「1年の頃とは、随分と雰囲気が変わった…」
隣で何やら狼狽えてるヒナを横目に、急に此処へ現れた少女に視線を戻す。
ピンク色の髪の毛の…これまた、小さな背格好の少女である。
先程の言葉と、今の呟きといい、恐らく昔に関わった事がある人物だと考えるのが妥当か。
そんな少女は、私に銃口を向けてきていた。
…私は、何か恨まれるような事をしただろうか?
生憎心当たりしか無い、そりゃ橋姫ですもの。
「答えろ…お前は、アイツの仲間か?」
アイツが誰の事を指しているんだが、コレが分からないと私としても答えようがない。
無難に考えるなら勇儀だろうか、それともヤマメ?
裏をかいてキスメや古明地姉妹辺りかもしれない。
「ごめんなさい、貴方の言うそのお仲間さんが誰か、私には見当もつかないのだけれど?」
だからこそ、思った事をそのまま口に出す。
変に腹の探り合いをして痛い目を見るのは嫌なのだ。
「っ…ふざけるな…っ!」
と、自分にしては穏便な解決方法を取ろうとしたつもりだったのだが、彼女には逆効果だったらしい。
どうして私は友好的なコミュニケーションを取ろうとしているのに、こうも失敗してしまうのか。
恐らく能力が…まぁ、認めたくはないが性格のせいでもあるのだろうと反省しておこう。
そして、その銃…ショットガンというらしい。
その引き金が引かれ、鈍い銃声が鳴る。
向けられたその銃口から、私に銃弾が…
「…何を、しているの?」
飛んでくるような事はなかった。
私の前に割って入ったヒナが、銃弾が打ち出される前にショットガンの銃口を無理矢理逸らしたらしい。
正直、余裕で避けられたのだが、人の好意を無下にする程私も堕ちていないので、その善意を軽く妬むだけで済ませておく。
“ホシノ”
「ッ…ぅ、うへぇ…おじさん、ちょっと勘違いしちゃったかも〜?ちょっと、寝惚けててさぁ〜・・・」
先生の言葉もあってか、先程まで此方に向けていた敵意を消すと、気まずそうに少女は言葉を続ける。
まぁ、正直な所、この世界に勇儀達が来ているという事は考えづらいし、勘違いだとは察していたのだが。
というより、そのような事があればヒナに情報が入って来ているはずだ…いや、風紀委員長というのがどれ程の立場か分かっていないから、あくまで憶測だが。
「ん、早とちりは良くない」
「そうですよ〜・・・ね、ホシノ先輩?」
他の少女達もフォローに入ってくれているようだし、どうやら知らない内に誤解は解けたらしい。
気遣いできるその心が妬ましい、初対面なのに。
「うへぇ〜・・・ごめんねぇ、その〜・・・」
「水橋…私は、水橋パルスィ」
「そっかぁ、ごめんねパルスィちゃん?」
ちゃん付けで呼ばれるような歳ではないのだが、否定してもまた面倒な事になりそうなので素直に答える。
ぶっちゃけ撃たれた事は大して気にしていないし、あの子も心がだいぶ弱っているように見えた。
「大丈夫よ、大して気にしてないし」
というわけで、今回は寛大な心で許してあげよう。
橋姫様のありがたい慈悲を受け取りたまえ。
そんなこんなで、トラブルは解決したらしい。
ヒナが先生に小声で何やら話しているようだったが、興味が無いしどうせ私には関係のない事なのでスルーした。
さて、私はどうするかと辺りをウロウロしていた所、ヒナに着いてこいと言われたので着いて行く。
正直行く宛もないし、丁度良かったのだ。
…ん、何か忘れているような気が…?
橋姫が先生に帰り方を聞くのを忘れた事に気付くのは、その数時間後の出来事であった。
◇◇◇
場面は変わって、アビドスからゲヘナの方まで戻ってきて数時間が経ったわけだが。
私は肝心な事を先生に聞き忘れてきた。
「あぁ、無能な自分が…妬ましい…」
「それ、使い方間違ってない…?」
そんな訳で自己嫌悪に陥っている私が現在いる場所は、目の前の少女、ヒナの自宅であった。
どうしてこうなった、簡単な事である。
私が端的に『行く宛がない』と言う事を伝えた所、目の前のとっても優しいヒナが
『なら、私の家…来る…?』
と、提案してくれたからである。
その優しさが妬ましい、パルパル…
…冗談はさておき、どうしてこんなに懐かれているのかは当事者である私にもよく分からない。
多分、能力による影響もあるのだろう。
彼女の心の隙に付け込んで、弱らせ、都合良く他人へ嫉妬を向けさせて自身はそれを受け止める。
いつも利用している手口だが、ここまで懐かれる程効果を発揮するものではない。*1
まぁ、好意を抱かれる事に悪い気はしないので、深く考えないでおく。
居所にも困っていたので丁度良かったのだ、断る理由もない為、こうして着いてきたわけだ。
その結果、先生と離れてしまったわけだが。
「よく分からないけど…大丈夫…?」
その優しさがァ…妬ましいとォ…何度言えばァ…
実際に口には出していないのでノーカウントだが。
ただ、目の前にいるのは純粋無垢な幼い少女だ。
別に子供が好きというわけじゃないが、あそこまで弱ったシナシナの姿を見せられた上で、彼女を妬むというのもまた違った気がする。
自分より不幸な人を妬む程、私も堕ちていない。
「…大丈夫、そこまで深刻な問題じゃないわ」
だから要らぬ心配をさせぬよう、頭を撫でる。
実際のところは割と深刻な問題ではあるのだが、ここでヒナにそれを打ち明けた所でどうにもならない為、そう答える事にした。
「ん…そぅ?なら…良いのだけれど…」
無表情のままのように見えるけど、内心では喜んでいる事、私の目にはお見通しよ。
グリーンアイドモンスターを舐めない事ね。*2
そんなこんなで、ヒナの家に居候させてもらう事になったわけだが、一つ訂正せねばならない事がある。
その事をヒナに伝えると、彼女は不思議そうに、年相応の様子で首を傾げた。
年相応とは言ったものの、もっと幼く見えたかもしれないのはここだけの秘密である。
「どうしたの、パルスィさん?」
「そう、それよ」
私の事をさん付けで呼ぶ人は珍しい。
大体の人は呼び捨てで呼んでくるし、それ以外だと橋姫さんだとか橋姫だとかそんな感じなのだ。
だから、その、慣れない。
「さん付けはやめなさい、私だって呼び捨てで呼んでるのだから別に気にする事はないでしょう?」
正直、礼儀とかはどうでも良いのだ。
確かに彼女は私よりも歳下だが、私より歳上の人物という方が限られてくるだろう。
別に今更『パルスィ』と呼ばれても、いちいち気にするような性格はしていない。
寧ろ、さん付けで呼ばれる方が気にする、その礼儀正しさが妬ましい…
「…ぇっと…じゃあ、パルスィ…?」
「それで良いのよ、全く妬ましい…」
「だから、使い方が違うと思うのだけれど…」
口癖なんだから変に気にしなくて良いのよ。
そう、今となってはもう慣れてしまったけれど。
私のキヴォトスでの生活は、此処から始まった。
この後掲示板回を挟んでパヴァーヌです
対策委員会編は先生が解決しましたので