神様は純愛過激派   作:NTRアンチ純愛過激派

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プロローグ―2

 

 

 

 順風満帆な高校生活はまだまだ遠い未来になりそうだ。

 なんて、夢見る青春から遠ざかりつつある現状に佐藤優太は嘆息する。遠い目で教室から青空を見上げた。今朝は胸を高鳴らせる要因となり得た晴天も今では憎たらしく思える。

 

 あれからクラスメイトと碌な会話も出来ず放課後を迎えてしまった。放課後、といっても今日が入学式である為に、学校生活についてのガイダンスだけだった為にまだまだお昼盛りではあるのだが。

 

 既にグループは出来ているらしく、殆どの生徒が二人組以上の集団で教室を去っていく。佐藤優太は腫れ物を扱うかのように視線さえ向けられたものの、誘われる、ということは一度もなかった。悲しい現実だ。

 

 最も腫れ物扱いを受けているのは先程明らかな問題行動を起こしたアマツカも同じだった。

 彼も佐藤優太同様に誰からも声をかけられていなかった。まぁアマツカに限っては見た目が不良すぎて声を掛けにくいという一因もあるだろう。人ひとり殺してそうな目付きをしているし。

 

 彼はガイダンスさえも寝て過ごした。隣の席だからよく分かった。今も起きたばかりで大きな欠伸をしている。寝不足だろうか。

 

 あの後、彼はガイダンス開始から五分ほどで戻ってきた。担任教師からお咎めの言葉を受けていたが、何処吹く風か聞き流していたように思う。担任の方も若い女性教員、それも佐藤優太たち新入生と変わらない程に幼い印象の小動物だった。目に見えてアマツカに怯えていたのは少し可愛かったな、と佐藤優太は頬を緩ませながら思い出す。

 

 ―――教師からも腫れ物扱い、流石だよアマツカくん。このまま僕ら二人で腫れ物同盟を組もうぜ。

 

 なんて不名誉な同盟を勝手に結びながら携帯端末を弄るアマツカに視線を向けた。

 

「⋯⋯どうした佐藤」

 

「いや⋯⋯」

 

 アマツカと目が合う。

 特にこれといった用事はないが、これはチャンスなのでは? と考える。同じ小学校出身、同じく腫れ物で友達もいない二人、友達になるとしてはうってつけだろう。

 ここはそうだな、食事にでも誘ってみるか。佐藤優太は決意した。

 

「⋯⋯この後、お昼ご飯一緒しない?」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯する」

 

 えらく間があったな、と少し傷つきながらも内心は小躍りしていた。

 心の内のデフォルメ佐藤優太が踊り狂っている。オクラホマミキサーを踊っていた。

 なんでだよ。

 

 ともあれ、アマツカと昼食を共にすることになったのは僥倖だ。

 

 

 

 7/3

 

 

 

 その後、下校の誘いを相浦玲香と小鳥遊志帆から頂いたが丁重にお断りした。それなら同行する、との事だったが相手がアマツカであることを知るとあっさりと諦めた。去り際に友達は選びなさい、なんて母親ヅラをされたのが解せない。

 どう考えても僕の方が上だろ! と妹分の保護者ヅラに憤りながら、アマツカと近場にあったファミレスに入店した。

 お腹も空いてたので速攻で注文をして、他愛ない思い出話に花を咲かせていたのだが⋯⋯。

 

「⋯⋯それ、マジで全部食べるの?」

 

「あぁ、これくらい食わねぇと身体が持たないんだよ」

 

 アマツカの目の前に並べられたのは六人分の定食だった。しかも全てライス大盛りである。四人がけのテーブル席だったため広いはずの卓上も手狭に感じるし、何より佐藤優太の領域にまで侵食されていた。

 

「もしかして毎回この量?」

 

「そうだが?」

 

「食費、どうしてるの?」

 

「⋯⋯貰ってる」

 

 い、いかれてるよ。エンゲル係数がたった一人で大家族だよ。少なくとも佐藤家では軽く破産してしまう。

 

「そう言えばアマツカくんの実家って大地主だったよね」

 

「いや、実家とは絶縁してる」

 

 闇深すぎる。突然、追尾式地雷を仕掛けるのはやめてもらいたい。こんなの避けようがないだろ! 

 ん? 待てよ。

 

「⋯⋯え、じゃあどうやってやりくりしてるの?」

 

「⋯⋯」

 

 深い沈黙の後、アマツカは観念したかのように嘆息しながら零す。

 

「女に養ってもらってる」

 

「⋯⋯えぇ、ヒモじゃん」

 

「ばっ、違うっ。俺も返してるんだよ! その分だなぁ!」

 

「リターンのあるヒモじゃん」

 

「だから違うって! そんな目で見るなっ」

 

 まぁ高校生なのだから厳密にはヒモでは無いと思うが。保護者と言えばそれまでだし。しかし、アマツカもこんな顔をするんだなぁ、と意外な一面を見れて役得だった。

 羞恥からか、顔を赤くするアマツカを見たことあるのは佐藤優太だけだろう。小学生の頃は今よりも活発であったがクールなイケメンだった為、このように動揺する姿は見たことがないのだ。

 

「まぁ冗談だよ。⋯⋯因みにお相手はいくつなの?」

 

「⋯⋯わからん。新卒だのどうこう言ってたから二十前半だろ」

 

「とんだプレイボーイだね」

 

「違うって言ってるだろ⋯⋯」

 

 弁解を諦めたのかアマツキは深いため息を吐いた。正直な話、まだ彼女の一人も出来たことの無い佐藤優太としては遠い世界の話である。

 どこでそんな相手を見つけてくるのか興味を引かれるが、あまり触れて欲しくなさそうな感じなので、追求はやめる。

 

「それで、なんの要件だ?」

 

 ステーキ定食を平らげた目の前の不良が鋭い目付きを向けてくる。あと三人前は残っているが、まだまだ余裕そうだ。残るのは唐揚げ定食とハンバーグ定食、そしてスタミナ定食である。見てるだけで胃が重くなってきた。

 

「別に用なんてないけど」

 

「⋯⋯は?」

 

 ポテトをつまみながらあっけらかんと佐藤優太が告げると、アマツキは信じられないものを見る目を向けてきた。

 

「用がなくてもご飯ぐらい一緒に食べるでしょ」

 

「本気で言ってんのか?」

 

 こいつ正気か? みたいな視線はさすがに心外である。

 

「だって友達でしょ僕ら。友達ならご飯ぐらい普通に食べるじゃん」

 

「友達⋯⋯」

 

「え、もしかしてそう思ってたの僕だけ!?」

 

 噛み締めるように呟いたアマツキに佐藤優太は動揺を隠せない。

 この言いようのない焦燥と羞恥心はなんだろうか。クラスメイトに手を振られ、思わず振り返したら後ろにいた人に向けたものだった時のような感じだ。あれは心が折れそうになったよ。しかも女子だったから尚更。

 あの時の「誰だよこいつ」みたいな視線は忘れられない。

 

「そうか、友達か」

 

「なんかアマツキくんって厨二病臭くなったね」

 

「ぶっ飛ばすぞ」

 

「おーこわいこわい」

 

 誰もいない教室で一人窓際で黄昏れる。そしてこう零すのだ、「孤独、か」ってね。想像しただけで鳥肌が立ってきた。

 因みに今のは実体験である。相浦玲香に目撃され一ヶ月近くネタにされた悲しきアンタッチャブル。思い出したら吐き気がしてくるぞ。

 

「⋯⋯」

 

 唐揚げ定食を胃袋に収めたアマツキがおもむろにブレザーを脱ぐ。露になったカッターシャツに思わず目を奪われた。

 

「うわぁー」

 

「なんだよ急に」

 

 サイズが間違ってるのではないか、と邪推してしまうほどにカッターシャツはパンパンだった。高校生の肉体とは思えない程に隆起した筋肉。張り詰めた胸板。太腿ほどある二の腕。シャツ越しに分かる腹筋。

 アスリート顔負けの肉体美を誇る不良がいた。

 

「確か来週体力測定あったよね」

 

「そうなのか?」

 

「ガイダンスくらい真面目に聞きなよ。⋯⋯高校生の記録トップ塗り替えれるんじゃない?」

 

「あれは平均を図るテストだからトップだのなんだのないだろ」

 

「そうかなー。⋯⋯そうかも」

 

 体力測定―――いや体力テストだったか。

 佐藤優太は体力テストにあまりいい思い出を持たない。運動は嫌いでは無いし、苦手と言うより、得意な方ではあるのだが。理由としては相浦玲香の存在である。快活な彼女は、文武両道の才女である。学力において小鳥遊志帆には及ばないが、女子の中ではいつもトップだった。

 幼馴染。切っても切れない縁。家がお隣さん同士ということもあり、家族間での交流も多い。それ故に、よく比較される。ただそれだけでしかないが。

 

「そういえば、アマツカくんの家って行けるの?」

 

「⋯⋯別にいいが、何も面白くないぞ」

 

「一人暮らしって憧れるからさぁ、どんな感じなのか見てみたいんだ」

 

「大抵の人間は一人暮らしに夢を見るが、実際してみると親元がどんなに楽だったか思い知るだけだぞ」

 

「やっぱりそうなの?」

 

「俺の場合は自炊できるから大して何ともなかったが」

 

 遂にスタミナ定食が消えてしまった。ピッチャーの水をグラスに注いでは飲み干すを計五度繰り返すと息を吐く。

 その様を最後のポテトをつまみながら眺める。どこか達観した様子が伺えるが、佐藤優太にはその内心を読み取ることなど出来ない。

 

「仕送りがないならどうやって家賃払ってるの?」

 

「⋯⋯」

 

「プロだなぁ」

 

「もういいよそれで」

 

 

 

 7/4

 

 

 

 紫煙が空に溶ける。

 ファミレスを後にして、二人は帰路についていた。奇しくも同じ帰り道であることが判明した。詳しくアマツカの住所を聞けば、佐藤家から10分も離れていない場所にあった。

 

「僕がハンバーグ定食とポテト一皿で千円以内だったんだよ?」

 

「そうだな」

 

「アマツキくんだけで六千円超えるってどういうことなの⋯⋯?」

 

「⋯⋯そうだな」

 

 あの後、信じられないことにアマツキは追加でサイドメニューを注文していた。頭がおかしい。

 会計時に見えた財布の中身には諭吉さんが少なくとも五枚はあった。これが顔面偏差値による格差社会なのか。正直見た目も相まってカツアゲによる利益にしか見えない。

 

「アマツキくん、随分変わったね」

 

「そうか?」

 

「中身は変わってないけど、やっぱり見た目の変化がすごいかなぁ。僕が知ってる君は何処に出しても恥ずかしくない優等生だったけど、今の君は何処に出しても泣く子も黙る不良だよ」

 

 大事に育ててたネコマタがセンリに突然進化したようなものだ。

 あれはあまりに唐突すぎて脳を破壊されかけた。「サラマンダーよりずっとはやい」とヨヨが言っていた時に近いものを覚えた。

 

「別に、煙草吸ってるくらいしか悪いことしてねぇと思うけど」

 

「まぁそれもそっか。アマツキくんの中身は変わらないし、僕の知ってるアマツキくんに変わりはない」

 

 佐藤優太の言葉にアマツキは僅かに微笑んだ。そして直後、それを誤魔化すようにタバコを口に近づける。

 なんてことのない日常の一幕。だが、佐藤優太にはかけがえのないもののように感じられた。

 

 

 

「ユータ」

 

 夕暮れ。春とはいえまだまだ日が落ちると肌寒い。

 アマツカの部屋を後にした佐藤優太は自宅の玄関前で呼び止められた。

 振り返ると隣の家の玄関前から相浦玲香がこちらを見つめている。

 

「レイカ、どうしたの?」

 

「別に、特に用とかないけど。⋯⋯部屋行っていい?」

 

「いいよ。おいで」

 

「⋯⋯ありがと」

 

 夕焼けを背に浴びる相浦玲香の表情は読み取れない。

 だが、佐藤優太の返事に喜色を浮かべているのはすぐに感じとれた。古い付き合いの妹分、憎まれ口を互いに叩き合うことは多いが何を考えているのかは通ずるものがある。

 

 相変わらず簡素で飾り気のない自室に相浦玲香を招き入れる。両親はまだ帰ってきていないみたいだ。

 

「飲み物いる?」

 

「喉乾いてないからいいわよ」

 

「そ、まぁ適当にくつろいでてよ⋯⋯言う必要ないか」

 

 既にベッドに腰を下ろしている相浦玲香を見てため息を吐く。まるで自分の部屋のように躊躇いがない様を見て何とも言えない気分になった。

 

「小鳥遊さんとなんかあった?」

 

「志帆とはなんにもない」

 

「じゃあ、僕?」

 

 問い掛けに首が横に振られる。小鳥遊志帆でもなく、佐藤優太でもない。なら、考えられるのは一人しかいなかった。

 

「アマツカくんのこと?」

 

 彼の名前を出すと相浦玲香の肩が僅かに跳ねた。相変わらずわかりやすい少女である。

 

「僕がアマツカくんと親しくしてるのが気に入らない?」

 

「そういうわけじゃ、ない」

 

「レイカは僕がアマツカくんと連むことに対して心配してるの?」

 

「⋯⋯ユータが仲良くしてるなら悪い人じゃないって思うけど」

 

「そっか。僕が周りからどう見られるかを心配してくれてるんだね」

 

 本当に優しい子だ。

 昔から彼女はそうだった。孤立していた佐藤優太に声を掛けてくれたのも相浦玲香で、虐めに近い扱いを受けていた佐藤優太を助けてくれたのも彼女だった。

 その優しさを知ってるからこそ、両親から、周囲から比較され劣等感に苛まれていた中学生時代も彼女を拒絶するようなことはしなかった。

 

 今でこそセクハラ紛いの発言をしてふざけているが、あの時は本気で彼女に対して醜い嫉妬を抱いていた。

 

 それでもなお、根底にある相浦玲香への憧れと、彼女自身の佐藤優太へ向けられた好意、そして優しさがいまの自分を確立させてくれた。

 

「大丈夫だよ、レイカ。確かにアマツカくんは悪い噂が目立つ人だけど、僕の友達なんだ。話せばレイカも仲良くなれると思うよ?」

 

「でも、あの怪我みたでしょ? どうみたって喧嘩した後じゃない」

 

「どうしよう。擁護できないよアマツカくん。⋯⋯まぁたしかに喧嘩してるよね。うん。そこはちょっと僕も否定できないかな」

 

「じゃあなおさら―――」

 

「―――中身はアマツカくんのままだったよ。レイカもよく知ってる他人を思いやって、周りをよく見て、傷ついてる誰かがいたら助けようとするアマツカくんのまま」

 

「⋯⋯」

 

「なんだかレイカそっくりでさ、僕は好きだな」

 

「ッ!」

 

 相浦玲香の頬に赤みが刺す。

 佐藤優太は自身の言葉を彼女がどう受け取るのかよく理解している。彼は鈍感系主人公でもなければ、意図的に難聴を演じてる系主人公でもない。

 長い付き合いだ。それこそ、幼稚園児の時から、もっと言えば赤ん坊の時からの付き合い。

 

 相浦玲香が佐藤優太に好意を抱いていることなど、手に取るようにわかる。そして、それを嬉しく思っている。

 

「ありがとう、心配してくれて。ごめんね、心配させちゃって」

 

「私も、勝手にユータの友達を悪く言っちゃってごめん、なさい」

 

「いつも気丈に振る舞ってるから忘れそうになるけど、レイカは涙脆いね」

 

 彼女の隣に腰を下ろし、親指で涙を拭う。頬に添えられた手に相浦玲香の手が重なる。

 

「いつもの、して?」

 

 そう言って両手で求めてくる彼女に不覚にも胸がときめく。

 割れ物を扱うように、優しく抱きしめる。

 

「⋯⋯」

 

 そうして、どれくらい時間が経っただろうか。一分にも、十分にも感じられる一時。このまま時間が止まってくれればいいのに、なんて詩的な思考が浮かぶ程に佐藤優太も浮かれていた。

 窓から差し込む夕焼けのせいか、頬が暑く感じる。

 

 いつもツンデレヒロインの如く気丈な彼女が、自分にだけ見せる一面。甘えたがりで、泣き虫で、そしてこんなにも愛らしい。

 

 だが、けれども、佐藤優太は一線を踏み止まる。

 

 佐藤優太は恋を知らない。

 自分が彼女に対して、相浦玲香に対して抱いているこの感情は何なのか。

 

 ―――長年の付き合いである身内に向ける親愛か、妹分に向ける家族愛か、それとも可愛い彼女に対する薄汚い性欲か。

 

 佐藤優太は恋を知らない。

 これが、この感情が本当に恋と呼べるのか。

 

 その時まで、一線を超えることはないだろう。

 大切であるが故に、相浦玲香を傷付けたくない。

 

「⋯⋯ありがと」

 

「どういたしまして」

 

 満足したのか、相浦玲香は立ち上がった。そして佐藤優太へ背を向けて、ドアノブに手をかける。

 彼女の後ろ姿を見送る自分へと振り返り、天使のような笑みを浮かべ言い放った。

 

「―――だいすきっ」

 

 告げられたその言葉に放心する。

 分かっていた、分かりきっていたことだ。

 

 だが、女神のような笑顔を見て、恋する少女の告白を聞いて、脳が焼けそうになった。

 

「⋯⋯ずるいなぁ、ほんとに」

 

 走り去る足音にそう返した。

 嬉しさと照れ臭さが混じり体温が急上昇する。ベッドに仰向けに倒れると、真っ赤になった顔を隠すように腕を交差する。

 

 

 

 ―――これが恋でなければ、なんだというのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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