『WINNER、不動遊星ーっ! キング、ジャック・アトラスの無敗神話は打ち破られ、ここに新たなキングの誕生を──』
遊星の勝利を告げるMCの声が、街中に配置されたモニターや、個々のスマホやタブレットを通じて、シティの全域に響き渡る。公の場に姿を現して以降、全戦全勝を貫いていたジャックが──よりにもよってマーカー付きのサテライトの男に──敗北したというその衝撃の事実は、町を歩く人々の足を止めさせ、その顔を驚愕の色で染め上げた。
『遊星! 遊星! 遊星!』
『どんな反則使いやがった!』
『遊星! 遊星! 遊星!』
『サテライト出身のキングなんて認めねえぞ!』
「フッ……成し遂げたな、遊星……」
モニター越しに聞こえてくる、熱い遊星コールと罵声をBGMに──遊星に負けた後、こっそりとスタジアムを抜け出していた俺は──駅前の広場で巨大な街頭モニターを眺めながら、一人でそう格好つけていた。遠い地から主人公の活躍を祝福する、かつての仲間ごっこである。
いやー、遊星vsボマーや遊星vsアキさんといった感じの、名勝負の数々を生で見たいという思いはあったんだけどね。あったんだけどね。遊星に敗北した時点で俺は選手じゃないので、当日席のチケットを買うなりする必要があったんだけど……遊星とデュエルしたことで満足したというか、燃え尽きたというか。あと
ていうか、思ってたよりアキさんのスタジアムに与えた被害がデカくてビビったわ。俺の記憶も結構ガバってんな。ツァンとゆまには悪い事しちゃったかも。あの2人もデュエリストだから、大丈夫だとは思うけど……ていうか、俺がチケット渡さなくても2人とも観戦しに来てただろうし……でも謝っとくべきだよねぇ……。
「だが、お前の戦いはまだ──」
「こんの……大ボケぇぇぇぇーっ!」
そんな風なことを考えつつ、引き続き“かつての仲間ごっこ”をしようと俺の耳に飛び込んでくるのは、ダンッという強く地を蹴る足音と、聞き慣れた少女の声。そして振り返った俺の腹にめり込むのは、ツァンの白くて細い足──。
「──おぼー!?」
「はぁ……はぁ……! このバカ! なに勝手に、消えてんのよ……!」
「もー! すっごく探したんですよ、ユージさん!」
ドロップキックの不意打ちを受けて吹き飛び、ズザザーと派手に地面を転がる俺に上からかけられたのは、息絶え絶えなツァンと元気一杯なゆまからの非難の声。いや、ツァンがめっちゃゼェゼェ言ってるのに、息切れひとつ無しとかゆまさんパネエっすね。
「確かにアンタは、無様な姿を晒した。ショックでしょうね。悔しいでしょうね。……でもそれが何よ!」
「ユージさんがショックなのはわかりますけど、私たちに何も言わないでいなくなっちゃうのは酷いですよ〜!」
いや、あの、お二方?
……む。よく見たら2人とも、目が潤んでるな。ガチのマジで俺が敗北のショックで遁走キメたと思ってるっぽい? ふーむ、これは早く誤解解いとかないと。
「たかが1回負けた程度で──」
「あー、ツァンさんや? 盛り上がってるとこ悪いけど……俺ちゃん、別に落ち込んでは……」
「──はぁ? ……じゃあ、何でボクたちの所に来なかったのよ。メッセだって送ったのに、無視してくれちゃって」
「……んん? あ、ホントだ通知来てる。悪い、気付いてなか──」
「言い訳無用です! 私たち、スタッフさんに聞いたんですからね! 『ああ、あの学生さんなら逃げるように出て行っちゃったよ。そりゃまあ、サテライトの奴なんかに負けちゃったんじゃ、逃げたくもなるよな……』って!」
fufu、話を聞いてくれません(社友者)
まあシチュエーションだけ見ると、確かにそう見えてもおかしくはないか。何しろ『観に来いよ!』とチケット渡して誘っておいての初戦敗退だもんね。そして挨拶も連絡もなしに1人で街をぶらぶら……いや今更気付いたけど、これめっちゃアレじゃね? 好感度ダウンでね? 素直に田中くんにチケットを渡しておくべきだったか?
「よおよお、誰かと思えばサテライトのクズなんかに負けた、ユージ君じゃねえか」
どうやって2人を説得すべきか考えていたら、救いの手ならぬ救いの声が、広場の入り口あたりから聞こえてきたではないか。挨拶代わりに煽りを入れてくれる、この聞き覚えのある声は……!
声のした方向へと俺たち3人が振り向くと、そこには相変わらず独特なファッションの──やけにデカいヘアバンドと鼻バンテージが特徴の──男がいた。
黒門暗次、俺と同じデュエルアカデミアの学生であり、魔轟暗黒界デッキの使い手だ。
「負け犬のくせに女の子と楽しくデートとは、いいご身分じゃないか。そうやって腑抜けてっから、サテライトのやつなんかに負ける無様を晒すんだよ」
こちらへと歩いてきつつ、ニヤリと笑いながら引き続き煽ってくれる暗次。
お、なんだ嫉妬か? 確かに最近は昔馴染みの男連中より、ツァンやゆまと絡んでる時間の方が長くなってきたからな。ちなみにツァンに『友達少なすぎて草』とか言うと、無言の腹パンが飛んでくるので注意しよう(2敗)
……それにしても暗次のやつ、遊星の試合を見ておいてその感想とはな。遊星の腕がわからん程度のへっぽこでもあるまいに。という事は……ははーん、読めたぞ。さてはジャックのファンだなコイツ?
「アンタ……!」
「むぅ……その言い方、酷いです!」
「お、おう? オレさまは今、ユージのやつとお話し中だから、アンタらに用はねえんだわ。引っ込んでいてくれねえかな?」
暗次に遊星の腕前について、熱く語ってやろうと思ったその矢先。俺が口を開くのよりも早く、ツァンとゆまの2人が暗次へと食ってかかる。
特にツァンなんて、鞄の中から取り出したデュエルディスクを装着して臨戦体制なのだが……明らかにそのディスク、鞄よりデカくない? どうやって入れてたん?
「フン、その負け犬に連敗記録を積み上げてるクセに、よくもまあそこまで強気になれるわね!」
「なんだと……!」
「コイツはニューキングとのデュエルを終えた後で、疲れてんの。だから、代わりにこのボクが相手になってやるわ!」
「なっ、お前がか……!?」
ディスクを起動したツァンを見て怯む暗次だが、まあ仕方あるまい。だってツァンってばガチで強いし。たぶん暗次は俺とデュエルをしたくて煽りを入れたんだろうが……クソ強い別の獲物が引っかかったとなればねえ。暗次の狼狽も当然だろう。
「ふぅん、怖気付いたの?」
「……チッ、上等だ。予定とは違うが……いいぜ、やってやろうじゃねえか」
あ、なんか俺を差し置いてデュエル始まりそう。暗次もディスクを起動しちゃった。
いかん、これでは俺は“ツァンに庇ってもらって、デュエルを代行してもらった超情けない奴”に退化してしまう! ヒモデュエリストになってしまう!
「待ってくれ、ツァン。俺が売られたデュエルなんだから、俺が買う。お前だってそのつもりだったんだろ?」
「へへ、話がわかるじゃねえか。そうさ、本当はお前にリベンジを挑むつもりでな……!」
間に割って入った俺の姿を見て、暗次がほっとしたような顔をする。
「ちょ、ちょっと! ボクがせっかく気遣ってあげてるのに……!」
「そうですよぉ~、ツァンさんに任せといた方がいいんじゃ……」
一方、俺のことを“遊星に敗北した事でショックを受けている”と誤解したままのツァンとゆまは抗議してくるが……丁度いい、暗次とのこのデュエルに華麗に勝利して、2人の誤解を解くとしよう。あとカッコよく勝つシーンで2人の記憶を上書きしときたい。カッコつけは全てにおいて優先される……!
「今までのお前は、新しいカードを手に入れて絶好調。ノリにノってる状態だったが……その好調の波は、あのサテライトの男によって断ち切られた。つまり今こそが……」
「逆襲のチャンスってか?」
「ああ。お前につけられた黒星、倍にして返してやるぜ──」
「黒いのはいらんなあ。白く塗り直して持ってきな──」
俺と暗次は口先で軽くやりあいながらディスクを起動。それを見て説得不能と判断してくれたか、ツァンはぷりぷり怒りながら、ゆまは最後まで心配しながら、デュエルの邪魔にならないよう俺から距離を取っていく。
まあ確かに、ドロー力やらなんやらといったものは、デュエリストの精神状態によって上下するもの。なので傷心状態な──だと思われている──今の俺に、デュエルをさせたがらない2人の気持ちも、理解できるんだけどね。敗北のショックでドロー力が下がって更なる敗北を重ね、連敗のショックでさらに転がり落ちていく……なんてこともあるわけだし。
「──デュエル!」
「──デュエル!」
デュエル開始の宣言をすると同時に、デッキからカードを5枚ドローする……が、なんか手札がビミョい。遊星戦でプリメラたちも燃え尽きてしまったのだろうか。
……いや、微妙というか、本来はこのくらいが普通の引きなんだろう。だけども、なんか物足りなさを感じてしまうのが、人間の強欲さというかなんというか。だから、モーメントが暴走して、人類は滅んでしまったんですね。
「カクの違いを見せてやるぜ! オレさまのターン!」
ディスクの示した先攻は暗次。
目当てのカードでも引けたんだろう。カードをドローした暗次はニヤリと笑うと、ディスクに1枚のカードを叩きつけた。
「来いよ、魔轟神レイヴン!」
魔轟神レイヴン ATK/1300 DEF/1000 チューナー
「魔轟神レイヴンの効果発動! 手札を任意の枚数捨てることで、このカードの攻撃力を捨てた枚数1枚につき400、レベルを1つ上げる! オレさまは手札を1枚捨て──今捨てた暗黒界の武神ゴルドの効果発動! ゴルドをフィールドに特殊召喚!」
暗黒界の武神ゴルド ATK/2300 DEF/1400
「カード効果によって手札から墓地に捨てられたゴルドは、墓地から特殊召喚できる。これで準備は整った! オレさまはレベル5の暗黒界の武神ゴルドに、レベル3となった魔轟神レイヴンをチューニング! シンクロ召喚──出でよ、魔轟神ヴァルキュルス!」
魔轟神ヴァルキュルス ATK/2900 DEF/1700
「むむむ、暗次さんもなかなかやりますね……」
「でも攻撃力2900程度じゃ、アイツのレガーティアには届かないわ。一瞬で返り討ちよ。やっちゃいなさい、あんなヤツ!」
なんか外野からツァンがフラグを立ててくれた。ああ、なんか次のドローでも来てくれなさそうな予感がひしひしと。
「魔轟神ヴァルキュルスの効果発動! 手札から悪魔族モンスター、暗黒界の斥候スカーを捨てることで、デッキからカードを1枚ドローする! ……へへ、カードを2枚セットして、ターンエンドだぜ!」
暗次のフィールドには攻撃力2900のヴァルキュルスが1体に、伏せカード2枚。そして手札も残り2枚か……。それにしてもあの自信満々な態度、さては俺のデッキの対策札でも積んできたか?
「俺のターン、ドロー!」
ふーむ、困った。まさか本当に初動を引けないとは、思ってもみなかったな。なんだかんだ言いつつ、内心『まあ来てくれるだろ』とか思っていたんだが……。ツァンのフラグの威力、恐るべし。
「な、何よ。急に人の顔をジロジロと……ボクの顔に何かついてるの?」
「い、いや別に? どう動こうかなーって考えてただけでさ……」
「ふーん……。ま、まあ……ボクほどかわいい女の子は、そうそういないからね。見惚れるのも仕方ないわよね、うん……」
「むむむ~! ユージさん、デュエルに集中してくださいっ!」
『お前のフラグ建築力、パねえよな』なんて言おうものなら、不機嫌コース待ったなしなので適当に誤魔化したところ、なんか知らんけどゆまから怒られたでござる。でも微塵も怖くない上に、むしろ可愛らしくて微笑ましい怒り顔なんだけど。はぁ~、ぷんぷん怒るゆまは可愛いなあ。
「ケッ、見せつけてくれるねえ……さっさとターンを進めな!」
「おっと悪いな。俺はカードを4枚セットして、ターンエンドだ!」
「何ッ、4枚もだと!?」
暗次からも怒られてしまったので、望み通りさっさとターンを渡してやったところ、ギョッとした顔をされてしまった。まあ、こうやってガン伏せのみってのは久々だからな。妨害踏まない限り、開幕レガーティアを仕掛けるのが俺のデフォルトだったし。
にしてもプリメラ大丈夫かなあ。カードの精霊にも、体調とかあるんだろうか。俺の方から、何かしてやれることがあればいいんだが……。
「ああ〜、しまったなぁ〜。センチュリオンのみんな、1人も来てくれなかったなぁ〜。どーしよー、今攻撃されたら俺ちゃん、大ピンチだなぁ〜!」
「うっわ、何あれウッザ……ゆまはどう思う?」
「の、ノーコメントで……」
「わざとらしいにも
体をくねくねさせながら、いかに自分が大ピンチなのかという事をアピールしてみたのだが、全員から大不評を食らってしまった。ツァンの白い目と、目を逸らしてくるゆまの姿が心にグサグサ刺さりますよ……。素直にツッコんでくれる暗次が一番優しいんじゃ……。
「さすがに伏せがそんだけあると恐ろしいが……ここは臆さず攻める! オレさまは手札から魔法カード、暗黒界の雷を発動! フィールドにセットされたカード1枚を破壊する! 狙うは……ど真ん中の伏せカードだ!」
暗次の掲げたカードより放たれた雷が、俺の伏せカードへと襲い掛かる。だけど残念だったな、そいつはハズレだ!
「俺は永続罠、死霊ゾーマを発動! このカードは発動後、罠モンスターとしてフィールドに守備表示で特殊召喚される!」
死霊ゾーマ ATK/1800 DEF/500
「げ、厄介なカードを……。それに暗黒界の雷は、伏せカードしか破壊できねえ。表にされたら効果は不発だ……!」
俺のフィールドに現れた、ガリガリに痩せこけた小柄な竜を見て暗次が嫌そうな反応をする。伏せカードを破壊できなかったこともそうだが、手札の“暗黒界”を捨て損なったのも痛かったんだろうな。悔しげな顔をする暗次だったが……そこはデュエル慣れしたアカデミアの生徒。すぐに気を取りなおすと、別のカードをディスクに読み込ませた。
「仕方ねえ。ならば魔法カード、おろかな埋葬を発動! デッキから暗黒界の龍神グラファを墓地に送る!」
暗次はデッキから飛び出てきた1枚のカードを抜き出すと、俺にドヤ顔でそれを見せつけながら墓地に送った。
お、出たね暗次のエース。いや正確には出てないけど、どうせすぐ出てくるだろ。さあて、こちらはどう動くべきかね。安定か、それとも攻めか。
「そして手札から、暗黒界の術師スノウを召喚し……バトル! 暗黒界の術師スノウで、死霊ゾーマに攻撃!」
暗黒界の術師スノウ ATK/1700 VS 死霊ゾーマ DEF/500
スノウの放った紫色の光弾が、防御態勢を取っていたゾーマへと直撃して巨大な爆炎を上げる。防御力がたったの500しかないゾーマは一瞬で破壊されるのだが、その戦闘破壊をトリガーにゾーマの効果が発動した。
「死霊ゾーマはバトルで破壊された時、攻撃してきた相手モンスターの攻撃力分のダメージを、相手に与える!」
「グゥゥ……!」
暗次 LP4000-1700=2300
肉体を破壊され、エクトプラズマーと化したゾーマが暗次へと襲い掛かり、そのライフを奪っていく。ライフ4000のこの世界だと、ゾーマのバーン効果って割と洒落にならない破壊力なんだよね。自爆特攻でも効果発動するし。
「だが、これで道は開けた! 魔轟神ヴァルキュルスでダイレクトアタック!」
不気味な笑い声を上げながら接近してくる魔轟神ヴァルキュルスを見て、俺はほくそ笑む。2900ポイントの戦闘ダメージ、痛くないと言えば嘘になるが──プリメラのためならこの程度惜しくはない。
「ライフで受ける!」
雄二 LP4000-2900=1100
「いよっし! どーだ見たか!」
「ああ……!?」
「ええい、だからボクに任せとけば……!」
ヴァルキュルスのゼロ距離エネルギー波で大きくライフを削られた俺を見て、暗次は喜びの声と共にガッツポーズを、ゆまとツァンは悲痛な声を上げる。だが、この戦闘ダメージこそが俺の狙いだ。その為に、あえて罠モンスターの召喚を抑えて、隙を作ったのだから。さあプリメラよ、我がライフを糧に目覚めるのだフハハー!
「甘いぜ暗次、罠発動! ダメージ・コンデンサー!」
「何、そのカードは……!」
俺のフィールドに巨大なコンデンサーが現れ、バチバチと派手に音を立てながら放電を開始する。俺の受けた戦闘ダメージを蓄え、それを一気に放出することで
俺は手札から1枚のカード──伏せきれずに余った重力崩壊の罠カード──を墓地に捨てながら、ダメージ・コンデンサーの処理を続けた。
「ダメージ・コンデンサーは戦闘ダメージを受けた時に発動できる罠カード。手札1枚をコストに、受けた戦闘ダメージ以下の攻撃力の仲間をデッキから呼び出せる! 俺が呼び出すのは当然、重騎士プリメラ!」
重騎士プリメラ ATK/1600 DEF/1600 チューナー
フィールドに現れたプリメラは、先ほどまでの俺の心配などなんのその。むしろ遊星戦での憂さ晴らしをここでしてやる! とでも言わんばかりに、気合十分な様子を見せつけてくれた。流石は騎士、肉体(?)的にも精神的にもタフだねえ。
「そしてプリメラの効果により、俺はデッキから従騎士トゥルーデアを手札に加える!」
くぅ~、コレコレ! プリメラ召喚からの、このサーチ! ああ、1枚初動の素晴らしさよ。しかも肝心のプリメラ、めっっっちゃ可愛いし……もう俺はプリメラのいないデュエルなんて想像できないぜ……。我が魂はプリメラと共に! プリメラ万歳、うさぎチーム万歳!
「まさか、このカードを発動するために、わざとオレさまの攻撃を……」
「ふ、ふん! まあボクは読めてたけどね! アイツがこんな簡単に攻撃を許すわけないし!」
「暗次さんのフィールドに、攻撃可能なモンスターはいません! つまり次のユージさんのターン、シンクロ召喚が確定です!」
ふ、その通りよ。お前は俺の手のひらの上で踊っていたに過ぎんのだ……と言いたいところだけど、やっぱ戦闘ダメージ要求と手札コストは重いよなあ。まあいい感じに驚いてくれてるから、何も言わんけどさ。
この世界のカードプールは信じられんくらい広いから、探せばもっといいカードも沢山あるんだろうけど……生憎と学生の俺には、そんな予算が無いのだ。なんかいい感じのカード、パックから出てきてくれないかな。
「……ハッ、だがそう上手く行くかな? オレさまは墓地の暗黒界の龍神グラファの効果を発動! フィールドにいる暗黒界の術師スノウを手札に戻すことで、墓地にいるこのカードを特殊召喚する!」
暗黒界の龍神グラファ ATK/2700 DEF/1800
暗次のフィールドに描かれた魔法陣より、巨大な体躯の龍が出現する。暗黒界の龍神グラファ、簡単な条件で墓地から蘇り、手札から捨てられると万能破壊効果を発揮する暗黒界のエースモンスターだ。先ほどまで俺のフィールドにはバーン効果持ちの死霊ゾーマがいたので、ゾーマの処理を終えるまで温存していたってわけだな。ゾーマの守備力は低いから、わざわざグラファで殴って特大のバーン効果を貰う必要もないし。
「オレさまはこれでターンエンド。さあ来いユージ! お前のデッキを封じる“秘策”を見せてやるよ!」
「……そりゃ楽しみだ。俺のターン! 俺は手札から従騎士トゥルーデアを召喚!」
従騎士トゥルーデア ATK/1000 DEF/2000
「シンクロ召喚なんてさせねえよ! 永続罠、不協和音! このカードがある限り、お互いにシンクロ召喚をすることはできなくなる!」
あ、あのカードは……イェーガー室長をずっと支え続けてきた罠カード! 秘策ってそういうことかあ! 確かに誰も彼もがシンクロを使うこのネオドミノにおいては、かなり幅広い相手に刺さるメタカードだ。まあ帝のようにメインデッキのみで戦うデッキや、ゆまのHEROのように融合主体のデッキもあるが、遭遇率的にはやっぱりシンクロデッキが一番多いからな。
「へへ……どうだ驚いたか。確かにお前のシンクロモンスターは脅威的だが、シンクロ召喚を封じちまえば怖くねえ。そして、オレさまのデッキはシンクロ召喚をしなくても普通に戦える! このデュエル、貰った……!」
「……なるほど。ならば俺は、トゥルーデアの効果を発動。トゥルーデア自身と、デッキに存在する重騎兵エメトⅥを永続罠として魔法&罠ゾーンに置かせてもらおうか。そして重騎兵エメトⅥを自身の効果で特殊召喚!」
重騎兵エメトⅥ ATK/2000 DEF/3000
ガーンという効果音でもつきそうなくらい驚いていたプリメラが、隣に現れたエメトⅥを見て強気な表情を取り戻す。確かにシンクロ召喚を出来ないのは痛いが、それならそれで普段はレガーティアに回しているサポートカードを、プリメラたちの支援に回すのみ!
……なんかプリメラが勝手にエメトⅥに搭乗したけど、これいいのかな? 俺のフィールドにエメトⅥが1機いるようにしか見えねえんだけど。まあイラスト的には正解だし、ディスクがエラー吐かないんならいいか。
「だが、シンクロ召喚は行えない。残念だったな!」
「へへへ……それはどうかな?」
言えた! 全デュエリストが一度は言ってみたい名台詞『それはどうかな?』を言えたぞ! それも自然にだ!
「来い! 罠モンスター、メタモル・クレイ・フォートレス! エメトⅥと共に、我が敵を打ち砕け!」
メタモル・クレイ・フォートレス ATK/1000→3000 DEF/1000→3000
振動と共にエメトⅥのいた地面が盛り上がっていき、粘土で形成された巨大なゴーレムが姿を現す。劇場版DSODにおいて、我らがAIBO、武藤遊戯の使用していた罠モンスターだ。
メタモル・クレイ・フォートレスの頭の上でふんぞり返る、エメトⅥとその搭乗者であるプリメラの渾身のドヤ顔が眩しいぜ……。
「攻撃力3000……! 指定した味方のモンスターを装備して、その攻撃力分、自分のステータスを上げる罠モンスターか!」
俺が遊戯ごっこをして説明を端折ったメタモル・クレイ・フォートレスの効果について、暗次が解説を入れてくれた。ありがたや。ツァンやゆま以外にも、いつの間にか俺と暗次のデュエルを観戦していたギャラリーが、暗次の解説を聞いて『ほー、なるほどぉ……』みたいな感じの声を漏らしている。暗次って不良を気取ってるけど、けっこう細かいところに気が利くんだよな。
ソリッドビジョンの演出に間に合わなくなるから、できるだけ細かい説明は省きたいんだけど……省きすぎると、今度はギャラリーに伝わらない場合があるのがね。実に悩ましい。
「俺はメタモル・クレイ・フォートレスで、魔轟神ヴァルキュルスを攻撃!」
メタモル・クレイ・フォートレス ATK/3000 VS 魔轟神ヴァルキュルス ATK/2900
「タダでやられるかよ! オレさまは罠カード、ヘイト・バスターを発動! 相手の攻撃してきたモンスターと自分の悪魔族モンスターを破壊し、破壊した相手モンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」
「永続罠、宮廷のしきたり! このカードがフィールド上に存在する限り、宮廷のしきたり以外の永続罠カードは破壊されない! これでメタモル・クレイ・フォートレスは破壊から免れ、ヘイト・バスターは不発となる! 攻撃続行!」
暗次 LP2300-100=2200
メタモル・クレイ・フォートレスはその巨大な拳で魔轟神ヴァルキュルスを殴り付けて粉砕し、暗次のライフをほんの少しだけ減少させた。自分と同じサイズの拳にぶん殴られる羽目になった、魔轟神ヴァルキュルスには合掌だな、南無。やぁ、ボクはナム! よろしくね!
「攻撃を終えたメタモル・クレイ・フォートレスは防御態勢を取り、守備表示になる!」
「ぐぅぅ……! よくもオレさまのモンスターを!」
粘土のゴーレムが崩れ落ち、今度はその名に違わぬ、要塞のような姿へと変わっていく。いや、わかっていたけど、本当にでっけえな。あまりのデカさに子供が喜んでいるぞ。……どうでもいいけど、コントロール奪取やらを駆使して、この馬鹿みたいにデカいコイツをフィールドに5体並べたらどうなるんだろうか。闘技場みたいに一周するのか?
「俺はカードを1枚セットし、プリメラを守備表示に変更! ターンエンドだ」
「オレさまのターン、ドロー! ……ククク!」
プリメラ(見えるけど見えないもの)を守備表示にしてターンを明け渡したところ、暗次はドローフェイズにドローしたカードを見て笑い声を上げだした。
「ユージ、やっぱりテメエの運は下り坂だ! その馬鹿みたいにデケえ罠モンスターには驚かされたが、これで終いだ! 魔法カード、大嵐! フィールド上に存在する、全ての魔法・罠カードを破壊する!」
「あ、不味いです! 宮廷のしきたりが守れるのは、表側の永続罠カードだけ!」
「アイツのメタモル・クレイ・フォートレスと従騎士トゥルーデアは無事だけど、装備カードとなっているエメトⅥは……!」
「それだけじゃねえぞ! ユージの場にある宮廷のしきたりが、オレさまの不協和音まで守ってくれる! つまり、シンクロロックは継続ってことだ!」
フィールドに強風が吹き荒れ、やがて嵐となったそれはお互いのフィールドに出ている魔法・罠カードへと牙を剥く。確かにこのまま大嵐を食らってしまえば、装備カードを剥がされて弱体化したメタモル・クレイ・フォートレスと素のステータスは低いプリメラを戦闘破壊されて、一気に不利になってしまうことは間違いない。このまま大嵐を食らってしまえば、だが。
「カウンター罠、
「ば、馬鹿な!」
トゥルーデアの祈りを受け、一瞬だけ出現したレガーティアの幻影が、吹き荒れる嵐を断ち切り消滅させる。それを見届けたトゥルーデアは満足気な笑顔を浮かべた後、俺に向けてグッと親指を立てながら光の粒子となって消えていく。
「くっそお……俺は暗黒界の龍神グラファで、守備表示の重騎士プリメラに攻撃だ!」
プリメラいないけど、デュエルディスク君はどうやって処理すんの? と俺が思っていると、指名を受けたプリメラはエメトⅥの上から飛び降り、俺の目の前に着地。そのまま防御態勢を取り出した。
暗黒界の龍神グラファ ATK/2700 VS 重騎士プリメラ DEF/1600
そうして現れたプリメラに向け、グラファは毒々しい色のブレスを吐く。グラファの吐いたブレスは防御魔法を展開するプリメラを一気に飲み込み、その次の瞬間、凄まじい爆炎が巻き起こる。
「プリメラ……!」
「オレさまはこれでターンエンドだ!」
「俺のターン、ドロー!」
プリメラ、お前の仇は取ってやるからな……と思って俺が城塞の上に立つエメトⅥへと目を向けると、なんということでしょう。そこには煤けてはいるものの、ピンピンしているプリメラちゃんがいるではありませんか。
……お前、精霊だからと本当にやりたい放題だなプリメラ。そんなに出番が欲しいか。……でもまあ、笑顔が可愛いからいっか。
「俺は手札から魔法カード、マジック・プランターを発動! 宮廷のしきたりを墓地に送ることで、2枚ドロー!」
お、いいカードだ。暗次のフィールドにはグラファと不協和音、そして手札はスノウのみで、墓地にも超電磁タートルのようなカードはない。これは勝ったなガハハ。
「魔法カード、死者蘇生を発動! 墓地より甦れ、従騎士トゥルーデア!」
従騎士トゥルーデア ATK/1000 DEF/2000
フィールドに帰ってきたトゥルーデアは、んー、と大きく伸びをした後に、俺に向かって微笑みながらウィンクをしてくれた。うんうん、トゥルーデアも可愛いなあ。
普通ならプリメラを蘇らせてサーチ効果を使う場面だが、プリメラは既にエメトⅥの搭乗者としてフィールドにいるし、たまにはトゥルーデアにも攻撃役を任せてあげたいので、こうしてトゥルーデアを蘇らせたのだ。こういう気遣いこそが、精霊と仲良くやっていく秘訣である。なんちって。
「続けて装備魔法、魔導師の力をトゥルーデアに装備! 俺のフィールドには魔導師の力を含めて4枚の魔法・罠カードがある。よって攻撃力は2000ポイント上昇! 更にカードをセットして、500ポイント上昇!」
従騎士トゥルーデア ATK/1000→3500 DEF/2000→4500
トゥルーデアの全身が薄く輝き、吹き出す炎の勢いが、より一層強くなっていく。
トゥルーデア自身も超強化された自分の力に戸惑っている感じで、驚いた様子で自分の炎を見ていたが、ふと俺の方へと振り向くと、嬉しそうに微笑みながら『任せとけ!』とでも言うかのように小さくガッツポーズをした。
「攻撃力……3500……!」
「バトル! メタモル・クレイ・フォートレスよ、暗黒界の龍神グラファを粉砕せよ!」
メタモル・クレイ・フォートレス ATK/3000 VS 暗黒界の龍神グラファ ATK/2700
「ぐああぁぁ……!」
暗次 LP2200-300=1900
巨大な拳が今度はグラファを粉砕し、暗次のフィールドががら空きになる。グラファ蘇生のため&手札から捨てられた際のサーチ効果発動のためにスノウを手札に残しておいたんだろうが……その判断が裏目に出たな! いや、スノウがいたらフォートレスの方に魔導師の力をつけてたから、結果は一緒か。
「これで終わりだ、俺はトゥルーデアで暗次にダイレクトアタック!」
トゥルーデアが右腕を掲げると、その先に炎で描かれた巨大な魔法陣が現れ、そこから猛烈な勢いで炎が噴き出してきた。その勢いと規模たるや、先ほどグラファの吐きだしたブレスをも凌駕するほどであり──。
「うわああぁぁぁーっ!」
暗次 LP1900-3500=0
トゥルーデアの放った業火に飲み込まれた暗次が悲鳴を上げ、それと同時に暗次の残りライフも0となる。フィニッシャーを任されたのが嬉しかったのか、ニシシと笑いながら振り返ってきたトゥルーデアに、こちらも『よくやった!』と親指を立てて返していると、そこにゆまとツァンが歩きながらやって来た。
「ユージさん、お疲れ様です! ユージさんが復活してくれて、私嬉しいです!」
「フン、シンクロ封じとは考えたわね。でも残念、その程度で勝てるほど、ボクたちは甘くないの」
いや、復活も何も、別に落ち込んでたわけじゃないんだけどね。でもまあ、いちいち説明しても言い訳にしか聞こえなさそうだし、ゆまも嬉しそうだし、もうそれでいっか。あとツァンは自分がデュエルしてたわけでも無いのにめっちゃ偉そうだな。ライバルだから問題ないって? アッハイ。
「ちっ……今までの勢いが断ち切られた今なら、行けると思ったんだがな……シンクロ召喚を封じられてもこれとか、やるじゃねえか」
ゆまとツァンの二人から少し遅れて、暗次も俺の方へと歩み寄る。その表情は悔しげなものではなく、さっぱりとしたものであった。
「サテライトの野郎に初戦敗退かました時は心配したが、この様子じゃ大丈夫みてーだな……」
お、なんだお前? もしかして俺のコト心配してたのか? デュエルの実技以外じゃ、たまーに話すくらいの間柄なのに、いいやつすぎて草。お前もう不良気取るのやめちまえ。
……という事を本人に伝えてみたら『ち、ちげーよ馬鹿! こんなんでテメーに潰れられちゃあつまらねえからだよ!』と怒られてしまった。ツンデレ乙。でも男のツンデレとか嬉しくねえ、俺はツァンにもっとデレてほしいな。
◇
暗次とのデュエルを終え、暗次と別れた俺はその後、ツァンとゆまに引きずられて二人のショッピングに付き合わされた。カッコつけのためとはいえ、重い荷物を色々持ったから正直しんどい……。
でも楽しかったし、二人からの好感度も稼げたはずだ。これで、大会で下がった分の好感度が、帳消しになってると嬉しいが……。
そんなことをぼんやりと考えながら、自宅に向けて夕暮れ時の道を1人歩いていた時。突然背後から声がかけられた。
「ああ、そこのお兄さん。あなた、さっきカードを落としましたよ……」
「うおお!? ああ、わざわざどうも──」
突然声をかけられた俺は、驚きのあまり小さく跳ねた後、声が聞こえてきた方向へ振り返るのだが。そこにいたのは──。
「いえいえ、お気になさらず……!」
まるでスネ夫ヘアーを進化させたかのような、特徴的な前髪をした男が。稼働中のデュエルディスクを携えて、1枚のカードを手に立っていた。