神様は純愛過激派   作:NTRアンチ純愛過激派

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週一投稿とはなんだったのか⋯⋯



プロローグ―3

 

 

 

 7/5

 

 

 

「―――今日もいい天気だ。まるで、世界が僕を祝福してくれてるみたいだなぁ」

 

 能天気な独り言。

 佐藤優太は浮かれた表情で目を覚ます。

 

 寝ぼけ眼を擦りながら、カーテンの隙間から窺える太陽の顔ばせに微笑みかける。見てご覧、お日様が笑ってるよ。

 夢から覚めていないのか、訳の分からない思考が浮かぶ程に彼は浮かれ過ぎていた。

 

 それもそのはず、佐藤優太が見た夢の内容はそれはもう至福の一時と言えるものだったからだ。

 数多くの友人に囲まれ、放課後にはグラウンドでサッカーをして、その帰りに最寄りのファストフード店で談笑する。そうして帰宅した佐藤優太を出迎えたのはエプロン姿の相浦玲香だった。

 

 今までの人生で最も多幸感に満ちた正しく夢のような一時だったのだ。

 

「まさかアマツカくんがオクラホマミキサー世界選手権で準優勝していたなんて⋯⋯」

 

 流石に夢と言えど、突拍子もない展開に流石に飲んでいたコーラを噴き出す羽目になった。悔恨の面持ちで、優勝出来なかったことを零されてしまうと絵面と言動に脳がバグるような気分になる。

 

 さて、いつまでも幻想に浸っている場合では無い。

 時刻は7時。早々に準備を始めないと始業時間に遅刻してしまう。

 昨日は腫れ物ボーイになってしまったせいで碌にクラスメイトとも会話が出来なかったが、まだまだ入学二日目である。

 

 佐藤優太、今日も友達作りの為に意気込むのだった。

 

 

 

「おはようユータ」

 

 玄関を出ると表札の前に相浦玲香が佇んでいた。

 朝日を浴びて煌びやかに輝く金糸のツインテール。4月と言えど、今朝はまだまだ肌寒い。僅かに赤らんだ頬に妙な色気を感じる。

 

「おはようレイカ。⋯⋯制服、似合ってるね。かわいい」

 

「ッ! ⋯⋯ありがと」

 

 素直に褒めてみると相浦玲香はふい、と顔を逸らした。

 羽織っているジャケットは深紅で彼女の髪色によく映えていた。ダボダボの袖から僅かに顕になった指先がツインテールの先端をくるくると巻いた。

 あからさまな照れ隠しに青春を感じる。

 

「今朝も寒いね。俺も上着着ようかなー。せめて手袋とかだけでもしてくるか?」

 

 四肢の先端が冷える。

 入学初日からファッション的に目立つ格好をする勇気がなくて、何も防寒具をつけてこなかった。今からでも取ってこようかな、と悩んでいると佐藤優太の目前に相浦玲香が歩み寄った。

 

 まだまだ育ち盛りであり、佐藤優太の身長は相浦玲香より一回り低い。いやこの場合は彼女の身長が高すぎるのだろう。

 球技大会の女子バレーやバスケットで毎年大活躍している彼女だ、成長期云々の前に将来的に佐藤優太が見下ろす日は来るだろうか。

 

「どうしたの?」

 

 必然的に目の前に決して豊満とは言えないが、それでも同学年の女子よりも豊かな双丘が広がる。視界いっぱいを覆い尽くす女体の神秘を目前に、何だか気恥ずかしくなり視線を逸らした。

 

 甘い柔軟剤の匂いが鼻腔をくすぐる。

 嗅ぎなれた香りではあるが、それでも異性として意識させられる程度には佐藤優太には刺激的だった。

 

「⋯⋯レイカ?」

 

 何秒経っただろうか。

 一向に動きを見せない彼女を不審に思い、視線を上に向けると頬を真っ赤に染め上げ、あらぬ方向に目を向けた顔が映る。

 数瞬の後、決心したように強く目を瞑ると佐藤優太の指先に体温を感じた。

 

「⋯⋯暖かい?」

 

 ほっそりとしていて、熱を帯びた柔らかい手のひらが指先を包み込む。意図せず彼女のジャケットの袖に佐藤優太の手も手首まで飲み込まれた。

 緊張からなのか、僅かな湿り気の正体に微笑ましい気分になる。

 

「うん。暖かいよ」

 

「えへへ、そっか」

 

 向日葵のような笑顔を浮かべる女の子。

 相浦玲香はどうしようもなく、佐藤優太の憧れだった。

 

「⋯⋯」

 

 どれくらい時間が経っただろうか。

 数分か、数時間か。或いはほんの一瞬の出来事なのかもしれない。そのように錯覚するほど、佐藤優太の心は揺らいでいた。

 

「レイカ、そろそろ行かないと遅刻するよ」

 

「―――ッ!」

 

 告げる言葉に彼女はハッとしたように手を引っ込めた。

 そしてまた、照れを隠すようにくるくると、ツインテールを指先で巻き始めた。

 あぁ、どうしようもなく自覚したい。

 

 佐藤優太はこれが恋だと自覚したくて、けれども分からなくて。

 情欲ではなく、純粋や恋心であって欲しいと願ってやまないのだ。

 

 

 

 7/6

 

 

 

「ところでアマツカくん、オクラホマミキサー世界選手権で準優勝とかした?」

 

「―――ッ!? ―――?」

 

 昼休み。校舎裏で煙草を嗜むアマツカにそう問えば、彼は一度大きく噴き出した後、理解不能と言外に表情で語った。

 

「―――お前は何を言っている⋯⋯?」

 

「え? いや心当たりとかないかなって」

 

「あるわけないだろ」

 

「そっか。いやそれならいいんだ」

 

 食い気味で返してきたアマツカに佐藤優太は神妙な面持ちで頷いた。

 所詮、夢は夢といったところか。あわよくば正夢、未来視のようなものであればいいなぁなんて考えていたがそんな訳はなかった。

 

「そう言えば、昨日アマツカくんとメンチきりあった四人組覚えてる?」

 

「メンチをきりあうってなんだよ。それでアイツらがどうかしたのか?」

 

「それが今日カラオケに誘われちゃってさ! もうウッキウキなんだよ! 腫れ物同盟の僕らに向こうから声を掛けてくれるなんて、これはもう友達獲得のチャンスじゃないかな!?」

 

「⋯⋯腫れ物同盟? いやまて、カラオケに誘われたのか?」

 

「そうそう! 放課後に友達とカラオケ! 高校生になったらやってみたいことの一つだったんだよね!」

 

「他に誰か誘ってたか?」

 

「僕だけみたいだよ」

 

 不思議そうに首を傾げる佐藤優太とは対称的に、アマツカは怪訝な表情を浮かべている。

 深刻そうに何事かを考え込んだかと思うと、徐ろに空を見上げ紫煙を吐き出す。天に昇ると春空に溶けて消えた。

 

「悪いことは言わないからやめとけ」

 

「どうして? アマツカくんともひと騒動あったから言いたいことはわかるけど、まだ彼らの為人も知らないのに」

 

「⋯⋯それもそうだな」

 

 アマツカが苦言を呈するように、彼らは良い人とは言えないだろう。相浦玲香と小鳥遊志保に対する異常なほどの食い下がり様を見るに、彼らは不純な動機を持っている。けれども、下心があったとしても彼らの行動は否定出来るものでは無い。彼女たちが明確に拒絶を示していたのに、それでもなお食い下がっていたことは、佐藤優太も肯定出来ないが。

 不純と言えど、下心丸出しと言えど、打算ありきと言えども、そこに僅かでも好意があるのであれば、佐藤優太には否定出来ないのだ。

 

 ―――かつて、そうして悲しませてしまったことがあるから。

 

 アマツカも、明確な意志を持って彼らの誘いに乗ろうとしている佐藤優太を見て、考えを改めたようだった。

 

「あっ! そうだ!」

 

「⋯⋯今度はどうした」

 

「僕ら腫れ物同盟に友達ができるチャンスなんだ! アマツカくんはどうする!?」

 

「まて、腫れ物同盟って俺もか!?」

 

「そりゃそうさ! 入学初日から誰一人に声もかけてもらえなかった僕らは1年E組の腫れ物じゃないか」

 

「やめろそんな不名誉な同盟」

 

 不名誉なんて失礼な。

 佐藤優太はアマツカと同様の扱いを受けていることにむしろ感激しているのだ。小学校時代のクラスの中心人物、所謂憧れだった人と同じ扱いなのだ。喜ばない方がどうかしてる。

 まぁ、佐藤優太もたった一人だけ腫れ物扱いを受けていたのならば、今も尚落ち込んでいただろうが。

 同盟、なんていい響きだろうか。僕ら二人はオクラホマミキサーで世界大会優勝という夢があるのだ! 

 

 瞬間、佐藤優太の脳内を巡る存在しない記憶―――。

 

「唐突に回想に入るな」

 

「うぉっ! 心が読めるのかアマツカくんっ」

 

「顔見りゃ分かる。明らかに上の空だったろ」

 

 ゲンナリした顔で煙草を咥えるアマツカに対して、佐藤優太の表情は明るい。それもそうだ。このまま、アマツカとふたりぼっちの青春というノーマルエンドを回収しようとしていたのだから、友達獲得のチャンスに喜色を隠しきれないものだ。

 それはそうとして―――、

 

「アマツカくんも一緒に」

 

「いかない」

 

「はやいよねぇ。サラマンダーよりずっと早かったよ」

 

「サラマンダー? ⋯⋯何を言ってるんだお前は」

 

 煙草の火を携帯灰皿で掻き消すアマツカは理解不能な生物を見る目をしていた。解せない。

 

 

 

 放課後、佐藤優太は学校近くのカラオケにいた。

 ホームルームが終わると同時に件の四人組が早々に佐藤優太の元へ訪れ、あれよあれよという間にこうしてカラオケに連行されたわけだ。

 せめて、相浦玲香たちには事情を説明しようと思っていたのだがそんな暇を与えないかのように急ぎ足で移動を終えた。彼女たちは既に帰路に着いているだろうか。もし一緒に帰るつもりだったのであれば申し訳ないことをしたと思う。

 

「いやー! 佐藤くんが誘いに乗ってくれてよかったよ! まじで俺たち他に誘いに乗ってくれる人いなくてさー! 友達も出来ねぇーでやんの!」

 

「同中だから四人でいれるけど、流石に高校でも友達作りたいじゃんかー?」

 

「マジ感謝!」

 

「これからも仲良くやろーぜ!」

 

 矢継ぎ早に彼らは大きな声でそう言い放つ。

 ゲラゲラと品性の欠片も感じない笑い方だが、軽快な口調と明るい言い草は佐藤優太からしても好印象だった。

 

 彼らは同じ中学出身らしく、曰く遊んでそうな見た目をしているせいで、第一印象から警戒されてしまい友達も碌に出来てないとの事だった。「遊んでんのは事実なんだけど!」と四人で爆笑していたのは記憶に新しい。

 

 それにしても他に客の気配が無かったのが不思議だった。いくら平日の夕方前の時間と言えども、他に客がいてもおかしくないはずだ。

 

 彼らはそれぞれ、色黒の金髪がリュウヘイ。細身の黒髪がマサト。ふくよかな体型の金髪がソウダイ。長身で筋肉質なのがヨシヤというらしい。

 愛称がそれぞれ、リュー、マサ、ソーダイ、ヨッシーというそうだ。The友達って感じがして羨ましい。

 

 最初にマイクを取ったのはリーダーシップのあるリュウヘイだった。

 

「よーし、じゃあトップバッターとしてここは盛り上がる曲を行こうかな!」

 

 そう言って彼は最近の流行りのドラマの主題歌を歌った。普通に上手くて驚嘆する。

 

「リュウヘイくん、歌上手いね」

 

 隣にいたヨシヤにそう声を掛けると、彼は口角を上げ笑う。

 

「そりゃめちゃくちゃ練習したからなぁ。あいつ女の子を歌で堕とすとかいって俺らを毎日のようにカラオケに付き合わせてたんだぜ? こっちはいい迷惑だったよ」

 

「へー! 凄いなぁ」

 

「因みになんで歌なのかっていうと、遊んでそうな男のバラードはクソかっけぇとか言ってな―――」

 

「おいっそんなことバラすなよ! 恥ずいだろ!」

 

「わりぃわりぃ! でもかなり好印象だぜ」

 

「マジ?」

 

「うん。凄く上手だと思う! 思わず聴き入っちゃった」

 

 佐藤優太の素直な飾らない賛辞に、リュウヘイは顔を赤くしながら視線を逸らした。

 その様を見て他の3人が同時に噴き出す。

 

「おい見ろ! あいつ照れてるぞ!」

 

「耳まで真っ赤だぜ! おめぇーはリンゴかー?」

 

「褒められなれてねーのがわかりやすいな。童貞臭い」

 

「てめぇらいい加減黙れ!」

 

 唾を飛ばす勢いで怒鳴るリュウヘイに、三人のヤジは更にヒートアップする。その様を見ながら、佐藤優太も自然と笑みを浮かべていた。

 為人は実際に話してみないと分からない。第一印象や噂や陰口では、その人間が何を考え、信条としているのか。性格や趣味嗜好といったものも分からないままだ。

 現に、こうして佐藤優太は彼ら四人が好ましい人間だと知った。

 

「おい、何笑ってんだよ佐藤くん! くっそー! てめぇらのせいで俺がいじられキャラみたいになってんじゃねぇかよ!」

 

「実際そーだろ」

 

「ちげーよ! 死ね!」

 

 笑いの絶えないカラオケルーム。これこそ佐藤優太が夢にまで見た青春、その一幕なのでは無いだろうか。

 それを噛み締めるかのように実感し、にやにやが止まらない。「むふふ」なんて普段はしないキショい笑い方までしてしまう。

 

 

 

「で、佐藤くんはどーなのよ」

 

 それぞれが曲を順番に歌い、二巡した後、不意にソウダイが神妙な面持ちで切り出した。

 

「なにが?」

 

 意図を汲み取れず首を傾げる佐藤優太だったが、今度はマサトがニヤニヤと口角を上げた。

 

「そりゃ決まってんだろ。相浦さんと小鳥遊さんだよ」

 

「二人がどうかしたの?」

 

「鈍いなー! 今日日鈍感系は流行らねーぜ?」

 

 ヨシヤがサービスドリンクのコーラを飲み干してそう零した。

 うんうんと、それに追従するように頷く三人。

 

「うーん、聞きたいことはよくわかんないけど。レイカは幼馴染で、小鳥遊さんはレイカの友達だよ」

 

「付き合ったりはしてねーの?」

 

「つ、つきあうってその、交際関係のことだよね? 僕らはそんな関係じゃないよ!」

 

「へー、そりゃ残念」

 

 心底落胆したようにため息を吐くリュウヘイに、気分を害すようなことを言ったかと、佐藤優太は不安を抱いた。

 

「でもどう見ても相浦さんは佐藤くんのこと好きでしょ。小鳥遊さんはともかく」

 

「だよなぁ! あの感じはぜってぇーそうだわ!」

 

「佐藤くんは気付いてねぇーの?」

 

 すごくセンシティブな話題だ。佐藤優太としてはあまりこういう話はしたくは無い。彼にとって、相浦玲香との関係は複雑な気持ちを孕んでいる。明確な好意を向けられ、それでも自身の至らなさ故に保留を続けるという最低さ。自己嫌悪と罪悪感。そして、相浦玲香に好意を向けられているという優越感と純粋な喜び。

 佐藤優太には言語化出来ない複雑なものなのだ。

 

「⋯⋯レイカが僕に好意を抱いてくれてるのは分かってるよ」

 

「おっ、なんだ気付いてんじゃんかー!」

 

「でも、それでも僕は―――」

 

 不意に凄まじい眠気に襲われた。

 急激に意識が遠のく感覚。制御出来ない肉体。

 

 佐藤優太の意志とは関係なく、瞼が降りてくる。

 

「わかってて付き合ってねぇーのなら俺らが貰ってもいーってことだよなぁ」

 

「⋯⋯そう、かな」

 

 薄れゆく意識。

 既に彼らが何を言っているのかも分からない。なんとか、言葉を返そうと努力をするが―――、

 

「正直、人から女奪うのが一番興奮すんだよ。レイカちゃんがてめぇのこと好きなら最高だぜ」

 

 

 

「まぁ安心しろよ、テメェにもやってるとこいずれ見せてやっからさ」

 

 

 

 7/7

 

 

 

 佐藤優太が深い眠りにつくのを見届けた四人は、彼の携帯端末に手を伸ばした。彼の入眠と同時に音声機器の電源は切っている。

 

「しっかし、先輩から貰ったコレ、とんでもねぇ効き目だよな」

 

「おい、間違っても飲むなよ」

 

「飲まねぇーよバカが」

 

 先程までの楽しげな雰囲気とは打って変わって、悪意に満ちた下卑た空気が蔓延する。

 取り出した煙草に火をつけ、四人は携帯端末からお目当ての連絡先を見つけた。

 

「あったあった。よし、これでレイカちゃん呼び出すぞ」

 

「好きな相手から意味深な感じで呼び出されたら、飛んで来るだろ」

 

「恋に盲目なバカ女にはこういうのが効果覿面だよな」

 

「どうせ逃げらんねぇし、このバカも起きねぇからここでやっちまおーぜ」

 

「いいなぁそれ。好きな男の前でレイプされるのってどんな気分なんだろーなぁ」

 

 四人とこのカラオケの店主はグルである。

 それもそのはず、彼らと店主は先輩後輩の関係にあり、この店は女を呼び込み、乱暴を働くのにうってつけの場所なのだ。

 彼らの被害者は多く、それ故に噂も真実味を帯びている。

 

「よっしゃ! じゃ送るぜー?」

 

「カウントダウンいくかぁ?」

 

「んじゃ三秒前!」

 

 携帯端末を天高く掲げたリュウヘイが喜色を浮かべて叫ぶ。周囲もそれに呼応して、カウントダウンを繰り返す。

 

「二秒前!」

 

「一秒前!」

 

「いきま―――」

 

 そして、そのカウントがゼロになり、リュウヘイの親指がメッセージの送信ボタンを押す直前、それは起こった。

 

 ガシャンと乱暴にカラオケルームの扉が開かれるのと同時に何がが室内に投げ込まれる。

 

「―――は?」

 

 投げ込まれた何かは店主だった。

 まるでハンマーで殴られたように顔が歪み、腫れ上がっている。既に意識は無いのか、呻くことすらなく死体のように倒れ伏していた。

 

「―――え、なにが」

 

 店主の無事を確かめようとソウダイが扉の前に近付くと同時に、目にも止まらぬ速さで伸ばされた腕がその首を掴みあげた。

 ぐうぇ、と潰れたカエルのような声が室内に響く。

 

「え、は?」

 

「なに?」

 

 ソウダイの足が浮いている。とんでもない力で持ち上げられている。

 決して筋肉質ではないがそれなりに脂肪を蓄えた巨漢とも言える彼が片腕で持ち上げられている。

 その光景の異様さに、ほかの三人はただ見ていることしか出来ない。

 

 ゆっくりと姿を現したのは、リュウヘイたちよりも不良らしい不良だった。黒髪のツーブロック、耳に付けられた三対の黒いリングピアス、ワイシャツが引きちぎれそうな程に隆起した肉体、そして殺意しか感じられない鋭い目付き。

 見下ろすように三人を睨みながら、男は空いた片手で扉を閉めた。ガチャりと鍵が締まる。

 

「ガッ―――」

 

 同時にソウダイを振り上げ、床へとたたき落とす。

 とんでもない速度で叩きつけられたソウダイの肉体が軋み、大きな鈍い音と揺れを齎した。

 

 

 

「―――あれ、アマツカくん?」

 

 寝ぼけ眼を擦りながら佐藤優太は、目の前で煙草を吸っている男子生徒に声を掛けた。未だ意識は朦朧としているが、男子生徒がアマツカであることは認識出来ていた。

 

「よぉ、よく眠れたか?」

 

「うん、ごめんねなんか寝ちゃってたみたいで。⋯⋯リュウヘイくんたちは?」

 

「何言ってんだ?」

 

「え? だって僕は彼らとカラオケに―――」

 

「まだ寝ぼけてんのかよ。お前がどうしてもって言うから俺とカラオケに来たんだろ?」

 

「あれ? そうだっけ?」

 

「それなのに随分とまぁぐっすりだったこと」

 

「あはは、ごめんね。慣れない環境で疲れちゃったのかなぁ」

 

「ま、何でもいーが、お前はやっぱり不用心だな」

 

 アマツカは苦笑しながら、未だ寝ぼけている佐藤の額を指で弾いた。

 

 

 

 

 




プロローグを漸く投稿出来たので、少しストックを貯めつつ、今後も週一投稿を目指して頑張ります。(出来るとは言えない)
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