色んな所から供給を得られる今年、嬉しい限りですね。
セイアが到着する、ほんの少し前の出来事である。
私はやり残した事をしっかりと処理するために、ボロボロの身体を引き摺りとある場所へと来ていた。
特に目立った装飾もないごく普通な一軒の建築物、ヒマリから送られてきた地図に記された場所。
私の目的は“彼女”を連れ出す事、話が捻じ曲がってしまう前に本人達に全てを解決させる事。
そのための策を持って赴いたのがこの場所、私の仕事はこれで終わりである。
あとは彼女の事を元いた場所まで運んで、あとは先生に丸投げして私の仕事はコンプリート。
「ま、そう簡単には行かない訳だ」
「……」
物語における計画というものは大体失敗する、完全成功なんてものはあまりにも都合が良すぎるからだろう。
目の前に立ち塞がるのは水色の髪をした一人の生徒、他の生徒に比べ明らかに重装備をしている。
しかしながら頭に被るソレや服装のデザインが、彼女がトリニティにおける医療を担う者だという事を示していた。
「言わんとする事は分かるけれど、残念ながらここで道草食ってちゃ面倒事がまた増えるのよねぇ」
蒼森ミネ、噂に聞く救護騎士団の団長。
「何も聞かずに退いてくれると助かるのだけれど?」
計画通りとは行かないが、彼女がこの場に現れる事自体はある程度の予想が付いていた。
百合園セイアが生きている、その事実を隠し通しながら彼女を保護するには協力者が必要だと。
協力者が多ければ多いほど、情報が漏れる確率は高まる。
となると極論は個人で済ませた方が良い、他にも正義実現委員会の委員長などに目を付けていたが…
まぁ、ぶっちゃけこんな事だろうとは思っていた。
「…目的、思惑、貴女が何を企んでいるのかは知りません」
淡々と、あくまで感情的にならず言葉を続ける。
私達は初対面、ここ数日の奔走により私の存在自体は知っているかもしれないが私の目的を知る事は無かった筈。
彼女にとっての私は秘匿していた情報を知り唐突に現れた、不審な人物でしかない。
「ですが、私の瞳は」
それでも彼女は私をそう扱わなかった、普通ならば敵として定め相対する筈の私を。
「貴女に“救護”が必要だと、そう訴え掛けて来ています」
救護が必要な怪我人だと、言い切ったのである。
「へぇ、あくまで私の心配をすると」
「目の前に救護を必要とする者がいるのに、何をどうして他の事を考える必要があるのでしょうか」
「…ある意味で狂ってるわね、一周回って良い方向に」
重症とはいえ傷の隠蔽はし続けている、ならば私の負傷を知ったのは彼女の勘によるものでしかない。
それか、これにも神秘というものが関わっているのか。
これじゃあ折角取り繕っているのに意味がない、やりづらいったらありゃしない。
けれど、私は彼女の相手をしなければならないのだ。
「なるべく動かないように、すぐに終わらせます」
「私がそこで頷く筈がないでしょうに…」
私の目の前に立ち塞がり道中の敵となる以上、私は彼女の事を敵として見なければならないから。
ただ残念な事に私の残りのパワーはカツカツ、正直彼女を相手に勝利するのは至難の業である。
じゃあどうするか、私はみすみす逃走するのか?
否、既に私の中での答えは決まっている。
「残念ながら、治療は救急医学部だけで間に合ってんのよ」
バトンは渡された、あとは私の出る幕ではない。
◇◇◇
「…信じて、良いんですよね…」
人気がなく静まり返った建物の中に、場違いとも言える様子の少女が一人歩いていた。
数日前にパルスィからの連絡を受け事情を把握し、自らが動いたサクラコの姿である。
今の彼女はシスターフッドではなく、ただの一生徒としてこの場に赴いていた。
「……」
その理由は組織として、シスターフッドとして動く事で親愛なる彼女達を巻き込みたくなかったから。
「果たしてこれは、正しい選択なのですか?」
水橋パルスィ、彼女の事を信頼して託したものの本心では彼女を信じ切れていないところがあった。
それは何故か、あまりにも上手く行きすぎていたから。
私のした事はほんの助言に過ぎなかった、それなのに彼女は全てを知った上で答えに辿り着いた。
果たして本当に彼女は私の味方なのか、神にそう問い掛けても聞こえるのは自分の呼吸音のみ。
「…そうですね、迷い続けて何も出来ない…」
だが、彼女に託したのは紛れもない私の意思である。
彼女は私の事をちゃんと見てくれた、その上で私の意思を受け取りこうして再び頼ってくれた。
何を迷う事があろうか、今目の前に助けを求める人がいて私はそれを実行出来るのだから。
今は立場に縛られるような、そんな状況ではない。
「それが、一番の空虚ですから」
決意を固めて開いた扉の先には、簡素なベッドがあった。
横たわり眠るのは一人の少女、聞かされていた通りの人物がそこにいた。
やはり心の奥底には不安が残るものの、深呼吸をして取り出すのは一枚の紙切れ。
パルスィから渡されていた、お札のようなもの。
「お願い、します」
震える手を抑え付けて彼女の額に貼り付けると、それは音もなく黒く変色しすぐに灰と化した。
「っ…!?」
その直後に彼女の身体が一瞬痙攣し、ゆっくりとその瞳が開いたのである。
「…突然の事で混乱しているでしょう、ですが…」
混乱しているのは私自身もそうではあるが、此処に立つ以上私には説明の義務がある。
出来るだけ簡潔に必要な事を伝えられるよう、心を落ち着かせて向き合った彼女の表情は何処か悟っているようで。
「…いや、大体は把握している」
私に説明の必要はないと、そう言うのだった。
「な、なんと仰られました…?」
「意志は引き継いだ、自分のヘマは自分の手で正すと言っているんだ」
言わんとする事は分かるが、難解な言い回しは自分の中では解決しているという事を表すようで。
なんだか気押されるままに呆然としていると、ベッドから降りた彼女がその場に立ち上がろうとする。
しかし、支えにしていた手を離した瞬間にくらりと倒れかけるその身体。
彼女が目覚めた仕組みは私には分からないが、やはり無茶をしているようである。
「すまないサクラコ、肩を貸して貰えるか?」
「…不本意ですが今は急を要する事態です、急ぎましょう」
本当ならば安静にしておきたいところだが、私は再び託され頼られた身であるから。
責任を持って彼女を送り届けよう、そう思い言葉の通りに彼女の支えになった。
◇◇◇
「…なんだ、やれば出来るじゃない」
その言葉を境に、目の前の彼女は倒れ伏した。
「…なっ…!?」
私が牽制として繰り出していた攻撃も、動きを止めようとして近付いた際に振りかぶった掌も。
それらを全て避けていたにも関わらず、急に全身の力が抜けたかのように気を失ったのである。
奇怪な事だとは思わない、最初から彼女には救護が必要だと感じて相手をしていたから。
だが、私の予想能力は残念ながら足りていなかった。
「っ!!重体患者!!緊急救護ッ!!」
疲労が溜まったのだろうと、無理をして身体に鞭を打ったから倒れたのだろうと。
そう甘い事を考えていた私の瞳に映ったのは、右半身が“無い”彼女の肉体だった。
かろうじて息はある、しかし出血が止まらない。
何故、何が、そんな思考を置き去りにしたまま私は彼女の身体を持ち上げるのだった。
自身の苦痛を押し付ける呪術があるのなら、そのまた逆の事を彼女が出来ない筈も無し。
それはそれとして色々と面倒な制約は絡んできそうですが…