、先生?」
つまり、この人間の信頼を得る事だ。
「パルスィさん、少し良いかしら」
そんな訳で、手っ取り早く能力を使って彼の心を侵そうとしたのだが…その前に、ヒナに呼び止められた。
振り返って彼女の表情を見てみるが、その様子を見るに私が能力を使おうとした故に呼び止めた、といった感じではなさそうである。
「…どうしたの、ヒナ?」
「その人達に、伝えなきゃいけない事があって…」
そう言われれば、素直に退くしかない。
此処で無理に断った所で得られるメリットなど無いようなものだし、折角築けた人脈を無下にするのも損である。
というわけで、少し彼女達から距離を取る。
「事前通達無しでの無断兵力運用…そして、他校の自治区で騒ぎを起こしたこと…」
「この事については…私、空崎ヒナよりゲヘナの風紀委員長として…アビドスの対策委員会に対し、公式に謝罪する」
そう、ヒナが頭を下げて謝罪をしているのを横目に、私としては珍しく同情する。
あれは人の上に立つものが、その立場から胃を痛めている時の可哀想な表情だ。
傍から見れば威厳の塊にしか見えないが、地霊殿の主などをよく見てきた私…ましてや、感情について詳しい私からしたら分かり易いにも程がある。
傲慢な上司ならいざ知らず、部下の暴走に振り回される上司というのも、難儀なものである。
こころなしかシナシナとしてきた彼女をフォローするか、と悩み始めた所で、また、新たな人影が見えたのだった。
◇◇◇
水橋パルスィという人物は、橋姫という種族ではあるが、語られる地域が違えば鬼女とも呼ばれるような妖の類でもある存在である。
つまり、人間の恐怖や負の感情を元として存在している人物なのである。
「うへぇ〜・・・コイツはまた何があったんだか…凄いことになってるじゃ…ん…」
それはこのキヴォトスにおいて、大変重要な意味合いを持ってくる事柄である。
少女達の持つ神秘と、彼女の持つ恐怖は本質的には真逆と言っても遜色のない性質をしている。
それに、彼女の持つ恐怖はあまりに大きすぎた。
「…小鳥遊、ホシノ…?」
「あら、ヒナのお友達?」
それは、キヴォトス最高峰の神秘を持つとされる小鳥遊ホシノから見ても、化け物と感じる程には。