「『栄光のターンエンド!? 元キング、逮捕される!』 か……」
金曜の朝。いつものようにDホイールでアカデミアに通学していた俺は、ビルの巨大モニターに映し出されていた──ジャックがハイウェイにおける、Dホイーラー連続襲撃事件の犯人として逮捕されたという──ニュースを見て、ひとり眉を顰めていた。
……そうか、ついにジャックの成長イベントでもある、この事件がやってきたんだな。
これは三皇帝のリーダーであるホセが、サーキットを出現させるために起こした事件であり、その内容は……。
①偽ジャックを作って暴れさせ、その罪を本物のジャックに被せる
②罪を被せられて怒り心頭なジャックに偽ジャックをけしかけてデュエルさせる
③遊星たちとの交流を経てちょっと甘くなっていたジャックは偽物に敗北
④敗北から這い上がって成長したジャックが、偽物と激しいデュエルを繰り広げる
⑤その際に発せられた膨大なエネルギーでサーキットが描かれてワッハッハ
という感じのかなり回りくどい作戦だったはず。そりゃプラシドも苦言を呈するわ。
まあこの作戦の過程でジャックがセキュリティに逮捕されたり、その影響で遊星たちがめちゃ落ち込んだりと色々あるわけだが……この事件に関する俺のスタンスは以前から決めていた。
「ジャックには悪いが、今回はスルーだな」
もちろんスルーである。だってこれ、イリアステル側は“かつての己を乗り越えて成長したジャック”が発する膨大なデュエルエナジーが目的なだけあってか、ジャックへの対応がちょっと甘いんだよね。偽ジャックが暴れた際に多数の被害者は出るけど、たしか死人とかは出てなかったはずだし? ていうかそもそもの話、クラッシュごときでデュエリストが死ぬわけねえしな。
まあ何が言いたいかって言うと、イリアステルがわざわざジャックの成長をお膳立てしてくれるってんなら、それを邪魔する必要はないってことだ。
そうしてアカデミアに到着し、教室に入って自分の席に着いた俺を……。
「おいユージ、お前ニュース見たか? ほら、元キングの……」
「どうだ? やっぱりよ、こういうのやらかしそうなタイプ?」
「嘘だよな? ジャックがこんな事件起こすワケがねえよな!?」
待ってましたとばかりに、クラスメイトの男子連中が取り囲む。まあ俺が遊星のところによく出入りしているのは、アカデミアでも有名だからな。何故かって? そりゃ俺が遊星の機械いじりの腕前を宣伝したからだよ。Dホイールを見せつけながら。
「ああ、見た見た。なーんか大変な事になってるなー」
「いやユージ、そんな他人事みたいな……」
「お前、ジャック・アトラスとは仲良しなんだろ?」
俺のテキトーな返事を聞き、男子連中が一斉に困惑顔を浮かべる。いや男子連中だけじゃなく、こっそり俺たちの話に聞き耳を立てていた女子たちも困惑顔だ。
「んー。俺としてはさ、そもそもこの事件、なんか怪しいものを感じるんだよな」
「へぇ、どこがだ?」
「よく考えてみろよ。この街どころか世界レベルで顔の売れているジャックが変装もせず、世界に1台しかないホイール・オブ・フォーチュンと、世界に1枚しかないレッド・デーモンズ・ドラゴンを使って、監視カメラが大量に設置されてるハイウェイの上で堂々と事件を起こす……」
「……確かに、捕まえて下さいって言ってるようなモンだな」
「だろ? ちょっとキナ臭いものを感じねえか?」
俺の話を聞いたクラスメイトたちが、「ほら見ろ、やっぱりジャックは無罪だよ!」「確かに工業製品であるホイール・オブ・フォーチュンは偽造できるかもしれない。でもカードの方は無理だろ?」「そうだそうだ! やっぱアイツが犯人だって!」といった感じでざわめき始め──。
「みなさん、席に着いてくださーい! ホームルームを始めますよー!」
担任が教室に入ってきたことで、強制的に打ち切られていた。
しかしこの感じじゃあ、アカデミアはしばらく、ジャック関連の話題で持ちきりだろうな。俺も質問攻めにされそうだし……それよりも、ジャックを疑う声をずっと聞き続けるってのが、な。裏事情を知ってるとはいえ、俺ちゃんもちょっと憂鬱だぜ。
◇
「……そう、何も聞けなかったのね」
夜、遊星のガレージに集まった俺たちは、治安維持局に参考人として呼び出された遊星・クロウ・ブルーノの3人からジャックの容疑に関する話を聞き──それを聞いたアキさんが、ため息を吐きながら肩を落としていた。
……なんで今回の件をスルーすることにした俺がここにいるのかって? アキさんに強制召集されたからだよ。まあ、そんなことは置いといて。
「クロウが悪いんだよ。何も、あんな言い方しなくたって」
「……ああ、反省してるよ。あの時は、ついカッとなっちまって」
ブルーノから責められたクロウが、力なく項垂れながら謝罪の言葉を吐き出していた。
どうやら治安維持局でジャックとクロウは口喧嘩をしてしまい、そのせいでジャックから今回の事件に対する情報を聞き出し損ねてしまったようだ。
「ねえ、何とかならないの? このままじゃジャックは……」
「ジャックの逮捕以来、問題のDホイーラーは出現していない。しかもこれまでDホイーラーが出現した時間帯、間の悪いことにジャックはショーの後片付けや打ち合わせで、ホイール・オブ・フォーチュンに乗ってハイウェイを移動中だったらしい……」
龍亞の懇願するような声を受けて、遊星が現在ジャックの置かれている状況がいかに厳しいかを告げてくる。
……雪乃の紹介してくれた事務所の所長は優秀らしく、あの我の強いジャックを「子供たちのため」うんぬん上手いこと言って丸め込み、なんやかんやでジャックを使ってくれていたんだが……それが今回は裏目に出てしまった模様。
「ハイウェイを移動中? 確か、ハイウェイには監視カメラがそこら中にあったわよね? それなら、問題のDホイーラーとジャックが別人だって事が示せるんじゃ……」
「……それがハイウェイの監視カメラに不具合が起きて、ジャックのアリバイを示す映像だけが無いらしい」
遊星からの情報を聞いたアキさんが対抗策を上げるものの、しかしそれは遊星が続けて口にした情報によって打ち消されてしまう。
「ジャックがハイウェイに入ったところで映像が途切れて、次に映った時は他のDホイーラーをクラッシュに追い込んでいるところで……つまり、状況証拠的にはジャックが圧倒的に不利なんだ」
「何だよそれ! そんなの絶対おかしいよ!」
ブルーノからの追加説明を受けた龍亞が、ソファから立ち上がって憤慨する。しかし俺がジャックに仕事を紹介したせいで、容疑がさらに黒くなってるの笑えねえな。映像だけ見たら、どう考えてもジャックが犯人じゃん。
「私たちで、何かしてあげられることはないかしら?」
「……こうなったら、オレたちで真犯人を探し出そうよ! どっかにジャックのフリをして、悪いことしてるヤツがいるんだろ? ソイツさえ捕まえたら!」
アキさんが頬に手を当てながらため息を吐き……その言葉を聞いた龍亞が、拳を振り上げながら状況を打開するための案を打ち出す。
「どうやって探すのよ、手掛かりは何も無いのよ?」
「う……そ、そっか……」
しかし龍可のツッコミを食らったことで龍亞の勢いは失われていき……遊星が「今はセキュリティに任せるしかない」とまとめたことで今夜の作戦会議は終了。
誰が言い出したわけでもないが、なんとなくこの部屋に集合したまま、セキュリティからの……というか牛尾さんや御影さんからの続報を待つことになり、俺たち学生組がウトウトとし始めたその時。
「何だって!? ジャックが脱走を!?」
遊星の上げた大声によって、俺たちは飛び起きることとなった。
『ああ……。まさかとは思うが、そっちに向かったら連絡をくれ』
俺たちにも聞こえるよう、スピーカーボタンを押してくれたんだろう。遊星の持つ端末から、牛尾さんの声が聞こえてくる。遊星が牛尾さんの頼みに了承の意を返すと、通話は切れ……。
「ちょっと、脱走ってどういうこと……?」
「なんつーバカな事を!」
俺と同じく、遊星の声によってまどろみから覚めたアキさんが困惑の声を、そしてクロウは頭を抱えながらジャックの行為を咎める声を上げる。
まあ、普通に考えりゃ脱走とか悪手中の悪手だもんね。セキュリティから逃げ切れるわけがないし、あっさり再逮捕されて罪状追加ってのを危惧しているんだろう。
「きっと、真犯人を探すつもりなんだ!」
「だとすれば、ジャックの向かう先は……」
龍亞の意見を聞いた遊星とクロウはほんの一瞬だけ考え込む様子を見せたが──すぐにその答えに辿り着いたようで、同時にハッとした表情を浮かべつつ大声を上げた。
「ハイウェイ!」
◇
「クロウ、ユージ。行くぞ!」
「セキュリティより早く、あのバカを確保しねえと!」
「合点承知ィ!」
遊星が先頭で、その次にクロウ。そして最後に俺の順で、俺たちはガレージからDホイールで飛び出していく。
遊星とクロウと俺の3人がジャックの捜索チームで、アキさんは龍亞龍可と一緒にここに残って、ジャックが帰ってきたらその対応をする待機チームだ。なんで俺が捜索チームなのかって? そりゃあもちろん、アトリィ実体化による飛行能力を買われてだよ。
まあそんなこんなで、セキュリティがジャックを再逮捕する前に、ジャックをなんとかして確保しようと噴水広場を出ようとした俺たちの視界の片隅に──。
「待ちやがれ! こんのクソガキがぁ!!」
「……ッ!」
怒り狂うガラの悪いマーカー付きの男に追われ、必死に走って逃げる──なんか見覚えのある銀髪ツインテールの──アカデミアの女子生徒という光景が映った。
追う男と逃げる女子生徒の2人の姿は、すぐ路地に入り込んで見えなくなってしまったが……その光景を目撃してしまった、俺たち捜索チームの間に沈黙がよぎる。
……まあ、色々言いたいことはあるけどさ。ちょっとタイミングが完璧すぎない? これ絶対レインの仕込みだろ。俺の足止めをするための仕込みだろ!
「チッ、なんとも間の悪い事だな……」
「……だが、見捨てるわけにもいかないだろう。ユージ。すまないが、今追われていた女の子を助けに行ってくれないか?」
とはいえ俺の目には不自然に映っても、今逃げて行った女子生徒の……レインの正体を知らない遊星たちにとっては話は別だ。クロウは困り顔で頭を掻きむしりつつ、そして遊星は目を閉じて軽く頭を振ると、そのまま俺にレインの救出を投げてきて──。
「マーカー付きのオレたちが行くより、同じアカデミア生のお前の方が適任だろうしな!」
「ジャックの方は俺とクロウでなんとかする! そっちは任せたぞ!」
そのままアクセルを全開にして、2人はハイウェイへの道を行ってしまった。レインの正体を遊星たちにネタバレできない以上、俺に遊星を追いかける選択肢は無いわけだし……レインの足止め作戦、大成功だな。
……まあ、元からジャック捜索は手を抜くつもりだったから、これはこれでちょうどいいか。レインが俺のサポートをしてくれたとでも思っておこう。
俺はそう前向きに気持ちを切り替えると、アクセルを踏み込んでDホイールを発進させる。向こうは徒歩な上、まるで“私はここですよ”とでも言わんばかりに声を上げているのだ。俺は割と広めの道にてあっさりと2人に追いつき……。
「うおおおお、ダイレクトアタックぅ!」
「おわーっ!? な、何しやがるテメェ!?」
Dホイールによる正真正銘のダイレクトアタックを仕掛けたが、ギリギリのところでかわされてしまった。いやまあ、わざとかわしやすいように事前に声掛けしたんだけどさ。むしろ成功してたら逆に困ってたわ。またセキュリティのオッサン(not牛尾さん)に怒られちゃう。
「こ、コイツ……怪我したらどうしてくれる!」
「デュエリストがこの程度で怪我するかよ! ようレイン、なんだか面白そうなコトやってんなぁ!?」
「……別に面白く、ない」
マーカー付きの男に反論を繰り出しつつ、恐らく仕掛け人であろうレインに声をかけてみたところ……レインは男の目線から逃れるよう、俺の背後にスッと寄ってきて身を隠す。なかなかの演技派ね。表情以外は。
それにしてもレインって体は人間みたく柔らかいし、低めとはいえ体温も感じるしで、実はデュエルロイドだとは思えないよなあ。イリアステル……というか未来の技術ってスゲー。非モテでも美少女タイプのデュエルロイドを侍らせてウハウハできるとか最高かよ、爆発しろ。爆発してた。
「なんだぁ、テメエこのお嬢ちゃんの知り合いかよ。ったく、ガキのくせにDホイールたあ、これだからシティのお坊ちゃんは……いや待て。その3輪の白いDホイールに、白いライディングジャケット……まさか……」
こちらを見下すような笑みを浮かべていた男が、俺のDホイールと格好を見て、何かに気付いたかのようにその動きを止める。
おやおやおやおや。この反応は……フフフ、どうやら俺も少しは名が売れてきたみたいだな。近場のデュエル大会に手当たり次第出て優勝を奪い取っていったり、ハイウェイで野良デュエル仕掛けまくったり、峠までプチ遠征して他所のデュエルチームを蹴散らしたりした成果がようやく実ってきたか……。
「フッ、気付いたか。そうよ、この俺ちゃんこそが今評判の──」
「テメエが噂の“なんか白くてやべえヤツ”か!」
は? 最近アカデミアで広まってきた──まああいつらはノリがいい上に適当だから、勝手に人に異名をつけてはその異名をコロコロ変える困った奴らだが──白騎士とかいう異名じゃねえの?
ていうかなにその変な噂。俺知らん。
「週末になると峠やハイウェイに出没し、手当たり次第にデュエルを仕掛けて回る辻斬り野郎! 今まで何人ものDホイーラーをクラッシュさせ、病院送りにしてきたとか……」
「失礼な! そんなにクラッシュさせてねえわ!」
「……させてはいるのね」
あ、なんかレインが無表情を崩して白い目でこっち見てる!
いやちゃうねん。WRGPが近くなるにつれて、ハイウェイ勢の間でオートパイロット=臆病者のカスって風潮が出てきてな? そんで不慣れな奴までマニュアルモードでやるもんだから、ダイレクトアタックにビビって運転をミスる奴が時たま現れてな? んで、俺は派手派手な大型シンクロを使うから……あとはわかるな?
それにクラッシュといっても、所詮は運転ミスによる自爆。つまりちょっと派手にコケた程度で、怪我はせいぜいが打撲レベルだ。そんな噂を立てられるほどの暴れっぷりではない……はず! 大型シンクロ使うから目立ってるとか、その程度のはず!
「へっ、だが噂の辻斬り野郎がこんなガキだったとはな。ちょうどいい、オレとデュエルで勝負しろ!」
「……デュエルか。いいだろう、その勝負受けて立つ!」
デュエルディスクを起動しながらこちらを煽ってくる男に対し、こちらもシート下の収納スペースから取り出したデュエルディスクを装着しながら応えてみせる。
それにしても、レインはいつまで俺にくっついてるつもりなのだろうか。
「もしオレが勝ったら、後ろの可愛い嬢ちゃんをオレに渡してもらうぜぇ……」
「じゃあ、俺が勝ったら?」
「このまま黙って引いてやる……」
条件が割に合わないように感じるが、でもこれって俺の足止め用にレインが起こした狂言だろうしな。つまり断ったところで、また別の手で俺の時間を奪いに来るのは目に見えている。なら、とっとと受けておくのが得策だろう。
男がデュエルディスクを起動したのに合わせ、こちらもまたディスクを起動して──ん、先攻決めが手動モードになってるな? そうか、そんなに先攻が欲しいか! このいやしんぼめ!
「デュエル!」
まあ今更指摘しても面倒だし、俺たちはそのままデュエル開始の宣言を口にして、初期手札である5枚のカードをドローする。
「先攻はオレが貰う。オレのターン! 来たぜ来たぜ!」
ガトウ:LP4000 手札:5→6
よほどいい手札だったのだろう。意気揚々とカードをドローした男は──デュエルディスクの対戦者表記を見る限りガトウとかいう名前らしい──1枚の魔法カードを頭上に掲げつつ、高らかにその発動を宣言した。
「オレは手札から融合を発動! 手札のリボルバー・ドラゴンとブローバック・ドラゴンを融合し、ガトリング・ドラゴンを融合召喚だ!」
ガトリング・ドラゴン
ATK/2600 星8
頭部が銃の形をした2体の機械竜、リボルバー・ドラゴンとブローバック・ドラゴンが渦に飲み込まれていき……頭からガトリングガンを生やした3つ首の機械竜へと進化を遂げる。
ズシンと重量感ある音を響かせつつフィールドに降り立ち、その3つの首を別々に動かしてこちらを威嚇する姿は実にグッドだ。男の子として胸をときめかせざるを得ない。素晴らしい。
「良き力だ……」
「ほう、コイツの良さがわかるか。だがオレのコンボはここからよ! オレはさらにカードを2枚伏せてターンエンドだ!」
ガトウ:LP4000 伏せカード:2枚 手札:1枚
男のフィールドに合計2枚の伏せカードが追加で現れる。
ニヤニヤと笑いながらカードをセットした様子を見るに、相当いいカードを伏せたらしい。ならばあれはきっと、ミラーフォースのような逆転のカード……。
「俺のターン!」
雄二LP:4000 手札:5→6
「この瞬間、オレはガトリング・ドラゴンを対象に安全地帯を発動! これでガトリング・ドラゴンは破壊されず、効果の対象にもできなくなった! さらに永続罠、宮廷のしきたりも発動だ! これでお前は安全地帯を破壊できねえ!」
男が伏せていたカードを発動すると、ガトリング・ドラゴンの周囲に薄いバリアが展開された。
エースであるガトリング・ドラゴンを戦闘及びカード効果による除去から守りつつ、ついでに自分の効果による自爆も阻止するためのカードだろうな。
自信満々なあの様子を見る限り、きっとこの布陣で今まで何度も勝ってきたんだろう。妙な発動タイミングも、油断からのものと推測できる。いや、単なる思慮不足の可能性もあるけど。だってマーカー付きのオラついてるチンピラだし(偏見)
「どうだ、これがオレ様の最強コンボよ。お前がどんなモンスターを呼び出そうが、このガトリング・ドラゴンの前では無力! マッハで蜂の巣にしてやんよ!」
でもふんぞり返ってドヤってるとこ悪いが、この瞬間、俺の勝利が確定しちゃったんだよな。
まあ超古代生物の墓場&機皇帝対策のためにぶち込んだこのカードを、よりにもよってレインの前でお披露目ってのもなんかアレだが……普通に流通してるカードだしな。それにWRGP本戦まではまだ時間があるし、今ここで温存したところで、どうせどっかでバレるんだから気にしてもしゃーない。というわけでいざ鎌倉!
「俺は手札から混沌殻の効果を発動。手札の混沌核をゲームから除外することで、このカードを特殊召喚する! さらに混沌殻は特殊召喚に成功したとき、除外されている混沌核を特殊召喚できる!」
混沌殻
ATK/1600 星4
混沌核
ATK/0 星2 チューナー
俺のフィールドに混沌球体の外殻と中身が、それぞれ別のモンスターとして召喚される。普段ならこのままレベル6のシンクロ召喚に繋げるところだが……今は違う!
「そして俺はこの2体をリリースして、パンデミック・ドラゴンをアドバンス召喚!」
パンデミック・ドラゴン
ATK/2500 星7
混沌殻と混沌核の2体が虹色に光り輝く球体となって上空へと舞い上がり、その2つの球体は上空で衝突。そのまま激しく光り輝き──その光の中から、バイオハザードマークを彷彿とさせる器官を背負った、紫色の体躯を持つドラゴンが姿を現す。
「パンデミック・ドラゴンはライフを支払うことで、その分だけフィールド上のモンスターの攻撃力を下げる! 俺はライフを2600支払い、この効果を発動する!」
雄二:LP4000-2600=1400
パンデミック・ドラゴンが咆哮を上げると、その背部にある3つのリング状のパーツが緑色の光を放ち……それぞれの中心部に、これまた緑色をした毒々しい液体が生成される。そしてその液体はある程度の量が生成されると、そのままガトリング・ドラゴンに向かって放出され──。
ガトリング・ドラゴン
ATK/2600→0
緑色の液体をぶっかけられたガトリング・ドラゴンは、その液体が大量に内包していたウイルスに見事感染。悶え苦しむかのように、その3つの首を振り回していた。
「ガトリング・ドラゴンの攻撃力がゼロに!?」
「続けて誓いのエンブレーマを発動! その効果により、俺はデッキから重騎兵エメトⅥを魔法&罠ゾーンに永続罠として呼び出し……永続罠扱いのエメトⅥを、自身の効果によって特殊召喚!」
重騎兵エメトⅥ
ATK/2000 星8
「こ、こんなことが……」
「バトルだ! 俺はパンデミック・ドラゴンで、ガトリング・ドラゴンを攻撃!」
パンデミック・ドラゴン ATK/2500 VS ガトリング・ドラゴン ATK/0
パンデミック・ドラゴンが顎を開き、その内部に赤いエネルギーが集中していく。そしてそのエネルギーは強力な光線となって発射され……弱体化したガトリング・ドラゴンへと直撃。大爆発を引き起こした。
「ぐおおおおおっ!?」
ガトウ:LP4000-2500=1500
パンデミック・ドラゴンの放った破壊光線による爆発。その爆発に巻き込まれた男が叫び声を上げ、同時にライフポイントも大きく減少する。一応、安全地帯の効果によってガトリング・ドラゴンは戦闘破壊を免れてはいるが……この状況では、特に何の意味もないだろう。
「これでトドメだ! 続けて重騎兵エメトⅥで、ガトリング・ドラゴンに攻撃! プチヴァリアント・スマッシュ!」
重騎兵エメトⅥ ATK/2000 VS ガトリング・ドラゴン ATK/0
そしてパンデミック・ドラゴンの攻撃を受けたことで、より一層ボロボロになったガトリング・ドラゴンへ向けて、エメトⅥが背部ブースターを吹かして急接近。その勢いを乗せて右腕部に搭載された魔力槍を叩き込み──ガトリング・ドラゴンの胴体部を貫き、爆散させた。
「バ、バカなぁー!?」
ガトウ:LP1500-2000=0
◇
「く、クソッ! 覚えてやがれー!」
いかにもそれっぽい捨て台詞を吐きながら、慌ただしく男が逃げていく……のはいいんだが、その様子がなんか大げさで、演技臭く見えてしまうのは俺の気のせいだろうか。
「……ありがとう」
そして男が逃げ去った後、俺の後ろに隠れていたレインは一歩後退して距離を取ると、そのままペコリと頭を下げて礼の言葉を口にした。
「ああうん。なんでこんな時間に出歩いてたかは知らんが、まあ気を付けなよな」
「わかった、気を付ける」
レインの礼に対し、こちらもまたそれっぽい答えを返せば、レインは踵を返して去っていき……。
「……私の家、こっち」
なんか途中で歩みを止め、俺に向かって振り返ってきた。
「え?」
「送って、くれないの?」
思わず困惑の声を上げた俺に対し、レインは僅かに眉を顰め、不満気な雰囲気を漂わせながらこちらをじっと見てくる。
……言われてみれば確かに、不審者に襲われた直後の女の子を、1人でお家に返す~ってのはちょっとアレだな。人として。しかも弁当を毎日作ってきてくれる──さすがの俺もそれは悪いと材料費を渡そうとしたのだが、「いらない」と受け取りを拒否されてしまった──恩人が相手とくれば猶更だ。
「ああ悪い悪い。ちょっと考え事してて、自分の世界に入ってたわ」
「そう」
まさか「どうせお前の仕組んだ狂言だろ」と言い出すわけにもいかないので、俺は適当な言い訳をしつつDホイールを押し、レインの横に並ぶ。するとレインは軽く頷いた後に、止めていた歩みを再開した。
「予備のメットあるし、Dホイールでサクっと送ろうか?」
「遠慮する。2人乗り、危険」
テクテクとやけにゆっくりと歩くレインに時短を提案してみるが、しかし俺の提案は当然の如く拒否られてしまった。まあ、そりゃそうでしょうね。
いやー、見事だわ。あのガトウとかいう男、足止め役にしてはちょいと弱いなーとか思ってたんだけど……最初からこれ込みでの足止め策じゃったか。これで俺は、完全に偽ジャック事件に絡みに行く時間を奪われたってことだな。とはいえ、元からそこまで本格的に絡む気もないけど。
まあそういうわけで、俺は人気の感じられない夜道を、レインと一緒にのんびりと歩んでいくことになったのだが……。
「なんでレインはあの男に追いかけられてたんだ?」
「わからない。急に追いかけてきた」
「そうか……ところで、なんか大通り避けてない?」
「人混み、苦手」
「そうか。まあ俺もどっちかっていえば苦手だけど」
「知ってる」
会話が、会話が続かねえ……!
まあ無口キャラのレインに何を期待してるんだと言われればそうなんだが、どうせならこの際にレインの好感度を稼いでおきたいじゃん? 夜道を2人きりっていう、おいしいシチュエーションなわけだし?
一応、普段から声をかけたりデュエルに誘ったり──レインは生まれ故なのか割と世間知らずな面もあるので──軽い世話を焼いたりして、地味〜に好感度稼ぎっぽいことはやってるんだけどね。でも俺は……コナミくんみたいには、なれない……。会話ひとつでレインを赤面させる、あの赤帽子にはなれない……!
「また、変なこと考えてる」
「……考えてナイヨ?」
「考えてる。私には、わかる」
とかなんとか内心でふざけていたら、なんかレインにそれを見透かされて白い目で見られてしまった件について。コイツまさか、人の脳内を……!?
「……マインド、スキャン」
「え、マジで心読めんの? 何それ怖い」
「あなた、限定……」
……レインって、冗談言えたんだな(失礼)
いやもっと無感情でマシーンのような子だと思ってたし。ていうか実際のとこ、デュエルロイドというマシーンの一種なんだけどなHAHAHA(超失礼)
そんなこんなで、必死こいてジャックを捜索してるだろう遊星たちには悪いが、俺とレインの側はこれといった問題も起こらず……俺はレインを、その自宅であるマンションへと無事送り届けた。
「部屋、上がる?」
「いや、さすがにそれは……また今度の機会って事で」
「約束」
別れの際に、ちょっと一般常識に疎いレインに駄々をこねられたのはご愛敬。まあそうしてマンションのエントランスでレインと別れたあと、車道に出てDホイールに乗ったところで、Dホイールに遊星からの通信が入ってきた。
「ユージ。あの女子生徒の救出は間に合ったか?」
「うん、間に合ったよ。追いかけてたチンピラをデュエルで追っ払って、家まで送り届けてきたところだ」
「よくやった」
モニターに映る遊星にVサインをしつつ報告をすれば、お褒めの言葉が返ってきた。しかし軽く微笑んでいた遊星の顔はすぐに沈んだものとなり……。
「こちらはジャックを見つけることには成功した。だが……」
「だが?」
「……すまない、ガレージに戻ったら話そう」
言い辛そうに言葉を吐く遊星を見る限り、ジャックは偽ジャックに敗北。そして遊星は現場から逃げ去る偽ジャックに遭遇し……ってところか。
「わかった、俺もすぐに戻るよ」
「ああ」
俺は通信を切ると、アクセルを踏んでDホイールを発進させる。そしてガレージにて合流した遊星から、「脱走したジャックを発見した。でも逃げられた」という情報を聞き──沈み切った空気の中、結局その日はお開きということになり、翌日の午前中に解散。
そしてそれからさらに1日経過した日曜の夜、上機嫌な遊星から「ジャックが帰ってきて、自分の偽物を退治した」事を通信で告げられ……偽ジャック騒動は無事に終わりを告げたのだった。
……お前は遊星たちが必死こいてた土日に何してたのかって?
いや俺も遊星たちの手伝いをするつもりだったんだけどね? なんか出先で都合よく出会ったレインに捕まり、弁当の恩を盾にネオドミノの散策に付き合わされてました。まさかレインの奴、そこまで考えて弁当の差し入れを……?
美少女の手作り弁当に目が眩んだお前の自業自得だろって? 半分は当たってる、耳が痛い。
ていうか妨害のタイミングが完璧すぎて怖いんだけど。俺の動きが完全に読まれてて怖いんだけど。レイン恵……恐ろしい子!
レイン「頼み事……。これ、報酬」
チンピラ「んほおおおお!!おちんぎんしゅごいのおおお!!」(男の気を引くために狂言仕組むたあ、最近のガキは怖いねえ!)
偽ジャック回です。イリアステルはかしこいので妨害役を用意しました。味を占めたともいう。デュエルがあっさりですが、まあそこらへん歩いてる一般チンピラが強すぎてもおかしいし……?