目の前の勝利を追いかけて   作:後藤 カルム

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この辺りの描写は難しいです。


まず一冠 ―皐月賞―

 ゲートが開き、全ウマ娘が一斉に飛び出した。

右も左も一目散に前を目指す。あっという間にほとんどのウマ娘を前に見る形が出来上がる。

 

『大外から16番前に行く。先頭をひた走るのは2番アビスアックス。14番リネアインへニオ、1番ルーカスが好位に落ち着いているか。その後ろには18番ソルスティスが控えます』

 

観客席の前を通り過ぎるとあっという間に第1コーナーを迎える。そこで後ろを走っていた2人のウマ娘が彼女の前へ躍り出て、第2コーナーに入る頃には最後方に位置していた。

 

「(前回は内側を維持して抜け道を塞がれた。ならば今回は大外を一気に捲りに行く!)」

 

 直線が短く、コースの半分以上がコーナーで構成される中山2,000mの舞台。その点を考慮して弥生賞では比較的先団を位置していたが、その結果スパートのタイミングにバ群から抜け出せず、ゴール前に差し切れず終わった。

今回彼女が狙うのはその逆である。自身が先んじてスパートをかけ、誰にも邪魔されない大外から一気に駆け抜ける。コーナーが長い分走行距離も伸びてしまうが、日々プールトレーニングで鍛えたスタミナでカバーできる範囲と踏んだ。

 

「(とはいえ、思った以上に後ろの位置になっちゃったな)」

 

『中山巧者アビスアックス、やはりハナを駆けていきます。ソルスティスはリネアインヘニオ、ルーカスを抜いて早め5番手につきました! ジュニアGⅠ王者の1番人気「12」番は後方から2人目、先頭アビスアックスまで15,6バ身の場所に落ち着きました!』

 

 向正面に入った頃には先頭からかなり離れた位置取りになった。位置取り争いが激化している先団に対して、後方は残り1,000mを過ぎても大きな動きがない。

ペースはそれほど速くない。スタミナも問題ない。ならばこのままそっと大外を回ってしまおう。

 そこまで考えたところで第3コーナーに入る。コーナーで外に膨らむのは走る距離が長くなるためあまりいいことではないが、スパートをかけるための距離稼ぎと思うことにしよう。どのみちこの位置で直線まで待っていては間に合わないのだ。

 

 外に進路を切り替える。中段へ差し掛かろうというところで、2人のウマ娘が外側に膨らんだ。

 

「(くっ、また進路が……!)」

 

しかし前のウマ娘が自分のほうを気にしている素振りはない。彼女の進路を塞ごうと膨らんだ様子ではなさそうだ。つまり、作戦が被ってしまった。

ここまで来たら多少の距離は関係ない。より大外へ進路を取りつつ、前方の動きを注視する。

 

『最終コーナーから直線へ入る! ペースを作ったアビスアックス、それについていく2人のウマ娘、そしてルーカスは最内を選択する強気の走りだ!』

 

 コーナーが終わる頃、彼女の目の前には綺麗な芝が広がっている。それまでのレースで走られることのなかった綺麗な足元に蹄跡を埋め込む。それだけの距離を走らされてしまった上に、直線に入る頃まで順位はほとんど変わっていない。

 

『大外から「12番」上がってくる!

さあ、栄えある一冠目は団子状態で広がった!

先頭は僅かにアビスアックス、そしてルーカス!』

 

「(間に合えぇ……っ!!!!)」

 

 残る力の全てを蹄鉄へ。一歩でも前へ、脚の回転を速めていけ。

内ラチにいる後続集団がじりじりと前へ進んでいく様子を右に見つつ、前を目指す。

 

『内側にルーカス、アビスアックス! 外からソルスティスとリネアインヘニオが被せに来る! 大外から「12」番! 大外「12」番!!』

 

 残り200mのハロン棒を過ぎたところで中団が並ぶように近づいている。外ラチで先頭集団に追いついたリネアインヘニオまでは目と鼻の先だ。

 

「(ここまで来た! ここまで来た! 頼む! 間に合ってくれ!

あと少しで、あと少しで先頭なんだ! あと少し――!)」

 

『しかし! ソルスティスか!? リネアインヘニオか!? 「12」番は間に合わない!

ソルスティス! インヘニオ! 

一冠目皐月賞は14番「リネアインヘニオ」だー!!!!』

 

―――

 

全速力で駆け上がった最終直線。すべての力と想いを込めて駆け抜けた310mは、しかし間に合わず、彼女がゴール板を通り過ぎたのは3番目であった。

 

脚の回転を緩めてスピードを落とす。今度こそ勝つつもりだったのに、前回よりも着順を落として終わってしまった。

もう1テンポ早く進出していれば、進路を塞がれることなく、間に合っていた可能性もあった。タイミングを見誤り、自身のフィジカルを最大限に発揮できなかった。

 

「残念だったな」

 

トレーナーに声を掛けられ、自ずと下を向いていた顔を上げる。気が付けば自分がいたのはターフの上ではなく控室だった。茫然自失としていた彼女は無意識にその足を動かし、控室へと戻っていた。

 

―――

 

「レースの展開は悪くなかったと思います。遅くなった展開に対応できず、後ろにい続けてしまったのが敗因、ですよね」

「そんなところだな。とはいえ、最後の上がりタイムは全出走ウマ娘の中で最速だった。力を発揮しきれなかったのは勿体ないが、力は見せたと思う」

 

 一冠目は逃してしまったが、気持ちを切り替え、次に繋げる。一か月もすればクラシック二冠目『日本ダービー』が目の前に控えている。

負けはしたものの、最速の上がり脚を見せたこと、その上で前が残りやすい中山の舞台で唯一後方集団から掲示板に入ったことから、世代の最強に相応しい実力を持っていることは十分に示せている。

さらに二冠目の舞台は東京レース場。最後の直線が長く、末脚勝負が活きるこの舞台は、まさに彼女の舞台と言って差し支えない。

 

「改めて思ったが、今年のクラシック戦線は粒揃いだ。しっかり鍛えておかないと、また足元を掬われるだろう」

「ビシバシ鍛えてください。次こそは……勝ってみせます」

 

 次走に向けて決意を固める彼女。しかしその表情は今までのような気合いに満ちたものではなく、覚悟を決める様な、冷たい表情。それを見たトレーナーは一抹の不安が胸をよぎるも声に出すことはなく、共に中山レース場を去った。




有馬記念は本当に素晴らしいレースでした。
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