ネオドミノのテッペンに立ちたくて   作:ジェム足りない

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見切り発車の不定期更新。遊戯王5D'sを観たのはかなり前なので、どこか勘違いをしている場面が出てくるかもしれません。
もしおかしな場面を見つけたら「ここ間違ってるぞ」と指摘してくださると嬉しいです!


画面外モブだった“俺”

「いつまで寝てんのー! 起きなさーい!」

「う、うぅん……」

 

 ゴンゴンゴンと()()の扉を叩く音と、扉越しに聞こえてくる母親の声を聞き、闇の奥深くに沈んでいた俺の意識が急速に浮上する。

 ブラック企業(そんなにブラックというわけじゃない。割と普通)に勤める社会人である俺は、土日前という事もあって貯まった残業を必死こいて片付けた後、ワンルームの安アパートに戻って死んだように寝てたはずなのに……なぜ母親の声がするのだろう? 一人暮らしの息子の様子でも見に来てくれたのだろうか。いや、土日はいつも実家に戻ってるのに何故? 

 ていうかアパートの扉は金属製だったような気がするんだが……この木を叩くような音は一体? 

 

「起きてる、起きてるよぉ……!?」

 

 ぼんやりした頭に様々な疑問が浮かんでくるが、とりあえずそれらは横に置いておいて……俺──相川雄二(あいかわゆうじ)は掛け布団を跳ね飛ばしながら声を捻り出した。

 土曜なんだから寝かしてよー。っていうか昼まで惰眠を貪る予定で、昨日は夜遅くまで残業したんだからさー、などといった事を考えつつだ。

 

「全くもう、夜更かしなんかしてるから! あれだけ早く寝ろって言ったのに……さっさと飯食いなさい! 遅刻するわよ!」

 

 俺の声を聞いた母さんはブツブツと文句を言いながら扉から遠ざかっていき……そうしてドスドスと足音荒く階段を降りていく音が俺の耳に入ってきて。そこでようやく、俺は周囲の違和感に気が付いた。

 

「……んんー?」

 

 なんか部屋が違う。部屋の広さに、部屋の中に置いてあるものから壁紙の色まで。何もかもが違う。

 どーせ彼女もいないんだからと、掃除をほったらかしにして散らかっていた一人暮らしのボロアパートの部屋ではなく、俺が子供の頃過ごしていた実家の部屋だった。

 

「うっわなにこの勉強机……大学んときにダサくて捨てた奴じゃん……ていうか俺、めっちゃ痩せてる……というか」

 

 いや、部屋だけじゃない。俺自身の身体もまた変化していた。運動不足で最近たるんできていた情けない腹が、人前で脱いでも恥ずかしくない程度には凹んでいるし、身体もなんか軽い。

 いやいや……若返りとかそんなまさか。ファンタジーやメルヘンじゃあるまいし……と思いつつも、俺は違和感を確かめるべく、部屋の角の壁に取り付けてある鏡を確認しにのそのそと動き。

 

「何か若返ってるう~。一体ナニコレ……?」

 

 鏡の中に映る、若い頃の自分の顔を見て変な声を漏らしていた。

 そうして困惑する俺の視界の端で、ケースに入れた状態で机の上に置いてあった遊戯王のデッキが──紙の遊戯王はデュエル仲間がいなくなったことで(強制的に)卒業してMDに移行していたが、デッキだけは未練がましく更新し続けていた──キラリと光った気がした。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「マジかー、マジでかー。夢じゃないのかー。マジで遊戯王ワールドじゃーん。すげえ発展しちゃってるじゃーん。ていうかおらが町がネオドミノにすり替わってる~」

 

 俺はデュエルアカデミアへの通学路をテクテクと歩きながら、自分自身に起こったこの意味不明な現象を脳内で再度確認していた。

 ここはネオドミノシティで、俺がかつて住んでた市は存在そのものが無いらしい。ネットで検索しても出てこなかった。

 若返ってはいるものの、俺自身の肉体や精神も以前の“俺”と大差ないらしく、また母さんや父さんも(若返っていたが)俺の知る二人そのままだった。……が()()()()()友達やご近所さんといった周囲の人間についてはほぼ別物だった。

 あ、ちなみにうちはトップスとかじゃなくて一般家庭だった。まあ上流階級のマナーやら暗黙の了解なんて知らんから助かるけど。

 

「でもここが故郷だって記憶もあるし、なんぞこれ。うーん、記憶が二重でヘンな感じ……」

 

 そう。寝起き直後は混乱していたせいで気づかなかったが、俺には“以前の世界の俺”と、この“ネオドミノで育った俺”の記憶が二重にあったのだ。

 まあ、にじファンやハーメルンといった二次創作サイトを読み漁っていた俺にはピンと来たね。これはアレだ。アニメや漫画の世界にモブキャラとしてひっそり存在していた自分自身と『今こそ1つに……』したタイプのアレだって。

 

「ま、考えたところで解るわけもないしな」

 

 元の世界への未練は……正直なとこあまりない。

 住み慣れた町が無いというのは少々寂しいが、この町こそが故郷であるという記憶や自覚もあるし……仲の良かった友人達とは、社会人になった際に別れて久しいし。そしてなにより、最大の未練になるだろう家族が“前の世界”と“現在の世界”でほぼ同一なのが大きいか。

 

「ここは素直に、強くてニューゲームだと喜んでおくべきだな、うん」

 

 自分で言うのも悲しいが、俺は愚かなので一度失敗しなければ学習できないタイプだ。そうしてそれが故に、今まで様々な失敗を繰り返してきたのだが……今現在の“失敗した記憶を持つ俺”ならばきっと……! 

 それにここは遊戯王ワールドのネオドミノシティ。デュエルの腕前が何よりも重視される世界なのだ。前の世界では掲示板やらwikiやらで様々なコンボやカードが紹介されていて、なんなら自分の握っているデッキの弱点を事細かに教えてくれるという人まで数多くいたものだが……この世界はそうじゃない。

 

 デュエルの腕前が最重視されるからこそ、自分のデッキの弱点は隠す。新しいコンボを見つけても人には教えず、黙っている。デュエルディスクが勝手に処理してくれるという事情も合わさり、カードの効果をあらかじめ教えたりなんかしてくれない。なんなら知らない方が悪い、この程度の事も知らないの? やーい無知乙と煽ってくる。

 そんな世界において、デュエルが数ある娯楽のうちの1つでしかなかった前の世界での記憶を持つ俺は、まあ……一般人としては、かなりのアドバンテージを持っているはずだ。一般人としては。

 

 いやでもこの世界のカード事情ってOCGとはかなり異なるし微妙かも……。テーマとかカードとか、OCGとは比べ物にならんくらい大量にあるし……。

 例えばズシンとか、この世界じゃ誰もが持ってて誰もが知ってるノーマルカードだけど、OCG世界ではかなり遅れてカード化されたし……。

 

 ──ま、まあ知識に関してはプラマイゼロとしても、俺のデッキは令和最新版の超絶つよつよデッキだし? 5D'sの時代じゃ反則そのもののデッキ……だったんだけどなあ。

 

 腰のデッキホルダーを軽く撫でながら、俺はため息を吐く。

 元いた世界──OCG世界において、俺の所有していたデッキは数多い。ブラックマジシャンや青眼といったファンデッキから始まり、ティアラメンツやらVSやらといった最近のデッキまで、とりあえず気に入ったデッキは作って保有するタイプだったからだ。相手もいないのに。ただのコレクション用でしかないのに。いや、毎週の土日に一人フォーチュンカップを開催してデッキを動かしてはいたか……って自分で言ってて悲しくなるなコレ? 

 まあとにかく、その数多いデッキの中でも、特にこう……魂にビビッと来たこのデッキと共に歩めるのはすごく嬉しいのだが……。

 

「一番のお気に入りだったこのデッキが使えるのはありがたいけどさぁ……でもなぁ……」

 

 愚痴を吐きながらデッキケースに手を伸ばし、その中から適当に一枚を抜き出して手に取った。

 騎士のような甲冑を纏い、金髪のツインテールを大きく広げながら片手を掲げる少女騎士──重騎士プリメラのイラストを眺めながら俺はため息を吐く。

 のんびりとデッキを調整する時間も無かったため、サッと枚数と構築確認だけを済ませた俺のデッキ。それはOCG世界において登場早々暴れ始めていた──センチュリオンデッキ。

 相手ターンに()()()をシンクロ召喚し、その効果で()()()()()()()()()()()()()()を着地させて相手の効果発動を封じる極悪コンボが注目された、あのセンチュリオンだ。

 

『生まれも育ちも高貴なキング、ジャック・アトラスに密着取材! キングの華麗なる一日を──』

 

 ビルの壁面に設置された巨大モニターから流れるCMを聞き流しながら、俺はゆっくりとプリメラをデッキケースに戻して蓋を閉じる。

 

 ──まあ流石に5D'sの世界でレッドデーモンとか出せるわけないよね。赤き竜とかもう論外中の論外だよね。何もかもが色々と台無しだもんね、わかるよ。でもさぁ……。

 

 俺が元々持っていた筈の、赤き竜やらレッドデーモン、コズミックブレイザーといったカードたちは当然のごとく消え失せていた。

 これはまあ、世界観に関わる重要なカードだから仕方ない。ていうか下手に使ったら──いや下手したら使わなくてもカードのエネルギーとかを察知して──ダークシグナーとかイリアステルとかに目を付けられるだろうから、カードには悪いけどいなくなってくれた方がありがたいか。ジャックがキングをやっててブイブイいわせてるあたり、まだ色々なゴタゴタが解決していない、本編前の時間軸っぽいし。

 そう、俺としては彼らのような、世界観に関わる重要なカードが消える分には文句は全く無いのだが……。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()ってのはお前さぁ……」

 

 通学前の短い時間で確認した俺のデッキは、モンスター3枚に対し魔法罠37枚という、なんとも凄まじい構築だった。ちなみにエクストラデッキも当然の権利のように1枚だった。いくら何でも構築尖りすぎでしょ。めっちゃトキトキやん。トキトキすぎて人が死ぬでコレ。具体的に言うと俺が。

 確かにレガーティアはこの時代だとオーバースペック級の強さだけどさぁ……いやそれでもこれ一枚でやってけってのはちょっと……ねえ? 

 

「いやー、これでテッペン目指すってのは無理があるっしょ」

 

 しかしデュエリストとしての本能、とでも言うべきなのだろうか。

 恐らくはこの世界の“俺”と俺が融合した影響だろう。俺は自身の心の中に、元の世界にいた頃にはあり得なかっただろう“デュエルキングの座”に対する強い熱意のようなものが湧いているのを感じるのだが──。

 

「とりあえず、学校終わったらショップ行くか」

 

 いくら熱意があっても、戦力不足はどうしようもない。とりあえず俺はこの超トキトキなデッキを改造する事を決意して、アカデミアへの道を歩むのであった。




遊戯王5D'sのオリ主モノ増えろ……増えろ……
遊星にいい感じのカード渡して「お前のおかげで助かった」とか言われたいよね
言われたくない?
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