隠れ実力者にして、高い人気を誇っていた雪乃を激戦の末に倒し。名実ともにデュエルアカデミアの
「待て待てーい! 相川、貴様にデュエルを申し込む!」
「いいや、俺が先だ! 俺とデュエルしろ相川! 今日こそ貴様を倒し、藤原さんに告白を……!」
「テメーらはもう挑戦済みだろ! 未挑戦の俺に優先権はある! さあ、俺とデュエルだ! 俺とデュエルしろぉ!」
なりませんでした。
「クックック……面倒だからパス! それじゃあまた明日!」
俺はどたどたと押しかけてくる男子生徒どもから逃げるよう──ゆまが自然な風を装って、タイミングよく開けてくれた──自動扉から出ていく。
そう、本気の雪乃に勝利したのはいいものの、逆にそれが雪乃のファンクラブ連中に『アイツに勝てば最高のアピールになる』と火をつけてしまったらしくてね。こうして放課後になると、大勢の男子生徒が押し寄せてくるようになっちゃったんだよね。おのれ雪乃。
「逃げたぞ、追えーッ!」
「逃がさん、お前だけは……!」
教室からダッシュで飛び出した俺を、大勢の男子生徒が追いかけてくる。
俺はそんな彼らを、プリメラからの補助を受けた俊足で振り切り、駐輪場のDホイールを目指して全速力で駆け続ける。デュエリストは挑まれたデュエルからは逃げないが、何事にも例外はある! バカ正直に奴ら全員の挑戦を受けていたら、日が暮れてしまうからな!
「逃げるなーッ! それでもデュエリストかぁ!」
「逃げるわ! 多すぎなんだよバカ! 限度ってもんを知らんのか!?」
背後から聞こえてくる罵声へ言い返しつつ、俺は駐輪場へと飛び込み、
フハハーッ! あらかじめツヴァイを先行させておき、Dホイールの起動を頼んでおいたのだ! プリメラともども、帰ったらいっぱいいい子いい子してあげようねぇ!
「ヒャーハハハハハ! あばよカスどもーッ!」
「待ってくれ! 1戦だけ、1戦だけでいいから!」
「待てーッ! 俺と……俺とデュエルしろおおぉぉ!」
Dホイールを急発進させた俺の耳に、負け犬たちの遠吠えが聞こえてくる。ああ〜、全身に感じる風と、敗者の嘆きが実に心地良いでござるぅ〜。
「さーて、今日はどうすっかなー。ショップ行くか、遊星んとこ行くか……」
そうしてアカデミアを飛び出した俺は、本日の予定について考えつつ、オートパイロットでDホイールを走らせる。最近は遊星のとこばかり行ってて、カードショップの方にはあまり顔出ししてねえからなあ。たまにはショップの連中を相手にデュエルってのも悪くはないか?
「──っと着信か」
そうして予定について悩んでいると、メインモニターの端にツァンからの着信を示す通知が。ピ、とタッチパネルに触れ、その通話に出てみれば。
『あんた、今日ヒマでしょ? これからカードショップ胡桃沢に集合ね』
ニコニコ笑顔のツァンがモニターへと表示され、そのままとても失礼な事を抜かしてくれやがりました。いや確かにヒマだけどよ……。なにか言い返してやりたいところだが、しかしお袋経由でスケジュールを完全に把握されているせいで反論ができねえ。いや、なんか最近はそれどころか、勝手に美容院やらのスケジュールまで入れられてるんだよな。
ツァン曰く、『あんたはデュエルに関しては人一倍頑張ってるけど、身だしなみは人の半分以下ね!』『人間、運動とデュエルで体を引き締めて、髪・眉・服装に気をつければ、それなり以上にはなるの!』とのことで……いやあ、おっしゃるとおりでございましたわ。ツァンの指導のおかげで、フツメンの量産型アカデミア生から、それなりメンのネームドモブくらいには昇格した気がするね。……途中でおかしなものが混じったような気もするが、この世界におけるデュエルは、体力と精神力を大きく消耗するものなので問題はない。いいね?
『なんでも、胡桃沢さんがタッグデュエル大会を開くらしくてね。優勝商品は胡桃沢さん秘蔵のレアカードだとか』
「店長秘蔵のレアカード……そいつは興味深いな」
『でしょでしょ? 本当はゆまと一緒に出ようかと思ってたんだけど……その、ゆまは急用が入って……? ま、まあそんなワケだから、特別にあんたをボクのパートナーに指名してあげようってわけで……ちゃ、ちゃんと来なさいよ!?』
別に聞いたわけでもないのに、ツァンは顔を赤くしながら俺を誘った理由を早口でまくしたてると、そのままブツリと通話を切ってしまった。
それにしてもカードショップ胡桃沢か……まさかツァンの口から、あの店の名前が出てくるとはな。いやだってあそこの店長、見た目がすっげえ胡散臭いし。まあ真の姿は(美少女)カードをこよなく愛する
「しっかしアレだな。店長の大会はさておき……時期的にそろそろだと思うんだが……」
大会については俺とツァンが組む以上、優勝以外ありえない。なにせツァンが挨拶がわりに立てるシエンで、大体の相手は憤死するからな。なので俺の興味は、すぐさま別のところへ──本来ならもう起きていてもおかしくないはずの、アカデミア退学騒動へと向かうのだが。
「なかなか
そうなのだ。本来ならダグナー編終了後のタイミングで、アキさんが学年1位になる→その直後ネオドミノ校の成績低迷にハイトマン教頭がブチギレ、落ちこぼれクラスは退学じゃー! となる……はずだったんだけどね。なんか起きてないんだよね、このイベント。
まあ、ぶっちゃけると本筋にはあまり関係のない、いわゆる日常回でのイベントなので、起こらなくても別になんの問題もないんだけどね。龍亞のフレンズによる『スターダスト・ドラゴンいいなぁ……欲しいなぁ……』フラグも、ただの感想で終わっちゃったし。まあ世界に1枚のレアカードとか誰だって欲しいよね。欲しいか欲しくないかでいえば、俺も欲しいよスターダスト。
「手間が省けた、と前向きに考えとくかねえ……」
そんなわけで、退学騒動キャンセルに関しては前向きにとらえておこう。もし退学騒動イベが起きたら、遊星が解決してくれる結末を知っているとはいえ、俺も龍亞と龍可の手前、顔出しくらいはしないといかんしな。
遊星に任せないでお前が解決しないのかって? いや、だって俺のデュエルって、ハイトマン教頭が信望する“高レベルのパワーでブン殴るデュエル”そのまんまだし……。むしろ持論の体現者ってことで、ハイトマン教頭からは高評価だし……。なので俺がしゃしゃり出ても“こうかはいまひとつのようだ”となるのが目に見えてるのだ。僕は無意味なことはやらない派なのだ。ずんだもんなのだ。
「ま、そんなことより今は大会だな。でも何時から始まるんだ? 家に帰って着替えは……間に合うか?」
ツァンから大会の開始時刻を聞き出そうと、逆にこちらからコールをかけてみるも、別の誰かと通話中のようで繋がらない。……まあこのまま行けばいっか。デュエルアカデミアは割と寛容で、放課後に制服のまま遊びに出掛けても、別にこれといって怒られないんだよな。あのクソ真面目な我らが委員長、原麗華だって放課後に制服でカードショップに出入りするくらいなのだから。
「待ってろよレアカードちゃん。俺ちゃんが大事に使ってやるからよーう!」
そうと決めたら善は急げ。俺はオートパイロットを切ると、Dホイールのアクセルを踏んで一気に加速する。目指すはもちろん、カードショップ胡桃沢だ。どうせならツァンより先に行って、参加登録とかを済ませておいてあげちゃおうじゃないの。
もし賞品が俺のデッキに合わないカードだったら? まあその場合はツァンに俺の分も渡すか、もしくは店長にその場で返却して、カードパックと取り換えてもらうかな……。
◇
いつになくやる気を出したツァンとタッグデュエル大会で無双し、店長から『お前ら少しくらい手加減してやれよ……』と呆れられたりなんかした、その翌朝。
「ほわわわわわ……」
1限目の授業を控えたデュエルアカデミアの教室にて、俺は盛大にあくびをぶちまけていた。
いやあ、昨日の夜はね。全宇宙に銀河打者の名を轟かせるべくね。夢の国ピノコニーまで遠征に出かけててね……ホタルちゃんきゃわわ。黒枝豆は⚪︎す。
黒枝豆のせいで、俺とプリメラとトゥルーデアとツヴァイ、全員揃ってメンタルダメージ受けたんだけどさあ!? 傷を癒すために、ボーッとネットサーフィンしててさ。んで気がついたら深夜3時になってたんだよね。怖くない?
「ふわぁ……」
あー眠い。それもこれも全部あの黒枝豆のせいだわ……っと先生が来たな。けどいつもの
「えー、静かに。本日の地理の授業ですが、岩歩瀬先生がお休みのため、自習ということになりました」
お爺ちゃん先生の自習を告げる言葉を聞き、教室がにわかに騒がしくなる。もちろん俺も──表に出すような真似はしないが──内心で喝采を上げていた。
Fooooo↑! 睡眠ボーナスタイムキタコレ! いやあ、やっぱ日頃の行いが良いからなのかね〜? とりあえず寝よ寝よ。
俺が足りない睡眠時間を補うべく、教科書とノートで要塞を建設していると、ふと携帯端末が震えたような気がしたが……まあ気のせいやろ。もしくはどうでもいいアプリの通知でしょ。そんなことより睡眠だ。
「ユージ」
お、アキさんどうしたん? 急に立ち上がってこっちまで来て。めちゃ注目集めてるで? 俺はこれからこっそり眠るんだから、周囲の目を集めるのはやめちくり〜。
「メールは見たわね? 行くわよ」
「ほむ?」
WHY? メール? 一体何を……あ、ちょっと待って、引っ張らないで!
突然、俺の手を引いて教室の出入り口へと歩いていくアキさん。そんなアキさんを見て、周囲のクラスメイトたちも困惑の声を上げる。
「い、十六夜さん!? 自習とはいえ授業中ですので、教室から外には……」
あーほら、お爺ちゃん先生だって困ってるじゃん。何があったのかは知らんけど、一度落ち着いて……。
「すぐに戻ります! 緊急事態なんです!」
「は、はい……」
弱っ! お爺ちゃん弱っ! アキさんの剣幕を前にして一蹴されちゃったよ。
ああもう、仕方ないなあ……ええと、さっきアキさんは『メールは見たわね?』と言ったよな。つまりメールを確認すれば、このアキさん大暴走の原因も掴めるはずだ。さてさて、一体何が……ええと、差出人は龍可で、タイトルは『助けて!』か。あっ、これは……。
〈助けて! 教頭先生がいきなり来て、わたしたちのクラスを閉鎖するって言い出したの! このままだと全員退学にされちゃう!〉
あー……ここで退学騒動イベントかぁ……。結局起きちゃったかぁ……。
テスト後のタイミングを乗り越えたから、もうないと思ったんだけどなあ。だってほら、よそのアカデミアと成績を比較した結果、ネオドミノ校の成績が低下していることに、ハイトマン教頭がブチギレたのがこの退学騒動のキモじゃん?
でも時期的に、他校との成績比べはとっくに終わってるだろうに。まさか少し遅れて、時限式で起爆するとはな。
「ちょっとアキさん! 何があったかは知らないけど、少しは落ち着きなさいよ。ソイツだって困ってるじゃないの」
お、アキさんの暴走を見かねたのか、ツァンが援軍に来てくれたぞ。あのお爺ちゃん先生は気弱なので駄目だったが、ツァンは気が強いからな。さて、アキさんはどうやってツァンという壁を乗り切るのか。
「ツァン……ちょうどいいわ、あなたも来てちょうだい。あなたも来てくれるのなら心強いわ。抗議する人間は多い方がいいからね」
「えっ、抗議? ってちょっとアキさん!? なんでボクまで──」
「いいじゃないの。昨日、宮田さんを足止めショッピングに誘ってあげたでしょう? ……本人にバラしちゃうわよ?」
「う、それは……!」
ん? 流れ変わったな。アキさんがツァンに何事かを耳打ちすると同時に、ツァンの勢いが一気になくなったぞ? あーあ、これは弱みを握られていた感じですね……。ツァンは相変わらず、肝心な時には頼りにならないな……。
「さあ、行くわよ2人とも! 龍可たちのピンチなんだから!」
「へーい」
「で、でもなんでボクまで……?」
アキさんに引っ張られていく俺とツァンを、クラスメイトとお爺ちゃん先生は見て見ぬフリをして送り出す。ああ……せっかくの睡眠ボーナスタイムが……。
『せ、先生! 急に調子が悪くなったので、私、保健室に行ってきます!』
俺たちが教室から出ていくと同時に、教室内からゆまの元気な声が聞こえてきた。こりゃついてくる気満々だな。でもそのハキハキとした声で体調不良は無理でしょ。
『体調不良ですか? いやしかしですねぇ……』
案の定、お爺ちゃん先生に不審がられてら。しかしこの場でサボりだろと一蹴されないのは、普段は真面目サイドに立っている、ゆまの日頃の行いのおかげだろう。
『そうです、体調不良なんです! だから保健室に行ってきます!』
しかしゆまは不審がるお爺ちゃん先生に対し、そう元気な声で返すと、そのまま教室を飛び出してダッシュで俺たちを追いかけてきたではないか。ゴリ押しのパワープレイに草生えますよ。
「何があったのかはわかりませんが、私もついていきます!」
「宮田さん……ありがとう、心強いわ!」
普段ならツッコミを入れてくれるだろうアキさんも、状況が状況だからか素直に受け入れちゃうしさあ。まあいいか、みんなで遊星のデュエル見ようぜ。
『アナタたちのような落ちこぼれは! 全員退学であります!』
「うう……教頭先生、かなり興奮しているみたいですよぉ」
「話の通じる状態じゃなさそうだけど……どうするの?」
自動扉の向こうから聞こえてくるハイトマン教頭の大声を聞き、移動中に俺から事情を説明されたゆまとツァンが、眉を顰めながら懸念の声を上げ。
「無理にでも聞いてもらうわ! いきなり退学だなんて乱暴よ! そんな暴挙、認めるもんですか……!」
そしてアキさんは歯噛みしながら、義憤と反発心に満ちた声を上げていた。だがまあ、アキさんのお怒りもごもっともだ。俺もアニメの知識がなければ、アキさんと一緒にプンスカと怒っていただろうし。
「でもどうするよ? クラス閉鎖なんて大事、教頭先生の一存で決められるようなもんじゃねえ。職員会議やらなんやらを通した、学校としての決定のはずだ。それをどうひっくり返す?」
「それは……」
俺の言葉を聞いたアキさんが、困ったような表情を浮かべながら言い淀む。まあ実際には、まだ校長から消極的許可の言葉を引き出した段階なんだけどね。龍亞龍可のクラス担任であるマリア先生の反応的に、会議とかには通してもいないんじゃないかな?
「ま、とりあえず教頭センセに抗議の意を示しつつ、閉鎖の理由と進行状況を聞き出す。んで後日改めて、大人たちを通じて正式に抗議──って感じはどうよ?」
「……意外ね。まさかユージが、そんなにしっかり考えていただなんて」
「あんた、なんか変なもんでも買い食いしたんじゃないでしょうね?」
このままだと、水を差すだけの嫌なやつになってしまう──ということで、俺も自分の意見を述べたんだが……俺の意見を聞いたアキさんとツァンが、とても失礼なことを言い出しやがった。
「おいコラ、お前ら人のことをなんだと……」
「えっと……デュエル星人?」
「デュエルしか頭にないデュエルバカ」
「oh……」
アキさんとツァンに対し遺憾の意を表明するも、容赦のない言葉が返ってきて我轟沈。ああん、ひどぅい。
「お、お二人とも失礼ですよ! 確かにユージさんは、その……口を開けばデュエルのことばかりですけど!」
俺のかわりに、ゆまがぷんすかと可愛らしく怒ってくれるが……もういい、もういいんだゆま。無理に援護射撃をしなくてもいいんだぞ。俺の背中に当たってるから。
それにしても散々な言われようだが、でもしゃーないじゃん? 女の子が喜びそうな話題とかわからんし、なら誰にでも通じるデュエルの話題でいいかなって……。お前たちだってノリノリで話題に乗ってきてたクセによぅ……。
「ユージのことはともかく、この方針しかなさそうね……さあ、行くわよみんな!」
「ちょ、ちょっと!? ボクたちは行くとは一言も──」
「失礼します!」
ツァンが慌てて引き止めようとするが、アキさんはそのまま自動扉を開けて教室の中に突っ込んで行った。絶賛いじけムーブ中の俺ちゃんは放置ですか、そうですか。かなぴい。
「むっ! アナタたちは……!」
プシューと扉が開く音と、そしてアキさんの声を聞き止め、教室内の人間たち──龍亞をはじめとする生徒やマリア先生、そしてハイトマン教頭──の目が一斉にこちらを向く。諦めたまえ、ツァン。全員にバッチリ見られちゃったから、もう逃げられないゾ♡
「あ、アキ姉ちゃん! それにユージまで!」
俺たちの姿を認めた龍亞と龍可が声を上げたので、小さくサムズアップをして“任せろ”アピールをしておく。まあ解決するのは遊星なんだがな!
「おやまぁ……誰かと思えば、十六夜アキさんではありませんか。そして相川雄二君にツァン・ディレさん、そして宮田ゆまさんまで……アナタたちのような成績優秀な生徒たちが、こぉんな落ちこぼれクラスに何の用でありますかぁ?」
おーおー。とぼけたフリして、めっちゃ煽ってくるじゃん教頭先生。アキさんや俺が龍亞龍可と仲良しなのは有名だし……いやそれ以前に、今のアキさんの表情を見れば、クラス閉鎖に物申す気なんだなということくらいは理解できるだろうに。
「……落ちこぼれだなんて、その言い草、あなたはそれでも教師ですか!」
「はてさて……成績劣悪で、改善の兆候も見られない。そぉんなダメダメ劣等生を、落ちこぼれ以外の何のなんと呼べと?」
おおーっとぉ!? ハイトマン、さらに煽りに行ったぁー! 十六夜アキの額に、ビキビキと怒りの青筋が浮かび上がったぞーッ!(MC風)
いやー、これも俺が加わった影響なのかね? なんかハイトマン教頭の大人気なさが、普段よりパワーアップしていて草生えるんじゃが。
「何ですってぇ!?」
あーあ、アキさんってば完全に頭に血が上ってら。こりゃ作戦会議の内容とかすっかり忘れてるな? まあいいけどさ。俺の記憶が確かなら、すぐ遊星がやってくるはずだし。
確か校長先生が、遊星に『ハイトマンを修理してくれ』という依頼を、あらかじめ投げているはずなんだよね。んで、その依頼を受けた遊星がここにやってきて、ハイトマン教頭を相手にカウンセリングデュエル……のようなものをやって無事解決という流れなんだよな。つまりこの場における俺たちの役割は、ズバリ遊星が来るまでの時間稼ぎってことだ。
「口を開けば成績成績と、そんなに成績が大事なの!? 成績以外にも大切なことはたくさんあるわ!」
アキさんが己の意見を述べるとともに、教卓を手でバァンと叩く。そのあまりの勢いと剣幕に、龍亞をはじめとするちびっ子たちも身を竦ませていた。俺とツァンとゆまの3人もビビっていた。アキさん、普通に怖いでござるよ。
「ここ、デュエルアカデミアはぁ! 未来のデュエル界を牽引する、デュエルエリィートを育成する教育機関でありまぁす! いつまでも見込みのない落ちこぼれの相手をするなど、設備と人員のぉ、無駄遣ぁい!」
ハイトマン教頭も、アキさんに負けず劣らずの剣幕でそう言い返すと、勢いよく教卓に両手を振り下ろして大きな音を立てる。
「それはデュエルアカデミア設立当初の話でしょ!? いつの話をしているのよ!」
「ぐぬぬぬぬ……!」
「ぐぬぬぬぬ……!」
アキさんとハイトマン教頭の2人が、至近距離でガンを飛ばしあう。一触即発のその空気に──マリア先生やツァンとゆまも含めて──教室に緊張が走る。
ところで遊星遅くない? このままだとアキさんのドリルが外れかねないんだけど? ったくしゃーねーなー、次の番組までの33分、この俺がもたせてやるよ!
「教頭先生、
俺は対ハイトマン教頭向けの“真面目で綺麗な雄二君”モードに切り替えると、悲痛っぽい表情を作り、胸に手を当てながら教頭先生へと語りかける。
「ゆ、ユージ……? 頭でも打ったの……?」
「ユージが壊れちゃった……!?」
なんかモードチェンジした俺を見て、アキさんと龍可が愕然とした表情を浮かべながら、とても失礼な台詞を吐いてくれやがった。なんて失礼なやつらだ……まったく、相手によって態度を使いわけるくらい当然じゃないか。何も言わない龍亞を見習──うっわ、なんかスゲー顔芸してる。そんなに驚いたのかよ……。
「ふふん。その様子じゃ、コイツの猫被りを見たのは初めてのようね?」
「うふふ。ユージさんは、意外と礼儀正しいんですよー」
なんか得意げに鼻を鳴らすツァンと、俺のことを素直に褒め称えてくれるゆま。いやぁ、やっぱりゆまは天使やね。他の連中はゆまを見習うよーに。
「相川雄二君、君もかね……!」
よし、ハイトマン教頭の注意は引けたな。俺様の名演技、見とけよ見とけよー。なんなら遊星が来る前に、演技だけで教頭を改心させちゃうかもだぜガハハー!
「はい、すいません……でも僕は教頭先生に、これだけは知っておいて欲しいのです。何かきっかけがあれば、人は変われるのだと!」
「人は変われる……?」
「はい。先ほど先生は、僕のことを“成績優秀な生徒”と仰ってくださいましたね? でも、僕はつい最近まで、落ちこぼれ組の一員だったのです……」
「……」
俺の言葉を聞いたハイトマン教頭は黙り込んでしまい、逆に小等部のちびっ子たちはガヤガヤと騒がしくなる。
まあちびっ子たちはセンチュリオンで無双する俺しか見たことがないだろうが、小等部〜中等部の俺はザ・平凡って感じの学生だったしな。
「小等部から中等部時代の僕はやる気もあまりなく、赤点さえ取らなければいいやと遊び呆けていましたが……高等部に入ってしばらくして『このままでは良くない』と心機一転。その結果が、今の僕なんです……!」
「相川雄二君……」
「まあ、ツァンさんのような学友に恵まれた事も大きいですが……元・落ちこぼれの僕だって、ここまで来れたんです! ですので、今現在の成績だけを見て、クラス閉鎖の判断を下すのは……!」
俺は大袈裟に身振り手振りを交えながら、ハイトマン教頭へとクラス閉鎖の中止を訴えかける。なんかアキさんたちシグナー組3人が虚無の表情で俺を見ているが、気にしたら負けだろう。
しかし、ちゃんとツァンのお陰でもありますよ、と名前を出したからだろうか。ツァンが渾身のドヤ顔浮かべてら。漫画ならドヤヤァ……! って感じの効果音(?)を背負っているに違いない。
「フ、相川雄二君。残念ながら、君の懸念は見当外れですよぉ……」
しかし、俺の言葉を聞いたハイトマン教頭は、どこか力のない笑みを浮かべながらそう返してきた。
あ、やっぱダメそう。すまないちびっ子たちよ、非力な私を許してくれ。
「確かに過去の君は、あまりパッとしない成績のようでしたが……それでもぉ、ワタシに目をつけられない程度の成績は確保していましたからねぇ」
「は、はぁ……」
要は『可もなく不可もなく、フツーの成績だったから覚えてねえわ』ってことだな。褒められているのかいないのか、こりゃまた微妙な発言だこと。
「このクラスはそうじゃない、本当に酷いありさまなのでぇす! 成績が下がり続けているのもそうですが、それを改善する気どころか、そもそも問題とも感じていない態度! もはや論外でありますッ!」
「ですが教頭先生、まだこの子達はのびのびと楽しくデュエルを学ぶ段階で……!」
マリア先生が教頭に反論をするのだが、ハイトマン教頭は教卓をバンと叩いてその反論を無理矢理に中断させ、怒りに眉を吊り上げながら口を開く。
「だまらっしゃい! ワタシはこの一ヶ月の間、1番の落ちこぼれであった、このクラスを陰ながら監視してきたのです! その上での結論なのです!」
ハイトマン教頭の発言を受け、マリア先生が驚きに目を見開いた。なるほどね、ちゃんと観察期間を設けていたのか。だから成績発表からしばらく経過した、今このタイミングで騒動が起きたと。
「あののんびり屋の校長も、最初は日和っていましたがぁ……調査報告書を見せてやったら、1発で黙り込んでしまいましたねぇ」
「そんな……校長先生が……」
言葉を失ったマリア先生を見て、ハイトマン教頭がフンと鼻を鳴らす。
「のびのびと楽しくデュエルを学ぶ……なんとも耳に心地よい言葉です。ですがそんな甘い教育方針では、落ちこぼれどもがのさばり、それに優秀な生徒たちまで感化されぇ──アカデミア全体のレベルまで、下がってしまうのであぁります!」
「だからといって、導こうともせず切り捨てるだなんて! 私は……子供を傷つけるような大人は、絶対に許せない!」
マリア先生を黙らせたことで、ハイトマン教頭が調子づき。そして、そんなハイトマン教頭に、黙り込んでしまったマリア先生のかわりにアキさんが再び噛みつき──。
「どうした? いったい何があったんだ、アキ」
ここにきてようやく──左手にツールボックスを携えた──我らがメ蟹ックが到着したのであった。おせーよホセ。
◇
あれから、自然な流れで始まった遊星とハイトマン教頭とのデュエル。俺たちは当然の如く、デュエルコートの観客席にてそれを観戦していた。自分の教室に戻って自習をしないのかって? こまけえこたぁいいんだよ!
「罠発動、チューナー・ボム! 相手フィールド上に存在するモンスターの数だけ、自分フィールド上のチューナーモンスターをリリースすることで、相手フィールド上のモンスターを全て破壊する!」
「そんなぁ!? ワタシの3体の
遊星のフィールドにいた3体のチューナー、ガード・オブ・フレムベルとハネワタ、そしてエキセントリック・ボーイの3体が、火の玉となってハイトマン教頭の従えていた古代の機械巨人に向かって突撃。盛大な爆炎を上げながら、3体の機械巨人を崩壊させる。
あーそうそう、こんな感じの展開だったなあ。ハイレベルのシンクロモンスターをコストにして、低レベルチューナーを蘇生して勝つ。俺のデッキでは絶対に不可能なコンボだ。これは高レベル信者のハイトマン教頭には刺さるだろう。
「そして! 破壊したモンスター1体につき、1000ポイントのダメージを相手ライフに与える!」
「ぐぁぁあひぃぃぃぃーっ!?」
ハイトマンLP4000-3000=1000
ハイトマン教頭のフィールドに残っていた炎が、ハイトマン教頭の元に集い、炎の竜巻となって襲い掛かりライフを奪っていく。いやあ、それにしても凄いリアクションだ。あのリアクションからは学べるものが多いな。
「まだ俺のモンスターは残っている! デブリ・ドラゴンで、ダイレクトアタック!」
「ひ、ひぃぃ……のぉぉあぁぁぁ!?」
ハイトマンLP1000-1000=0
追撃のダイレクトアタックによって、ライフがちょうどゼロになったハイトマン教頭が、悲鳴を上げながら尻餅をつく。そしてそれを見て、ちびっ子たちも大喜びで歓声を上げ──そのまま観客席から駆けて行った。遊星のところに行くつもりなんだろうな。
「何ボサっとしてんの、ボクたちも行くわよ」
「ダッシュですよユージさん!」
さすがのツァンも、ここまで来たら最後の顛末まで見届ける気のようで。俺はツァンとゆまの2人に手を引かれながら、観客席からデュエルコートへと向かって歩を進め──。
「どうじゃったかな、ハイトマン教頭?」
「はい……ワタシが間違っておりました……。この子たちの退学処分は……撤回するであります……!」
「やったあぁぁぁ!」
「ありがと遊星!」
デュエルコートに膝を突いて、項垂れながら自身の非を認めるハイトマン教頭と、それを満足気に見る校長。そしてハイトマン教頭の言葉を聞いて、大喜びで遊星に飛びつくちびっ子たち。
少し出遅れたが、一番大事なところには間に合ったみたいだな。
「さすがは遊星だ。一件落着だな」
「ええ……まさかあの教頭先生の心を入れ替えさせるだなんて。やっぱり遊星は凄いわ」
俺の漏らした呟きに、アキさんがうんうんと頷きながら同意を示す。
でもアキさんの言う通り、我こそが正義と暴走する大人を、本気で反省させるだなんて……すげえな遊星は。俺は(カードパワーで)上から叩き潰して、無理矢理言うことを聞かせるのはできるが、こうやって自らの行いを反省させることはできねえからなぁ。
まあなんにせよ、これにて退学騒動は万時解決。じゃあ教室に戻って、ひと眠りでもしますかーと俺が思ったその時。
「……ちょうどいい機会ね。不動遊星、アンタにデュエルを申し込むわ!」
なんかツァンが、遊星にデュエルを挑みだした件について。え、何この展開。さすがの俺ちゃんもこれは予想GUYなんだけど。アキさんがぎょっとした顔で、何故か俺の方を見てくるが……ち、違う! ツンドラの大蠍が勝手に!
リアルがゴタゴタしていたせいで、盛大に遅れましたごめんなさい!
デュエルの前フリだけで1万字も行っちゃったので、分割も兼ねてとりあえず完成した分だけ急いで投稿です。