目の前の勝利を追いかけて   作:後藤 カルム

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最近どう書くべきか迷走しているかもしれない。


新たなる戦地 ―ニエル賞の前に―

 フランスに到着して約1週間、ニエル賞開催当日を迎えた彼女とトレーナーは、パリ郊外のトレセン学園から中心地にほど近い『パリロンシャンレース場』へ訪れていた。

 

「すごいですね。中心地に近いのに自然が豊か!」

「昔、貴族や名門ウマ娘家系の狩場に使われていた森を整備して作られた森だからな。ロンシャンレース場もその折に整備されたという」

 

ロンシャンレース場はパリ16区『ブローニュの森』と呼ばれる地域の西端に位置する、フランスで、いや世界においても平地ウマ娘レースのランドマークと称するに値する権威あるレース場だ。ちなみに森を挟んで反対側にはフランス障害レースの本山と呼ばれるレース場がある。

 

「今回は凱旋門賞の前哨戦として走るが、弥生賞のときとはまるで意味が異なる。本番と同じコースを走るが、その足元が今までのものと全く違う。フランスのレース展開とバ場の走り方をしっかり身に着けることを念頭に走ってこい」

「わかりました、トレーナー」

 

 弥生賞では、皐月賞の前哨戦として中山レース場のコース形状や仕掛け所を見極める目的で走った。しかし、今回のニエル賞は彼女が初めて経験する日本国外の、そして日本のものとは別物と言っていいほどに質の違う洋芝を走る感覚を覚えるために出走する。

ある意味、一からレースを経験するために走るようなものかもしれない。海外遠征の鬼門の一つである現地のバ場への適応、このレースでは、勝利以上にそれを重視して走ることを考えるように言われた。もちろん勝つことも視野に入れて。

 

―――

 

 ロンシャンのパドックは日本のそれとは少し異なる。スタンドを向いて多くの観客に見えやすく、そこそこ近くまで近づける日本のパドックに対し、ロンシャンのパドックはスタンドを向いていない。また周辺には草木が生い茂り、風が吹けば葉の擦れる音もよく聞こえるほどである。

 

「(本当に森の中にいるみたい……)」

 

 まさに森を開拓して整備されたレース場という印象を受ける。敷地のあちこちが森林のスポットのような暖かみを覚えるほどに、周囲に緑が整えられている。

 

 その舞台で彼女が挑むは欧州の名だたるクラシックウマ娘たち。出走すれば最大の脅威と目されていたウマ娘はアイルランドのGⅠレースを狙いに行ったため不在だが、その出走ウマ娘の誰もがGⅠ級と呼ぶに相応しい実力を携えている。欧州における自身の力量を量るにはもってこいのレースと言えるだろう。

 彼女に付された番号は「5」番。順番を待っていると、自身の前、チェコから参戦した4番のウマ娘と入れ替わりに3番のウマ娘が戻ってくる。そのウマ娘はこの1週間、寮生活でいろいろと世話になっているキロピゴッツィ。前走にてGⅠ2着という好成績を修めている彼女もまた、このレースにおける強大な壁の一つだ。

 

『昨日はよく眠れた?』

『おかげさまで。フランスの食事は美味しいからついつい食べ過ぎちゃうわ』

『それはよかったわ。でも食べ過ぎで太ってうまく走れませんでした、なんてことは言わないわよね?』

 

 キロピゴッツィは彼女のお腹を見ながら不敵な笑みを浮かべる。実際、フランスに来てから彼女は自身の体重が増えていることは自覚している。フランストレセンにはトレーニングに使うようなプールがなく、体重管理が難しいと思ってはいた。

 言葉に詰まり冷や汗をかく彼女に彼女は『やっぱりね』と言い残して去っていく。同時に4番のウマ娘がお披露目を終えて戻ってきた。次は彼女の番である。ゆっくりと歩を進め、観客の眼前に自身の姿を現す。

 

『ほお、彼女が――』

『日本のダービーウマ娘ね。なるほど、確かに悪くない――』

 

 フランスのレースファンの反応は悪いものではなさそうだ。自身の調子を見せるためにポーズを決め、己が能力を知らしめんとする。観客から歓声が上がったことを確認し、カーテンをくぐって通路へ戻った。

 

―――

 

『クラシックウマ娘の凱旋門(L’Arc de Triomphe)への足掛かり、ニエル賞が始まります。今年は極東のダービーウマ娘がその手に勝利を掴まんと参戦しました! 日本ダービーで見せたその末脚はここフランスでも炸裂するのか!?』

 

 ニエル賞発走が目の前に迫り、本バ場入場が始まった。

コースに入った彼女は、その芝の踏み心地にまず驚く。

 

「すごく柔らかい……。足跡が芝を超えて土まで残るほどなんて……」

 

 現地発表は『SOUPLE』、日本で言うなら『重』にあたる表記だが、実際には不良と言ってもいいほどの感触だ。足を上げるために相当のパワーを使うため、それを維持するスタミナが求められることとなる。つくづくプールトレーニングの重要性を感じるものだ。フランスにプールがないのが惜しまれる。

 バ場を踏みしめ、自分のゲートへ向かう。フランスは自身に付された番号と同じゲートに入るわけではない。出走ウマ娘としての番号は『5』。彼女のゲート番号は「7」。今レースの出走人数は7人なので、彼女は大外枠に配置されたということになる。

 ゲートの中は日本のそれと変わらない。息を吸って、吐く。このコースの走り方をしっかり自らのものにし、1か月後の本番、凱旋門賞にて確実に勝利を修める糧とする。レースの目的を確認し、目を開け、スタートの体勢を取る。

 

『今年度は4か国のウマ娘が集結して行われることとなりましたニエル賞、どのような結果になるでしょうか。

全ウマ娘ゲートに収まり――今、スタートしました!』

 




短くて申し訳ないです。
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