ネオドミノのテッペンに立ちたくて   作:ジェム足りない

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持つ者と持たざる者

 とある日のデュエルアカデミア、その昼休み。腹を空かせた生徒たちで賑わうカフェテリアを、俺は一人歩いていた。目的は言うまでもなく昼食だ。ゆまやツァンと一緒に昼食をとることの多い俺ではあるが、本日の2人はなにやら用事があったようなのでね。というわけで、今の俺はおひとり様ってワケ。

 ……別にゆまとツァンが先生に呼び止められてたから、巻き込まれる前にこっそり逃げてきたわけじゃないよ? ほんとほんと。この眠れる巨人ズシンのカードを賭けてもいい。家に36枚余ってるし。

 いやー、腹ペコで死にそうな時に限って、なぜか頼まれごとがやってくるのって不思議だよね。これってトリビアになりませんか?

 とかどうでもいいことを考えているうちに、無事に注文待ちの列にとうちゃーく。

 

「さーて。今日は何食おうかな……」

 

 いちいち人の選んだメニューに余計な一言を入れてくれるツァンもいないし、ラーメンセットとかも悪くないよなあ。ツァンがいたら炭水化物と塩分と油の肥満セットがどうのこうのうるさいからな……。

 いや、ツァン本人に一切の悪気はない事はわかるんだけどね? むしろこっちを気遣っての発言だってのはわかるんだけどね? だがそれはそれとして……ね? たとえ体に悪かろうと、塩と油は男の子の燃料でありまして。

 

 

 

 

 

 

「うーん、満腹満腹。余は満足じゃ……」

 

 そんなこんなで一人自由な食事を終えた俺は、腹ごなしも兼ねて校内のラウンジをブラブラ歩いていた。なにせここはデュエルアカデミア。適当に歩いていれば、デュエルしてる知り合いの1人や2人は簡単に見つかるのだ。そこに混ぜてもらうか、あるいは観戦に回るかは……まあその時の気分次第だ。

 

「ん? これは……」

 

 そうしてのんびり歩いていると、ふと1枚のポスターが目に留まる。Dホイールに乗る男が笑顔でカードをドローしているという、可愛らしい絵柄の無料イラストを使ったポスターだ。そのポスターにはライディングデュエルのライセンス取得を支援する講座の開催と、その日時が示されていた。

 

「ほぅ、ついに来たか」

 

 確かこれって、アニメでアキさんが受けてた講座だよな。って事は、そろそろアキさんのライセンス取得回がやってくるという事だろう。

 うーん、どうすっかねえ。個人的には俺も何か手伝ってあげたいが、しかしそれはアキさんと遊星のデートの邪魔をするって事にもなるんだよな。龍亞龍可ならともかく、俺が混じってるとあの2人もイチャつけないだろうし。……ていうか冷静に考えたら、教官役は遊星1人で十分か。

 ポスターを眺めたまま、俺がそのような物思いに耽っていると、スマホが急にブルブルと震えだす。ポケットから取り出して確認すれば、案の定ツァンからの電話だった。通話ボタンをタップしてみれば、ツァンの不機嫌ボイスが聞こえてくる。

 

『ねえ今どこ?』

「地球ん中」

『はっ倒すわよ』

 

 めっちゃドスの効いた声で怒られちゃった……。

 

「ラウンジ前であります!」

『……すぐ行くから待ってなさい』

 

 慌てて真面目な答えを返すと、ツァンはそう言い残して電話を切った。うーむ、このまま休憩時間を男友達の下でやり過ごし、談笑しつつ教室に戻ることで追及をシャットアウト。その後授業を挟んでうやむやに……という完璧な作戦だったのに。

 じゃあ電話に出るなよって? そんな事したら後が怖いだろ! そもそも逃げずに手伝えよと言われたらそれはそう。

 

「この薄情もの! 自分だけさっさと逃げてくれちゃって!」

「ソ、ソウデスヨー! コノハクジョウモノー!」

「誠にごめんなし」

 

 そしてツァンからの電話を受け取ってから数分後のこと。俺は唇を尖らせるツァンとゆまに対し、平謝りをしていた……! ていうかさっきからゆまの棒読みがひどい件について。

 これ「別にそこまで怒ってないけど、何度もやられると困るから怒ったフリして釘刺しとこう」って感じのアレだわ、間違いない絶対そうだわ。

 

「アンタがいないせいで、ボクたち大変だったんだからね!」

「タイヘンダッタンデスヨー!?」

「誠にごめんなし」

 

 そもそも、声色と表情でそれっぽく誤魔化してはいるものの、ツァン側からも怒りのオーラとかそういうのを微塵も感じないんだよなあ。ツァンたちとの付き合いもそれなりに長くなってきたから、そこら辺の判断がついちゃうのよね。……ていうかゆまの壊滅的☆演技が予想外だったのか、ツァンの目が泳いでら。

 

「ま、まあ、わかればいいのよ! でも次はないんだからね!」

「ワカレバヨロシイー!」

 

 本当はもっと俺に釘を刺す予定だったろうに、ゆまの棒読みを受けて予定変更したんだろう。俺からの謝罪を受けて許しました、という形を取って抗議を打ち切るツァンはアドリブの利くデュエリストの鑑。なんという冷静で的確な判断力なんだ!

 そしてゆまさんや。なんか「やりきりました!」って感じのドヤ顔してるけど、絶対やりきれてないからなお前。まあ可愛いからいいけど。

 

「まったくもう……。ところで、アンタの後ろにあるそのポスターって……」

「ああ、ライディングデュエルのライセンス講座だな。アカデミアも講座開くんだねえ」

 

 話題を変えるためか、それとも純粋に気になったのか。ツァンは俺の背にあるポスターへと目をやりながら声を上げたので、俺はポスターが良く見えるよう一歩横にズレつつそう返した。

 

「……そりゃあ開催するに決まってるじゃないの。ここはデュエルアカデミアよ?」

「まあそれはそうだけど、さ。ほら、アレじゃん? アレだよアレ」

「何よアレって……」

 

 おっとあぶない。危うく、もう今は落とす試験に切り替わってるのにって言うとこだったわ。

 まあ、別に大した情報じゃないから言ってもいいんだが、これから試験を受ける連中が聞いている……かもしれない場所で言うこともないだろう。

 

「ま、まあいいわ……それよりボクね──」

「そうだユージさん! 私、この講座を受けようと思ってるんですけど……その、わからないところとかがあったら、教えてもらっていいですか……ね?」

 

 何やら言いたそうに口をもごもごとさせていたツァンを尻目に、ゆまがズズイと大きくその身を寄せてくる。不安そうな表情と上目遣いによるコンボ攻撃が実にヤバい。

 ゆまってナチュラルにこういうことやってくるから心臓に悪い。あと俺のケツにも悪い。ぷ、プリメラちゃん! 槍の先っちょでケツをチクチクしないで……!

 

「え、もしかして……Dホイーラーデビュー?」

「はいっ! 危ないからと反対されていたんですが、ライセンスが取れたら構わないって話になりましてっ! それで……どうでしょうかね……?」

 

 不安げな表情から一転し、明るい表情で俺の質問に答えたかと思えば、また不安そうな表情へ。コロコロとその表情を変えるゆまだが、俺の答えは決まっている。

 

「ああいいぜ。さっきの埋め合わせと言っちゃあなんだが、喜んで協力するぜ」

 

 当然! YESゥゥ!!

 

「本当ですか!? えへへっ、やったー!」

「むむむ……」

 

 ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶゆまだが、一方ツァンはそんなゆまを見て何やら渋い顔。普段のツァンなら、素直にゆまを応援しそうなもんだが……やはりライディングデュエルは危ないと思っているんだろうか。それとも、ゆまのデッキに関することだろうか。

 

「でも大丈夫か? ゆまのデッキって融合が主体だろ? ほら、ライディングデュエルだと魔法カードが……」

 

 ゆまのデッキは属性HEROとM・HERO(マスクドヒーロー)を主体としたデッキであり、一言でいうなら漫画版十代デッキ。つまり融合やミラクル・フュージョン、そしてマスク・チェンジといった主力カードが使えなくなるライディングデュエルとの相性はあまりよろしくはない。ていうかぶっちゃけ悪い。

 いやスピードスペルにもスピード・フュージョンという融合魔法はあるけど……あれってSPCを4個も要求してきたりと使い辛いんだよな。マスク・チェンジなんか代用カードが皆無なせいで、M・HEROは壊滅状態だし。え、もうダークロウに悩まなくていいんですか? やったー!

 

「うぅ……そうなんですよね……。でも、やりようはいくらでもありますからっ!」

 

 俺に魔法問題を指摘されたゆまは一瞬落ち込む様子を見せるも、しかしすぐに気を取り直して『むんっ!』とダブルガッツポーズをとって見せた。

 

「でもやっぱり厳しいものは厳しいので……だから、ユージさんにもデッキ作りを手伝って貰えたらなぁって……」

 

 しかしその頼もしい態度もつかの間。ゆまは指を組んでもじもじとさせつつ、デッキ構築への協力を求めてきた。そんなゆまを見て、俺の超☆優秀な頭脳は完璧な答えをはじき出す。

 なるほど、理解したぜ。これはつまり……ハート2イベントじゃな? じゃあデッキのカードを全部汎用系や強欲な瓶と入れ替えるね……味方用のAIはなんかガバいし……(タッグフォース脳)

 

「んー、あまりヒーローデッキや融合系には詳しくないんだが……まあ、そんなんでもよければ」

「ぜんぜん大丈夫ですっ!」

 

 俺の返事を聞いたゆまは、これで百人力ですよーと目を輝かせる。

 こりゃ家に帰ったらヒーローデッキの勉強をしないとだな。この世界におけるデッキ構築と、OCG的なデッキ構築は似て非なるものだし。

 1枚のカードから誕生した世界なだけあって、なんか法則(?)みたいなもんが違うんだよね。単純にテキストだけ見て「これええやん!」と突っ込むと、肝心な時に来てくれなくて痛い目を見るというか。だからこそデュエル塾があったり、デッキ構築のアドバイス本とかがバカ売れしてるんだろう。たぶん。

 まあ幸い、伝説のデュエリストである十代が使用していたカテゴリーだからか、HERO使いは割といて資料にも困らないのが救いか。俺? 俺はプリメラたちに直接聞くという究極の裏技があるから……。

 

「ところで、ツァンはライディングデュエルやらないのか?」

 

 俺とゆまの話に割り込めず、ツァンがなんだかつまらなさそうな表情をしていたので、とりあえず話題を振ってみたところ。

 

「は、はぁ!? いきなり何よ!」

 

 急に話題が振られるのが予想外だったのか、顔を赤くして大慌てという実に弄りがいの……ではなく、可愛い反応を返してきた。

 

「いや、こうしてゆまもDホイーラーになることが決まったわけじゃん? ちょうどいい機会だ、お前も目指そうぜ~? スタンディングとは全然違うデュエルで楽しいし、風も気持ちいいぞ~?」

「あはは……まだライセンス試験をパスする必要があるんですけどね……」

 

 俺はうりうりとツァンを肘で弄りつつ、ライディングデュエルの宣伝を始める。俺の言葉に反応し、ゆまの不安半分な言葉が混じるが……それはスルーだ。確かにライセンスの試験は“落とす試験”の段階に入ったが、ゆまなら普通に受かるやろ。運動も得意だし。

 

「ふ、ふん! ボクは別にそういうの興味ないから! 残念だったわね!」

 

 鼻を鳴らして取り付く島もない用に顔を逸らすも、チラチラとこちらに目線を送ってくる……という、あまりにもお約束なムーブをかましてくれるツァン。ああ、やっぱ本心ではライディングデュエルやりたいんだなコイツ。

 そんなツァンの反応をを見たことで、ここでハシゴ外したらおもろいやろなぁという欲が出てくるが……まあ、やったら不機嫌になるのが目に見えてるしな。やめておくのが賢明か。

 

「えー。でもこないだゲーセン行ったとき、シミュレーター楽しんでたじゃん」

「ぐっ……で、でもアレはゲームだしノーカンよノーカン! デュエルとゲームは別なの!」

 

 先月、ゆまと三人でゲーセンに行ったときの事を例に挙げてやれば、ツァンは困り顔で苦しい言い訳を口にしだす。普段の態度からライディングデュエルに興味があるのはバレバレなのに、素直に認められないのはツンデレの悲しいサガよな。

 

「あれ? でもツァンさんって、ついにお父さんから──もががっ!?」

「余計な事は言わんでよろしい! とにかく、ボクはライディングデュエルには興味ないの! ……でもまあ、アンタがどうしてもと──」

 

 いつも通りにツァンの事情を口走ろうとしたゆまの口を、先手を打って物理的に塞いだツァンは、そのまま何事かを口走りかけるのだが。

 

「あー、そこにいたかユージ! お前、今日はカラテマン大会の日だってこと忘れてただろ!」

「前回はお前の財宝カラテマンに敗北したオレの無限カラテマンだが……今回はそうはいかんぞ!」

「おっと、宮田さんとツァンディレか。悪いなぁ、ちょっとユージ借りてくぜ?」

 

 そのタイミングで、我が友人である木下・鈴木・犬飼の男子三人衆が慌ただしく割り込んできた。

 しまった、完全に忘れてた。今日は“カラテマンが絡まないダメージは無効”という独自ルールの大会、カラテマン大会の日だった。大会の開催は放課後だが、一度昼休みに集まって段取りを決めようって約束だったんだよな。

 

「あー、そういやそうだった。すっかり忘れてた!」

「やっぱりな……飯食ったら打ち合わせ集合だって話だったろ? ほら行くぞー!」

 

 俺が遅れたせいで、時間が押しているのだろう。どたどたと駆け足で慌ただしく去っていく男子組。

 

「と言うわけで、スマン。ちょっと行ってくるわ」

 

 そんな男子組を追いかけるべく、俺は振り返ってツァンとゆまの2人に声をかける。2人揃って困惑の表情を浮かべていたが、まあ細かい説明は後でいいだろう。今は時間がないし。

 

「え、ええ……行ってらっしゃい……」

「ええと、よくわかりませんが……が、頑張ってくださいね!」

 

 顔をひきつらせたツァンと、困惑しながらも応援してくれるゆまに背を押され。俺は栄光のカラテロードへと続く道を駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

「あんの馬鹿ども……なんで急に割り込んで来るのよ……!」

 

 雄二が去った後。その場に残されていたツァンは盛大に肩を落とし、人の話を肝心なところで打ち切ってくれた三人の名も知らぬ男子生徒たちへの恨み言を吐いていた。

 

「あ、あはは……ユージさん、お友達が多いですし……」

 

 そんなツァンを慰めようと、ゆまが声をかけたところに。

 

「あら、ツァンじゃない。どうしたの落ち込んじゃって」

「珍しいわね。今日はユージがいないのね」

 

 生徒の波の中から雪乃とアキが現れ、ツァンとゆまの2人に話しかけてきた。

 

「……アイツはデュエル大会の打ち合わせだって」

「ふふ、そう。それで放置されて拗ねてるってコト?」

「う、うるさいわね!」

 

 絞り出すような声色で発せられたツァンの説明。その説明を聞いた雪乃は、そのままクスクスと笑いながらからかいの言葉を発し、恥じらいに顔を赤らめたツァンに噛みつかれていた。

 

「ユージって、なんだかんだで交友関係が広いのよね……あら、ライディングデュエルのライセンス講座? へぇ、ついに日時が決まったのね」

 

 からかう雪乃と、それに反応するツァン。いつも通りの光景が繰り広げられる中、アキはすぐ近くに張られていた1枚のポスターを発見。そのままポスターに歩み寄ると制服のポケットからスマホを取り出し、そのカメラ機能でポスターを撮影する。

 

「……うん、これでよし」

「もしかして、アキさんもライセンス講座を受けるんですか!?」

 

 撮影した画像を確認して満足気に頷いているアキに、少々興奮した様子のゆまが話しかける。

 アキはスマホを制服のポケットにしまいながら、ゆまに向かって微笑みながら返事を返した。

 

「ええ。私も、遊星たちと一緒にライディングデュエルがやってみたくなって。その様子だと、あなたたちもライセンスの取得を?」

「はい!」

「ぼ、ボクは……その……」

 

 アキの言葉に対し、こちらも満面の笑みを浮かべて返事をするゆま。一方、ツァンはどう返事をすべきか迷っている様子だったが……。

 

「ツァンさんも、お父さんから許可が下りたんですよね!」

 

 別に隠すような相手でも、隠すような情報でもないと判断されていたのだろう。友人であるゆまから、容赦なくネタバラシをされていた。

 

「あら、おめでとう。これで一歩前進ね」

「よかったじゃない、ツァン」

「う、ううぅ~、どうしてバラしちゃうのよ……!」

 

 ニマニマと笑いながら祝福する雪乃と、素直に祝福の言葉を述べるアキ。

 友人2人──うち1人はツァン自身は友人と認めないだろうが──からの祝福を受けたツァンは恥ずかしさで顔を赤くし。

 

「このっ! このっ! 余計なことを言うのはこの口かしら!?」

ひふぁい(いたい)ひふぁいでふ(いたいです)ふぁんはん(ツァンさん)~!?」

 

 ネタバラシをかましてくれたゆまのほっぺたを引っ張ることで、恥ずかしさを紛らわしつつ、余計な一言への抗議をしていた。

 

「ふふ、素直になれない誰かさんにしては頑張ったわね?」

「フン、なんか余裕ぶってくれちゃってるけど、そういう雪乃はどうなのよ?」

「あら、私?」

「ええ。何か上から目線で好き勝手言ってくれてるけど、アンタもこの講座を受けてライセンスを取るつもりなんでしょ?」

 

 ツァンは言ってやったとばかりにフフンと鼻を鳴らし、得意気な表情で雪乃に対し指を突きつける。しかし、指摘を受けたはずの雪乃は涼しい顔を崩すことなく、胸の谷間の間から革製のカードケース──デュエルモンスターズのカードケースではなく、免許証などを入れるミニサイズのケース──を取り出した。

 

「フフフ、私はもう持っているのだけど……で、ライセンスがどうかしたの?」

「ぐ、ぐぬぬ……!」

 

 雪乃はカードケースを開くと、その中に収められていたライセンスをツァンに対しヒラヒラと見せつける。ライセンスを見せつけられたツァンはポカンと口を開いたのち、悔しそうな表情を浮かべて唸り声を上げることしかできなかった。

 

「もうライセンスを持っていただなんて……さすがね。でも、雪乃って儀式使いでしょう? ライディングデュエルはスピードスペル以外の魔法は禁じられるような……」

「ええ。悲しいけど、ライディングデュエルだとこの子たちは完全に機能を停止してしまうわ。だから、ライディングデュエルの際はデッキを変えることにしてるの」

 

 アキからの賞賛の声と、それに続く疑問の声。雪乃はライセンス入りのカードケースを再び胸元にしまうと、制服のポケットから取り出した自分のデッキを撫でつつそう答えた。

 

「1つのデッキを完全に使いこなすことですら難しいのに、2つのデッキを使いこなすなんて……」

 

 デュエルアカデミアに通う学生のうち、いったい何人が自分のデッキの実力を100%発揮させてあげられるのか。それを知るアキは2つのデッキを操る雪乃の技量に対し、感心の声を上げる。

 

「別に大したことじゃないわ。大昔の事だけど、世の中には100のデッキを操るデュエリスト──なんてのもいたそうよ? どうしようもない悪人だったらしいけど」

「ああ、デュエルキングに成敗されたストア・ブレーカーね。ボク、あれって絶対盛ってると思うんだよね。だって、いくらなんでも100って多すぎでしょ? 相手を脅かすためのハッタリよハッタリ」

 

 しかし雪乃はアキからの賞賛に対し、大したことじゃないと謙遜の姿勢を示す。そしてそんな雪乃の言葉を聞いた──いつの間にか再起動を果たしていた──ツァンが、したり顔で過去のデュエリストに対する自論を表明していた。

 

「……さぁて、それじゃあ私はここらへんでお暇させてもらおうかしら? 無事にライセンスが取れるよう、頑張りなさい」

「はい、がんばりますっ!」

 

 話すべきことは話したと、雪乃は自分のデッキを仕舞うと踵を返す。そんな雪乃が去り際に放った激励の言葉に対し、ゆまは笑顔で手を振りながら応え──そんなゆまに対し、雪乃もまたひらひらと軽く手を振りながら去っていく。

 

「ぐぬぬ……! 雪乃のヤツ、自分はもう持ってるからって偉そうに……!」

「まあライセンスを持っていない私たちよりも、持っている雪乃の方が上なのは確かだし……」

 

 ツァンが去っていった雪乃に悔しさをぶつけ、アキがそんなツァンを宥める。雪乃とツァンが顔を合わせるとよくある光景だ。だがそんなツァンのお腹から、きゅうぅ……と可愛らしく腹の虫が鳴く音が。ツァンは顔を真っ赤にしてお腹を押さえ、そんなツァンを見てアキは小さく笑う。

 

「そういえば、私たちもご飯まだでしたね。お腹ペコペコですっ! 早く食べに行きましょう!」

「そ、そうね……アイツのせいで、お昼ごはんがまだだったものね……」

 

 笑顔で昼食に誘うゆまからの言葉を受け、ツァンはお腹を押さえたまま同意を示す。そうしてゆまとツァンの2人はアキに別れを告げると、カフェテリアへ足を運ぶのであった。




アクセラレーション回…の前フリ。会話パートだけで異様に長くなったので分割です
ちなみにデッキ構築で精霊組に意見を聞くと、キレイだから装備してみたいという理由でレインボー・ヴェールなんかをやけに推してきたりする弊害もあったりなかったり。


カラテマン→GX時代は低速だったので、ドロー2倍とかいろいろな特殊ルールで遊びましたよね?よね?

ツァン→親父殿が何故か急に手の平返しをしてライディングデュエル解禁。あくまでも“頼まれたので仕方なく”ライディングデュエルを始めたかった

ゆま→TFSP繋がりでライロにデッキ変更も考えたけどHERO続投

雪乃のデッキ→ライディングデュエルで儀式は無理……って事でデッキ変更
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