良ければ新連載の方も読んでね(小声)
あれから数日が経った。
ケイから聞かされた事の顛末は“出来すぎたエピローグ”と言った様子で、何もかもが上手くいっている。
ナギサとセイアはミカと和解し、襲撃してきたアリウスの生徒達は無事拘束された。
二人にミカを責め立てる意識はないようだが、それはそれとして自分自身へのケジメや立場上の行動として。
ミカは現在、アリウスの生徒達と同じように拘束されているとのこと。
私には関係のない事だけれど、補習授業部の面々も無事に解放されたというのを後に先生から伝えられた。
裏切り者としての疑いは晴れていたわけで、それはきっと形式上のものだったのだろうけど。
それでも意味がある、乗り越えたという事自体に意味がある。
そう、今回もまた上手くいった。
私が介入したのはほんの少しの要素だけで、当人達と先生の手によってこの問題は解決された。
何の心配もなく、しがらみもなく、きっとエデン条約は締結される事だろう。
これから私がするべき事と言えば、レイサやサクラコ達へ礼をしに行くくらいだろうか。
それで終わり、心配する事なんて何もない。
私はこれからヒナの元へ帰って、普段通りに日々を過ごして、彼女の行動が報われる日を待つ。
たったそれだけのこと、それだけのことでいい筈だ。
けれど、人の悪意は止まらない
私にはそんな予感が、確信がある。
相も変わらずトリニティ、客人用に貸し出された一室。
私はまだトリニティに滞在している、引っかかる事があったから。
聖園ミカがトリニティの裏切り者であり、アリウスの生徒を扇動して今回の事を起こした。
それ自体に嘘偽りはないように感じる、問題は。
問題は、その先だ。
私達の視点では、ミカがアリウスを“利用していた”ように感じる
そもそも今回の件もミカの立場と権力があったからこそ起こせた事態であり、突拍子もなく起こるような事故ではない。
誘導されているような感覚がある。
アリウスはミカの力を借りなければ“何も出来ない”ような集団である。
今回の件でアリウスの全戦力は拘束され、無力化された。
今後“アリウスが絡むような事故が起きる事はなく”、エデン条約は無事に締結されるだろう。
そう考えてしまう、いや、それが正しい筈。
正しい筈なのに私はそれを受け入れられない。
何故か、それは一体何故だろうか。
どうして“ミカが一方的に利用されていた”と感じるのか。
……エデン条約という催し自体に、きな臭さを感じているから?
分からない、今の私に推測出来る範囲は広くない。
全て杞憂に終わる可能性だって捨て切れない。
捨て切れないのに、私の橋姫としての本能が悪意に反応している。
私は私を信じてないが、
ただきっと、それはこの場に居続けても何も変わらない。
これは私一人への意識誘導ではなく、トリニティ全体への誘導なように感じる。
この場で調べ続けても、何か新しい発見が得られるような気はしない。
なら私はどうするべきか、どうするのが最善か。
ヒナに相談する?いいや、これ以上あの子に負担をかけたくない。
が、一人で考える事ではないという意識がある。
私一人で解決出来るような話ではない、いや。
仮にそれが出来たとしても、これはきっとそうするべきではない。
なら、これを伝える先として選ぶのは……
◇◇◇
「私としては咎める理由もありませんが」
場所は変わって、ゲヘナにある喫茶店。
客は少なく、私と対面に座る彼女以外に誰もいない。
「それ、トリニティに対しての軽い裏切りになってません?」
天雨アコ、ゲヘナ風紀委員会の副委員長。
私が自分の考えを伝えたのはトリニティの誰でもなく、かと言って部外者でもなく。
ゲヘナ側でありながら、私との繋がりが深くはない相手。
深くない上で、私が呼び出し会話出来る相手。
「他に話すような相手もいないんだもの」
私はトリニティで起きた事のほとんどをアコに吐き出した。
前提として、エデン条約はゲヘナとトリニティ間の対立を無くすための条約。
こんな事態があったと漏れれば条約の締結は難しくなるだろう、それを私はゲヘナ側の風紀委員会に対して漏らしている。
まあそもそも私も風紀委員側の人間なのだけれど、正直立場を借りてるだけなのでそれは一旦置いておく。
「で、何が言いたいんです?」
それをわざわざ彼女に伝えたのは、彼女の立場を借りるため。
「私にエデン条約の締結を止めさせろと?」
いいや、その中でもわざわざアコを選んだ理由は。
彼女が私と同じ志を持つものだから、か。
こう見えて色々と考えている彼女が、私の一言でエデン条約に対しての行動を変える筈がない。
私が言っているのはあくまで直感を信じた先の予想であり、問題があったトリニティも既にしがらみが解決している。
「仮に私がそう口走ったところで止まるようなものでもないんですが?」
なら私は何故そんな彼女を頼るのか。
それは彼女がヒナの事を考えているから。
先生のようなお人好しとは違う。
“最初から疑ってかかる”事に対して、肯定するだけの理解があるから。
「そもそも、私は貴女をあまり信頼して……」
その言葉に対して私が返したのは、酷く簡素で簡単な要望。
難しい事を言ったつもりはない、実際彼女がやろうと思えば簡単に実行出来るような事だろう。
「……その心は?」
しかし彼女は眉を顰めてこちらを見る。
意図がわからない、先程の発言との繋がりが見えないといったような表情。
なにせ、それ一つでは何も変わらないような要望だから。
「事は起こるわよ、未然に防ぐ事なんて出来ないわ」
きっと、これは止められるような事ではない。
それくらい不確定で、不確実で、不明瞭な私の勘。
事前に情報を得て整理して、私の手で止められるような事態ではない。
「だから潰す、徹底的に潰す」
だから私は止めない、止めないで進む。
何が起こるのかまでは分からないが、その方法が穏便なものではない事だけは予想出来る。
なら簡単だ、潰せばいい、起こした後に潰せばいい。
潰した上で、その被害を最小限に抑える。
「計画通りに進ませて、その計画を叩き潰す」
きっと何か盛大な用意をしている事だろう。
もしかしたら他の協力者が、裏切り者がいるのかもしれない。
だが知った事か、それは私じゃないしヒナじゃない。
ナギサでもセイアでも、サクラコでもない。
きっと、事を起こす事自体が相手の目的。
エデン条約という催しの場を混乱に陥れて、不明瞭な悪役を作り出す事が相手の目的。
事前に潰す事ができないのなら、私にも考えがある。
これ以上相手の手のひらの上で踊らされるのは、癪に触るから。
「……ま、何も起こらないに越した事はないのだけれどね」
貴女達の計画は、私の手で“奪わせてもらう”。