ネオドミノのテッペンに立ちたくて   作:ジェム足りない

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卒業検定ライディングデュエル(前編)

 ゆまからライセンス取得を目指すことを告げられ、その協力を依頼されてから次の週の土曜日。俺はネオドミノ内にあるライディングデュエル用スタジアムの1つへとやってきていた。理由は勿論、今日がデュエルアカデミアが開催するライセンス取得講座、その実技講習の日だからだ。

 

「おー、いたいた。ツァンにゆま、そしてアキさんに龍亞龍可、と。勢ぞろいだねえ」

 

 見学に来ただけの龍亞龍可は普段着だが、それ以外の3人は全身にフィットするタイプのライディングスーツを身に着けていた。ツァンはピンクを基調として白いアクセントの入ったスーツ、そしてゆまは白を基調として赤いアクセントの入ったスーツだ。

 ……それにしても、何がとは言わないがデカいなツァン。蒸れるからなのか、アキさんと同様に“開放”しているせいで目のやりどころに困るぜ。

 

「しかし、まさかあのツァンが()()()()助けを求めてくるとはな……」

 

 ゆまからライセンス取得のための協力を依頼された日。あれだけ興味ないとか言っていたツァンが前言を翻して、俺にライセンスを取りたいから手伝って欲しいと言ってきたのには驚いたもんだ。

 いや、本音ではやりたがってるのはわかっていたんだけどね? でも素直じゃないツァンの性格上、俺やゆまに頼み込まれて仕方なく……という形を取りたがると思っていたから驚いた。

 

「うぃ──」

「アキ姉ちゃんたち、やっぱりWRGPに出るためにライセンス取りに来たの?」

 

 俺が集まっているアキさんたちに向け「うぃーっす」と声を上げようとした、ちょうどそのタイミング。息を吸い、最初の一声を上げようというそのタイミングで、龍亞がアキさんたちに対し質問をぶつけていた。

 おっと、これはタイミングを逃したな。それにしても、なんだか面白そうな話だし……仕方ねえ、ここは息をひそめて盗み聞き──もとい、話が終わるタイミングまで待つとしますかねえ!

 

「はいっ、私とツァンさんはそうです! ユージさんと一緒にWRGPに出るために──」

「ちょ、ちょっと!? ボクは別に、WRGPに出たいだなんて…………思ってないんだからね? ホントだからね!?」

「ええーっ、そんなぁ……!? 私はユージさんとツァンさん、そして雪乃さんと一緒のチームでWRGPに出たくて……」

「ちょっと待ちなさい、ゆま。何でそこで雪乃の名前が出てくるの?」

 

 ……うーむ、まさかゆまがWRGPの出場を狙っていたとは。さすがの拙者も予想GUYに候。

 そうだよな。ここでゆまとツァンがライセンスを取れたら、俺たちでチーム結成ってのもワンチャンあるんだよな。どこかのチームに潜り込むのより、気心の知れた仲間とチームを結成した方が楽しいに決まってるし。ゆまの願望通り、雪乃も加入してくれたら心強いんだが……。

 

「いいじゃないですかぁ~、一緒にWRGP目指しましょうよぉ~!」

「ああもう、駄々こねないの! わかったわよ! 無事にライセンスを取れたら、その時は考えるわよ!」

「やったーっ!」

 

 いやでもそうなると男女比率がヤベーな? 俺以外にあともう1人男が欲しい……が、知り合いの男連中を誘うにしてもデュエルの腕前問題がな。適当に誘っても「ごべーん! 誘ったはいいけど、やっぱお前の出番ねえわ! だってツァンたちの方が強いし!」って事になりかねない。

 ……あ、あとメカニック問題もあったわ。って問題だらけじゃねえかよ。しょせん夢は夢だな。

 

「私は……グランプリに出るのが目的じゃないの。私は遊星たちと一緒に走ってみたいの。同じ風を感じて、同じものを見てみたいの」

「おおー、アキ姉ちゃんってばカッコイイー!」

「アキさんなら、きっと大丈夫よ」

 

 おっと、考え事してる間にアキさんがいいこと言ってるわ。龍亞龍可は軽い調子でアキさんを褒め称えているが……これってよく考えなくても告白だよね、ヒューヒュー。まあアニメの知識がどうこう以前に、普段のアキさんの態度を見てりゃ今更なんだけど。

 さて、隠れているうちにだんだん思い出してきた。確かこの後は、チンピラ3人組がアキさんに喧嘩を売りに来るんだよな。姿を現すならそのタイミングか?

 

「それにしてもユージさん遅いですねえ。……はっ、まさか道に迷って!?」

「いや自動運転もあるんだから間違えようが無いでしょ……どーせアイツの事だし、デュエルでも挑まれて遅くなってるんじゃないの? アイツがボクたちとの約束に遅れるのって、大体そのパターンじゃない」

 

 ……ねえ、なんかチンピラさんたち来ねえんだけど。代わりにゆまがソワソワして、ツァンがイライラし始めたんだけど。どゆこと?

 ああ、そうか! わかったぞ! 確かアニメだとチンピラ3人組とアキさんは同じ講習クラスだった。つまりチンピラたちはアキさんをわざわざ煽りにきたんじゃなくて、同じクラスにアキさんがいたから“ついでに”煽ったんだ。

 でもこの世界では、本来ならいなかったゆまとツァンが講座を受けにきている。それでクラス分けがズレて、チンピラ組はこの場にいないと。きっとそうに違いない。いやアキさんとゆまとツァンがライディングスーツ着て、仲良く駄弁っている時点で気付けよ俺。

 なんにせよ、このまま隠れていても不味いな……さっさと姿を見せるか。

 

「うぃーっす、みんなおはよー!」

 

 5人の目線がこちらに向いてないことを確認した俺は、身を隠していた柱の影からサッと出ると、今来たばかりでっせーという風を装いつつ挨拶を飛ばした。

 

「あー、ユージってばやっと来た! ユージ遅いぞー!」

 

 立っている場所とか、よく考えれば少し怪しいところもあったかもしれないけど……しかしそれも、元気に腕を振り上げて抗議する龍亞のおかげで薄まっただろう。

 

「ははは、悪い悪い。少しばかり、人生という名の道に迷ってな……」

「アンタはカカシ先生みたく悲しい過去抱えてないでしょ」

 

 あぁん、ツァンってばひどぅい。馬鹿にするなよ、俺にだって頑張って記憶をほじくり返せば、きっと悲しい過去の1個くらいは見つかるはずだ。大好物のプリンを床にぶちまけたとか。

 

「仮にあったとしても、そうねぇ……お皿からプリンを落としたとか、せいぜいその程度じゃない?」

「何故それを!? まさかコイツ、伝説のマインドスキャンを……!?」

「ええ……ホントにそんなんしかないの……?」

 

 勝手に人の心を盗み見ておいて、勝手に引くとは何て身勝手な女だツァンディレ。だが俺の好物だとはいえ、プリンを例に挙げたのは間違っていたなあ? こっちだってお前の好物の事は、スリッとまるっとお見通しなんだぞ!

 

「だがしかし、よしんばそのプリンがトリシューラプリンだったとしたら……?」

「う゛っ……! そ、それは……!?」

 

 皿に載せてルンルン気分で運んでいたトリシューラプリンを、ついうっかりひっくり返した場面の事を想像したのだろう。しまった! とばかりの表情をし、言葉に詰まるツァンを見て俺は勝利を確信する。フッ……このデュエル、俺の勝ちのようだな。

 

「はいはい、ふざけてないで──」

「そこのお前達、講習の時間だぞ! さっさと来るんだ!」

 

 タイミングがいいのか悪いのか。アキさんがまとめにかかったところで、教官と思わしき強面の男が遠目の場所から大声で呼びかけてきた。……でも受講者が女子3人ということもあってか、なんだかやり辛そうな表情してら。

 

「じゃ、俺たちは観客席にいるから」

「アキ姉ちゃん頑張れー!」

「ツァンさんとゆまさんも頑張ってね!」

 

 さてさて、ツァンやゆまのデュエルの腕前は良く知ってるが、Dホイールの腕前は完全に未知数だからな。お手並み拝見と行きますか!

 

 

 

 

 

 

「いいか! まずは俺が手本を見せるからな! 目をかっぽじって、よーく見ておけよ!」

「やってるな」

 

 まずは教官がアキさんたちにお手本を示す……というところで、観客席に遊星がやってきた。遅れた理由は、まあ仕事を片付けてたとかそんなところだろう。

 

「お、遊星も見に来たんだ」

「ああ。アキは俺たちの仲間だからな」

 

 教官の模範運転ということもあり、俺と遊星はコースをスルーしてそのまま雑談を開始。ジャンク屋から譲り受けた中古のDホイールを修理し、アキさんの練習用Dホイールとして組み上げた──というあたりまで聞いたところで、教官の模範運転と注意すべきポイントやらを事前に叩き込む教育フェイズが終了。次は実践フェイズという事で、アキさんとツァンとゆまの3人がそれぞれ教習用Dホイールに乗り込んでいた。

 

「まずは十六夜からだ、始めッ!」

「ハイッ!」

「お、まずはアキ姉ちゃんからスタートみたいだよ遊星!」

 

 俺と遊星、そして龍亞龍可の4人が見守る中。アキさんの運転するDホイールはグングンと加速していく。そろそろカーブに差し掛かり、減速しなくてはいけないポイントだというのにも関わらず、そのスピードは全く緩まっていない。

 

「あちゃー」

 

 そんなアキさんを見て、俺は思わず額に手を当てて目を逸らし……。

 

「オ、オイ。あれじゃ曲がれないぞ!?」

 

 遊星が慌てて観客席から身を乗り出すのだが、時すでに遅し。

 

「キャーッ!?」

 

 カーブを曲がり損ねた……というか、ほぼそのまま突っ込んでいったアキさんは、コースの外に用意してあったクラッシュ防止用のクッションに激突。勢い余って、まるでギャグマンガのようにDホイールから射出されていた。十六夜アキ、射☆出!

 

「あいたたた……アハハ、やっちゃったわね」

「スピードの出し過ぎだ馬鹿者ーッ! 人の話を聞いていたのか貴様ーッ!」

 

 芝生の上を転がり、恥ずかしがるアキさんに教官からの叱責が飛ぶ。

 でもなんだか懐かしいなあ。俺もライセンスを取りに行ったときは、マニュアルモードの実技講習でよくコケて吹っ飛んだもんだ。さすがにあそこまで勢いよく射出はされなかったけど。

 

「次、ツァンディレ!」

「はいっ!」

「次はお前の仲間の子か。デュエルは結構強かったが……」

 

 アキさんの失敗を見ていたからか、アキさんに比べれば気持ち遅め程度のスピードで進んでいくツァンのDホイール。そんなツァンを見ながら、遊星がポツリと呟きを漏らす。

 

「ツァンも運動は得意な方だな。でもDホイールは未経験だから……」

「なるほど、アキと一緒か。それじゃあ苦労しそうだな」

「ああうん、そうだな……」

 

 しかし、全力全開でかっとばしていたアキさんに比べて“気持ち遅め”のスピードということは、つまり……。

 

「キャーッ!?」

「お前も飛ばし過ぎだーッ! 人の失敗から学ばんのか貴様ーッ!」

 

 カーブを曲がるにはスピードが出過ぎているという事だ。

 ツァンはアキさんと同様、クッションに突っ込んではその勢いで射出され、教官からの叱責を食らっていた。

 

「なあ遊星。負けん気の強さとスピードは比例するもんなのかな?」

「……さあな」

 

 俺の発言を聞いた遊星は、なんとも言えない微妙な表情をしつつ肩を竦めた。

 

「次ィ、宮田ァ!」

「は、はいっ! 行きますっ!」

 

 そしてアキさんとツァン、見事に吹っ飛んでいった2人に続くのはゆま。

 先に失敗した二人を見ていたからだろう、ゆまはガチガチに緊張した様子であり……それを見た俺と遊星、そして龍亞龍可の間に「なんかダメそう」という空気が漂うのだが。

 

「くうぅぅ……よしっ! やったっ、できましたーっ!」

「やるじゃないか宮田ァ! 上手いぞ宮田ァ!」

「うおーっ、ゆま姉ちゃんスゲーぞ!」

 

 しかしそこではゆまが大活躍をしていた! いや本当にDホイールに初めて乗るとは思えない動きだ。 アキさんとツァンの失敗を見ていたぶん、その成果が際立つのか龍亞もぴょんぴょん跳ねて大喜びだ。龍亞ァ……お前ホント可愛いなァ……。

 まあ百済木さんごっこはさておき、ゆまってこれでDホイールに乗るの初めてなんだよな? そう考えるとさ。

 

「あいつ、ワシより上手くねー?」

「さすがにお前の方が上だと思うが……」

 

 片手で望遠鏡を作り、ネテロ会長ごっこをする俺に遊星からのマジレス真拳が飛んでくる。漫画好きの龍亞ならこっちのネタに合わせてくれるんだが、遊星は漫画より技術書に喜ぶタイプだからね。仕方ないね。

 

「いや、そうじゃなくて初めて乗った時の俺と比べて」

「ああ、成程。そういう事か……」

「そういう事だ……」

 

 その後も実技講習は続くのだが、相変わらずスピードの出し過ぎでアキさんとツァンは吹っ飛び、そしてゆまはなんかいい感じでクリアする、という光景が繰り返され……無事(?)に1回目の実技講習は終了。今は鬼教官遊星の元、なんかノリノリで一緒に居残り練習をしている最中であった。

 俺? 俺はゆまと一緒に2人の応援。たまにアドバイスも飛ばしてるから、ただの賑やかしじゃないよ?

 

「2人ともDホイールを倒しすぎだ! そうじゃなく身体で曲がるんだ!」

「倒しすぎ……かなぁ!?」

「理屈はわかってるのにぃー!」

 

 仲良く悲鳴を上げながら吹っ飛んでいくアキさんとツァン。ま、やっぱり最初は仕方ないよな。まだまだ試験本番までは時間があるんだ。ゆっくり腕を磨いていけばいい……と思っていたのだが。

 

「これで……どうだぁーっ!」

「やったっ、やりましたよツァンさん!」

「おお、やったなツァン! 大成功だ!」

「やったぁーっ! コツを掴んだわよ!」

 

 アキさんと揃ってプチクラッシュを繰り返す事1時間超。ついにツァンがスピードを維持したままのカーブに成功。ゆまと俺からの賞賛を受けたツァンは、全力で拳を突き上げて喜びを表していた。

 

「そうだ、それでいい! アキも続くんだ!」

「ええ、私も負けてられないわ……!」

 

 そしてツァンの成功に触発されてか、アキさんも続けて成功する。アニメでは夕方のラストランになってようやく成功していた覚えがあるが、まだ日も高いうちに成功するとはなかなかの快挙ではなかろうか。やはりチンピラ組が消えて、ゆまとツァンという仲間が代わりに入ったのが大きかったのかねえ。

 

 

 

 

 

 

 あれから、コツを掴んだらしいツァンとアキさんの運転技術は一気に向上。2回目の実技講習ではその上達ぶりに教官を驚かせ、3回目の実技講習では「これなら合格間違いなし」と教官からお墨付きをもらうことに。そして訪れた卒業試験デュエル当日──。

 

「あれ、アキさんそのDホイール……」

「ええ、遊星たちがプレゼントしてくれてね。本体は遊星が、ブレーキはクロウが、カウルの塗装はジャックがやってくれたそうよ」

 

 俺の知識通り、アキさんはおニューのDホイールに乗り換えて現れ……いや、アキさんの練習用Dホイールをアップグレードさせたんだっけ? さすがに細かいところは忘れちまったな。

 まあそんなことはさておき。俺とゆま、そしてツァンの3人はアキさんの新しいDホイールに群がり、それぞれ感想を述べていた。

 

「良きDホイールだ……」

「すごいです! カッコいいですっ!」

「現キングと元キングの合作Dホイールだなんて……いいなぁ」

 

 おっと、確かにその通りと言えばその通りなんだが……ジャックに聞かれてなくて良かったなツァン。もし聞かれてたらうるさかったぞ。

 しかし特技と豪語するだけあって、ジャックの塗り普通に上手いな。知識では知っていたけど、実際に見ると見事な出来栄えで感心する。

 

「そこの君。もうすぐ試験の時間だから、応援なら観客席で頼むよ!」

 

 おっと、係員の人に怒られちまったい。大人しく移動するとしますかねえ。

 

「じゃ、俺は観客席で見てるから。3人とも頑張れよ~!」

「はいっ、頑張りますっ!」

「きちんとボクの雄姿を見ときなさいよ!」

「このDホイールに恥じないデュエルをしてみせるわ!」

 

 俺はやる気も気合も十分な返事を返して来る、ゆまとツァンとアキさんに背を向けて観客席に歩を進める。そうして観客席に着いた俺は、コースが良く見える場所を探してそこに陣取り──ちょうどそのタイミングで、遊星とジャックとクロウ、そして龍亞龍可のいつメン5人が揃って姿を現した。

 

「お、やってるやってる!」

「やっほー! 今日は早いんだねユージ!」

「まーな。俺って早寝早起きの優等生だし?」

 

 こちらに声をかけてくるクロウと龍亞に、手を上げつつ返してみれば。

 

「ハッ、お前が優等生など世も末だな」

 

 ジャックが鼻を鳴らしつつ、失礼な台詞を発してくれた。

 

「はあぁ? どっからどう見ても真面目で謙虚で優しさに満ち溢れた、まさにこの汚れた下界に降臨した神の如き優等生だるるぉ!?」

「謙虚の意味を辞書で引いてこい。しかし……それにしても」

 

 俺とじゃれ合っていたジャックが、ふとその目線を俺から外してコースへと向ける。ジャックのその目線の先には、卒検デュエルの試験官を務めるセキュリティ隊員と受験生が急カーブに差し掛かったところで──。

 

「おあああーっ!?」

 

 速度の出し過ぎによるカーブ失敗からのコースアウトという憂き目にあっていた。卒検デュエルにおける転倒は即失格というルールがある以上、彼はもう終わりですね……。

 

「ずいぶんと荒れているな……」

 

 その後も受験生が次々とコースアウトやらクラッシュやらをしていく惨状を目に、ジャックが呆れ混じりの声を上げる。卒検デュエルの場に上がれている以上、受験生側も実技試験は突破したはずなんだけどね。いやー、なんでこんなにクラッシュが多発してるんだろうねぇ(すっとぼけ)

 

「そりゃあそうだろう。なにせこの試験は“落とす”ためのモンだからなぁ」

 

 とかなんとか考えてたら、観客席をツカツカと歩いて来た牛尾さんがこの卒検デュエルの裏事情をネタばらし。しかし、牛尾さんはこんなところで油売っていていいんだろうか。俺の記憶ならアキさんと牛尾さんでデュエルを……いや、アキさんの講習組からチンピラトリオがOUTして、代わりにゆまとツァンがINしている以上、もうこの記憶はアテにならんか。

 

「ゲッ……牛尾じゃん!? なんでここにいるんだ?」

「なんでってお前、それは俺がこの卒検デュエルの試験官だからに決まってんだろ?」

 

 予想外の牛尾さん登場にクロウは驚き、そして牛尾さんはそんなクロウの反応を見てニヤニヤと笑っていた。

 

「落とすための試験とはどういうことだ?」

「グランプリの開催が発表されて、途端にライセンスを取ろうって奴らが増えたからな。十六夜もそうだが……ユージ、お前のお友達も運がねえなぁ。試験に合格するには、俺たち試験官を倒すしかねえ」

 

 ジャックの問いかけに対し、牛尾さんは肩を竦めながらそう答える。俺にとっては既知の情報でも、クロウたちにとっては寝耳に水。龍亞なんかは「なんだよそれー!」とお気持ち表明モードだ。

 

「ええい、オレたちにさんざん世話になっておいて……!」

「ぐっ……それを言われると辛いモンがあるが……それはそれ、これはこれってヤツだ」

 

 クロウからの苦し紛れの文句を受け、牛尾さんは痛いところを突かれたとばかりに顔を歪める……のだが、荷物を動かすジェスチャーをしながら誤魔化していた。まあ牛尾さんもお仕事だからね。仕方ないよね。

 

「……十六夜の担当試験官は誰だ?」

「俺だ。こっちも仕事なんでな、手加減はナシだ。悪く思うなよ?」

 

 最後にジャックからの質問に答えると、牛尾さんはスタスタと歩いて観客席から出ていく。そうして牛尾さんの姿が完全に見えなくなったタイミングで、クロウが額に手を当てながら深い溜息を吐いた。

 

「マジか……牛尾が相手かよ……」

「残念だが、十六夜に勝ち目はないな……」

 

 クロウのネガティブな発言を咎めることなく、むしろ同調するジャック。遊星や龍亞龍可も渋い顔をして黙りこくっているあたり、いつメンの牛尾さんの実力への信頼が見えるな。まあ今回はその信頼が悪い方に働いてるが。

 さて、ちょっと空気が沈んでいて辛いので、明るい方へ持って行こうかねえ。

 

「でもまあこれは卒検デュエルなんだし、牛尾さんも本気の特殊追跡デッキは使ってこないっしょ? そう考えれば大丈夫だろ。きっと」

「……言われてみりゃ、それもそうだな。……うっし。ここは一つ、気合入れて応援すっか!」

「そうだね、アキ姉ちゃんならきっと勝てるよ! あ、アキ姉ちゃんの番みたいだよ!?」

 

 俺の発言を聞いたクロウが元気を取り戻し、そのまま他のメンバーを鼓舞。そしてそのクロウに釣られて龍亞も元気を取り戻し、なんとかなるさ的な空気が戻ってきたところで、アキさんがコースのスタートラインにDホイールで乗り込んできた。

 本来ならアキさんの妨害をしてきたチンピラトリオも、接点皆無なためここには存在しないし……あとはアキさんが勝てるかどうかだな。ハラハラしてきた。

 

「それではこれより、卒業検定ライディングデュエルを開始する! ライディングデュエル──」

 

 スーツを着た試験官がスタートラインの横に立ち、定型文を読み上げた後にその手を上げる。そうして試験官からの合図を受け、アキさんと牛尾さんが同時にデュエル開始の宣言を口にした。

 

「アクセラレーション!」

「アクセラレーション!」

 

 

 

 

 

 

 アキさんと牛尾さんとのデュエルも最終局面。開幕こそ牛尾さんにラフプレイで先攻を奪われたり、SPC不足によるスピードスペル不発をやらかして危なかったものの……なんやかんやで牛尾さんの猛攻を耐えきり、信頼と安心のブラロぶっぱで盤面一掃。そしてSp-デッド・シンクロンで墓地シンクロをして──。

 

「私はヘル・ブランブルでプレイヤーにダイレクトアタック!」

「ぐおおぉぉー!?」

 

 牛尾:LP2000-2200=0

 

 茨の女王からのダイレクトアタックを受け、牛尾さんのライフはゼロに。アキさんの逆転勝利だ。

 

「やった、アキ姉ちゃんの勝ちだーッ!」

 

 そしてアキさんの勝利を見届けた龍亞が歓声を上げると、遊星たちの間にも喜びと安堵の波が広がっていく。いやー、ハラハラしたけど無事に勝ててよかったよ。

 その後、牛尾さんによってアキさんは合格を告げられ。それを聞いた龍亞と龍可が大喜びをして──続けてコースに入って来た受験生を見て、その表情が再び引き締まった。

 

「では次の受験生、宮田ゆまさん。配置について下さい」

「次はゆま姉ちゃんか……」

 

 続けてゆまの試験か。いやアキさんと同じ講習クラスだったから当然なんだが、こう連続で来られると気が休まらないな。ていうかもしかして、ゆまとツァンも牛尾さんが担当か? うーん、心臓に悪いなあ。一般隊員ならともかく、牛尾さんだと普通に負ける可能性があるし……。

 

「お、次はユージの仲間の子か。……あれ、どんなデッキを使うんだっけ?」

 

 ときどき俺やアキさんが名前を出すので名前は憶えていても、使用するデッキまでは憶えていなかったのだろう。クロウが俺に質問を飛ばしてきた。

 

「E・HEROだよ」

「ああ、そうだそうだ。言われて思い出したぜ。……でもあれって確か融合デッキだろ、ライディングデュエルは厳しくねえか?」

 

 俺の答えを聞いたクロウが、顎に手を当てながら考え込む様子を見せる。まあ、やっぱそう思うよな。俺もデッキ変えた方がよくない? って最初は思っちゃったし。でも、ゆまのヒーローに対する思い入れは強いからな。下手にデッキを変えたら弱体化しかねないのだ。

 

「ま、確かにライディングデュエルとの相性は良くないな。でも、やりようはあるさ」

「ふーん。ま、お前がそう言うなら大丈夫なんだろうな。よーし、せっかくの機会だ。お前の仲間の実力、この鉄砲玉のクロウ様が見定めてやるぜ!」

 

 俺とクロウが雑談している間にも準備は進み、ゆまと牛尾さんがスタートラインに並び立つ。

 

「それではこれより、卒業検定ライディングデュエルを開始する! ライディングデュエル──」

 

 アキさんの時と同様、スーツ姿の試験官が定型文を読み上げて腕を上げる。

 

「アクセラレーション!」

「アクセラレーション!」

 

 そして試験官からの合図を受け、ゆまと牛尾さんはデュエル開始の合図を叫ぶと、同時にアクセルを踏み込む。

 

「先攻はいただきですっ!」

「おお、これは驚いた。上手いな嬢ちゃん!」

 

 そうして直線を駆け抜け、第1コーナーを制したのはゆま。いや牛尾さんの反応的に、試験官側はわざと抑えてるんだろうな。普通に考えれば試験用のDホイールが、セキュリティのDホイールに性能で勝てるわけないし。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 俺たちが見守る前で、ゆまがデッキからカードをドローした。




文字数が長くなりすぎたので、試しに前後編分割。
今までは長くても無理矢理投稿してましたが、どっちの方がいいのかなと
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