ネオドミノのテッペンに立ちたくて   作:ジェム足りない

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決戦前

「龍亞ーっ! 龍可ーっ 頑張れよー!」

「無事に帰ってくるんじゃぞー!」

「死ぬなよ遊星!」

 

 早朝のネオドミノ港。瘴気のような黒い霧に包まれた、サテライトに向かって飛んでいくヘリに向かい、天兵くんと矢薙の爺さん、そして氷室さんが大きく手を振りながら叫んでいる。

 俺も自身の隣で叫んでいる彼らに倣い、腹の底から大声を上げながら手をブンブンと振り回す。

 

「遊星ーッ! 他のシグナーのみんなも、頑張れーッ!」

 

 応援する俺たちに向かい、ヘリの中から龍亞と龍可の2人が手を振り返してくれるのが見える。その仕草と嬉しそうな笑顔から判断するに、たぶん『頑張るよ!』とかそんな感じの事を言ってくれてるのだろう。いい子たちだ。

 

 覚悟を決めてダークシグナーとの戦場に向かう龍亞と龍可は、たとえどんなに小さくても、立派な戦士でありデュエリスト。それこそ放っておいても、彼らはこの戦いに勝利して帰ってくるんだろうが……それでもやっぱり、あんな小さな子たちに任せっぱなしというのは、な。

 

 俺の存在によるものか、それとも世界の側が変化したせいで、俺が()()なっているのか。神ではない俺には真偽を確かめる術はないが──どちらにせよ、この世界も原作のように万事上手くいくとは限らないのだ。おじさんの野望と偶然が合わさった結果とはいえ、一応だが力を得てしまった俺は、少しでもいいから彼らシグナーの助けになるべく行動を起こすべきだろう。

 

 万が一、億が一にでも彼らが失敗するようなことがあれば、この世界そのものがヤバいことになってしまうわけなので、決して他人事ではないし。

 まあ本当の本当にヤバくなったら、ZONEが介入してくれるとは思うけど……未来がどう転ぶかわからない以上、せめて自分のできる事をやろう。

 

 それが、俺をあのアルカディアムーブメントから助け出してくれた、ツァンやゆま。そして龍亞龍可や氷室さんたちに対する、俺からできる精一杯の礼だ。

 ……人質にされたりして、遊星たちの足を引っ張ることだけは避けないとな。プリメラたちに頼んで()()()()も用意してあるし、大丈夫だとは思うが……なにせ相手は神。用心に越したことはない。

 

「行っちまったのう……」

「ああ。無事に帰って来てくれるといいが……」

「龍亞……龍可……」

 

 ヘリが見えなくなると同時に、その表情を沈ませる氷室さんたち。シグナーのみんなの前では明るく振る舞ってはいたが、やはり彼らも不安であり、また氷室さんのような大人たちから見れば、自らが不甲斐なく思えるのだろう。

 

「……ここで俺らが黄昏ていても、仕方ねえか」

「そうじゃの。ワシらにできるのは、帰ってきた兄ちゃんたちを盛大に迎える事くらいじゃ」

「パーティーかぁ……うん、龍亞と龍可が喜びそうな料理、用意しないと!」

「いいねえ。じゃあ、俺もこの辺で……」

 

 そうしてそそくさと場を離れようとする俺に、矢薙の爺さんが全てを見通したような目をしながら話しかけて来た。

 

「兄ちゃんも、頑張るんじゃぞ……」

 

 さすがは年の功。バレテーラ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「さてさて、着いたはいいけど……ここってサテライトのどこら辺なんだ?」

 

 エメトⅥの力を借りる事でサテライトに潜り込んだ俺は、人の気配が希薄なサテライトにて、早速迷子になっていた。いやちゃうねん。俺、サテライトって初めてだし、そもそもここって普通に広いし……。

 まあ遊星たちの居場所については、恐らくはマーサハウスにでもいるんだろうと目星が付いているが……肝心のマーサハウスの場所がね。わかんないのよね。サテライトがこんなんじゃ、子供たちも外で遊んでないだろうし。

 

「本音を言えば、遊星たちと合流したいとこなんだけど──」

 

 それに真正面から素直に『お手伝いに来ました!』と行ったところで『俺たちはダークシグナーとの因縁があるから逃げられねえけど、お前はそういうのないんだから帰りなさい(意訳)』と追い返されるのがオチだろう。もしかしたら牛尾さんにヘリで強制送還され、その間に牛尾不足によるアクシデント発生、シグナー敗北──なんて最悪の可能性もあるかもしれん。なので、マーサハウスを探す案は取れない。

 

 つまり、俺はここサテライトで炎の地上絵が浮かぶまで待機して、地上絵が浮かぶと同時に現地にダッシュ。到着後は遊星たちの手の届かないところをサポート……できたらいいなあって感じで行動するしかない訳で。うーん、すっごく行き当たりばったり。計画性のけの字も無いね。

 

「うーむ。ダグナー編について、もーちょい細かく思い出せるといいんだが……」

 

 俺の遊戯王5D’sに関する記憶は結構あやふやで、俗に言う名シーンや名デュエル、そしてネタシーンならすぐ思い出せるものの──その合間のシーンに関してはほとんど覚えていない。例えばディマクvs龍亞のデュエルと、その裏で龍可による精霊界探索があったことは覚えているんだが、龍亞龍可がどうやってディマクとデュエルを行うに至ったか、その経緯が全く思い出せないのだ。満足町編に関しては、割と細部まで思い出せるんだけどなぁ……。

 

「まー、もうちょっと中央の方に行って、そこで夜まで待機かな……」

 

 まあ、ここでボケーと突っ立っていたところで、時間の無駄だ。俺は持って来た背負い袋を──その中にある水や食料に携帯コンロを── 揺らして中身が無事なことを確認しつつ、サテライトの街並みに向かって歩き始める。

 それにしても、人気があまりにもなさすぎて不気味だ。ホラー映画の主人公になった気分だぜ……。ホラー系観たこと一度もないけど。だって怖いし。拙者、怖いのは嫌でござる。

 

「い、一緒に行こうぜ、プリメラ……!」

 

 俺はデッキからドローした──当然のようにデッキトップに居座っていた──プリメラに対して話し掛ける。すると霊体……とでも呼べばいいのだろうか。軽く透けた状態のプリメラが、俺の隣にスッと現れる。

 そうして現れたプリメラは、その口元をニヤつかせつつ、『仕方ないなぁ〜』とでも言いたげな表情を浮かべると、そのまま俺に並んで歩き始めた。

 べ……別に1人で歩くのが寂しかったとか、そういうワケじゃないんだからね!

 

「おっとっと。いやいや忘れてないって。ちゃんとトゥルーデアの事も頼りにしてるって」

 

 プリメラばかりに構っていたのがご不満だったのか、プリメラと同様に霊体で出現しては、プンスカと抗議してくるトゥルーデアを宥めつつ──俺は夜まで過ごせる拠点を求めて、歩みを再開するのであった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「我は蜘蛛の痣を持つダークシグナー」

 

 治安維持局の長官、ゴドウィンからの依頼を受け。ダークシグナーの脅威からネオドミノシティを守るために、サテライトへと戻ってきた、俺たち──ジャックと俺、アキ、そして龍可に龍亞の──赤き龍の痣に導かれし仲間たち。

 俺たちがマーサの経営している孤児院で食事を摂っている時に、その男は現れた。

 

「シグナー4人がお出ましと聞いてね。お迎えに来たところさ」

「……ッ! 場所を変えるぞ、着いてこい!」

「いいだろう……」

 

 この場所でデュエルを行なっては、マーサたちが炎の地上絵に巻き込まれてしまう。そう判断した俺は場所を移動させた上で、奴とのデュエルを開始したのだが──。

 

「怖いよぉー!」

「うわーん!」

 

 俺たちの後をこっそりとつけていた子供たちが、ダークシグナーとの闇のデュエルに巻き込まれてしまった! このままでは、奴が地縛神を召喚すると同時に、あの子たちの魂が吸収されて……!

 俺は地縛神の降臨を阻止すべく、打てる限りの手を全て打つ。だが、そんな俺を嘲笑うかのように、あの男は地縛神を呼び出してしまい……。

 

「地縛神など、どれ程のものかーッ!」

「ジャック!」

「ジャック・アトラスは、応援してくれる子供たちを、決して裏切りはしない!」

 

 ギリギリ駆けつけてくれたジャックのおかげで、地縛神降臨による子供たちの魂の吸収は防げたものの、次から次へと災難は襲いかかる。今度は地縛神降臨の衝撃で近くの廃ビルが傾き、そのビルにいた牛尾とマーサ、そしてタクヤという子供が、屋上から落下しかけてしまう窮地に立たされてしまった。

 だがこの危機も、()()牛尾が活躍したことによって、無事に乗り越えられた──そう、油断してしまったのが悪かったのだろうか。

 

「あっ……!」

「マーサ!」

 

 一際大きな揺れがビルを襲った際に、マーサがその揺れと傾きに体を持っていかれてしまったのだ。近くにいた牛尾がマーサを救おうと、必死に手を伸ばしてくれるのだが、その手はギリギリのところで届かない。

 

「マーサ! 諦めるなマーサ!」

「タクヤを頼んだよ、あんたは、タクヤのヒーローなんだから……」

「マーサ!」

「マーサ! マーサッ!」

「あんたたちは本当にいい子だった……きっとだよ。あんたたちが、サテライトとシティの架け橋になるんだよ!」

 

 牛尾が、ジャックが、そして俺も。みんながマーサの名を呼ぶ前で。マーサは諦めたかのような笑みを浮かべると、牛尾や俺たちに対する激励を口にした。

 ……もう限界だったのだろう。激励の言葉を言い終えたマーサは、そのまま傾いた屋上から滑り落ちていき、空中に放り出されてしまう。

 

「──マーサッ!」

 

 高所から落下していくマーサを見て、誰もが目を見開き息を呑む。誰もが直後に起きる悲劇を予見した。しかし──。

 

「頼んだプリメラーッ!」

 

 ──あまりにも意外なところから、救いの手が差し伸べられた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「ふー、なんとか間に合ったみたいだな……」

 

 バリアーのような球体に包まれ、ゆっくりと地面に降下していくマーサおばさんを見ながら、俺は額の汗を拭う。

 いや本当にギリギリだった。冗談抜きでほんの少しでも遅れてたら手遅れだった。

 

「君は……!」

 

 遊星がめっちゃ驚いた顔でこっちを見てる。まあ、そりゃあ意味がわかんねえよなあ。こんな危険地帯に一般人が紛れ込んだかと思いきや、よくわからん謎パワーを発揮してマーサおばさんを助けるとかさ。まあ正確には全部プリメラのおかげで、俺は指示を出しただけなんだがね。

 

「おばちゃん、大丈夫か?」

「あ、ああ……ありがとう、助かったよ……。でもアンタは一体……?」

 

 相当混乱してるだろうに、まずお礼が真っ先に出てくるあたり、さすがは遊星たちの育ての親。でも俺がどこの誰か、か……。マジで無所属の一般人なんだが、どう説明したものか。治安維持局からの増援ですとか名乗る? いや御影さんいるし、下手な嘘は即バレだろうから──どんなに胡散臭くても──素直に言う方が正解か。

 

「俺? 俺はただの通りすがりのアカデミア生。それより遊星ーっ! このおばちゃんは俺が守っとくからさ、さっさと決めちまいな!」

「あ、ああ……! ありがとう、本当に助かった……!」

 

 しかし、今は俺の正体がどうこう話している時ではない。だってデュエル中だし。放置プレイ食らってるルドガーが、すっげえつまんなさそうな顔してるし。このまま放っておいて機嫌損ねて、冥府パワーでなんか碌でもないことをやらかされたら、めっちゃ困るし。

 

「フン、折角の見世物に飛んだ邪魔が入ったものだ……」

「もうこれ以上、貴様らの好き勝手にさせてたまるか! 俺はジャンク・シンクロンを召喚し、その効果で墓地に眠るスピード・ウォリアーを特殊召喚!」

 

 ジャンク・シンクロン ATK/1300 DEF/500

 スピード・ウォリアー ATK/900 DEF/400

 

「そして俺は、レベル5のターレットウォリアーに、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング! 集いし願いが、新たに輝く星となる! 光さす道となれ! シンクロ召喚──飛翔せよ、スターダスト・ドラゴン!」

 

 スターダスト・ドラゴン ATK/2500 DEF/2000

 

 アクシデントにより中断されていたデュエルが再開され、気迫十分な遊星がスターダストを呼び出した。いかにも遊星の勝利で終わりそうな流れだが……俺は知っている。このデュエルそのものが、ルドガーの仕組んだ悪辣な罠。黒い霧に飲み込まれて魂を吸収された、ラリーを操り人形にして行われているデュエルだということを。

 

 ──その後の流れは、原作通りだ。ルドガーは罠でスターダストの攻撃を防ぎ、その直後に自分そっくりな姿に偽装していたラリーの姿を元に戻し、自我を解放。葛藤する遊星の姿を見て、ワハハと高笑い。まさに外道である。

 そうして闇のデュエルの真っ最中に解放されたものの、遊星と戦いたくないラリーは、ワンショット・キャノンをシンクロ召喚。その効果で自分フィールド上の地縛神Uruを破壊し、3000の自爆ダメージを受けてラリーは敗北。遊星の腕の中で消滅してしまった。

 

「ラリィィィィィイ!」

 

 マーサは助けられたが、ラリーは助けられなかった。

 ラリーを助けるためには黒い霧の発生を阻止するか、ラリーたちを黒い霧の範囲外に逃す必要があったのだが、そのどちらも俺の立場と能力では不可能だったからだ。

 ……いや、保身のために、無理だと思いこんでいただけなのかもしれない。もしかしたら、何か打つ手があったのかも──。

 

「遊星ーっ!」

 

 遊星の側に駆け寄るジャックたちを見ながら、俺は遊星に対し、内心で罪悪感を感じていた。最終的には元に戻る可能性が高いとはいえ、俺はラリーを始めとするサテライトの人々を、結局は見捨てたのだから。

 

 

 ◇

 

 

 ダークシグナーからの宣戦布告と決戦の地の指定を受けたあと、俺は遊星たちと一緒にマーサハウスへと訪れていた。原作ではラリーだけではなくマーサまで失っていたので完全にお通夜状態だったが、今はマーサが生きているので雰囲気はかなりマシ……だと思う。

 とはいえマイナス100がマイナス50になったようなもので、結局はマイナスであることに変わりはないのだが。

 

「改めて礼を言わせておくれよ、さっきはありがとう。本当に助かったよ……」

 

 メンバー全員が広間に揃い、長机を囲むように椅子に腰掛けたところで、マーサおばさんが改めて頭を下げてきた。

 

「僕たちからもありがとう!」

「ありがとうお兄ちゃん!」

 

 マーサに続いて、子供たちも頭を下げてくる。仲間を失ったばかりの遊星を気遣ってか、その表情は少しぎこちなかったが……それでもこの笑顔を見れただけで、なんか頑張ったかいがあるように感じられる。

 

「そうだ、思い出したぞ。どこかで見た顔だと思っていたが……貴様、確かフォーチュンカップで遊星に敗北していた、デュエルアカデミアの学生だな?」

 

 マーサたちからの礼がひと段落したところで、ジャックが俺の正体について思い出したらしく、そのような発言をしてきたのだが。

 

「ハァ、ジャック……。あんたもう少し言い方ってもんをだねぇ……」

「フン、事実に言い方も何も……」

 

 マーサおばさんから『空気読め』的な呆れ混じりの声色で名を呼ばれた事で、ジャックは少々バツの悪そうな顔をしながら引っ込んでいった。うーん、母は強し。

 

「いえいえ、シグナーの皆さんの役に立ちたくて駆けつけた身ですんで。ギリギリ間に合って良かったです」

「ユージ、凄かったよ! サッと駆けつけて、バシィィンってカードを発動して……! でもアレ? ジャックみたいにシグナーでもないのに、どうやってマーサさんを助けて……?」

 

 使い慣れていない敬語モドキ──現在の俺のベースになっている“俺”はモブデュエリストらしく礼儀に疎かったのだ──で無難な返事をする俺の言葉が終わるや否や、龍亞が大げさに身振り手振りを交えながら、俺の行動を褒め称えてくれる。いやーこの素直な感じ、龍亞がチーム5D’sのメンバーから可愛がられる理由がわかるね。

 

「精霊の力……」

 

 そしてそんな龍亞の疑問を受けてか、龍可が小声でポツリとそう漏らした。うん、正解。その通りでございます。

 まあ、龍可は精霊が普通に見えるしね。ダグナー連中にタネが割れると怖いからと──あちら側にディマクがいる以上、気休めにしかならないだろうが──プリメラには霊体化した状態で力を行使してもらったんだが……多分その状態でも、龍可にはハッキリと見えてたんじゃないかな。龍可の交信レベルは俺とは桁違いらしいし。

 

「はぁ、精霊だぁ? オイオイ龍可ちゃん、今は真面目な話をだな……」

「むぅ……いるもん! 龍可はカードの精霊と、お話が出来るんだから!」

「いるわけねえだろ精霊なんて……。全く、これだから子供は……」

「まったく、これだから大人は……! たぶん龍可はその力があるから、シグナーに選ばれたってのに……!」

 

 龍亞と牛尾さんが同レベルの争いを繰り広げているのだが、なぜ牛尾さんはダークシグナーという超級のオカルト存在を知っていながら、カードの精霊については否定的なんだろう。まあ、己の目で見たものしか信じられねえってんなら仕方ねえ。実際に見せてあげるとしますかね!

 

「いやいや、カードの精霊は実在しますよ牛尾さん」

「おいおい兄ちゃん、龍亞の言うことに合わせなくてもいいんだぜ? いくらなんでも精霊とかファンタジーすぎ──」

「論より証拠。今ここで呼んで見せようか。来てくれ、プリメラ」

 

 ヤレヤレと肩をすくめて見せる牛尾さんの言葉を断ち切るように、俺はデュエルディスクを起動してプリメラを召喚する。ソリッドビジョンを利用した完全顕現だ。

 

「──るぇえ!? う、嘘だろ!?」

「何だと!?」

「これは……!」

 

 突如部屋の中に現れた金髪の美少女騎士に、牛尾さんとジャック、そしてアキさんが驚愕の声を上げる。まあアキさんの声は精霊の存在に驚くというより、俺がアキさんと似たような力を行使したことについての驚きっぽいニュアンスだったが。

 

「よーし、せっかくだから牛尾さんにダイレクトアタックだプリメラ!」

「ちょ、おまっ!? 『せっかくだから』ってなんだその軽いノリは──ふぎっ!?」

 

 なんとなく牛尾さんに攻撃を命じてみれば、プリメラはノリノリで手にした槍の柄の部分を牛尾さんの頭に振り下ろした。おお、今ゴンッて音がしたぞ。コツンじゃなくてゴンッだぞ。普通に痛そうで草。一体誰だよ、こんな酷い命令を下した奴は。

 

「ぐおおぉぉ……!」

「あははは、精霊をいないなんて言うから、バチが当たったんだ! やーいやーい!」

 

 頭を押さえて蹲る牛尾さんに対し、龍亞が表情筋を全力で活用したクソうざい顔をして煽り始める。いや本当にウザい顔してて草が生い茂る。そういや原作でも、龍亞ってこういう変顔が得意だったよね。ギャグ担当っていうか。

 

「こ……このガキ……!」

 

 煽られた牛尾さん側は、その拳をプルプルと振るわせるのだが、クスクスと笑っている御影さんに気付いた途端に、ポッと頬を染めながらその拳を下ろした。

 あまりにもわかりやすい行動なんだけど……これで周囲にはバレてないと思ってるし、御影さん側も気づいてないってのがね。数々のエロゲやギャルゲをクリアしてきた恋愛マスターの俺からしたら、微笑ましいぜ……。

 

 ──その後『俺のディフォーマーも実体化させてよ!』とねだる龍亞に、特別なのは俺じゃなくてプリメラたちなんやで、ということを説明したり。

 遊星が『ダークシグナーを倒せば、ラリーたち地縛神の被害者もきっと帰ってくる。俺はそう信じている!』と自力で立ち直ったり(俺も『地縛神の燃料じゃなくて、現世に顕現するための依代的なのにされてるんじゃ?』と援護しといた。他のメンバーもちょっと感心して、復活ワンチャンあんじゃね? って空気になった)

 俺がおじさんから拉致&実験のコンボを食らっていた事が知られて、微妙な雰囲気になったり(この時アキさんから平謝りされた)

 他にも遊星から『マーサに関して本当に感謝しているけど、だからこそ恩人の君を巻き込みたくない』とのイケメンすぎる説得を受けるが、龍亞や牛尾さんに雑賀さんが『少しでも戦力は多い方がいい』って感じで擁護してくれた事で、俺もめでたく戦力として認められたり。

 子供たちが就寝した後も様々な事を話し合った結果、対ダークシグナーの作戦会議は最後の議題に。つまり“誰がどの制御装置に行くか(ダークシグナーと戦うか)”という議題に移っていた。

 

「恐らく、巨人の紋章で待つのは鬼柳……そこへは俺が行こう」

「わたしは、エンシェント・フェアリー・ドラゴンを助けたい!」

「俺は龍可を応援する!」

 

 とはいえ、ディマクが宿星云々言ってたように、相手は既に決まっているも同然なのだが。

 遊星と鬼柳、ジャックとカーリーはお互いに譲れない理由があるので、確実に固定。ミスティとアキさんも、アキさんはともかくミスティ側が譲らないだろうし、龍可はディマクからエンシェント・フェアリー・ドラゴンを取り戻さないといけないため──()()()()()()()()()()()()()()()()、ディマクのすぐ近くまで行く必要がある。

 

「よし、龍亞と龍可ちゃんは俺の車で運ぶぜぇ」

「うん!」

 

 対戦相手が決まったら、次は移動手段についてだ。ちょうど牛尾さんが、自分が龍亞龍可コンビの足を務めることを告げているので、口を挟むには今がベストだろう。

 

「じゃあ、俺も龍可ちゃんたちに着いてこっかな。龍亞や牛尾さんが分断を食らった場合にでも、地縛神の魂吸収を防いだりできるし……」

 

 周囲の目が俺に集まったことを確認してから、俺は意味深に言葉を区切る。

 さて、ここからが俺にとっての正念場だ。できればこの作戦会議の場で、俺がディマクとデュエルを行うことを許してもらいたいからな。

 

「それに何より、闇のデュエルのダメージは、まだ子供の龍可ちゃんには辛そうだし」

「むぅ……」

「まあ……」

 

 俺の言葉を聞いた周囲のメンバーが“認めたくないけど認めざるを得ない”的な複雑な声を漏らす。

 要は『シグナーではないものをダークシグナーと戦わせるのは不味いんじゃないか?』という意見と、『だが確かに龍可は子供だし、闇のデュエルをさせるのは……』という意見が彼らの内心でぶつかり合っているのだろう。

 だってあの遊星ですら、かなりのダメージを受ける代物だしな、ダークシグナーとの闇のデュエルって。いやマジで原作の龍亞はよく耐えたもんだよ。龍亞って子供とは思えないほど精神力が強いよね。でも肉体的には絶対に良くないだろうし、こんないい子をあんな目に合わせるのはね。

 

「それは、龍可に代わって貴様がダークシグナーとのデュエルを行うという事か?」

 

 真剣な表情をしたジャックが、俺の目を見ながら問いかけてくる。ジャックは徹底して子供には優しいからな。龍可を戦わせるのも仕方なくであって、内心では彼女が命懸けのデュエルを行うのを、良しとしていないはずだ。

 

「うん、やらせて欲しいと思ってる」

「でも、ユージさんはシグナーじゃ……」

「さっき実演してみせたろ? 俺にはセンチュリオン(コイツら)がついてる。闇のデュエルのダメージも、いくらかは軽減できるハズだ。……実際に実験したわけじゃないから、確実には言えないが」

 

 心配そうな表情を向けてくる龍可に、センチュリオン最強のカード、レガーティアを見せながら笑いかける。……本当の事を言えば、いくらプリメラを始めとするセンチュリオンの精霊たちが強いといっても、ダークシグナーの冥府のパワーを打ち消すことはできないだろうことは理解している。例え倒されても、5000年周期で蘇るマジもんの邪神だしな。あれ? 倒せないから封印だけするパターンだっけ? まあどっちでもいいか。

 

「ダークシグナーのライフは、シグナーじゃないと絶対に0にできないとか、そういう裏ルールはないんだろ? 闇のデュエルによるダメージさえなんとかできれば、シグナーではないものにだって奴らは倒せるはずだ」

「理屈の上では、そうですが……」

 

 俺の質問を受け、御影さんが困り顔を浮かべながら解答をする。まあ原作でもクロウがボマーを倒していたからな。闇のデュエルに耐える精神力さえあれば、シグナーではないものでも、ダークシグナーを倒すことはできる。俺はその精神力の部分を、プリメラの補助でかなり埋められるからな。

 

「だが、貴様の腕前では無駄死にするだけだ」

「男子三日会わざれば、刮目して見よって言うだろ? こっちもあれから色々あってさ……」

「……そこまで言うのならば、やって見せるがいい」

 

 俺の決意を認めてくれたのか、ジャックはそう言うとプイッと顔を背けた。ジャックが俺を認めたのが意外だったのか、遊星や御影さんが驚いた顔をしているのが面白い。

 まあ、たぶんジャックは子供の龍可を戦わせるよりかはマシだろうと判断しただけで、俺の決意や実力は二の次だろうけど。ああ、あとマーサの件があったから、その礼として俺の意思を尊重してくれたのかも。

 

「……よし、じゃあそういうことで。要は役割分担だ。龍可ちゃんは精霊界でエンシェント・フェアリーを救い出し、その間に俺がダークシグナーとデュエルを行なう」

「あ、はい……でも気をつけて、ダークシグナーの人たちからは、本当に危険な気配が……」

 

 龍可に対して、ニっと笑顔を向けながらそう言うと、龍可も渋々ながら了承してくれた。龍可は賢い子だからな。年長組の気持ちを理解した上で、俺を立ててくれたんだろう。

 

「ちぇーっ! 龍可を守るのはオレの役目だったんだけどなー! でも仕方ないから、今回だけはトクベツに、ユージに譲ってやるよ!」

「もう、龍亞ったら……」

 

 俺の腰をパンパンと叩きながら、明るい声を上げる龍亞。ここで龍亞の経験値を奪うような真似をしてしまうのは、この子の活躍を“知っている”身としては活躍を奪うようで心苦しいし、今後の展開的にもよろしくはないんだろうけど──でもやっぱり、こうして直接見ると龍亞って本当に小さな子供だからなあ。一応とはいえ戦える力を持っておきながら、こんな小さな子に闇のデュエルを押し付けて、自分一人だけのほほんとしているのは……ねえ?

 

「…………そうだな。頼んだぞ、ユージ君」

 

 長い沈黙の後、遊星はそう言って俺の肩をポンと叩いて、激励の言葉をかけてくれた。

 くぅ~、遊星からこう言ってもらえるとか、まるで夢みたいだぜ! こりゃ負けられねえな!

 しかし“ユージ君”か。まだまだ交流時間がクッソ短いから仕方ないけど、やはり他のメンバーと比べて距離感を感じるのが悔しいな。

 ……だが、もうここまで来たんだから、俺はどこまでも強欲に行く! このままディマクを倒して、ダグナー編も生き残って、遊星に“共に戦った仲間”として認めて貰っちゃうぜ! 待ってろよディマク、俺とこの進化したデッキが、お前を倒す!

 

「よし! 明朝、一番に出発する!」

 

 遊星の上げた号令の言葉に、俺を含めた全員が頷いた。

 おじさんが実験してくれたおかげで、リアルダメージのあるデュエルに多少の耐性はついたが……闇のデュエルはおじさん曰くサイコデュエルの比じゃないらしいからな。気合い入れてくぞ!

 ……お、そうだ。いいことを思い付いたぞ?

 

「牛尾さん牛尾さん。ちょっとお願いがあってですね……」

「ん? どうした急に……」




サクッと終わる繋ぎの筈が長くなった……ガバいのは仕様です。次回はディマクとのデュエルなので、新デッキのお披露目もそこで。
それにしてもディマクのデッキ、どう弄ったもんかなあ……。
ちなみに遊星はマーサを助けてくれた大恩人だから丁寧に応対しているだけで、普通に新しい仲間が増えたと思ってる感じです。


ルドガー「我が精神攻撃は隙を生じぬ二段構えよ」
マーサは助けられてもラリーは無理でした。ラリー救出の難易度、やけに高くない……?

ツァン&ゆま→あの二人はシティに置いて来た。これから先の戦いは危ないからよ……

アニメ知識→他はあやふやだけど満足町だけはしっかり覚えてるって人は多いはず。いやぁ、何故でしょうねぇ

プリメラ実体化→エネルギーはほとんどプリメラ持ちで、主人公はプリメラが人間世界へ干渉するための楔みたいなもの。プリメラ側に主導権があるので、しょっちゅう勝手に実体化してる。トゥルーデアも同様


~以下目立った疑問への回答~


これ実質強化イベント?→YES。現状ではオカルトパワーへの対抗手段を持っていなかったため、おじさんが善意()で協力してくれました。なんだ、おじさんっていい奴じゃん!

精霊界拉致監禁ルートまだ?→そのルートは脳が粉微塵になったプリメラによるR-18ルートなので、作者の腕前じゃ書けないのだすまない……。
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