アルカディアムーブメントの本拠地である巨大なビル。静かなその通路を、大人の男に連れられた少女が歩いていた。
「龍亞君の意識が戻る前にだね。龍可ちゃん、実は君に会って欲しい人がいるんだよ……」
少女を先導する男の名はディヴァイン。このアルカディアムーブメントの創設者にして総帥であり、デュエルモンスターズのモンスターやカードの効果を実体化させるという、特異な能力を持つサイコデュエリストでもある。
「…………」
無言で俯いたまま、ディヴァインについて行く少女の名は龍可。デュエルモンスターズのカードに宿るという“カードの精霊”と意思疎通を取ることができるという、サイコデュエリストとはまた違う特異な才能の持ち主だ。
「彼は最近、このアルカディアムーブメントで“保護”することになった子でね。君と同じ、カードの精霊に愛された人間なんだ……」
「……わたしと、同じ?」
「おや、興味を持ってくれたのかい?」
驚きから俯いていた顔を上げる龍可を見て、ディヴァインはニヤリと口端を歪めながら、通路の突き当りにある扉を開ける。
プシューという音と共に開いた扉のその先は、先ほど龍可の兄である龍亞がディヴァインからの“テスト”を受けていたのとはまた別のデュエル場──をガラス越しに見下ろせるようになっている部屋であった。
「……! なにここ……すごい、嫌な感じがする……」
その部屋に入ると同時に、龍可はその眉を大きく顰める。普通の人間には──ディヴァインのようなサイコデュエリストにすら──気づけない、カードの精霊たちが発する、特殊な波動を察知したからだ。
「とはいえ、くだんの“彼”の精霊との交信応力は、君には遠く及ばない。精々が精霊の存在を感知でき、ソリッドビジョンの助けを借りることで、彼らとようやく意思疎通を図れる程度……」
龍可が眉を顰めている事に気付いているであろうに、ディヴァインはそれを無視して部屋の奥へと進んでいく。龍可も仕方なくそれに従い、自身の中で渦巻く不快感を押し殺して歩を進め。そしてディヴァインに促されるまま、デュエル場を眺めた龍可が目にしたのは──。
『リバースカード、オープン! 念動収集機! この効果で俺は墓地からサイコ・ジャンパーを蘇らせ、そのレベルの合計の300倍のダメージ……つまり600のダメージを受ける!』
サイコ・ジャンパー ATK100 DEF/1500 チューナー
構成員A LP3000-600=2400
『そして俺はサイコ・ジャンパーをリリースして、マックス・テレポーターをアドバンス召喚し効果発動! 2000のライフを支払うことで、デッキからレベル3のサイキック族を2体呼び出す! 来い、2体のサイコ・コマンダー!』
マックス・テレポーター ATK/2100 DEF/1200
サイコ・コマンダー ATK/1400 DEF/800 チューナー
サイコ・コマンダー ATK/1400 DEF/800 チューナー
構成員A LP2400-2000=400
『くっ……俺の負けか……!』
アルカディアムーブメントの制服を着た同年代の若者たちが──所々からアンテナのようなものが生えた、奇妙な器具を着けて──デュエルをしている光景であった。
『総攻撃だ! やれ、マックス・テレポーターとサイコ・コマンダーたち!』
『ぐわぁーっ!』
構成員B LP3500-2100-1400-1400=0
ちょうどディヴァインと龍可が部屋に入ってきたころには、デュエルは最終局面に突入していたようであり、デュエルフィールドの手前側に立っていた男が、相手のライフポイントを削り切って勝利していた。
『ぐぉぉぉ……! なんのこれしきぃ……!』
『ぐっ……ううぅ……!』
「何あれ……苦しんでる……?」
しかしデュエルの決着がつくと同時に、二人の構成員たちは地に蹲り──龍可とディヴァインには聞こえないが──苦悶の声を上げながら苦しみ始めたではないか。
その光景を目にした龍可は、思わずといった様子で呟きを漏らした。
「ああ、あれはあの二人からデュエリストがデュエルを行う際に発する、特殊なエナジーを吸い上げているのさ。そして吸い上げたエナジーはほら、あそこに……」
「あれは、デュエルモンスターズのカード!? それにあのカードは──くっ!?」
少々得意気な様子のディヴァインが指で指し示したその先には、分厚い強化ガラスで厳重に保護された状態で並べられた、4枚のカード。
その4枚のカード──重騎士プリメラ、従騎士トゥルーデア、重騎兵エメトⅥ、騎士皇レガーティア──に見覚えのあった龍可は、思わず叫び声を上げようとしたのだが、その声が部屋に響くことはなかった。
何故ならそのカードたちから発せられる、膨大なプレッシャーを前に、立っていられなくなってしまったからだ。
「なにこれ……。これは……怒り? あのカードたち、すごい怒ってる……!」
「ほぅ、そうかそうか。あの精霊たちはお怒りなのかぁ……。ま、そりゃそうだろうね」
ディヴァインは床で震える龍可を一瞥だけすると、そのまま部屋の中央に歩いていき、備え付けられていた机を操作して空中ディスプレイを起動する。
「どうだいドクター。彼と、あのカードたちの様子は……」
『おお、総帥閣下……! はい、研究は順調ですとも! 例のカードたちは構成員たちからエナジーをグングンと吸い上げ、現実世界への干渉力を飛躍的に高めております。あの装置でも、そろそろ抑えきれなくなりそうな程に……』
空間に投影されたディスプレイに表示されたのは、白衣を着た年配で痩せぎすの男。ディヴァインはその男に対し、親しげに語りかける。恐らくはこのディヴァインという男のろくでもない研究に加担する、ろくでもない研究員なんだろうなと龍可は静かに思った。
「ほう……我らの力を以ってしても、抑えきれぬと?」
『お恥ずかしい限りですが……。十六夜様のお力を、お借りしなければならぬ可能性も……』
「わかった。必要になったらアキを貸し出そう。手に負えなくなる前に、早めに言うんだぞ?」
『おお、ありがたいお言葉! 流石は総帥閣下です!』
「ふーむ。あまり期待していなかったとはいえ、存外、いい拾い物をしたのかもしれないねえ……」
やがて白衣の男との通話を終えたディヴァインは、顎に手を当てて考え込む仕草を取る。その様子を見て、龍可はディヴァインたちの所業を問いただすべく、勇気を振り絞って口を開いた。
「何を……あなたたちは、何をしているんですか……?」
「何を、とはどういうことだい?」
「とぼけないで……! さっき倒れたあの人とあのカード、見覚えがある……! フォーチュンカップで遊星と戦っていた、アカデミアの人……! 楽しそうにデュエルをする人たちだった……それがなんで、こんなところに……」
「こんなところ、とは酷いねえ龍可ちゃん。おじさんはただ、彼らの秘めたる力を解放してあげようとしているだけなのに」
「秘めたる力……?」
龍亞のときといい、またそれかと言いたくなる気持ちを抑え、龍可はディヴァインに続きを促すよう沈黙した。こうやって自分が黙っていれば、あの男は自分の行いを嬉々として口にすると思ったからだ。
「彼は自分のカードを大切にしすぎていた。使うならもっといいタイミングがあったろうに、モンスターを守るために不適切なタイミングでカードを使い……チャンスが来れば少々無理してでも活躍の場を与え……要は甘やかしすぎていたのさ」
「カードを大切に扱うことの、何が悪いの……?」
本気で首を傾げる龍可を見て、ディヴァインはやれやれと苦笑する。
「大アリさ。彼が甘やかしすぎるせいで、カードの側も『自分たちは愛されている』と現状に満足してしまい……過剰な力を発揮することも、求めることもなかった。だからおじさんはこうやって、あの怠け者の精霊たちの尻を叩いてあげているのさ」
そう言いながらディヴァインが取り出したのは、一枚の魔法カード。洗脳-ブレインコントロールのカードだ。洗脳のカードを指先でくるくると回しながら、ディヴァインはあくどい笑みを浮かべる。
「最愛の主は自分たちのことなどすっかり忘れて、自分たちとは一切関係のない、別のデッキを使っている。そして、そのデッキを使ったデュエルを、自分たちに見せつけてくる。精霊たちからしてみれば、悔しいだろうねえ。悲しいだろうねえ」
「あなたは……!」
カードの精霊の気持ちが理解できるが故に、龍可はディヴァインの所業が許せずに声を張り上げる。ディヴァインのやっている事は、要は催眠NTRの現場を恋人に見せつけるが如き、邪悪極まりない行いだからだ。
とはいえデュエリストでない人間が見れば、旧デッキに新デッキを回す姿を見せつけるだけという、これのどこが邪悪? な光景なのだが──ディヴァインも龍可も両方デュエリストなので、何も問題はない。たぶん遊星あたりが見ても、それはデッキとデュエリストとの間の絆を断ち切る行い! と静かに怒る……かもしれない。
「だがその怒りと悲しみが、あの精霊たちにとって力を求める理由となる。そして力を得た精霊たちが、彼に干渉を続ける事で──む?」
しかしそのように得意気に龍可に語り掛けていたディヴァインが、まるで何かを察知したかのように、急に言葉を打ち切ってしまう。そんなディヴァインの様子を不審に思う龍可であったが。
「悪いね龍可ちゃん。緊急の案件だ。少しここで待っていてくれないかな?」
「え……」
「なあに、すぐに戻るさ。だからそれまで、いい子にしていてくれ……」
龍可がその案件とやらを問いただす暇もなく、ディヴァインはさっさと部屋から出て行ってしまった。
「はぁ……」
誰もいない部屋で、一人ため息を吐く龍可。よほど焦っていたのか、ディヴァインは扉をロックせず出て行ったので、抜け出そうと思えばいくらでも抜け出せるのだが──監視カメラや他の構成員の目もあるだろう──このビルから1人で逃げ出せると思うほど、龍可は物わかりの悪い子供ではなかった。それになにより。
「龍亞……」
最愛の兄と、このビルの来訪に付き添ってくれた大人たちを放っておけるほど、龍可は冷たい人間ではなかったからだ。
◇
「きゃっ……!? この揺れ……!」
そうしてしばらく龍可が待機していると、ビルを激しい揺れが襲う。まるで大地震でも起きたかのような、その揺れに龍可が恐怖を感じていると。
「龍可、無事か!」
「おぉ……龍可ちゃん! 無事だったか!」
「アルカディアムーブメントの連中、こんな子供まで……!」
「もう大丈夫ですよ! 私たちと一緒に逃げちゃいましょう!」
「氷室さんに矢薙のお爺ちゃん! に、えーと……」
部屋の扉を開けて、龍可と龍亞の付き添いとして来ていた2人の大人──元プロデュエリストの氷室仁と旅好きの老人、矢薙典膳──が、見知らぬ2人の少女を引き連れて、部屋へと駆け込んできた。
「……ツァン・ディレよ」
「あ、私は宮田ゆまって言います! フォーチュンカップの試合、見てましたよ龍可ちゃん!」
「あ……どうも……」
手短に挨拶を済ませるものの、少女たちが何故ここにいるのか、その理由や目的が理解できずに困惑する龍可。そんな龍可に対し、氷室が彼女たちの所属と目的を告げる。
「この嬢ちゃんたちはデュエルアカデミアの学生さんでな。なんでも、数日前からお友達が行方不明になっちまったらしい。んで、その犯人が……」
「アルカディアムーブメントのビルに、アイツがフラフラ入っていく姿が目撃されてたのよ。最初はボクたちも、セキュリティに任せようと通報したんだけど……」
「でも、全然相手にされなくて……捜索願だって出てるのに……」
悔しげに肩を震わせるツァンとゆまを見て、龍可は納得する。なにせ自分たちを拉致監禁しようとした連中だ、他にそのような事を繰り返していたとしてもおかしくはない。いやむしろあの手慣れた感じ、既に何度も繰り返していたんだろう。
「つい最近、行方不明に……?」
「──ッ! もしかして龍可ちゃん、何か手掛かりを!?」
「お願い、ボクたちに教えて頂戴! どんな些細な情報でも──」
ツァンとゆまの発言から、龍可がつい先ほどディヴァインが語った、精霊のカードを使う少年を思い返せば、ツァンとゆまの2人は必死な表情で龍可へと詰め寄る。
「お、おい! 落ち着け嬢ちゃんたち!」
「あ……ゴメン……。つい焦って……」
「ううん、いいのよ。それよりツァンさん、その“お友達”って……もしかして男の人で、フォーチュンカップの出場者だったりする?」
龍可の言葉を聞いたツァンとゆまの目が驚愕に見開かれ、一拍遅れてその瞳に希望の光が宿り始めたのだった。
◇
「いたぞ! おい兄ちゃん、大丈夫か!」
「んん……」
「起きるんじゃ、ここは危ないぞい!」
ぺちぺちと軽く頬を叩かれる感覚と、耳元で聞こえる野太い声に、沈んでいた意識が覚醒する。
えーっと。そうだ俺は、ディヴァイン様からのお願いを受けて、精霊の宿るカードとやらにデュエルエナジーを注ぎ込む実験をやってて……。
「うう……悪い、助か──って誰!?」
てっきりアルカディアムーブメントの仲間が、実験中に意識を失った俺を起こしてくれたのかと思ったが、顔を上げてみればウニみたいな頭をした見知らぬオッサンと和装の爺さん。そしてその影に隠れている、よく似た顔の少年と少女。
驚きのあまり思わず叫び声を上げてしまったが、俺は悪くないと思う。それにしてもこの人たち、どこかで見たような気が……いや気のせいか。
「おお、起きたか! 俺は氷室。アルカディアムーブメントの……客人でな。こっちは矢薙の爺さん」
「ディヴァイン様のお客人……!? こ、これは大変な失礼を! お見苦しい姿を見せて、申し訳ありません!」
俺の上げた疑問の叫びに、気分を悪くする様子も見せずに返事をしてくれたオッサン──じゃなくお二方。まさかディヴァイン様の客人だったとは、しくじった……! もし俺の態度が原因で、ディヴァイン様に不利益をもたらすような真似があったらと思うと……。
「……ディヴァイン様、か。まあ、気にしなくていい。それより兄ちゃん、さっさと逃げるぞ」
「はえ? 逃げる?」
「ああ。原因不明の地震が起きて、全員で避難中なんだ。兄ちゃんも早く逃げた方が──」
「だ、ダメです! 俺のことはいいので、お客人だけで避難してください!」
ディヴァイン様のお客人の言葉を遮るのは心が引けるが、それでもこれだけは譲れないと、ハッキリと声に出して言う。
「ああん? いや本当に不味いんだよ。他の連中だってもう避難してるぜ?」
「いや、お気持ちはありがたいんですが、俺はあそこにあるカードを回収したり──って無い!?」
ディヴァイン様が最近熱心に研究なされてる精霊のカードを指差す──指差そうとした──俺だったが、精霊のカードが安置されているはずの場所には何もなかった。
無残に割れた強化ガラスの残骸を見て慌てる俺の顔を見て、氷室氏はニヤリと笑った。
「ああ、それならこっちで回収しといた。ホレ、お前のカードなんだろ?」
「氷室ちゃんのパワーはすんごいからのぅ~」
ニシシとイタズラ小僧のように笑う矢薙氏だが、脚立でも使わないと届かない、あの位置の強化ガラスをどうぶち破ったというんだ。物を投げてぶち破るにしても、相当なパワーが必要なはず……。見た目に違わず、というか見た目以上に、このお方のパワーは凄まじいものらしい。
「い、いえ、それは俺のカードじゃなくて、ディヴァイン様が用意してくださった貴重な──」
「ええいうるさい! なによさっきから、ディヴァイン様ディヴァイン様って!」
「早く帰りましょうよ、ユージさん!」
「じょ、嬢ちゃんたち……ここは儂らに任せるって……」
俺と氷室氏が問答をしていると、どこに隠れていたのか、突然リボンを付けたピンク色の髪の少女と、茶髪の少女が怒鳴り込んできた。
うっわ2人ともすっげえ美少女。でもリボン付きの方は性格キツそう……こんなのと付き合う彼氏は可哀想──いやこの見た目だけで十分以上にお釣りがくるな。できるんだったら、俺も正直付き合いたいくらいだ。いやー、可愛いだけで全てが許されるって、美少女って徳だねホント。
……それにしてもこの2人を見てから、頭が妙にズキズキするな。
「帰るって……何処に? ここが俺の居場所なんですが……」
「……っ! アンタの帰りを、待っている人がいるのよ!? ご両親だって心配してたし、アカデミアのみんなも……それに、ボクだって……!」
「あのー、言いにくいのですが、もしかして人違いでは!? 俺には家族や親しい人なんて、誰もいなくて……!」
「私やツァンさんの顔、見てもわからないんですか……? 本当に、忘れちゃったんですか……?」
「いや、見覚えないですけど──っておわあっ!?」
俺のことを誰かと間違えているのだろう。グイグイと腕を引っ張ってくる2人の少女に、俺は足を踏ん張って必死に抵抗する──のだが、俺が彼女たちに『見覚えはない』と言うと、彼女たちは急に俺の腕を手放してきた。
「ぐべっ!? おおぅ……おおっ……!」
いきなり手を離されたことで体勢を崩し、勢いよく背中から床に向かってダイブする俺。普段なら目を見開いたまま硬直している、美少女2人の様子を心配するところだが、今はそれどころではない。俺は無様に床をのたうち回り──。
「オイ馬鹿、何をやってる新入り! そいつらは侵入者だぞ!」
「……は? 新入社員?」
「キーッ! 耳が腐ってるのか貴様ァ! 侵入者だよし・ん・にゅ・う・しゃ! つまり我々の敵だ!」
職業柄走り慣れていないのか、ドタドタと不恰好なモーションで走ってくるガリガリのドクターの声を聞いて、飛び起きた。
マジかよ侵入者だと!? すっかり騙されたわ! ええい、なんとかしてあのオッサンが手にしている、精霊のカードを取り返さねば……! 俺をあのサテライトから拾い上げて下さった、ディヴァイン様に申し訳が立たないぞ……!
「やっべ……まだ残ってやがったのか! オイ嬢ちゃんたち、どうす──うおっ!?」
「ゆ……許さない……よくも、よくもアイツからボクの記憶を……!」
「ふ……ふふ……ふふふ……! そういえば、一度失った記憶って……強いショックを与えると、戻るらしいですねユージさん……!」
相手側も正体がバレた事で開き直ったのか、先ほどまで放心状態だった美少女コンビが、なんかドス黒いオーラを放ちながら、デュエルディスクを起動すると共にゆらりとこちらへと向き直る。
いや正直コワイ。めっちゃコワイ! プレッシャーが半端ねえし、あいつら絶対凄腕のデュエルエージェントだって! 逃げ出していいですかドクター!? 駄目? そんなー!
「ヒィィ! なんかあのお姉さんたち、怖いよ龍可ぁ!」
「ちょ、ちょっと、押さないでよ龍亞! わたしを守ってくれるんじゃなかったの!?」
おいおい、あまりの気迫に仲間の子供たちすら怯え出したぞ。……ん? なんでこいつら、こんな子供を連れてこのビルに侵入したんだ? まあいいか。きっと子供を使って、こちらの油断を誘うとか、そんな感じのやり口だったんだろう。今はそんな事より、この場面をどう切り抜けるかだ……!
「くっ、なんて気迫だ……! だがちょうどいい、デュエルだ侵入者どもめ! 俺が勝ったら、お前たちの持っている精霊のカードを返してもらう! お前たちが勝ったら俺たちは──」
「あ、コラ! 何を勝手なことを新入り!」
デュエルディスクを起動しながら言い放った俺の提案に、ドクターが文句を言ってくるが……正直これ以外に精霊のカードを取り返す方法なくね? 2対6、子供を抜いても2対4で数の上ではこっちが不利なんだし、しかも氷室とかいうスーパーマッチョまで敵にはいるんだし。あとあいつらが何か工作でもしたのか、ビルから仲間の気配を全然感じねえんだよなー。あれ、これヤバくね?
「私たちが勝ったら、あなたたち二人の身柄を拘束しちゃいます♡」
「フフフ……冴えてるわねゆま……! そうよ、最初からこうしてればよかったのよ……!」
「ぐっ……! こうなったら仕方ない! オイ新入り、お前の腕前とそのデッキじゃ、リボン付きの娘は無理だ! この娘はワシが引き受けるから、お前は茶髪の方をやれ!」
マジかよ、茶髪の方がドス黒いオーラ放ってる(ように見える)から、涙目のリボン付きよりこっちの方が強敵だと思ってたわ! ……なんだかんだで文句を言いつつも、きちんと強い方を引き受けてくれるドクター、今だけは割と尊敬してるぜ!
「氷室さん。氷室さんが持ってるプリメラちゃんたち……貸してくれません?」
「あ、ああ……。ホラ……」
あ。あの茶髪、精霊のカードをデッキに投入しやがったぞ!
しめしめ、馬鹿な女だ。そのカードは近くによるだけで、切り傷やら刺し傷やら火傷やらを負うという、とんでもないじゃじゃ馬なカードなのに。俺は怖くて近寄ってないが、仲間が何人も医務室送りにされてんだ。ククク、仲間のはずのカードに攻撃されて沈むがいい!
「新入り、負けるんじゃないぞ! ディヴァイン様への信頼にお応えするチャンスだ!」
「わかってますよ、ドクター!」
「……絶対に連れ戻します、ユージさん!」
「怒りの臨界点を超えたボクのデュエル、見せてやるわ!」
俺と茶髪の少女が、ドクターとリボン付きの少女が、距離を開けて向かい合う。オッサンと爺さん、そして子供二人はこのデュエルを見守ることに決めたらしく、適度に周囲を警戒しつつもこの場から離れようとしない。
へへへ、この茶髪ちゃんには悪いけど、俺がこのアルカディアムーブメントで出世するための、礎になってもらおうじゃないか。ここで活躍して精霊のカードを取り返せば、ディヴァイン様もきっと俺のことを褒めてくれるだろう。
だってよく考えれば、一度奪われたのは俺のせいじゃないし。こんな重要なカードをほっぽって、どこか行っちゃった他の仲間たちが悪いんだし。あー、頭が地味に痛い。
「デュエル!」
こうして普段からは信じられないほど静かになったデュエルフィールドに、俺たち4人の声が同時に響き渡った。
おじさん「いぇーい、プリメラちゃん見てるぅー? 君のご主人様は今、おじさんのサイキック族デッキを楽しそうに回してまーす!」
〜おじさんの計画〜
①デュエルエナジーを与えることでプリメラたちの精霊としての格を強化
②格の上がったプリメラがユージ君に干渉。一人前の精霊使いとして覚醒
③精霊使いとして覚醒したユージ君を使って更なる研究を
WCSのゲームを見るに希少っぽい精霊関係者はそこそこ丁寧に扱うみたいですし、洗脳がバッチリ効いている主人公はおじさん拷問ルートを回避しました。
誤字脱字報告、本当に感謝です。何度も見直したはずなのに、何故か出てきてしまうんですよね(節穴)
〜追記〜
なんか感想が凄い事に…! すいません、感想返しは全部する予定だったんですが、流石に全部の方に返しているとただでさえ少ない執筆時間がさらに少なく(具体的に言うと90分が60分に)なってしまうので、しばらくの間感想返しを控えさせて頂きたく…。本当に申し訳ないです。
その代わりに、あとがきでまとめて回答させて頂きますね。
ただ感想自体は全部楽しく読んでおりますし、参考にさせていただいているので、今後も下さると嬉しいな〜と。
〜以下目立った疑問への回答〜
おじさんの洗脳強くね?→ おじさんの不意打ちブレコンは満足同盟の一員だろうWCS主人公すら支配下に置くレベルの技なので、ユージ君には抵抗不能かなと
ユージ君最近いいところないな→今回の件でプリメラが(オカルト的な意味で)パワーアップ&厄介事からは逃げられないと腹をくくるようになるので、見せ場はしばしお待ちいただけたらなーと
男の洗脳…→遊戯王のお約束だとばっちゃに聞きました!