魔女姉妹の転生長女は自己犠牲を厭わない   作:書鳳庵カルディ

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第八話 都市デート

 家への帰り道を歩きながら、私はブロンティのことを衛兵に報告するか悩んでいた。

 私は彼女の提案を断ったが、彼女の計画が実現すれば、魔女たちにとってより良い世界になるというのもまた事実だったからだ。

 

 しかし、やはりブロンティの計画を肯定することはできない。

 魔女の反乱によって民衆が死ねば、民衆の怒りの矛先が魔女の妹たちにも向かうのは明らかだ。

 それを考えると、悪いが彼女には捕まってもらわなければ。

 

 そう考えた私は寄り道をして衛兵の詰所へと向かい、先ほどまでの出来事を衛兵に話して、大量殺人事件の犯人は恐らくはブロンティだろうということを報告した。

 これですぐに捕まればいいのだが……ブロンティの話が真実だとすると、彼女は戦争を戦い抜いた猛者のようだから、そう簡単には捕まらないだろう。

 衛兵たちには、なんとか頑張って欲しいところだ。

 

 それから、諸々の用事を終えてようやく家に帰ってくると、へカーティが私のことを出迎えてくれた。

 

「お帰りなさい、ウールギア姉さん。今日はいつもより遅かったですね」

「そうね。新しく用事ができたから、それを処理するのに時間がかかったわ。それで、何か用?」

「いえ。用という用があったわけではないのですが、明日は姉さんとのお出かけの日ですから、それが間違いでないか確認したかったのです」

 

 玄関先で、へカーティはそう言って優しく微笑む。

 確かに、明日は彼女と共に外出をする約束をしていた。

 姉さんと一緒に洋菓子を食べに行きたいだとか、そんなことを言っていた気がする。

 

「それなら合っているわ。明日に向けて、少し準備しないとね」

「はい。特に姉さんは服装に無頓着ですから、私たちでおしゃれをさせてあげないといけません」

 

 笑顔のままへカーティにそう言われて、私は思わず苦笑いを浮かべる。

 事実として、私は服装というものに無関心であり、数年前までは質素で地味な服ばかりを着ていた。

 

 ところが、ここ最近の私は妹たちと一緒に外出をする度に、鮮やかな色合いの可愛らしい服を着せられている。

 というのも、外出の予定がある日に朝起きると、おしゃれな服のセットが私の部屋に準備されているのだ。

 妹たちの準備を無下にするわけにもいかないので、外出の日はいつもそれを着ている。

 

 初めてのおしゃれをした私を見た妹たちは、それはもうとんでもなく喜んでいた。

 イストスは「姉さん可愛い」を連呼していたし、デメテルは迷わず抱き着いてきたし、へカーティは感動で固まっていたのを覚えている。

 

 そんなわけで、明日も朝起きたら服のセットが準備されているのだろう。

 憂鬱な知らせが続いていたので、明日の外出で気分転換できればいいと思った。

 

 ++++++++++

 

 翌日。

 朝起きると、案の定クローゼットに服のセットが準備されていた。

 水色を基調とした鮮やかなコルセットワンピースだ。

 

 私はそれに着替えてから、エプロンをして朝食の準備を始める。

 そして、いつものように姉妹全員で朝食を食べ始めた。

 

「ウールギア姉さん、今日用意した服はどうでしょうか」

「そう言われても、私には服の良し悪しなんて分からないわ。こういう服は、未だ着慣れないことだけは確かね」

「お姉ちゃんは普段からそういう服を着ればいいのに」

「遠慮しておくわ。こんな服を普段使いしたら、洗濯が大変そうだもの」

 

 そんな話をしながら朝食を食べ終えて、諸々の準備を終えた私とへカーティは、予定通り一緒に家を出た。

 最初の目的地は、最近この都市に新しくできたという洋菓子屋だ。

 前世も含めてこういったスイーツの専門店に行くのは初めてなので、少しだけ緊張している。

 

 それから、少し歩いてたどり着いた洋菓子屋は、私からすると少し不思議な場所だった。

 というのも、見慣れたショートケーキやマカロンといったスイーツの他に、見慣れない奇抜な見た目のスイーツが商品棚に陳列されていたのだ。

 例を挙げると、∞の記号のような形をしたドーナツや、触手のような見た目をしたゼリーが陳列されている。

 

 そういった珍しいものに挑戦してもよかったのだが、生憎と今はそういう気分ではなかったので、私は無難にショートケーキを一切れ購入した。

 へカーティの方は、アップルパイを一切れ購入したようだ。

 幸いなことに、店の前にテラス席があったので、私たちはそこで購入したスイーツを食べることにする。

 

 ショートケーキは前世とほぼ変わらない味で、私を安心させてくれた。

 

「たまにはこういうのも悪くないわね。甘くて美味しいわ」

「それはよかったです。……私のアップルパイも一口あげるので、姉さんのケーキも一口ください」

 

 へカーティは私の方をまっすぐ見て、そう言ってから大きく口を開ける。

 どうやら、私に食べさせてもらうつもりらしい。

 いわゆる"あーん"というやつだ。

 

 仕方ないので、フォークでケーキを一口大に切り分けてへカーティの口に運んでやると、彼女は少しだけ顔を赤くして嬉しそうにそれを食べた。

 その代わりに、私はへカーティのアップルパイを一口だけ勝手にいただいた。

 

「あ、私も姉さんに食べさせたかったのに……」

「私はいいのよ。いくらなんでも恥ずかしいわ」

 

 そうして、スイーツを食べ終えた後も外出はしばらく続いた。

 服屋に寄ってへカーティに着せ替え人形にされたり、普段は行かない場所まで散歩をしたりして、非日常を楽しめたと思う。

 その後、日が傾き始めた頃に、最後の寄り道にするつもりで私たちは本屋に入った。

 

 この世界の本屋は少し特殊で、普通の本の他に魔導書というものが売っている。

 普通の人間が魔法を使えるようになるのに、絶対に必要なものだ。

 

 魔女とは違って、普通の人間は生まれたときからは魔法を使うことができないのだが、魔導書を読むことによって初めて魔法を使えるようになる。

 例えば、水を出す魔法というタイトルの魔導書を読めば、そのタイトル通り水を出す魔法が使えるようになるはずだ。

 その代わり、誰かに読まれた魔導書は力を失って白紙の本になる。

 魔女も魔導書を読めば新しい魔法を使えるようになるので、私たちにとっても魔導書は有用な物だ。

 

 しかし、役に立つ魔導書は非常に高価で、元々魔法を使える私たちからしてみれば割に合わない値段のものが多い。

 だから、本屋に行っても大抵は魔導書を眺めるだけで、何も買わずに帰ることになる。

 

 ところが今回は、珍しく魔導書以外の面白そうな本を見つけた。

 タイトルに"魔道具製法大全集"と書かれたやたら古めかしい本だ。

 その中身をチラッと読んでみると、刈った草を一瞬で枯れ草に変える鎌や、魂を消費して魔力に変換する紫水晶といった魔道具の製法が書かれている。

 

 実際に魔道具を作れるかどうかは別として、読んでいるだけで中々に面白い。

 まぁ、私が加工屋の仕事をしているからというのもあるかもしれないが。

 

 結局、私はその本を買って本屋を出た。

 へカーティの方は、新しく発売されていた魔物図鑑を購入したようだ。

 

「姉さん、今日は楽しかったですか?」

「ええ、とっても。一人で都市を歩くよりもずっと楽しかったわ」

 

 夕日に照らされた帰り道を歩きながら、私はへカーティにそう言った。

 

 それからしばらくすると、隣を歩いていたへカーティの手がそわそわし始めたので、私は黙ってその手を繋いであげる。

 すると、彼女は満面の笑みを浮かべて、私の方にそっと身体を寄せるのだった。

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