ネオドミノのテッペンに立ちたくて   作:ジェム足りない

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転機

「遊星、決勝で会おうぜ?」

「ああ」

 

 目の前で行われている、一人の青年と一人の少年の微笑ましい会話。その会話を(盗み)聞いた俺の胸に、ジーンとした思いが広がっていく。

 おおぅ……あれがこの世界における英雄の一人、不動遊星か……やっぱりそこいらを歩いてる一般人とはオーラが違うな。強者オーラバリバリで“コイツ……出来る!”って感じがするわ。なんだぁコイツ? 弱そうな奴だな……次の獲物はテメエだ! って感じでデュエルを挑まれる俺とは違うね。羨ましい。

 

「……」

「どうしたの遊星? あれ、あの人もしかして……」

 

 いやあそれにしても、まさか俺がフォーチュンカップに出られるだなんて……イェーガー室長には本当に感謝だな! 治安維持局バンザイ! 僕、大きくなったら治安維持局になる! ……まあたぶん、イェーガー室長の本当の目的は、精霊憑きだろう俺のレガーティアを、遊星のスターダストにぶつけることなんだろうけどさ。

 あの日、イェーガー室長がわざわざアカデミアまでやってきた理由。それは、俺にフォーチュンカップの招待状を渡す事だった。なんでも出場者に欠員が出たので、慌てて再抽選した結果──という“設定”らしい。ハイトマン教頭にもそう説明したとか。わざわざアカデミアに出向いてハイトマン教頭に説明するあたり、棄権するって逃げ道を塞いでていやらしいね。

 

「俺に……何か用か?」

「んぉ?」

 

 うお、イェーガー室長とのやりとりを思い返していたら、遊星の方から俺に話しかけてきた!? 何故に──ってチラチラ見てたからそのせいか! あわわ、それにしても何をどう話せばいいんだよ。俺、遊星が好きそうな機械系についてはさっぱりだぞ……! ええい、なんでもいい! なんか話題を振るんだ俺! 遊星はできた人間だから、わざわざ喧嘩を売るような態度さえ取らなきゃ、普通に返してくれる!

 

「あ、ああ……俺の次の相手っぽかったからさ。挨拶しとくべきかなー、どうしようかなーって感じで迷ってたんだ……」

「そうか……」

「俺は雄二。相川雄二だ、よろしく」

「……不動遊星だ。よろしく」

 

 挨拶と共に手を差し出してみれば、一応握手には応じてくれたが……口数が、口数が少ない……!

 ちょっと遊星ちゃーん、コミュ障すぎじゃなーい? いやまあ、確かこの時の遊星って仲間を人質に取られてたせいで、余裕が全くなかったような覚えがあるから、多分そのせいだとは思うんだけど。それもこれも全部、治安維持局って奴らの仕業なんだ……! うおお、絶対に許さねえぞドン・サウザンドォー!

 

「もしかしてアカデミア五本槍のユージ先輩!? 遊星の相手って先輩なの!? ウッソー!」

 

 アカデミアの制服ではなく、普通にジャケット&ジーンズという私服姿だったせいで、そうだとわからなかったのか。龍可に扮する龍亞が、俺の側に駆け寄ってきた。ああ、キラキラお目目が心に痛い。

 ところでなにその五本槍って。名乗った覚えもそう呼ばれた記憶も無いんだけど……ああ、もしかして小等部の子たちがそう呼んでる系? それなら納得だが……俺って小等部の子たちにもそう呼ばれるくらい、アカデミアで有名になってたん?

 いやー、センチュリオン様様やね。よーし、帰ったら綺麗にお手入れしてやっからな! インダストリアル・イリュージョン社公式通販サイトで買った、カードのお手入れキット(\29800)が火を噴くぜ!

 

「……知り合いか?」

「天兵の通ってる、デュエルアカデミアの高等部の先輩なんだ。罠モンスターと超大型のシンクロモンスターを巧みに操る、すっげーデュエルをするんだぜ!」

 

 龍亞が俺の事を遊星に紹介した瞬間、アキさんの方から刺すような目線が飛んできたが、俺はそれを気付かなかったフリをして無視する。だって超こえーもん。いやマジで怖かったし今の目線。多分この世界がアニメだったら“ギンッ!”って感じの効果音が付いてたね。アキさんの目線カットインと共にさ。

 

「……すまない。この子に悪気はないんだ」

「ああ、別にいいって。隠してるわけでも無いんだし」

「え? え?」

 

 龍亞の頭にポンと手を置きながら、遊星が謝罪してくる。いや、この程度のネタバレで謝罪してくるとか──それも俺が龍亞に悪感情を抱かぬよう気遣ってだ──この人やっぱ優しいわ。

 そう、遊星の初戦の相手は俺なのだ。アニメにおいてのフォーチュンカップの出場者は8名だったが、この世界においてはその倍、16名の出場者が存在する大会となっている。さすがにこんな大スタジアムで、ランダム抽選による8人しか選手がいないってのはね。きっとアニメの尺とかの都合だったんだろう。

 そういうわけで、このフォーチュンカップはアニメのそれに比べてトーナメント表の階段が一個増えた感じだ。ちなみにボマーや龍亞といった、いわゆる“ネームド”は2回戦以降でカチ合うよう配置されてるので……たぶん、大まかな流れは変わらないんじゃないかなあ。

 ……いや、さすがに細かい流れに関してはうろ覚えだから、もしかしたら既にアニメとは違った展開になっているのかもしれない。

 

 きっとこの世界はアニメで描かれた世界そのものではなく、アニメを現実風に落とし込んだ世界なんだろう。ゆまがエラッタ後の破壊輪を使っていたり、ツァンが真六武を使っていたり、俺が昔から苦紋様の土像を愛用していたり──明らかにカードの登場時期が噛み合っていないし。

 とはいえあくまで現実()であり、公務員試験に詰めデュエルが当然のような顔をして居座っていたり、デュエル強盗のようなデュエル犯罪が存在する、デュエルが根幹をなしている世界には変わりないんだが。

 

「なーに、気にすんなって。それより試合だろ? 遅刻しちゃうぞ?」

「あー、そうだそうだ! ありがと先輩! それじゃ遊星、行ってくる!」

 

 俺の言葉を聞き、ダッシュで駆けていく龍亞。元気でいいねえ。ちなみに龍亞のお相手を務めるデュエリストはスライダー瓶田。デュエルを通じての診療と治療を行う、デュエルドクターとのことだが……デュエルで治療ってなんだろう。いや、精神からくる類の病なら治せるか。いくらなんでもデュエルで風邪やインフルエンザみたいな病気を治療するなんて──『デュエリストとしての俺の生存本能が免疫系を活性化し、熱く燃え盛る抗体が血中の毒を焼き尽くしたのだ!』──いや、できるかもしれねえな……。

 

 

 

 ◇

 

 

 

『さあ続けていくぞ! デュエル・オブ・フォーチュンカップ第三試合の選手は! デュエルアカデミアより──』

 

 あの後、龍亞はスライダー瓶田に無事勝利し、上機嫌な様子で戻って来た。今度は俺と遊星の試合だ。MCが俺を紹介する声を上げると共に、スタジアムに備え付けられた奈落が起動。ゆっくりと上昇する床に乗って、俺はデュエルフィールドへと入場した。うおー、すっげえ観客。

 

 なんとなく知り合いがいないかなー、と目線を走らせてみると、そこそこいい場所の席に2人並んで座っているツァンとゆまを発見した。二人とも私服でめっちゃ可愛い。よしよし、不要になったからと俺が渡したチケット、使ってくれたみたいだな。本当は田中くんと一緒に行く予定だったから、田中くんに渡すのが筋だったんだろうが……女の子の好感度稼ぎの方が圧倒的に重要だからね。仕方ないね。

 ……お、二人と目線があった気がするから手ぇ振っとくか。ツァンは顔を赤くした後にプイっと逸らしてしまったが、ゆまの方は笑顔で手を振り返してくれた。あー、ゆまは本当にかわいいなあ。好感度も結構稼いだだろうし、そろそろ告白──は怖いからやめとこ。ゆまにフラれたら、たぶん俺は立ち直れない……。もっとこう、ロマンチックな雰囲気になるまで待つんだ……!

 

「引っ込めマーカー付きー!」

「サテライトに帰れー!」

 

 デュエルフィールドの反対側。俺と同じように奈落に乗って現れた遊星に、観客のブーイング……というか罵倒が次々と降り注ぐ。

 うーんこの民度。さすがネオドミノやね。……でもマーカーって犯罪者の証だから、遊星の事情や人格を知らなきゃ、こういう反応になるのは仕方ないのかねえ。ま、しばらくして遊星の人柄が知れ渡ったら、こーいうのもなくなるでしょ。手の平返しは俺らの特技だし。

 

「せっかくの大舞台だ、楽しくやろうぜ」

「……ああ」

『両者、デュエルディスクを起動してくれーっ!』

 

 MCの声に従い、俺と遊星はディスクを起動する。俺はDホイールもDホイールのライセンスも両方持ってないから、このデュエルはスタンディングだ。興味はあるけど、Dホイールって高いしな……。

 さて、相手は未来の英雄。俺みたいなやつが勝てる相手だとは思えないけど──それでも全力で、勝つつもりでデュエルする。それが遊星に対する礼儀ってものだろう。

 

「デュエル!」

「デュエル!」

 

 ディスクが差し示した先攻は俺。俺はデッキトップのカードに指をかけると、観客にもその仕草が見えるよう、大きく腕を振りながらカードをドローした。

 

「俺のターン、ドロー! へぇ……なるほどね」

 

 手札である6枚のカードを見ながら、俺は感心の声を上げる。なぜかというと、いつもなら1枚は手札に来ているだろう、センチュリオンの初動が来ていなかったからだ。

 自分で言うのもなんだが、俺はプリメラを初めとしたセンチュリオンのカード達には結構好かれているっぽい。なので初手には高確率で、センチュリオンの初動カードが来ていたものだ。

 

 だが今の俺の手札には、その初動が来ていない。我が第二のエースである苦紋様の土像もいない。もちろんプリメラ達の機嫌を損ねるような真似はしていないし……むしろ大舞台だということで、デッキからは闘志が伝わって来ている。なのに手札がこれということは、つまり。

 

「さすがだな……」

「……?」

 

 遊星の圧倒的ドロー力が、俺のドロー力に干渉した結果だろう。どの作品だったかは覚えていないが『あのカードを引かれたら負ける!』からの『助かったか……』みたいな感じで、相手がキーカードを引けなくてほっと一息、みたいなシーンがあった気がするし。だから一流のデュエリストのドロー力は、相手のドローにも干渉するんじゃないかな。知らんけど。

 

「だが、それもカードで補える。俺は手札から魔法カード、強欲で謙虚な壺を発動! このターンの特殊召喚を放棄することで、デッキの上からカードを3枚めくり──その中から1枚を手札に加え、残りのカードはデッキに戻す!」

 

 OCGではこのカード、めくったカードは相手プレイヤーに見せなければならないのだが……こっちの世界ではデュエルディスクに不正防止機能が搭載されているためか、別に見せなくても良かったりする。例えば龍亞の使うD・モバホンなんかも、相手に見せなくて良くなっている。

 つまりめくったカードを相手に見られることによる『アイツあんなカード入れてたのか!』的な情報アドの損失を計算に入れなくていい分、OCGよりパワーアップしているカードである。

 

「俺は今手札に加えた、重騎士プリメラを通常召喚し、効果発動! プリメラは召喚及び特殊召喚に成功した時、デッキからセンチュリオンカードを手札に──」

 

 重騎士プリメラ ATK/1600 DEF/1600 チューナー

 

「俺は手札から、エフェクト・ヴェーラーの効果を発動! このカードを墓地に送ることで、相手モンスター1体の効果を、ターン終了時まで無効にする!」

 

 俺のフィールドに現れたプリメラが槍を掲げると同時に、遊星のフィールドにヴェールのような翼を生やした少女が現れる。OCGでは12期になっても現役バリバリな、偉大なる少女がその手をプリメラに向けると、プリメラの掲げた槍に集まっていた光が霧散してしまう。プリメラの効果が無効化されたことで、サーチがキャンセルされてしまったからだ。

 俺は悔しそうに槍を回転させた後、その場で石突を地面に叩きつけるプリメラを眺め──その可愛らしい仕草で脳を埋め尽くすことで、焦る心を落ち着かせる。

 

「oh……」

 

 や、やるじゃねえか……初動を誘発で止めるとか、さすがは遊星だな……(震え声)

 うーん。プリメラの効果でスタンドアップ・センチュリオンを持って来て、遊星のターンにレガーティアをシンクロ召喚させる予定だったのが、一気に狂ってしまった。おかげでやることが無くなっちまったぜ……。くそっ、誘発1枚で止まるとかいつの時代のデュエルだよ! 今だよコンチクショウ!

 

「くっ……仕方ない! ならば俺はカードを3枚セットして、ターンエンドだ!」

 一応、妨害罠とプリメラを守護するための罠は伏せておいたが……相手は遊星だしなあ。不安だ。

 

「俺のターン! 俺は手札から魔法カード、調律を発動! デッキからシンクロンと名のつくチューナー、ジャンク・シンクロンを手札に加え、その後デッキの一番上のカードを墓地に送る!」

 

 初動として優秀なクイックロンじゃなくて、ジャンクロンをサーチしたか。なんか嫌な予感がするなあ。

 

「そしてこのカードは、手札のモンスター1体を墓地へ送ることで特殊召喚できる。現れろ、クイック・シンクロン! そして俺は、手札からジャンク・シンクロンを通常召喚! ジャンク・シンクロンは召喚に成功した時、墓地からレベル2以下のモンスターを、効果を無効にして特殊召喚できる! 俺は墓地からボルト・ヘッジホッグを特殊召喚!」

 

 クイック・シンクロン ATK/700 DEF/1400 チューナー

 ジャンク・シンクロン ATK/1300 DEF/500 チューナー

 ボルト・ヘッジホッグ ATK/800 EDF/800

 

 遊星のフィールドに、あっという間にモンスターが並ぶ。遊星を支え続けた、いつものモンスターたちだ。俺もかつてシンクロンを組んだ時は、いっぱいお世話になったものだ。そういう意味でも、なんだか懐かしさを覚えるモンスターたちだな。

 

「俺はレベル2のボルト・ヘッジホッグに、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング! シンクロ召喚! 出でよ、ジャンク・ウォリアー!」

 

 ジャンク・ウォリアー ATK/2300 DEF/1300

 

「そして俺の墓地に存在するボルト・ヘッジホッグは、自分フィールドにチューナーがいる時、墓地から特殊召喚できる! 墓地からボルト・ヘッジホッグを特殊召喚!」

 

 ボルト・ヘッジホッグ ATK/800 EDF/800

 

「俺はレベル2のボルト・ヘッジホッグに、レベル5のクイック・シンクロンをチューニング! 集いし思いが、ここに新たな力となる。光さす道となれ──シンクロ召喚! 燃え上がれ、ニトロ・ウォリアー!」

 

 ニトロ・ウォリアー ATK/2800 DEF/1800

 

 2回連続で行われたシンクロ召喚。それによって、遊星のフィールドに白いマフラーをたなびかせる機械の戦士と、鬼のような角を生やした、緑色の肉体を持つ戦士が現れる。

 遊星の成し遂げた連続シンクロ召喚の与えた衝撃は大きく、実況のMCはもとより──マーカー付きの犯罪者にしてサテライトのクズ野郎と──それまで遊星に対してブーイングを送っていたスタジアムの観客たちも一斉に言葉を失い、驚きの表情を浮かべていた。

 

『なんということだーっ! 不動遊星、怒涛の連続シンクロ召喚! これがサテライトの流れ星の実力なのかー!?』

「バトル! 俺はニトロ・ウォリアーで、重騎士プリメラを攻撃! ダイナマイトナックル!」

 

 遊星の指示を受けたニトロ・ウォリアーが、背中のブースターから炎を吹かし、その両拳を前へと構える。その狙いの先にいるのはプリメラだ。しかし、自身より強大な敵を相手にしても、プリメラは怯むことなく不敵に笑い──目線だけをチラリと俺の方へと向け、罠カードの発動を促す。

 

「耐えろプリメラ! 永続罠、安全地帯! このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、プリメラは相手の効果の対象にならず、戦闘及び相手のカード効果では破壊されない!」

「やはり……!」

 

 重騎士プリメラ ATK1600 VS ニトロ・ウォリアー ATK/2800

 

 俺が伏せカードを発動すると同時に、プリメラを包み込むように半透明のバリアが張られる。バリアを纏ったプリメラは、その手に握る槍でニトロ・ウォリアーの突き出した拳を見事受け切って見せた。

 

「だが、戦闘ダメージは受けてもらう!」

「くっ……!」

 

 雄二 LP4000-1200=2800

 

 しかしプリメラこそ守れたものの、プリメラとニトロ・ウォリアーの衝突によって発生した爆煙が俺を襲い、攻撃力の差分の戦闘ダメージが俺のライフから差し引かれ──それを見たプリメラが、俺の方へと心配そうな表情を向けてきた。

 

「構わない、プリメラを守るためだ……!」

「続けてジャンク・ウォリアーで、重騎士プリメラへ攻撃! スクラップフィスト!」

 

 重騎士プリメラ ATK1600 VS ジャンク・ウォリアー ATK/2300

 

 プリメラを倒すことはできなくても、戦闘ダメージは与えておこうという事だろう。

 遊星は続けてジャンク・ウォリアーへと攻撃の指示を下し、それに従いジャンク・ウォリアーの背中にあるブースターが火を噴いた。

 まあ、別に700ポイント程度のダメージなら受けても構わないのだが……あの学生の兄ちゃん、ダメダメだな、という感じでこちらを見ている観客が気に食わないのが一点。そしてプリメラが俺に対して、とても申し訳なさそうな表情をしているので、これ以上プリメラを悲しませるような真似をしたくなかったのがもう一点。これらの理由によって、俺は伏せておいたカードを発動した。

 

「リバースカードオープン! 禁じられた聖槍! ジャンク・ウォリアーの攻撃力をターン終了時まで800ポイントダウンする!」

「何っ!?」

「これでジャンク・ウォリアーの攻撃力は、俺のプリメラを下回る! 迎撃だプリメラ!」

 

 重騎士プリメラ ATK1600 VS ジャンク・ウォリアー ATK/1500

 

 どこからともなく飛来した聖槍が、飛翔するジャンク・ウォリアーの装甲へと傷をつけ、その突進を中断させると同時に攻撃力をダウンさせる。攻撃力の下がったジャンク・ウォリアーは、それでもプリメラに向かって再度ブースターを吹かし、その拳を振り上げるのだが……。

 

 遊星 LP4000-100=3900

 

 怒りの炎をその瞳に宿すプリメラが、手にした槍で迫りくるジャンク・ウォリアーを一閃。袈裟懸けに断ち切られたジャンク・ウォリアーは爆散し、遊星のライフポイントが100ポイント差し引かれた。

 

『だが相川ユージも負けてはいないー! リバースカードを駆使することで、遊星のジャンク・ウォリアーを逆に破壊して見せたぞーっ! まさに一進一退、互いに譲らなーい!』

「俺はカードを2枚セットして、ターンエンドだ」

 

 遊星のフィールドに2枚のカードがセットされ、これで遊星の手札は0だ。遊星は幅広い罠を使うから、どんな罠を仕込んだかが全く読めないな……。

 

「よくやったな、プリメラ。俺のターン、ドロ―! 俺は手札から魔法カード、篝火を発動! デッキからレベル4以下の炎族、従騎士トゥルーデアを手札に加え、通常召喚! 来い、トゥルーデア!」

 

 従騎士トゥルーデア ATK/1000 DEF/2000

 

 巻き上がる炎と共に現れた妖精少女が、遊星の場にいるニトロ・ウォリアーをキッと睨みつける。トゥルーデアはそのまま胸の前で手を組み目を閉じ、そんな彼女の全身から、大量の炎が巻き上がっていき──ってこれまさか勝手に効果使ってね? あ、なんかデッキからエメトⅥのカードが吐き出された! ち、違う! トゥルーデアが勝手に!

 

「とぅ、トゥルーデアは自身及びデッキに存在するセンチュリオンを、永続罠として魔法&罠ゾーンに表側表示で置くことができる! 俺は重騎兵エメトⅥを魔法&罠ゾーンに呼び出す!」

「魔法&罠ゾーンに?」

 

 トゥルーデアの効果を聞いた遊星が、困惑に眉をひそめる。さすがの遊星と言えども、センチュリオンの動きは読めないらしい。まあ初見テーマの動きを読めたら怖いが。勝手に効果使うトゥルーデアも怖いが。しかしまあ、随分と怒ってらっしゃるようですね。怒髪天ダヨ! って感じだ。

 

「魔法&罠ゾーンに存在するセンチュリオンは、自分及び相手ターンのメインフェイズに、フィールドに特殊召喚できる! 俺はエメトⅥを自身の効果で、フィールドに特殊召喚!」

「何っ……!」

 

 重騎兵エメトⅥ ATK/2000 DEF/3000

 

「レベル8とレベル4……超大型のシンクロモンスター……まさか!」

 

 チューナーと非チューナーが並んだ光景を見て、試合前の控え室で龍亞が言っていた言葉を思い出したのだろう。遊星の表情が困惑から驚愕のそれへと変わっていき、ついには驚きの声を上げた。

 

「ククク……行くぜ遊星! 俺はレベル8のエメトⅥに、レベル4のプリメラをチューニング!」

 

 俺の声を受けたプリメラが光り輝いた後、4つの輪を放出し──周囲の目線が輪っかに向いたどさくさに紛れて、素早くプリメラはエメトⅥへと搭乗。プリメラより魔力を充填されたエメトⅥはブーストを吹かし高く飛び、その勢いのまま光の輪に飛び込んでいく。

 なるほどね、そういう事だったのね。プリメラお前イイ感じに光るだけで消えねえのか。まあエメトⅥはお前の魔力で動くゴーレムだし、レガーティアのパイロットもお前だもんな。

 

「シンクロ召喚! 現れろ──騎士皇レガーティア!」

 

 騎士皇レガーティア ATK/3500 DEF/2000

 

「レベル12のシンクロモンスター……なるほど、これがお前の……」

「いいや、違うさ」

「何……?」

「レガーティアだけじゃない。プリメラ、トゥルーデア、エメトⅥ。センチュリオンの全員が、俺の相棒であり切り札であり──共に“テッペン”を目指す仲間だ」

「フッ……そうか……」

 

 ちょっと格好つけすぎたかなー、と一瞬後悔しかけたが、俺の言葉を聞いた遊星の口元に小さな笑みが浮かび上がる。おお、笑ったぞ、遊星殿が笑ったぞ!? 格好つけて正解だったな! よっしゃレガーティアの効果を食らえ!

 

「俺はレガーティアの効果発動! レガーティアは特殊召喚に成功した時、デッキからカードを1枚ドローできる! そしてその後、相手フィールドに存在する最も攻撃力の高いモンスターを破壊する! 消え去れ、ニトロ・ウォリアー!」

「何、ドローと破壊を同時に……!」

 

 驚愕の声を上げる遊星の前で、レガーティアのビームがニトロ・ウォリアーを爆散させる。これで遊星の場はガラ空きだ! 結果論だが、あそこで聖槍を使っておいてよかったのかもしれないな! うおお、れがーてあがんばえー! ぷいめあがんばえー!

 

「食らえ遊星! 俺はレガーティアで、遊星にダイレクトアタックだ!」

「だが……! 罠発動、ピンポイント・ガード! 相手モンスターの攻撃宣言時、自分の墓地のレベル4以下のモンスター1体を守備表示で特殊召喚する! 俺は墓地から、チューニング・サポーターを特殊召喚する!」

 

 チューニング・サポーター ATK/100 DEF/300

 

 チューサポとかいつの間に……って調律の時か! そういやアニメでも遊星はドロー力だけじゃなく、墓地肥やし力も抜群だったな! オマケのような墓地送りで、的確にモンスターを墓地に送り込んでたし!

 

「そしてピンポイント・ガードで特殊召喚したモンスターはこのターン、戦闘及び効果では破壊されない!」

「くそう……! まさかそんなカードを……!」

 

 安くて便利って事で、ピンポイント・ガードはかつての俺も──大会用のメインデッキではなく、フリー用の大量に作ったサブデッキに──投入していたので、効果はよく知っている。

 いや字レアで本当に安かったからな。シンクロやエクシーズの素材にもなるから、除去が薄い&暗黙の了解でパワカを自主規制するフリー対戦では、本当に便利だった。ああ……あんなに一緒だったのに、君は俺を裏切るというんだねピンポイント・ガード君……。

 

「俺はカードを2枚伏せ……このエンドフェイズ、レガーティアの効果発動! レガーティアは互いのエンドフェイズ時に、手札か墓地にいるセンチュリオンを、魔法&罠ゾーンに永続罠扱いで呼び出せる。俺は墓地にいるプリメラを、魔法&罠ゾーンに呼び戻す!」

「……なるほどな。次のターン以降の布石というわけか」

 

 とりあえずこれ以上できることはないので、カードを2枚伏せて遊星にターンを譲る。

 まあいいさ。仮にダイレクトアタックを決めていても、遊星のライフは残るからな。

 このままいつも通りにプリメラでサーチしつつレガーティアで暴れて、除去されたらまた特殊召喚して、レガーティアの効果を……という事を繰り返し、アドの差で圧殺する。完璧だ、流れは完全に俺の方に来ているぞ!

 

「俺のターン、ドロー!」

『遊星の場には、レベル1のモンスターが1体と、伏せカードが1枚のみ! そして手札はゼロ! それに対し、ユージのフィールドには大量のカードが! ライフ・アドバンテージこそ取っているものの、ボード・アドバンテージの差は圧倒的だぁ! この状況で、レベル12という超大型のシンクロモンスターにどう挑む! どうする遊星! このまま終わってしまうのかー!?』

 

 レガーティアを出したことで、観客は大喜びだ。やはり高レベル高ステータスのモンスターによるプロレスは、観客受けが良くて気持ちいいな。ちらりとゆま&ツァンの方へと目を向けてみると、ゆまがぴょんぴょんと飛び跳ねながら両手を振っていた。おお、凄いぞ! ミニスカだからパンツが見え……見え……フッ、いいモン見せてもら──オ゛ッ!? プリメラ……トゥルーデア……お前ら何をする……。

 

「……どうした、大丈夫か?」

「あ、ああ。大丈夫だ……」

 

 急に中腰になった俺を見て、遊星が心なしか心配した感じの声をかけてくれる。とはいえ事情を説明するわけにもいかないので、誤魔化すことしか出来ないが。カードの精霊に挟み撃ち腹パン食らいましたとか言ったところで、頭のおかしい人としか思われないしな。別の病院に連れてかれちゃう。

 

「……そうか。なら俺は伏せていた罠、戦線復帰を発動! 墓地のモンスター1体を、守備表示で特殊召喚する! 俺は墓地から、ジャンク・シンクロンを特殊召喚!」

 

 ジャンク・シンクロン ATK/1300 DEF/500 チューナー

 

「そして俺は手札から魔法カード、機械複製術を発動! 自分フィールド上にいる攻撃力500以下の機械族モンスターと同じ名前のモンスターを、デッキから2体まで特殊召喚できる! 俺は2体のチューニング・サポーターを特殊召喚!」

 

 チューニング・サポーター ATK/100 DEF/300

 チューニング・サポーター ATK/100 DEF/300

 

 この状況でチューサポ複製……だと……!? 逆転フラグじゃないか! 待て待て待て、やめるんだ遊星! そんなことしちゃいけない! 助けてくれ……助けてくれ遊星ーッ!

 

「チューニング・サポーターはシンクロ召喚に使用する場合、レベルを2として扱うことができる! 俺はレベル2のチューニング・サポーター2体と、レベル1のチューニング・サポーター1体に、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!」

 

 心の中で必死に命乞いをする俺だが、遊星は止まらない。ジャンク・シンクロンが変化した光の輪に、中華鍋のようなものを被った機械の小人3人組が飛び込み──。

 

「集いし闘志が、怒号の魔神を呼び覚ます! 光さす道となれ──シンクロ召喚! 粉砕せよ、ジャンク・デストロイヤー!」

 

 ジャンク・デストロイヤー ATK/2600 DEF/2500

 

 光の中から現れたのは、4本腕の機械の戦士。この状況で呼び出すってんなら、そらそうよねー。アドの差を一気に縮められるな……ていうか死ぬかもコレ……。

 

「チューニング・サポーターはシンクロ召喚に使用された時、デッキからカードを1枚ドローする! そしてジャンク・デストロイヤーはシンクロ召喚に成功した時、素材としたチューナー以外のモンスターの数まで、フィールドのカードを破壊できる!」

 

 つまりこっちのカードを3枚破壊し、遊星は3枚ドローするということだ。アア……オワッタ……! この状況で遊星が3枚もドローするとか、もう終わったわ。

 いや待て、自棄になるのはまだ早い。俺のフィールドにはレガーティアと3枚の伏せカードに、永続罠扱いのプリメラにトゥルーデアと合計6枚のカードがあるんだ。遊星の破壊するカード次第では、まだまだ普通にイケる。俺の道は閉ざされていない!

 

「俺は……お前の場に伏せられた、3枚のカードを破壊する! タイダル・エナジー!」

『おおーっとぉ! 遊星は騎士皇レガーティアではなく、伏せカードの方を破壊しに行ったぞぉー!?』

 

 ジャンク・デストロイヤーの胸部より解き放たれたエネルギーの奔流が、俺の伏せていたカードへと襲い掛かる。これエナジーって言ってるから、多分エネルギーの波なんだろうけど、どう見ても水にしか見えねえよな……ってそんなこと考えてる余裕はない! 伏せカードはサイバー・シャドー・ガードナーと竜嵐還帰、そして神秘の中華なべの3枚だが──中華なべは使っておくべきか? いやしかし、今のレガーティアはプリメラの効果で破壊耐性を得ているからそこそこ硬いし……あっ、迷ってたら破壊された。間に合わなかったか……。

 

「そして俺は、チューニング・サポーターの効果で3枚ドロー!」

 

 ま、まあいい……攻撃力3500はそうそう超えられんだろう。仮に超えても、その上で俺の残りライフを削りきるのは難しいだろうし、俺の手札には死者蘇生がある。これを堪えれば余の勝ちよ……! きっとおそらく余の勝ちよ……!

 

「俺は手札から魔法カード、増援を発動! デッキから戦士族であるジャンク・シンクロンを手札に加え、通常召喚! ジャンク・シンクロンの効果で、墓地からチューニング・サポーターを特殊召喚する!」

 

 ジャンク・シンクロン ATK/1300 DEF/500 チューナー

 チューニング・サポーター ATK/100 DEF/300

 

 あ、そういえば遊星のエクストラってアイツいるじゃん。やはり中華なべは使用しておくべきだった──いや待て、本当にその場しのぎでしかないが、墓地のエメトⅥの効果でレガーティアを魔法&罠ゾーンに移動すれば……。

 

「俺はレベル1のチューニングサポーターに、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング! シンクロ召喚! 出でよ、アームズ・エイド!」

 

 アームズ・エイド ATK/1800 DEF/1200

 

「チューニング・サポーターの効果で1枚ドロー! そしてアームズ・エイドの効果を発動! このカードをジャンク・デストロイヤーに装備することで、ジャンク・デストロイヤーの攻撃力を1000アップする!」

 

 やはり来たかあ、アームズ・エイド。完全にプレミしたな。中華なべでライフ回復しつつ、レガーティアを墓地に逃がしておけば良かったな。エメトⅥのおかげでとりあえず凌げなくはないが、今後の課題は瞬時の思考を──。

 

「手札からジャンク・アタックをジャンク・デストロイヤーに装備!」

 

 ──あっ。

 

「しまったぁ!」

「バトル! 俺はジャンク・デストロイヤーで、騎士皇レガーティアに攻撃! デストロイ・ナックル!」

 

 駄目だこりゃ。エメトⅥを呼び出す意味がねえ。守備表示で呼び出したところで、アームズエイドとジャンク・アタックの効果で3000ダメージを受けてジ・エンドだ。

 ああー、本当にミスったなあ。なんで俺はあの時、中華なべを使っておかなかったんだ……悔しい、本当に悔しい。負けるのもそうだけど……いやそれ以上に、こんなくだらないミスで、本来ならまだ続いてた遊星とのデュエルを終わらせてしまうだなんて、悔しすぎる。俺を信頼してくれていた、センチュリオンの仲間たちにも申し訳ない。

 

 ジャンク・デストロイヤー ATK/3600 VS 騎士皇レガーティア ATK/3500

 

 雄二 LP2800-100=2700

 

「アームズ・エイドの効果! 装備モンスターがバトルでモンスターを破壊した時、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える! そして装備魔法ジャンク・アタックは、装備モンスターがバトルで破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを、相手に与える!」

 

 雄二 LP2700-3500-1750=0

 

『な……なな……!』

「すげえな、遊星……」

「お前こそ、いいデュエルだった。……最後は惜しかったがな」

 

 俺の側に歩み寄ってきた遊星が、ほんの少しだけ苦笑してるっぽい声を出す。

 ああ、俺の伏せカード、やっぱり見えてたのか。破壊される際に、一瞬だけ表になるもんな。遊星の動体視力なら見えるし、何のカードか把握できるよな。自分のミスを相手に把握されてるって、格好悪いなあ。

 

「遊星……俺は真面目に修行して、もっと強くなってみせる。だから……次は勝つ!」

「フッ……」

 

 俺の差し出した手に握手を返しながら、遊星は口元に僅かな笑みを浮かべた。馬鹿にした感じの笑みじゃなくて、少しだけ嬉しそうな笑みだったから──たぶん『待ってるぜ』的な返事だろう。うん、そう信じよう。

 

『何という事だーっ! 大・逆・転ーッ! 限界ギリギリまで追い詰められてからの、奇跡の大逆転だぁーッ! 勝者、不動遊星ーッ!』

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